まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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29話 Suika

 

 

 

 今日も今日とて空は綺麗に晴れ渡り。

 流れるのは緑の香りをはらんだ、気持ちのいい緩やかな風。

 数多の私の前に広がるのは青々とした緑、雄雄しく咲き誇る向日葵、鬱蒼と茂る竹林、胞子を撒き散らす森。

 幻想郷の各所に散らばった私の目の前には、それぞれの四季のあり方を謳歌する景色の数々。

 酒の肴には悪くない。

 

(……おぅ、肴が一品追加されたかな? スコールよぅ、お前さん今日は何をしでかすんだろうね?)

 

 人里への道から外れては戻り、戻っては外れとゆらゆらお散歩中の狼さん。

 行く先々で何かといじられるのを見るのは面白い。

 

(普段の密度だとすぐ気付かれるからなぁ。ちぃっと遠巻きに、限りなく薄くした体で付いていくとしようかねぇ)

 

 

 

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 贈り物のために今度こそはと雑貨屋さんを目指して一路人里へ足を伸ばしたわけですが、お小遣い稼ぎが身に染み付いてしまったのでしょうか。

 薬草や珍しい石を見つけるたびに寄り道をして集めていたら、朝におうちを出たはずが気づけばお昼時です。

 本気で走れば数分の距離に数時間もかかるとは思いませんでしたね……恐るべし幻想郷。

 その分実入りもあるわけですし、時間は余るほどにあるわけですから別にいいんですけどねぇ。

 でも妙に損した気分です。

 不思議不思議……あら?

 

「おや、ここで会うなんて珍しいな」

 

 おやおやおや。

 先日の宴会ぶりですね、ランさん。

 あの時は醜態を晒してしまいまして……。

 

「…………いや、醜態度合いで言うならうちの紫様が一番……アレだったからなぁ」

 

 あぁ、そういえば。

 ……この話題はよしましょうか。

 何かどこかからか聞かれていて恐ろしい事になる予感がします。

 具体的に言うなら、いきなり足元がぱっくり開いて妙な所に放り込まれるとか。

 

(確かに、紫ならやるだろうなぁ。普段は胡散臭いだけなのに、たまに子供っぽいし。直球に弱かったりもするからねぇ)

 

「ははっ、違いない。ところで今日はどうしたんだ? そんな鞄を膨らませて」

 

 いやぁ、これは単なる副産物なんですけどね。

 紅魔館の皆への贈り物を探しに人里まで足を運んでいたんですけど、その道中でつい癖で色々とお小遣いの種を集めてしまって。

 

「成る程な。……ふむ、匂いからして集めたのは薬草かな?」

 

 ご名答、流石ですねぇ。

 他には目に付いた綺麗な石とかですよ。

 何か透き通ってたりしてるのがいいって聞いたので、それらしい物を見つけたらつい拾ってしまって。

 

(薬草はわかったけど、何か地面でごそごそしてたのは石か。透き通った石なぁ……?)

 

「透き通った石?」

 

 えぇ、紫色のやつとか、透明のやつとか、赤っぽいやつとか……んー、鞄の下の方に行ってしまってますね。

 ……ら、ランさん、できれば出していただけるとっ!

 

「ん、じゃあ少し失礼するよ……どれだけ薬草集めてるんだ、まったく」

 

 採り過ぎないように結構残してきてるんですけど、行く先々にあるもので。

 見つけちゃうと、あれを採ったらいくらになるーなんて頭に浮かんじゃって、もう。

 

(ひくりと鼻を動かしたかと思ったら即座に駆け出してたもんなぁ。人じゃあ取りに行くのに難儀しそうな場所に生えてる薬草もなんのその、だしな。薬師としては欲しいお得意さんだろうさ)

 

「ははっ、気持ちはわからないでもないなぁ。……あぁ、あったあった、これだ……な?」

 

 な、何です?

 そんな妙な物を見たような顔をなさって。

 もしかして、それってただの石ころでしたか?

 

(お、おお? また凄いもん探し出してるなぁ、おい……。そこらに転がってるような物じゃないだろうに。どんだけ運と目がいいんだか)

 

「まさか……拾ったのか、これを……!?」

 

 何ですその意味深な言い方ぁ……!?

