まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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15話 Skoll

 

 

 

 咲夜さんの能力で、広さがおかしな事になっている紅魔館。

 長い廊下を抜けるとそこは知識の海でした。

 

「ちょっと詩的だね?」

 

「何でもいいけど、次の相手はどこよ」

 

 

 

 三人が三人とも方向の全く違うテンションの中、聳え立つ本棚の間をすり抜けてパチュリーさんの指定席を目指します。

 このだだっ広い図書館の中で唯一、ぽっかりと開けた場所にあるテーブルには偉大と言ってもなんら差し支えの無いはずの七曜の魔女が!

 

 ……居なかった!

 

 

「……この机と椅子が次の相手とか言わないわよね?」

「悪魔の館って言っても、流石にそれは無いから……」

 

 ちょっと慌てながら辺りを見回すフランさんと、とりあえずパチュリーさんの香りを探す私ですが、一向に見つかる気配がありません。

 気配も香りもしないので何かおかしいなと思っていたらこれですよ!

 本を読みながら気だるげに視線を上げるパチュリーさんの姿がある事を願っていたのにっ……

 

 どうしたものやら。

 ああどうしたものやら。

 

 フランさんが『じ、実は私がパチュリーよ!』だとか言って場を和ませてくれたり……して欲しくないですよね、ええ。

 むかーし小悪魔さんがやらかした『ふらんちゃん魔法少女化計画』は非常に痛々しい歴史を刻んでしまいましたし。

 ふりふりの沢山ついたピンクのドレスに、これまたやたらとピンク色でハートマークな杖を装備させられたフランさんの様子にはもう『ご愁傷様です』の一言しか。

 小悪魔さんがノリにノッて考えた台詞を言わされてた時なんてもう顔が真っ赤で。

 涙目になりながらようやく呟いた台詞にレミリアさんがお持ち帰りプレイをやらかしてしまいました。

 ああ、おもしろ……痛ましい事件でしたね、ええ。

 

 

 想定外の事態にそんな現実逃避しながらも、レミリアさんにお伺いを立てるべきかと思い始めたその時、私たちの入ってきた扉が開く音が響き渡りました。

 本来なら音も立てずに開くはずの扉らしいですけど、レミリアさん曰く『様式美』とやらで重苦しい蝶番の音が響く、あの大きな大きな扉。

 この状況であの扉が開く音が響くという事は……!

 

 

 

「あら、早かったわね?」

 

 早かったわね、じゃないですよ!

 

「なら『あら、門番は何をしていたのかしら?』とでも言い直しましょうか?」

 

 何、って……

 

「もしかして『何もできなかった』なんて事は……無いわよね?」

 

 

 

 遅れた事など毛ほども気にした様子も無く、いつも通りに佇む我等が魔女様。

 とりあえず現れてくれた事自体は良かったものの、ちょっとばかりいやーな事実が判明。

 にやにやと意地悪な笑みを浮かべながらのこの言葉で、確信しました。

『ああ、見られてたんだな』って。

 

 はい、ナイフと食事抜き確定コースでございます。

 メイリンさん、諦めましょう。

 きっと、きっといつか良い事があります!

 ですから地道にサクヤさんの弱みを探しましょう!

 でも……弱み、あるんでしょうか?

 いや、ありますよね、サクヤさんだって人の子ですもの!

 パーフェクトだとか言われても、まだまだ年若い女の子です!

 早いところ見つけて私の食事だけでも確保しなければ。

 

 

 

 

「まぁ『目を瞑る』との事だから蒸し返さないように」

 

 お、おおぅ……?

 さーいえっさー!

 

「私はいつから男になったのかしら」

 

 いえすまむ!

 

「よろしい」

 

 

 悩む私に対して苦笑しながら言葉を投げかけたパチュリーさんに、これまでの考えなんてどこ吹く風とばかりに態度を変えてみます。

 背中からも苦笑の気配を感じますが、あえて気づかない振りを敢行。

 弱みを探ろうなんてそんな怖い事考えても居ないんです。

 過去を振り返ってばかりじゃ未来なんて訪れませんから!

 

「ね、一つ言ってもいい?」

 

 はい?

 

「その……ね?

 スカーフの魔法、入りっぱなし。」

 

 ……何時から、でした?

 

「雪国もどきの時から、オンオフの切り替えをしてなかったね」

 

 魔法少女ふらんちゃん、も?

