まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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22話 Momiji

 

 

 

 文様と二人っきりの小さな酒宴から数日。

 約束通り、明くる日の朝には使い込まれたカメラを持ってきて下さって、更にその明くる日には使い方の手ほどきと、お土産の足しにでもしなさいと上物の酒まで渡されてしまいました。

 ありがたいですけれど、申し訳ないというか何と言うか。

 でもそういう事を言うと、いつも『部下を労わるのも上司の仕事でしょう?』の一言と、若干赤く染まった頬に、続く言葉を止めさせられてしまいます。

 そして、いつだってそんな事を口にするくせに、他所の方々のように部下をこき使ったりなんてしないんですから。

 ……本当に、お優しい方です。

 たまに暴走してとんでもない記事を新聞に載せるのだけが玉に瑕ですね。

 つらつらとそんな事を考えながら森の木々たちから覗く青空を見上げれば、そこには雲ひとつない青空の姿。

 今日もまた暑くなりそうですねぇ。

 折角の桃とお酒が傷まないように、少しばかり急ぐとしましょうか。

 仲良くできるように頑張りましょう、うん!

 

「また随分とご機嫌だねぇ。それにカメラなんて持って、珍しい事もあったもんだ」

 

 よし! と一つ気合を入れて尻尾を一振りした途端、横から声をかけられてちょっとびっくりです。

 思わず尻尾の毛が逆立ってしまいました。

 一つ息をついて声のする方へ顔を向けてみると、そこには哨戒組の方が一人。

 どうやら勤務あがりのようで、けだるそうにかりかりと後ろ頭を掻きながらの登場でした。

 しかも欠伸のおまけつき。

 お行儀が悪いと言えばそうなんですけど、そんな姿を見せてもいいと思われる程度に気を許していただけているのが判っていると、また見え方が違ってくるというか。

 他の方が居るところではぴしっとしていますからね、この方。

 そんな姿に憧れている新入りの子なんかを見ていると、たまにばらしてしまいたくもなりますが。

 

「気になる方が出来たので、会いに行ってみようと思って」

「…………は?」

「え?」

 

 後ろ頭を掻いていた手をそのままに、あんぐりと口を開けて信じられないものを見たような顔。

 何かおかしな事を言ったわけでもないと思うんですが……何でしょう、この反応。

 私がお出かけするのがそんなに珍しいでしょうか?

 家の庭で色々育てているので、その手入れなどをして休日を過ごすことも多いですが、それなりに外にも出ているのですけど……。

 

「気になる方?」

 

 あぁ、そちらでしたか。

 確かにこの理由で外に出るのは初めてですね。

 大抵は文様が連れてきてくれたり、連れて行ってくれたりですし。

 文様経由で知り合う方々は皆お優しいですし、誰かを紹介してくださるの、本当に楽しみなんですよね。

 何故か皆様、私の頭を撫でてくるのですが。

 いえ、気持ちいいのでそれは問題ないんですけど、どうも子ども扱いされているような気がしてなりません。

 これでもそこそこいい年なんですけどねぇ。

 ……文様の前で年の事を口にすると、凄くいい笑顔でほっぺたをつねられるので、そうそう口には出せませんけど。

 

「文様からお話を聞きまして。中々に素敵な方のようでしたので、一度会ってみたいな、と」

「そ、そっか。椛にもついに春が来たのかぁ……何かちょっと感動したよ私」

「何ですかもう。そんなのじゃありませんよ?」

「いや、皆まで言わずとも結構。まぁ引き止めて悪かったね、楽しんできなよ!」

「……いまいち納得できませんけど……ありがとうございます」

 

 何故、得心の行ったような顔をしているんでしょうね?