 怖くなるじゃないですかぁ!

 

(ははっ、藍らしい演技だ。顔色も声色も完璧。逆に完璧すぎて浮いてるってのに、スコールときたらあんな慌てふためいちゃって、まぁ……)

 

「心配するな、冗談だ」

 

 むぁ?

 む、むむぅ……ていっ!

 

「こら、拗ねるな拗ねるな。肉球パンチはやめなさい。気持ちいいだろう?」

 

 うぬぅ……!?

 

(あ、ちょっと羨ましいぞ藍め! 私もふにふにしたい! ……あと、もふりたい。超もふりたい)

 

「ま、話を戻すと……これだけの大きさの物をそこらで拾えると思わなかったな。というか拾えるのがまず信じられないんだけど」

 

 え。

 え?

 じゃあそれ当たりですかっ!?

 

「当たりも当たり、大当たりだよ。紫水晶だな。あとは石英とそこそこ大きな紅玉か」

 

 わほーい!

 お小遣いが増えちゃいますね!!

 

「持って行くべき所にもって行けばお小遣いどころじゃない金額になるだろうなぁ。とはいえ、さっきの話を聞く限りだとこれをそのまま贈り物にした方がいいと思うけどね」

 

 ほ、ほぉぅ?

 そういえば宝石には石言葉とかあるんでしたっけ。

 昔パチュリーさんが宝石選びの時にちらっと言ってたのを聞いたことが……。

 

「その通り。お前から紅魔館の皆へ贈り物、というなら紫水晶の石言葉はうってつけだよ。愛情や調和……あと、高貴なんていうのもあるな」

 

 あつらえたみたいにぴったりですねぇ。

 やぁ、いい事を教えてくれて感謝です!

 

(意味自体は色々あるんだろうけどねぇ。贈り物っていうならどれかを選んで、そこを押し出せばいいわけだし。藍も上手い事教えるもんだ)

 

「何、気にする事は無いさ。とりあえず加工なんかはあの人形使いを頼ればいいんじゃないかな。宝飾関係もこなせるようだし」

 

 アリスさんってば本当に小物づくりに関しては万能じみてますね……。

『服から小物まで、とーたるこーでぃねーとはアリスちゃんにお任せぇー!』なんて叫んでただけはあります。

 叫んでた時、本人はこの上なく酔っ払ってましたけど。

 しかも酔った勢いで酔いつぶれたモミジさんを言葉通りに弄り倒してましたし。

 

「それは本人に言わないようにな」

 

 大丈夫です、もうユウカさんがアリスさん弄りのネタにしました。

 

「……そ、そうか、流石……? だな、うん」

 

 ユウカさんったらにこやかに弄り倒しますからねぇ。

 真っ赤になって両手で顔を隠しながら悶えるアリスさんのお姿は眼福でしたけど。

 

「……いい奴だった」

 

(まさに。いい奴だってのはわかるし、あっちが本気になればかなり戦い甲斐がありそうだけど……よっぽどの事をこちらからしない限り、目は無いだろうなぁ)

 

 縁起でもない事呟きながらアリスさんの家の方向へ目を向けるのはやめましょう?

 今から私が行くんですから、何かあったら困るじゃないですか!!

 石の加工を誰がやってくれるっていうんです!?

 

「そこかい」

 

(相変わらず気にするところがずれてるなぁ。そんなだからぽんこつとか言われたりするんだよ……)

 

 アリスさん仕様の私はちょっと辛口ですのよ。

 毛刈りの恐怖は忘れちゃいませんっ!

 

(……そういえばもうすぐ私の腰巻が完成するって聞いたなぁ。楽しみだから覗かないようにしてたけど、折角だしこのまま着いて行ってみるかね?)

 

「ついでに態度もたまには辛口にしてみれば更に面白くなるんじゃないか?」

 

 え……か、噛み付けばいいんですか?

 

(おーおー、悪い顔だ。牙が覗いてるぞ藍よぅ。てかスコール、お前さん自分でも無理だって思うなら言うなよ。態度に出てるぞぅ)

 

「あいつを殺す気か。しかしお前だとそういうのには向かないだろうなぁ……あぁ、そうだ」

 

 んむ?

