また、夢を見ていた。
目を開けると白い何かで前が見えない。これは、湯気か。
矢矧は温かく心地の良い湯に浸かっていた。
かぽーん、こーんと時折何かが反響する音がする。
きっとここは浴場か何かなのだろう。
しかし、自分は鎮守府へ帰投している途中だったはずだ。一体なぜこんなところに。
出撃。矢矧はふと右腕の傷を思い出した。
まずい、沁みる。ざばっと勢いよく水中から腕を引き抜いたが、痛みは、無い。しかも傷はきれいさっぱりと消えてしまっていた。
「どういうこと・・?」
「あら、起きたのね」
真っ白な湯気をかき分けて、真っ白な肌をした叢雲が現れた。
矢矧は湯船に浸かったまま、彼女が歩いてくる様を見ていた。
「何じろじろ見てるのよ?あれ、もしかしてそういう人だった?」
叢雲は身体を隠すような仕草を見せたが、本気でではない。
「ち、違うわよ!」
顔が熱くなってきた。話題を、話題を変えねば。
「ここはどこなのよ?」
「うーんと・・、入渠ドックでもあり、お風呂場でもあるわ、矢矧が着いたと途端倒れたからここに担ぎ込んだのよ」
なるほど。
「傷が治ってるのもそのせい?」
「ええ?いくら入渠してもそんな早く治るわけが・・、あっまさかあの馬鹿」
「提督が何か?」
「高速修復材を使ったみたい、怪我とかすぐに治せるから貴重なのよ」
怪我をしていた矢矧には気づかれないようにしているつもりだろうが、怒りが漏れ漏れである。
「そんな大事なものを何で?」
「多分、無茶な作戦になったからだと思うわ、そのお詫びも兼ねて、でしょうね、後で食事も奢ってもらいましょ?」
叢雲が矢矧を見ながら悪い笑みを浮かべる。
「随分呑気だなァ」
突然浴場の奥から声がした。
「誰!」
またしても湯気の中から、しかし見たこともない女性が出てきた。
風呂場なのに眼帯をつけていた。
「本日付けで着任した軽巡洋艦、オレの名前は天龍だ」
「新しい人か、で?私達に何か用?」
叢雲が問う。
「お前に用はない」
「むっかー!何なのよこいつー!」
叢雲は地団駄を踏みながら不満を露わにする。落ち着いてくださいよかわいい先輩。矢矧はその言葉を飲み込んだ。
矢矧に眼帯の彼女が向き治る。
「お前が阿賀野型軽巡三番艦の矢矧か」
「ええ、そうだけど」
天龍と名乗った少女がそうかそうかと腕を組み笑みを浮かべながら頷く。
「では矢矧、オレと演習しろ!!!」
大きな声が浴場いっぱいに響き渡った。
「は?」
矢矧は思わず聞き返した。
演習しろとそう聞こえた。決闘しろみたいなニュアンスで。
「ぷっ、あははははははは!!!」
「なっ、何が可笑しい!」
叢雲が噴き出して天龍は赤面した。
「だってぇ・・ふふっ!皆裸なのに・・ぷっ!このテンションで・・っ、来られたら笑うでしょっ・・・!」
確かにここは風呂場であるし、そのセリフを言うにしても恰好がつかないのは明らかだった。
顔を赤くしながら天龍は続けた。
「とっ、とにかく!明日、ヒトマルマルマルから勝負だかんな!覚えとけよ!忘れん・・な・・よ・・・」
どさっという音とともに浴場の床タイルに倒れこんでしまった。
そのままきゅうっとのびている。
矢矧が起きるのをここでずっと待っていたらしい。のぼせてしまうのも無理はない。まして今興奮してしまったので、限界に達してしまったようだ。
最初は強そうだったのに、惜しいなあ・・。
「何なのこの人・・・」
「わかんないわ、とりあえずここから引きずり出して、目を覚まさせるから矢矧は身体洗ってから出てきて」
「わかったわ」
叢雲は自分より重そうな天龍を、軽々と浴場から引っ張って出て行った。
何だったんだ。矢矧は言われた通りに体を洗い、脱衣所らしき所に出るとそこにはもう誰もいなかった。
いくつもの棚が並び、その一つ一つにバスケットと白いバスタオルが入っている。
そのバスケットの中に白色ではないものが入っていた。
矢矧の、戦闘で破れてしまったはずの服が新品のような状態で入っていた。
「誰かが用意してくれたのか・・あれ?ここからどこへ行けばいいんだろう」
その時、脱衣所の扉の向こうから声がした。
「鎮守府内を探検なんてわくわくしますね!」
「まったくあのクズ司令官め、案内くらいしなさいったら」
「いいじゃないですか、ん?ここは何でしょうね?」
「さあ?入ってみましょう」
がちゃり。黒髪の裸の女性が立っていた。
「ごごごごめんなさいいい」
「すっすみませんでした!!」
ばたん。
「あわわわ、どうしましょう」
「ねえ、今のって・・」
がちゃ、と再び脱衣所の扉が開いて矢矧が顔だけ出して言った。
「もしかして、初霜と霞?」
「やっ矢矧さん!はい!お久しぶりです!」
初霜と呼ばれた女の子が元気に答えた。
「や、矢矧さんお元気でした?」
霞と呼ばれた彼女が矢矧に聞いた。
「ええ、なんとかね、待っててすぐ着替えるわ!」
「「はい!」」
それからしばらく経って、三人は廊下を歩いていた。
「そっか、二人も今日ここに来たのね」
「そうなんです!矢矧さんはいつからですか?」
「私は・・、あれ?いつだっけ」
「九月十七日って聞いてますよ」
「あっそうなんですか!ということは私達より二日前ということですね!」
つまり今日は九月十九日で、私は一日半ほど寝ていた、というわけか。
そう推理したところで放送設備を通して叢雲の声が聞こえた。
『あー、本日の夜、先日の出撃の祝勝会と新艦歓迎パーティーが行われます、各自集まるようにして下さい、場所は執務室です、よし、これでい・・』
そこで放送が途切れた。
「だってさ、行きますよね?」
霞が二人に聞いた。
「もちろん!」
初霜が答え、矢矧もええ、と返した。
仲間たちがそ揃い始めている。
彼女とも、きっと、また。
きっと次こそ。
矢矧たちは執務室へ走り出した。
誤って削除してしまいましたので、ついでに加筆修正という形をとらせていただきました。大変申し訳ありません。
天龍や霞達はどうやって鎮守府に来たんでしょうか?
その辺もお楽しみに!
感想等お待ちしております!
改一 誤字を修正しました。