 ちょっと会いに行ってみるだけなのに。

 何にせよ、本人はもう送り出す気満々のようですから、私も素直に出立するとしましょう。

 まだまだ日は昇り始めたばかりですが、昇りきってからでは流石に暑さで参ってしまいそうですし。

 

「では行ってきますね」

「行ってらっしゃい。帰ったら話聞かせてね!」

「なら、戻り次第そちらの家に行きましょうか?」

「相変わらず律儀だなぁ。次の勤務が重なった時でいいってば」

「なら、そうさせて貰います。では、また」

「ほいほい、気ぃつけてね」

 

 にやにやゆるゆると手を振る同僚へ、こちらも手を振り返して一路紅魔館へ。

 とん、と軽く地を蹴り、森の中から飛び出すと同時に飛び込んでくるのは、先ほど見上げた青々とした雲ひとつない晴天。

 今日はこの空のような気持ちのいい日になるといいですねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 負けませんよ!負けませんよぉぉぉおお!!

 

「……は?」

 

 折角の機会だからと、千里先まで見通す程度の能力を使うことなくゆるゆると飛んでいた私の眼下を、まるで矢のように駆け抜けていく巨大な銀狼。

 ……何ですか、あの速さ?

 草原をまるで真っ二つに割るかのような勢いで真っ直ぐに突っ切り、何かを追いかけているような……円盤?

 何故?

 そして頭の中に響き渡る今の不思議な叫び声は何でしょう?

 ……疑問だらけです。

 

「ただのお遊びだよ。フリスビーに追いついて取れたら私の負け、取れなかったら私の勝ち」

「ひぅ!?」

 

 むぅ、と思わず首を捻った瞬間に後ろから声をかけられたせいで、ちょっと恥ずかしい悲鳴が。

 油断していたとは言え、酷い失態です!

 

「……驚かすつもりじゃなかったんだけど……ごめんね?」

「あ、いえ、こちらが勝手に驚いただけですから!」

「そう言ってもらえるとありがたいなぁ」

 

 ぐるりと後ろを振り返りながら叫ぶように返事を返すと、そこにはリボンで可愛らしく飾られた日傘をさす、これまた可愛らしい子が申し訳なさそうに佇んでいたわけで。

 あちらはただ、不思議そうにしていた私に声をかけてくれただけなのに、失礼な事をしてしまいました。

 どうしたものかとあたふたする私に、にっこりと笑みを浮かべて、気にするなと目で伝えてくれる彼女に、ちょっと救われた気分です。

 私が慌てて乱れた息を落ち着けるのを待って、すい、と自然な所作で右手をこちらへ差し出してくる彼女。

 

「私はフランドール・スカーレット。あちらに見える紅魔館の主の妹。よろしくね」

「これはご丁寧に。白狼天狗の犬走椛です」

 

 一瞬何だろうと悩みかけて、続く言葉に挨拶の握手だと思い至って手を差し出して、びっくり。

 彼女のひんやりとした心地いい体温もそうですが、何ですかこのちっちゃなすべすべぷにぷにの手!

 剣術や畑仕事でごつごつした私の手で握っていていいものか悩んでしまいますね。

 

「働き者の手だね」

 

 ……差し出すかどうか迷って、中途半端な位置で止まってしまった私の手を取って、微笑み付きのこの言葉!

 文様が言っていた意味がわかりました……ふわりと胸が温かくなりますね、この子。

 緊張していたのが馬鹿らしくなってきました。

 うん、自然体で行きましょう。

 ありがとうございます、という意思を視線に乗せて彼女の綺麗な赤い瞳を見つめ、きゅっと一握りして手を離すと、お互い何故か堪えきれなくなって、吹きだしてしまいました。

 

「真面目な天狗さんだね!」

 

 ああもう、だからそんな無邪気に笑われるとどうしていいやら!

 吸血鬼のスペックは化け物ですか!!