 何ですそのお守り。

 

(ほぉ? 紫と藍……後は、あの感じだと幽々子か。三人の髪の毛を織り込んだ袋に、中には札、と。また大層な物が出てきたなぁ、おい)

 

「中に札が入ってる。元々は弱気すぎた橙に『ちょっとだけ後押しするため』のものだったんだけど……先日、ようやくここから脱却できたようでね」

 

 ほう、ほうほうほう。

 それは喜ばしい事ですねぇ。

 お優しいのは結構ですが、弱気すぎるのはいけませんからねぇ……あ、何か言ってて自分にだめーじが来ました。

 

(まさにお前が言うな。というかそれだけのために大妖三人の髪の毛入り守り袋って何だかなぁ……まぁ愛されてるのはいい事だけどさぁ)

 

「ま、そういう事だ。持っててみるならお前用に調整するけど、どうする?」

 

 よろしいので?

 

「後は記念の品として取っておくだけの品だしね。有効利用できるならそれに越した事はないさ」

 

 おぉう……ならお試しで。

 ちょっと面白そうじゃないですか!

 

「そこまで期待はしないように。そんな大した物じゃなくて、さっきお前が言ってたように『お守り』だよ」

 

 そういうのは持ってるだけでも気持ちに余裕ができるってケイネさんが言ってましたからね。

 貸してもらえるだけでもありがたいものですよ。

 

「ははっ、そういう考え方なら大丈夫だろうさ。少し待ってろよー」

 

 はーいランせんせー!

 

「うむ、いい子だなスコール君……あっ」

 

 ほぁ!?

 

「……ほぉら、できたぞぅ」

 

 待って! 待って下さいランさん!?

 何ですかさっきの『あっ』って!!

 

(今、珍しい顔したぞこいつ。先生とか呼ばれてちょっと得意気になった瞬間の、まぎれもないやらかした表情)

 

「なんでもなーいなんでもなーい。大丈夫、効能は人によって異なります。さぁ勇気を持ってアリスのお家へ行っておいで?」

 

 む……むぅ?

 その微笑は魅力的ですけど、騙されませんよ!

 何だったんですか!?

 

「…………行って、おいで?」

 

 ……は、はい、ラン先生。

 せ、先生、牙、牙が見えてます。

 

(困ったら力ずくかい! ……まぁ本気じゃなさそうだけど)

 

「おっと。……まぁ冗談は置いておくと……あれだ、ちょっと力を込めすぎた。まぁお前クラスの妖獣なら問題にはならないと思うけど……気を抜いた瞬間だったからね」

 

 何だ……妙な間違いで、お守りが呪いのあいてむに変身したのかと思っちゃったじゃないですか。

 ではでは、ありがたく頂いて行ってきます!

 

「あぁ、気を付けてなー……勢いを付け過ぎてアリスの家に穴を開けないように」

 

 ……もこたんちは手加減の犠牲になったんです!

 そいではごーごー!

 

(そういや立て直すの手伝ってくれって言われてたっけ。まぁあの焼き鳥娘は嫌いじゃないし、今度やっておくかなぁ……一晩で)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、大丈夫だろ。新米妖猫と気概が足りないだけの大妖じゃ効き具合なんて雲泥の差だろうし」

「だと、いいわねぇ?」

「そうではない、と見ますか?」

 

(あぁ……流石は紫の式だよなぁ。普通は紫がいきなり後ろから出てきたら慌てるもんだけど。どこから見聞きしてた、とか……)

 

「あの子、あれの効果に関しては『軽く』してなかったわよ。あと一つ忘れてるのは、最後にあの子が受け取った瞬間ね」

「普通に咥えて、スカーフのポケットへ入れていたように見えましたが」

「咥えたでしょう? つまり、加えたのよ。あのお守りを何の疑いも持たずに受け入れて自分の中へ。この手の道具は言葉遊びが現実になるものだしね」

「しかし、それを加味しても………スコール自身、お守りで後押しする基の部分、攻撃性が乏しいので……プラスされてもそう大事にはならないでしょう?」

「ええ、私もそう見込んだからそのまま見送ったんだけどね。式がしでかした迂闊な行動をただ見逃すのはどうかと思ったから釘を刺しただけ」

「精進します。……ところで紫様、その左腕にかかっている袋……外の世界のものですね?」

「……それじゃ、先に戻ってるわね」

「あ、ちょっと! 次に出るときは私も連れて行ってもらえる約束だったじゃないですかぁ!?」

「貴女を連れて行くと老舗有名豆腐店とかしか行きたがらないじゃないの!!」

「何が悪いんですか!? おあげさんは私の存在意義の一つですよ!?」

「貴女どれだけ油揚げを崇拝してるのよ!」

「紫様よ……紫様の次に!」

 