 

「今回は目を瞑るけど、次に言ったらきゅっとしちゃうよ?」

 

 肝に銘じておきまする。

 

 

 そっと背中の方を振り仰げば、可愛らしい、それはもう可愛らしい笑みを浮かべながら右手を『きゅっ☆』っとしているフランさんの姿。

 でもね、すこーる、こわい。

 ……前に怒らせてしまった時の部分ハゲの悪夢が。

 皆さん、覚えておきましょう。

 口は災いの元。

 

「だから魔法入りっぱなしだってば」

 

 オフ!全力でオフ!!

 ええい静まれスカーフよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、そこの紅白巫女」

「紅白言うな」

「お帰りはあちらの扉よ」

「まずはカードを寄越しなさい。話はそれからよ」

「……強盗巫女を退治する方法は」

「そんな事が本に書いてるわけないでしょう」

「叩きのめして、簀巻きにして、レミィの餌に」

「……ああ、そういう事。上等だわ」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら私たちのやりとりを見ていたパチュリーさんでしたけれど、私が黙ったのを確認した途端に挑発を開始。

 突然流れが変わった事に面食らいながらも、それに含まれる意図を理解した上でお返しとばかりに好戦的な笑みを浮かべるレイムさん。

 意外な事に別段ギスギスとした空気が流れるわけでも無く、このやり取りからはお互いに楽しむような雰囲気を感じさせられます。

 いやはや、本当に意外や意外。

 

 

 

 何だかんだ言いながら楽しみにしてたんですね、パチュリーさん。

 動きたくないとか言うと思っていたんですけど。

 

「これが終われば新書を大量入荷させる事をレミィに約束させたしね」

 

 ……そういう裏がありましたか。

 ですよね、そうですよね。

 裏も無しにやる気なパチュリーさんとか無いですよね。

 

「そういう評され方に言いたい事が無いわけじゃないけど、まぁ否定はしないわ」

 

 というかこれ以上まだ本を増やそうって言うんですか?

 

「今度の本はこれまでとは少しばかり毛色が違うのよ」

 

 ほほう、具体的には?

 

「まだ秘密。ああ、新書の種類から予測しようとしても多分無駄よ?ほとんどがオマケだから」

 

 ……嫌な予感しかしないのは気のせいでしょうか。

 

「まぁ逃げられないから安心なさい」

 

 レイムさん!早くこの魔女をやっちゃって下さい!

 

「味方を売るなんて躾けがなってないわ」

「ああ、何かあんたがどういうヤツかってのがわかったわ」

「煩いわよ紅白」

 

 

 

 その言葉を境にしばしの沈黙が流れた後、示し合わせたようにパチュリーさんとレイムさんが動き出して。

 両者とも場を宙へと移しながら小手調べとばかりに弾のばら撒き合いが始まりました。

 突然始まった弾幕ごっこの札や針、色とりどりの魔力弾が入り乱れる光景が広がるのを確認して、そそくさと本棚の影へ退避。

 本棚から顔を半分だけ出して今度はしっかりと観戦の体勢に。

 パチュリーさんの魔力弾はまだいいんですけど、針とか刺さったら絶対に痛いですもの。

 

「スコール、見えない……」

 

 そんな考えに基づいた行動だったわけですが、背中に乗っていたフランさんが見えづらそうにしていたので、結局は本棚の影から半身を晒す形に。

 ああ怖い。

 どうか流れ弾が来ませんように!

 行動に支障が出る事はないでしょうけど、痛いものは痛いんですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――火符「アグニシャイン上級」

 

 

 もぞもぞと良い感じのポジションを確立する事に精を出していると、静かな声のスペルカード宣言が聞こえてきました。

 先に攻めに回ったのはパチュリーさんのようで。

 手始めにとごうごう燃える炎弾を綺麗に配置して放って行くものの、顔色は優れません。

 そりゃそうですよねぇ……何ですか、あの変態軌道。

 って熱っつい!?

 

 

 逃げ回りながら観察を続けていると、所狭しと広がる炎弾を事も無げに回避するレイムさんを見たパチュリーさんの頬が引き攣ったのがよくわかります。

 もうあらかじめ打ち合わせをしていたかのように炎弾の波をすいすいすり抜けて、その都度お返しとばかりに札を投げつけるって何ですかもう。

 

 一言で言うならアリエナーイ。

 二言で言うなら巫女さんアリエナーイ。

 三言で言うなら以下略!