 思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりしたくなるというか何というか。

 

「そういえばさっき白狼天狗って言ってたけど……狼の天狗さん?」

「狼の特徴を持つ天狗、といった所です。種族的には狼ではなく、天狗ですよ」

 

 天狗は特徴が違う者が入り乱れていますから、わかりづらいですよね。

 文様のように一般的な書物に登場する天狗らしい黒羽の者も居れば、私たち白狼のように羽を持たず、耳や尾、牙のみの者も居るわけですし。

 男性の天狗の中には、赤ら顔の鼻高さんもいますからね。

 種族として見たら、他の種族よりも色々と複雑でしょう。

 

「なるほど。スコールのお仲間さんかと思ったら、違うんだね」

「……スコールさん、というと、先ほど駆け抜けていったあの銀狼さんですよね」

「あれ、知ってるんだ?」

「先日そちらにお邪魔させて頂いた文様より聞き及びまして」

 

 なるほど、と再び頷いて日傘をくるりくるりと楽しそうに回しはじめるフランドールさん。

 この感じならスコールさんに会いたくて来たのだと告げても大丈夫そう……ですよね?

 もそもそと手荷物を身じろぎで確認しつつ、どう切り出したものかと思案。

 素直に言うべきですよね、やはり。

 この方なら笑って受け入れてくれそうな、そんな予感がします!

 い、いざ行かん!

 

「もしかして今日はうちに来ようとしてたり?」

「はい!?」

 

 さらりと核心ですよ、文様!

 ありがたいですけど、先ほどの意気込みは何だったのでしょうか!

 そして相変わらず想定外に弱い私にちょっと自己嫌悪です!

 ……お、落ち着きましょう。

 良い事、これは願ってもない良い事です。

 こう言ってくれる彼女の様子から、受け入れ準備は整っているものと見受けました、うん!

 

「いや、そんなに驚かれるような事じゃなかったと思うんだけど。射命丸さんから聞いたって言うくらいだし……」

「いや、あの、どう切り出そうかなと悩んでいた所でしたので」

「そういう事かぁ。ちなみに今のは私のお姉さまが『今日はスコールに来客の予感』なんていう運命予報を出してたから聞いてみたっていうのもあるんだけどね」

「運命予報って……」

 

 運命って予報できるようなものじゃないですよね?

 未来予知みたいな事ができるのでしょうか。

 ……う、何かそう考えるとちょっと手のひらで踊らされてるような気分に……って失礼ですよね。

 悪気がある風でもないですし。

 

「お姉さま、そういうの得意だからね。いきなり言い出すから何の事だって毎回思うんだけど、当たるからなぁ」

「な、何か凄いですね」

「でも本人はあくまでも流れみたいなものを感じるだけみたいだよ?」

「いや、それでも十分すぎるくらいだと思うのですけど」

 

 うん、どれくらいの範囲や精度を持つのかは本人のみぞ知る所でしょうが、判断材料の一つとしては大きなものでしょう。

 目の前のフランドールさんは『お姉さまはこの能力が知られたところで何の問題もない、胸を張って吹聴して良し!って笑い飛ばしてたけど』なんて仰いますが、ありますよね、問題?

 

「毎回大した事は言わないし、それで何かしようって考えもないみたいだし……って、予報された人に大した事じゃないっていうのは失礼だね……うん、ごめんなさい」

「あぁいえいえお気になさらず!?」

「…………いいキャラしてるなぁ、その慌てっぷり。スコールの好みに直球ど真ん中だよ」

 

 褒められてるのか、憐れまれているのか。

 反応に困ります。

 嬉しそうに頷いているところを見る限り、前者だと思いますけど。

 ちょっと耳がへにゃりとしてしまいました。

 

「こんな所で立ち話……飛び話?……も何だし、館の方へ行こうか。スコールも戻ってくるみたいだし」

「えと、その……お邪魔してもよろしいので?」

「別に断る理由なんて無いもの。歓迎するよ? 盛大に」

「恐縮です……」

「本当に真面目さんだねぇ」

 

 からりと一つ笑って、私の方へ手を差し出すフランドールさん。

 握手は先ほどしましたし、今度の手は一体なんでしょうか……?

