萩の華、桜の花   作:桜華(おうか)

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第四話 照ラス光

敵重巡が炎上した。

何が、あった。

空気を切り裂くような音がして、それから大きな爆発音がした。

矢矧も叢雲は何もしていない。もちろん敵軽巡達も同じだ。

では、誰が。

その時、矢矧は深海棲艦が皆、同じ方向を睨んでいることに気付いた。それに従い矢矧は、そちらを窺う。

随分長く戦っていたのだろう。日は既に傾き、その光が反射して艤装が赤く輝いている。煌々と輝く太陽の中心に彼女は立っていた。

逆光でよく見えない。だが、紅の日輪を背負う彼女からは尋常でない気迫が滲み出ている。

鉢金が赤を燃え立たせ、茜色に染められた髪が風になびいている。

矢矧はその姿に見とれていた。ああ、なんて凛とした・・。

瞬間、彼女は主砲を構え、流れるように放った。

砲弾が吸い込まれるように敵重巡に着弾し、さらに炎上する。

しかし、まだ生きている。

これが化け物が化け物たる所以なのだろう。

敵重巡はぎぎぎと腕を上げ、彼女を撃とうとする。しかし、狙った先に彼女は、居ない。

彼女は一瞬にして零距離まで近づき、敵重巡の懐に飛び込んでいた。

「油断しましたね、これで最後です」

速い。敵重巡は零距離砲撃を受け、吹っ飛びながら激しく爆散した。

言葉が出ない、鮮やかな連撃だった。

「遅れました、提督、叢雲さん、矢矧さん、神通只今現着致しました」

彼女が、神通。矢矧ははっきりと納得する。

私たちが手も足も出なかった状況を一瞬にしてひっくり返した。

そうか、これが「華の二水戦」。その旗艦の・・。

『何とか間に合ったか!?』

無線通信から提督の不安げな声がし聞こえた。

「ええ、矢矧さんが大破しているようですが・・」

『そうか、ギリギリ間に合わなかったか・・クソッ』

神通の言葉で忘れていた痛みが戻ってきた。

その背後で、どかんと音が鳴り響く。

「敵軽巡、やったわよ!他の子も来てるんでしょ!?」

混乱に乗じて、叢雲が戦果を上げる。冷静に判断していたようだ。

「はい、来ています、皆!頼みます!」

神通が答えて続けて指示を出した。

「駆逐艦、磯風」

「駆逐艦、浜風・・!」

「駆逐艦、雪風!」

その後にそれぞれの言葉で現着したことを矢矧たちに伝える。

第十七駆逐隊の面々だ、矢矧は知っていた。

形勢ははいよいよ逆転し、倍だった敵は今やこちらの半分になった。

これなら。

「全艦砲撃、開始!」

神通が合図をし、砲撃が困難な矢矧以外が敵に集中砲火を浴びせた。

ほどなくして、三隻の敵駆逐が炎上、爆発し海は静けさを取り戻す。

「はあ・・はあ・・やったの?」

矢矧が叢雲に聞く。

「それ、不吉な言葉だから次からやめなさいよね・・、でもまあ神通さんたちのおかげで何とか片付いたわね」

『ぎりぎりだったな、叢雲、矢矧、よく持ちこたえてくれた』

「で、どういうことなのよ?」

無線で労いの言葉をかける提督に叢雲が尋ねる。

『ああ、遠征から帰ってきた神通たちをすぐに反転出撃させた、敵に感づかれないようにお前たちには黙ってたんだがな、しかし何よりお前らが持久戦を守ってくれなきゃ本当に間に合わなかった、本当にお疲れ様、全員、帰還してくれ』

太陽は一片も残さずに沈んでしまっていた。夜戦もしないのに長居は無用だ。

「皆さん、帰投します!」

「了解です!」

神通の掛け声に雪風が元気に答えた。

その時

「ッ!」

痛みで矢矧は思わず声が出てしまった。

「出血がひどいな」

磯風は客観的にその怪我を見て言った。

「止血しないとまずいですね、何か布は?」

浜風がそう添える。

それを聞いた神通が、頭に巻いていたリボン状の大きな布をしゅるりとほどくと、矢矧をしゃがませると躊躇うことなく右腕の傷にがっちりと巻く。

「いいんですか、神通さん」

矢矧は聞いた。

「あなたのほうが大事ですから」

そう言って神通は優しく微笑んだ。

先ほどの気迫は消え、穏やかな顔をしている。

この人には敵わないなあ・・・、そう矢矧は思った。

かつて、追いかけて追いかけて追いかけた背中は、まだまだ遥か遠く先にあるらしい。

しかし自分は、この人でもなしえなかった夢を叶えようとしている。

「立てますか?」

「はい」

「私が曳航します、肩を貸して頂けますか?」

「・・・ありがとうございます」

自らに驕ることなく、常に謙虚。きっとそれが彼女なのだろう。

神通に曳航されながら、矢矧は鎮守府を目指した。

夜風が冷たく、戦闘で熱くなった身体をゆっくりと冷ましていく。

参ったなあ、少しは近づけたと思ったのに・・。

肩を支えられながら、そんなことを思う。

目尻が次第に熱くなり、自然と涙が出ていた。

悔しい。もっともっと強くならなきゃ。このままじゃまた、守られてばかりだ。夢なんて叶う訳もない。

波は穏やかに六人を揺らしていた。

月は優しく輝き、帰投する六人を照らす。

 

私の夢を幻のままでは終わらせられない。

 

矢矧は決意に滲んだ目を拭い、ゆっくりと瞑った。




更新、遅れましたすみません!
神通さん上手く書けたかな?
一応一区切りつきましたね・・。

感想等お待ちしております!

改一 提督のセリフを追加しました。
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