 

 これはメイリンさんもあっさり落ちちゃうわけですよ。

 元々苦手な弾幕ごっこで相手がコレだなんて、えーと……能力も持っていない人の子が竹槍でレミリアさんに向かっていくくらいの絶望感が。

 

 

 ―――SpellBreak

 

 

 アリエナーイアリエナーイなんて繰り返し考えている内に、パチュリーさんはこのまま続けても勝ちの見えない状況にあっさりと見切りをつけたらしくスペルカードの破棄宣言。

 そのまま牽制の弾幕を張りつつ同時に次のスペルカードを準備。

 身体能力の関係上、基本的には守りに入ったら落とされるからと常に攻めの姿勢ですけれど、これは幾らなんでも早すぎる気が。

 パチュリーさん自身もそれは良く理解しているようで、苦々しげな表情と共に掲げられるスペルカード。

 最初に火を持ってきたので多分次はあの痛そうなスペルのはず。

 五行だったか、火は土を生むっていうのを汲んでの順番とか言ってた気が……

 

 

 ―――土符「トリリトンシェイク」!

 

 

 あ、ちょっと宣言に力が篭った。

 ……そりゃそうですよね、自分が頭を捻って考えたスペルをあれだけすいすいと避わされれば。

 

 予想通りのスペルカードでしたけれども、先ほどの炎弾とは違って見た目はただの色つき魔力弾。

 本来なら岩弾のはず……って人間相手にそんなもの使ったらまずいですものね。

 当たり所によっては治療する間もなく即死コースが見えますし。

 質量があると、そこら辺が不便な所。

 サクヤさんには問答無用で使ってますけども。

 人間のはずなんですけどねぇ……?

 

 そんな事を考えながら見ていると、結局は先ほどの焼き直しに近い結果となってしまいました。

 相手に対しての動きがそれなりにあるスペルでしたが、レイムさんはその弾を引き付けてさらりと回避、お札で反撃。

 スペルのさわり部分を見ただけでこの行動とかないですよ。

 しかも必要最低限の動きで、掠るかどうかという域での回避。

 先の炎弾と違って近寄るだけで影響のある弾じゃないからでしょうけど、何ですかもう。

 変態ですか?変態ですよね?

 巫女さんっていうのは変態にしかなれないものでしたか。

 いやぁ、怖い怖い。

 

 カスッ

 

 ……ひぎゃぁぁぁああああ!?

 ちょ、何するんですかっ!

 気を抜いてる観戦者にまで手を出すなんて酷いですよ!?

 

「失礼な事を考えられてる気がしたからね」

 

 ……やだ、何この子……怖いっ……!

 人の考えまで読むんですか、巫女っていうのは!

 

 

 

 

 

 ―――SpellBreak

 

 

 私への攻撃が為された事もあってか、先ほどよりは粘ったものの再びスペル破棄宣言。

 驚くしかない程にスペルの回転が早い。

 

 

 ―――火&土符「ラーヴァクロムレク」

 

 

 驚きを与えられた所へ更に驚きを叩き付けられてしまいました。

 間を置かずに次のスペル宣言が来るとは。

 早すぎるとしか言いようが無いという。

 今度のスペルは先ほど使った二つのスペルの発展型、パチュリーさんの真骨頂とも言える二属性の混合魔法。

 ここからがパチュリーさんの本気という事になるわけですけど……んーむー……パチュリーさんには悪いですけどレイムさんが落ちる気が全くしないといふ。

 

 本棚の天辺に前足をひっかける感じで頭だけを出しながらの観戦スタイルになった事で、流れ弾や私を狙った凶弾の危険性こそ下がったものの未だに怖い事には変わりなく、恐々としながらの見ているわけですけれども……いやはや。

 弾の軌道変化が激しくなって、レイムさんの動きが先ほどに比べるとだいぶ鈍くなっているように見えます。

 掠るかどうかの回避が掠っての回避になっていたので、これならばと思ったのも束の間。

 軌道の種類が違う弾だらけだと言うのに最早弾に目を向ける事すらしなくなってきて、しまいにはお札や針での苛烈な反撃までも見せ始める始末。

 尋常じゃない早さで適応していくその様は最早賞賛しか浮かびません。

 やっぱり変態です……てひぎゃぁ!?