 

「お荷物、重そうだから少し持つよ。これでも力はそれなりにあるんだよ?」

 

 ……さっきから頻繁に持ち手を変えたりしていたのは、その、そわそわしていたというか、慌てていたというか。

 別に重さからそうしていたわけではないのですけど!

 でも折角申し出てくれたのに無碍に断るのも申し訳ないですよね。

 う、うん、軽いほうの荷物を!

 

「そっちじゃなくて、もう一つの袋の方かな? 今『軽いほうを』って考えたでしょう」

「……そんなに判りやすいですか、私」

「うん」

 

 …………そんな即答で、うん、って。

 不思議そうな顔で、うん、って。

 私の自覚が足りないのでしょうか、文様。

 

「何でそんなに打ちひしがれてるような顔をしているのかわからないんだけど……迷惑だったかな?」

「いえいえいえ!」

 

 貴女に悲しそうな顔は似合いませんね!

 って口説き文句ですか!?

 こう、にっこり笑っていて欲しいというか、そんな!

 この笑顔を曇らせるのは色々と勿体無いです!

 

「で、ではお言葉に甘えまして、こちらを……重くて申し訳ありませんが」

「…………重い?」

 

 ……自己申告に偽りなしですか。

 それなりに鍛えている私でも、ちょっとは重さを感じていたんですがね、あの鞄。

 数本のお酒や大量の桃、保冷用の氷を詰めた新鮮なお肉入りの袋だとかでパンパンに膨らんだ大きな鞄を、まるで中身がからっぽの鞄のように軽々と上げ下げして重さを確かめるフランドールさん。

 どうやら納得がいったのか、うん、と一つ頷いてこちらを促すような笑みを浮かべて、くるりと傘を一回し。

 

「それじゃいこっか。スコールも帰ってきた事だし」

 

 ええ、帰ってきました!

 

「……あれ、さっき……あれ?」

「中身は別として、スコールの身体はちゃんと化け物だからね?」

 

 ……帰ってきた途端、何か貶められてるような。

 

「褒めてるんだよ。そんなスコールだからいいんじゃない」

 

 むぅ。

 

「ほら、お姉さまの言ってたお客さんも来たから帰ろう。今度は館までの競争でもする?」

「えっ」

「……訂正、ゆっくり帰ろうか」

 

 ほ、ホッとしました。

 あの速度に付いて行くのは無理があります。

 というかフランドールさん、スコールさんと競争ができる程度の速度は出せる、と?

 ……吸血鬼は種族固有能力も然る事ながら、純粋な身体能力でも、化け物たちをして化け物と呼ばせるだけのものを持っていると言われますが、いやはや。

 貴女もスコールさんの事を言えませんよね?

 

「何で悟ったような顔を向けられるんだろう」

 

 ふふん、いつも私はいろんな方に自覚が足りないとか言われますけれど、フランさんも自覚が足りませんね!

 

「……うわぁ、ここ最近で一番のダメージだったよ、今の」

 

 口に出してないのに読まれた!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「というわけで椛さん、おいでませ紅魔館」

「お邪魔します!」

 

 折角だからお乗りなさいと仰るスコールさんの背へお邪魔して、連れてきて頂いた館は、遠目で見たよりも遥かに大きな物でした。

 門番さんが寄りかかって寝息を立てている門からして、サイズが……というか、寝て……?

 

「あぁ、いいのいいの。悪意を持って近づくなら、さっき私達が居た辺りの段階で臨戦態勢に入ってるからね」

「優秀ですね、それは」

 

 かなり。

 あの距離で察知されたら、よほどの速度で襲い掛かるか、移動系の能力でもない限りは奇襲となりませんね。

 寝ているように見えて、それだけの事ができるとは。

 

「代わりにそれがない時はひたすらごろごろしてるんだけどね。今はまだ出していないけど、もう少し日差しが強くなったらパラソルとチェアを出してお茶を飲んでたりするし」

「……門番なんですか、それ?」

「門の前だからね」

 

 そういう問題じゃないですよね?