 まずい、口が滑った。

 

「……ちょっと、お話し……しましょうか?」

「用事を思い出したので失礼します。紫様、お気をつけてお帰り下さい」

「…………」

「お、お帰り下さい」

「逃がすとお思いかしら、この駄狐め……」

「逃げます!!」

「あ、こらっ!」

 

(…………おいおいおい、二人して何やってんだか。……ま、何かあったら事だ。一応向こうにやった分に周りから少しばかり萃めておくかねぇ)

 

 

 

 

 

 

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 と、いうやりとりがありましてですね!

 こちらの薬草と……何て言いましたっけ、この赤い石……るびー? で、加工費用にはなりませんか?

 何でしたらこちらの白っぽい透明なやつもつけますから。

 

「別にいいけど、ちょっと私の扱いに物申したい気分なのよね」

 

 …………。

 ………………?

 

「何でそんな不思議そうに首を捻るのよ!?」

 

 え、だってアリスさんじゃないですか。

 

(確かに。妙な説得力がある辺り、救いがない)

 

「幽香のせいで私の扱いが……!!」

 

 まぁまぁ、いいじゃないですか。

 愛されてるんですよ!

 

「歪んで捻じ曲がった愛情なんていらないわよ!」

 

 ま、ま、落ち着いて。

 それでどうです?

 加工とかお願いできますか?

 

(どこぞの橋姫みたいにどす黒くないから問題ない問題ない。もう呪詛だからなぁアレ)

 

「……まぁ、いいけど。加工の手間なんてルビーだけでもお釣りが出すぎて困る位の事だしね」

 

 きゃーアリスさん素敵ぃ!

 

「えぇい纏わりつくな押し倒すなっ!? いちいちもふもふで気持ちいいのよ!」

 

 怒りながら褒めてくれるのはやめましょうよ。

 一瞬悩むじゃないですか!

 ほぉら咲夜さんがお手入れした毛並みを味わいなさいっ!

 

(あーちくしょう、こいつも羨ましい。そっと混ざってやろうかこんちきしょう)

 

「おーいアリス、お邪魔してる……ぜぇ?」

 

 おや新顔さん……新顔さん? なんかどこかで見たような気はしますけど。

 匂いも覚えがありますけど、どちらさまでしたっけ?

 

「悩みながら無駄にモフらせるんじゃないの。……いい加減にしないと刈るわよ?」

 

 おう、またもや毛並みの危機が!?

 何かにつけて刈ろうとするのはやめましょうよ!

 

「ならどいてもらえる? 流石に体重そのままでのしかかられると逃げるのも一苦労なんだから」

 

 ぶぅ。

 でもアリスさん、ちょうどいい感じに抱え込めるので何か落ち着くんですよねぇ。

 もう少し……咲夜さんくらい大人しくしてくれれば完璧なのに。

 

(本気で逃がさないようにしてたら、魔法使いの細腕なんかじゃ絶対に無理だけどね。千年逃げ延びた大妖、妖獣の純粋な膂力をなめちゃあいけないよお嬢ちゃん?)

 

「お、おま、お前・・・!?」

「……あら、魔理沙。いつの間に忍び込んだのかしら」

「たった今だ! ってそうじゃない!!なんでコイツがお前の家に居るんだよ!?」

「何でって……友達が遊びに来てるのがそんなに不思議? 失礼もいい所だわ」

「とも……アリス、お前熱でもあるんじゃないか?」

「跪けぇ!」

 

 おうふ、アリスさんったら見事な糸さばきですね。

 操り人形よろしく、全身の自由を一瞬で奪うなんて……しかも跪けなんて言いながら土下座させる辺り、ユウカさんの影響が……!?

