三人が執務室に着くと、既に全員が集まっていた。
部屋はささやかながら飾りつけされていて、テーブルには豪華で美味しそうな料理が並んでいた。一部真っ黒な皿も見えるが気のせいだろう。
「おう、来たか」
矢矧が来たことに気付いた提督が声をかけた。
「はい、遅れました?」
「いや、丁度だな、それじゃあ全員集まったことだし、歓迎会始めるか!」
「わーい!」
雪風が素直に喜び、他の皆もそれぞれなりの嬉しそうな顔を浮かべる。良い雰囲気だ。
そして恒例のように皆が机にあったグラスを持ち、顔の前に掲げた。
「それじゃあ、叢雲、音頭とってくれ」
「はあ!?私なの!?アンタじゃないの?」
「当たり前だろ?お前が一番ここにきて長いんだから」
「し、仕方ないわね!」
嫌がるかと思いきや、まんざらでもない様子だ。
「それじゃ!新しい仲間と私たちの未来に!乾杯!」
「乾杯!」
九人の声が揃い、かちゃんとグラスをぶつけた音が響く。
皆が料理を食べながら楽しく談笑している中、ただ一人、天龍と名乗っていた彼女だけは部屋の隅で目を瞑って座ったままだった。
その彼女のことが気になって矢矧は提督に尋ねた。
「彼女は何者なの?どうしてここに?」
「ああ、今日着任した天龍だ、つってもレンタル移籍みたいなもんだな」
提督の説明では全てを理解することができなかったので、矢矧はさらに尋ねた。
「レンタルってどういうこと?」
「天龍は他の鎮守府所属で、演習をするためだけにここに来たんだ、ここのところ敵の侵攻が激しくて、沖の方で演習ができないからな、どちらかの鎮守府の近くでないと危険なんだよ」
つまり今回の演習はこの鎮守府の近くで行われるということか。
「まさか他の鎮守府があるなんてね」
「残っているのはここ含め三つだけだ、他は全て壊滅した」
「そんな・・・」
「物量が違いすぎる、ここは最近新設されたばかりだから攻撃は少なめだが、いつ大規模侵攻が来てもおかしくない」
「じゃあパーティーなんてしてる暇は!」
「ははっいいんだよ、最近皆働きづめだったからな、こういう時に休んどかないと、いざって時に力が出なくなったら嫌だろ?」
「それはそうだけど・・・」
「それに明日はその天龍との演習だろ?ゆっくりしといた方がいいぜ?」
この提督は適当なように見えて、やはり色々考えているようだ。
「にしても他の鎮守府のほうが練度が高いのに、何でウチを選んだんだろうな?」
「知りたいか?」
いつの間にか、近づいてきていた天龍が割って入った。部屋の隅から聞こえていたのだろう。
「ええ、知りたいわね」
「ああ、知りたいな」
矢矧も提督も興味があった。
「オレに演習で勝ったら教えてやるよ」
そう言って天龍は得意げな顔をする。
何で聞いたのよ、と思ったがそれは口には出さない。
「お前最初からそのつもりだったろ」
「なっ!そんなことねーよ!」
この人はそれっぽい言葉が好きなのだな、と矢矧は思った。
「とっ、とにかくだな!」
「勝負、でしょ?」
「ぐっ・・・」
天龍は言葉に詰まった。
「そうだったな、何故か矢矧を指名してたよな」
「そっ、その辺も含めて明日な!」
言葉に窮した天龍はそう言い残してそそくさと執務室から出て行った。
浴場での一件も含めて、見た目に反して案外打たれ弱いようだ。
「何なんだ?あいつ、ちょっと面白いな」
「さあ?よくわからないけど、もったいぶるだけの理由はありそうね」
「でも気をつけろよ、実力は相当らしいからな」
それからしばらく経って、歓迎会はお開きになった。
皆、一人一人がこれまでのこと、これからのことを話し、笑いあった。
提督が黒い何かを食べて大変なことになった以外は楽しいパーティーだった思う。
パーティーの後には、ふらつく提督から部屋割りが発表された。
矢矧には神通と同じ部屋が割り当てられたのだった。
パーティーの片づけを皆で済ませた後、神通に案内されながら自室に向かうと、広々とした二人部屋があった。
「では矢矧さん、もう遅いですし、そろそろ寝ましょうか」
「え?もう寝るんですか?」
部屋に入るなり神通が言ったので、矢矧は驚いて聞き返した。
「はい、明日も早いようなので」
「わ、わかりました・・」
若干勢いに押されながらも、矢矧は従った。
神通が明かりを消し、二人は布団に入った。
白い布団に包まれながら考える。
皆、昔と変わらないようで、それぞれが覚悟を抱いていた。
あの日あの時坊ノ岬で起こったことは今も覚えている。
今度は彼女と、私と、皆で。
矢矧は明日に備え、深い眠りにつくのだった。
だいぶ間が空きましたが続きです!
感想等お待ちしております!
改一 言葉足らずの箇所に追記しました。