 心構え的にどうかと思うのですけど……まぁ他所のお家の事情をとやかく言うものでもありませんね。

 先ほど聞いた話が確かなら、門番としての仕事は十分にこなせそうですし。

 

「とはいえ、お客様が来てるんだから狸寝入りはやめようね美鈴」

「ありゃ、ばれてましたか」

 

 ……えー?

 

「戻ってくる時、ちらっと目を開けてこっちを確認したでしょう?」

「おやおや、よく見えましたね」

「今日は飲茶セットを出してないんだなーって観察してる所だったから」

「これはまた悪いタイミングでした」

「確信犯のくせに何言ってるの?」

 

 …………なんでしょう、このレベルの高さ。

 文様をして得体の知れない門番、と言わせるだけはありますね。

 本人達がじゃれあうようにやり取りするものだから余計に恐ろしい。

 

「とりあえず今日はもう門番お休みでいいから、咲夜と一緒にお持て成しに回ってくれる?」

「はーいかしこまりましたー。丁度おすすめの葉もありますから期待してて下さいね」

「あ、あとみたらし団子ときなこ餅もお願い!」

「……フラン様、それ中華じゃなくて和菓子なんですが」

「作れるでしょ?」

 

 こてんと首をかしげたフランドールさんに、ちょっぴり泣きそうな顔で晴れ渡った空を見上げる美鈴さん。

 私のアイデンティティが、何てぽつりと呟かれたその言葉が物悲しいです。

 

「ま、作るからには美味しいものを。腕によりをかけます!」

「よろしく!」

「あ、それから紹介が遅れましたが、紅美鈴です」

「犬走椛です!?」

 

 切り替え早いですね!?

 さっきまでの物悲しい雰囲気は一体どこへ!

 ……そして何よりも、また着いて行けずに妙に力の篭った自己紹介になってしまいました……精進しましょう。

 

「フラン様、お客様はどちらへご案内に?」

「とりあえず応接室かなぁ……んー、それかスコールの部屋?」

「畳敷きの方が好みならそちらですよねぇ」

「というわけで椛さん、洋室と和室、どっちがいい?」

 

 個人的には和室の方が寛げるのですけど、折角こんな立派な洋館に来ているのですから洋室の方がいいでしょうか。

 でもスコールさんのお部屋というのも気になります。

 人型ではなく狼のままで過ごしているとの事でしたし、どんなお部屋なんでしょう?

 ……気になりますね。

 わ、和室にしましょう、うん。

 洋室は、その、また来ても良さそうならその時にお願いするという事で。

 

「和室みたいだね」

「みたいですね」

「だから何で読まれるんですかぁ!?」

 

 うん、と頷いた瞬間、見事に和室を選んだと言い当てられて思わず叫び声をあげてしまいました。

 今回の選択は純粋に嗜好の二択だったというのに、何でわかるんですか!?

 

「館を見て、その後じーっとスコールを見て。その後に決まったとばかりに頷くんだもの」

「……そ、そんな事してました?」

「うん」

 

 全くもって無意識の行動でした。

 確かにそんな事をしていたのならわかりやすいですよね。

 ……は、恥ずかしい!

 頬に血が上っていくのがわかります。

 思わず持っていた鞄でへにゃりとたれた耳や赤く染まった頬を隠した途端、鞄の向こうから聞こえてくる小さな歓声。

 ど、どういう事ですかっ!?