 

「仏の顔も三度まで。後何度仏で居られるのかしらね?」

 

 カチ割るぞ駄犬、と言わんばかりの素敵な笑顔を向けられました。

 尻尾がどんどん丸まっていくのがよーく判ります。

 こわ……何も考えないようにしましょう、ええ。

 あと一回の猶予を無駄にしちゃうわけにはいきません。

 集中!集中するんですよ!

 もう毛ほどの変化も見逃さないくらいにっ!

 そうすればきっと失言なんてしないはず。

 

 そうして気づいた驚くべき事は、相対しているパチュリーさんまでもが驚愕を通り越しての微かな微笑みを浮かべているという状況。

 先ほどまでは苦々しいと驚きを混ぜたような表情だったのに。

 レアな表情です、これでもかと言うくらいにレアな表情です。

 ええい何故こんな時にし、し……しナントカさんは居ないんですかっ!

 いつも呼ばなくたって沸いて出てくるくせにっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――SpellBreak!

 

 

 先の2スペルよりは遥かに行使時間の長かったスペルの破棄を宣言したパチュリーさんですが、何故かそこから動きがありません。

 僅かに俯いて肩を震わせながら、ただ笑顔ばかりを零し続けているその様子はちょっとばかり怖い。

 相対するレイムさんは少しばかり警戒した表情を浮かべていますが、何度も見てきた私だってこれは初めての事。

 しばらくそんな妙な状態が続きましたけれど、突然レイムさんを見据えて、その数瞬の後に開かれた口から漏れたのは純粋な賞賛の言葉。

 

「素晴らしい、という言葉を贈らせて?」

「それはどうも」

「咲夜が身近に居るというのに、人の子の可能性を忘れていたわ。こんな思いを抱いたのは何時以来でしょうね!」

 

 紅魔館の面子にスペルを破られる事はあっても、ここまで見事に『攻略』されたのは初めての経験のはず。

 此処に至って感じられるのは本人の言葉の通り、ただ賞賛。

 小悪魔さんが読ませてくれたマンガによくあるアレですね。

 強敵と書いて『とも』と読む!的な。

 

 まぁ実際、敵対していてもそういう感情を抱くのは珍しくない事らしいですし。

 私は基本的に逃げてばっかりでしたから、その話が出た時の皆の経験談を聞いただけですけれども。

 特にメイリンさんはそういうの多かったみたいです。

 年若い頃に自称『無敵超人』なお爺さんと戦った時なんて人間に対しての常識を雄大な黄河の流れへ投げ捨てたとの事。

 技術的なものだけならまだしも、純粋な膂力ですら負けてしまったらしく、曰く『清々しすぎて笑いしか出なかった』と。

 いやー、怖い怖い。

『また会ってみたいけれど、もう生きていないでしょうねぇ』何てからから笑ってましたけど……私だったら匂いを嗅いだ瞬間に逃げ出したくなるに決まってます。

 

 

 ―――日符「ロイヤルフレア」!!

 

 

 強敵についての考えと恐怖を頭の中で展開していると、宙から降ってきたのはスペル宣言。

 先の思いに後押しされてか宣言に篭められる声が更に強くなり、常のスペルカードの順番までも変えて。

 次はどう避けてみせるのかと、それを楽しみにしているのがありありと判るパチュリーさんの姿は、知識と日陰の少女などという渾名が嘘にしか感じられない程に活き活きとしていて。

 眼前で放射状に広がる圧倒的としか言いようのない炎の壁を前にして表情一つ変えないレイムさんの様子に、さらにその表情の輝きを増して……

 

 ある意味怖いけれども、新鮮で良いんじゃないでしょうか。

 元々のパチュリーさんを知っている分、違和感が物凄いですけれども、それが無ければ十二分に『アリ』です。

 ちょっとだけ眼福。

 しゃしんきとやらを持てぃ!

 肉球でも押せる一番良いやつを頼む!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――SpellBreak!!