 

「何をするにしても仕草が可愛い……」

「咲夜さんが張り切りますね、これは」

「ちゃんと抑えておいてね?」

「また無茶を仰いますね!?」

 

 ……さくやさん、という人に気をつければいいのだという事だけはわかりました。

 どういう風に気をつければいいのかはさっぱりですけど。

 対策について楽しそうに話すフランドールさんと美鈴さんのおかげで、少しばかり頬が冷めてきたように感じます。

 耳もしっかりぴっしりでもう大丈夫なはずっ!

 

「それじゃ、先に行ってるよ」

「かしこまりました。飲み物だけは咲夜さんへ頼んで先にお出ししましょう」

 

 りょ、緑茶! 冷たい緑茶もお願いして下さい!

 

「はいはい、じゃあそっちは私が淹れておくからちゃっちゃとお客様のご案内!」

 

 メイリンさん素敵!

 

「ただし冷ますのにちょっと時間かかるからね」

 

 承知しておりますとも。

 代わりに、今度人里に行ったらメイリンさん好みのくつろぎぐっずを見つけてきますよ!

 

「んー……今度はうちで出ない食べ物とかの方がいいかなぁ」

 

 なら水饅頭!

 こないだ美味しい水饅頭を作るお婆さんと知り合いになったんですよねぇ。

 

「ほほぅ。順調に人里開拓をしてるね」

「はいはい、そこまで。お客様を待たせて雑談に入らない!」

「ありゃ、これは失礼を」

 

 さ、さあお部屋へ参りましょう、参りましょう!

 今なら散らかってないので大丈夫です!

 

「……散らかってた事なんてあったっけ?」

 

 ……先日、駄菓子屋のお兄さんから大量に駄菓子を貰った時にですね、その。

 

「どんな味がするのか食べ散らかしたと」

 

 ええ、サクヤさんに見つかっておひげを引っ張られちゃいました……

 

「咲夜の事だから、駄菓子もいくつか没収して『これで黙っておいて差し上げますわ』とか言ったんじゃない?」

 

 だーいせーいかーい。

 サクヤさん、結構ああいうの好きですよねぇ。

 

「新しいもの好きだからね、咲夜は。可能な限りは試したいみたい」

「……フラン様、また雑談に入ってますよ」

「スコールが悪い」

 

 そんな!?

 さらりと人に罪を擦り付けるなんて、いつからそんな悪い子になったんですか!!

 お姉さん悲しいですよ!

 

「……お姉さん?」

「年齢的には間違ってませんね」

「…………お姉さん?」

「中身は保障しません」

 

 保障してくださいよ!

 そりゃあ威厳とか色々足りないのは自覚してますけど、そこまで言わなくたっていいじゃないですかぁ……!

 

「はいはい、いじけてないでさっさと部屋に案内する!お茶菓子大盛りにしてあげるから!」

 

 よし行きましょうすぐ行きましょうさあ行きましょう!

 

「妙な所で異様に切り替えが早いよね……」

「スコールですからね」

 

 あぁ、そういえば換気のために窓を開けたままでしたね!

 ごーとぅーまいるぅむ!!

 

「あ、こら!」

 

 とーう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お、おかえりなさい」

 

 えーと……ただいま帰りました?

 

「………………」

 

 ………………

 

「記念すべき10匹目です!」

 

 どれだけ私の人形を増やす気ですか小悪魔さん!?

 というか毎回、何で私が居ない間にそっと色んな場所に設置するんですか!!

 

「その方が面白いでしょう!!」

 

 こ、ここまで胸を張られると逆に清々しいというか、何というか……。

 

「というわけで次回作にご期待ください。それからお客様、ご入用でしたら一匹用意致しますので、お気軽にお声かけを」

 

 ま、まだ居るんですかって速っ!?

 

「……勢いだけで押し切って逃げたね、小悪魔。悪ノリしてなければ良い子なんだけどなぁ」

 

 ……私、悪ノリしてる小悪魔さんばかり見ている気がするんですけど。

 

「スコールの能力が悪いね、うん」

 

 うわぁん!!

 

 

 

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