 

 

「これで未だ人の範疇にあると言うのだから、笑うしかないわ!」

「失礼な」

「別段能力を使ったわけでも無いのにここまで見事に破られたんだもの。

 そうとしか言えないわ」

 

 

 ―――火水木金土符「賢者の石」

 

 

 テンションが有頂天と言わんばかりのパチュリーさんと、対照的にテンションの全く変わらないレイムさん。

 そんな二人が短いやり取りを終えて成されるのは、静かに、確かな賞賛を込めた声でのパチュリーさん最後の宣言。

 それは本人は語ろうとしなかったものの、小悪魔さん曰く『到達点の一つ』である物を用いてのスペル。

 

 パチュリーさんの周囲に煌びやかな五色の石が展開され、それぞれから空間を埋め尽くさんばかりに放たれる弾の数々。

 単一での完全ではなく、敢えて分化させる事によって五行の色を強調したその弾幕は時を経る毎に勢いを増して。

 先ほどまでは自重していただろう岩弾も、これまで見せてはいなかった水も、木も、金も。

 常に無いほど五色の弾が整然と力強く舞う光景は思わず目を奪われてしまいました。

 ここで何か評価をしようなんて、そんなのは野暮な事ですよ。

 ああ、でも……

 

 

 

 

 

 

 

 避けきって見せなさい。

 避けきれないなんて、そんなのは嘘。

 さぁ!さぁさぁさぁ!

 

 この上ない程に輝く弾幕の中心に居るパチュリーさんは、そう言わんばかりの満面の笑みを浮かべながらその全てを叩き付けて。

 日ごろの面影などまるでない無邪気な少女の様子は、ただただ眩しく感じます。

 

 あぁ、嗚呼。

 いいなぁ。

 でも、あれは逃げてばっかりの自分じゃできない顔だ。

 何だかんだと理由をつけては逃げてばっかりだった自分じゃあ、できない。

 

 

 

 

 

 

 でも、それでも。

 それ程の思いに後押しされたスペルでも。

 これまでとは比べ物にならない密度で展開されて、空間そのものを埋め尽くさんばかりだったそれすらも。

 パチュリーさんの秘奥すらも、レイムさんは、踏破してみせた。

 

 

 ―――SpellBreak

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いやはや。

 

「凄かったね?」

 

 ええ、それに尽きますよね。

 

「うん、何てデタラメなんだろう。私たち吸血鬼ほどの身体能力も、咲夜みたいな反則級の能力も使っていないのにさ?

 あの巫女さんは成し遂げた。ただ純粋にスペルを攻略してみせた。

 それもスペルカードでの相殺もせずに、完璧と言っていい形で」

 

 パチュリーさんも常に無いほどの興奮ぶりでしたねぇ。

 満面の笑みなんて初めて見ました。

 

「私だって初めて見たよ。でも野暮な事を言うなら、普段とのギャップが酷いかなぁ」

 

 眠たげで、疲れた風ですからね、いっつも。

 

「ねー?」

 

 

 

 

 

「そこ、人が余韻に浸ってるのに空気をぶち壊さないでくれる?」

「あ、聞こえてたんだ」

「当たり前でしょう」

 

 地上へ降りてきて、はぁとため息を零すパチュリーさんは先ほどまでの興奮はどこへやら、すっかりいつものような表情に戻ってしまいました。

 ああ勿体無い、あんなに可愛らしかったのに。

 

「失態……いえ、そういう訳でも……ああでも」

 

 先の弾幕ごっこの中で見せた言動は本人にもいろんな意味で大きかった模様。

 ええ、本当に良いものを見せていただきました。

 そういえば……今ふと思い出しましたけど喘息は大丈夫なんですか?

 

「……ゲフッ」

 

 あああああああ小悪魔さぁぁぁあん!!!

 えまーじぇんしー!えまーじぇんしー!!

 

「とりあえず逝くならカードを渡してからにしてよね」

「うわ、鬼だ……鬼巫女が居る……!」

 

 先生!重症患者が一名です!!

 

 

 

 私のぽろりと零した一言で自覚してしまったのか、それまでヒューヒューと嫌な音を微かにさせていたパチュリーさんがぽとりと地に落ちました。

 興奮でそれすらも忘れていたんですね。

 

 ……果たしてパチュリーさんは助かるのか!?

 Dr.LittleDevilは間に合うのか!?

 

 来週は以上の二本をお送りします!

 

「混乱してるのはわかるけどね、ちょっと自重しよう?」

「何気にコイツが一番酷いんじゃないの?」

「ちょっと否定できないかなぁ……」

 

 な、なんですって!?

 

 

 

 

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