 戻ってきて下さいアリスさん……。

 いじられて涙目にならないアリスさんなんて、アリスさんじゃないですよ!!

 

「……貴女の場合は糸をつけても純粋な膂力で相手にならないから、しないけど……ねぇ?」

 

 あ、はい。

 ごめんなさい調子に乗ってました。

 

(あぁ、ちゃんと理解はしてるのか。ま、それもそうか……色んな意味で頭は良いみたいだし)

 

「わかればよろしい。で、結局何の用だったの魔理沙」

「まずはこれを解け! 順番がおかしいだろぉ!?」

「……そろそろ首にも糸をかけるべきかしら」

「解いて下さいお願いしますアリスさん」

「えー」

 

 悪そうにくすくす笑うアリスさんも新鮮ですけど、似合ってませんねぇ。

 もっとこう……パチュリーさんに媚薬を盛るのに成功した時の小悪魔さんくらいの笑顔でないと。

 

「本業と一緒にするな。というか気づいてるなら助けてあげなさいよ」

「小悪魔さんったらお仕置きまで込みでご褒美らしいので」

「ある意味、流石サキュバス」

「おい、脱線しないでくれます?」

「あぁゴメン、忘れてたわ……はい、いいわよ」

 

 もそもそと解かれたのを確認した途端、土下座の姿勢から飛び起きる新顔さん。

 床に落ちていた大きな三角帽子の中から八角形の箱を取り出して、こちらに向けて……あれ、何か見覚えがあるような……無いような……?

 

「八卦炉、ってやつね。あの子が火力を出すのに使うマジックアイテムみたいなものよ」

「動くな!動くと撃つぞ!!」

「はい、今の口上の間で勝負は終わり。撃ってもいいわよ?」

「……は?」

「奇跡的に原型の残っているご自分のおうちを、木っ端微塵にしたいなら……どうぞ?」

 

 ……あぁ、床と壁に糸で描いたの、パチュリーさんと一緒に作ってたやつですか。

 何か色々混ぜて混ぜて捏ねた末に捻じ曲がって何故か完成したとかいう、おまじないの……。

 

「正解。短距離だけど短絡させた空間を通して外に出した後、魔理沙のお家の方へ受け流してドカン。そういえば貴女ってこういうものへの理解だけは妙に早いわね?」

 

 陰陽師、とかいうのが札やら動きやらで似たような事をしてましたからねぇ。

 逃げるときに必要じゃないですか、そういうのって。

 何気ない動きの中に必要な要素をちりばめて、気が付いたら四方八方札やら結界だらけとか笑えませんでしたよ……?

 

(あぁ、姑息な手は嫌いだけど……その努力は認めるさ。弱い、持たざるものの知恵ってやつ。……色々、事情があるのは妖怪でも人でも同じ事だしなぁ)

 

「努力の方向とそれに伴ってきた結果の完成度がスコールらしいわ」

 

 照れますねぇ!

 時に、新顔さん。

 何やら撃とうとしていたようですけど、やめた方がいいと思いますよ?

 アリスさんが『撃ってもいいわよ?』何て余裕を見せてた時だったら万が一もあったでしょうけど、その後にこれほど時間の余裕をあげちゃったら……言わずもがなですよね。

 ちなみにこれだけ時間が掛かった後なら、カザミさんちのユウカさんがそこそこ力を込めて撃ったごん太ビームでもそれなりに耐える鬼畜仕様ですから。

 

(そりゃ凄い。拠点に張り巡らせる使い方なら、かなり硬くなるだろうなぁ。こいつの頭なら更に色々仕込めるだろうし、攻め入る側はたまったもんじゃないね)

 

「……待て、話し合おう」

「最初から物騒なのは魔理沙だけよ? ……申し開きを聞きましょうか」

「お、おう」

「おう?」

「ハイ、アリスサン!」

 

 わぁ素直じゃない子だ。

 アリスさん、ちょっと教育的指導しちゃいます?

 

(……お? こいつにしちゃあ珍しい…………っておいおい、まさかさっきのか?)

 

「あら、貴女がそんな事を言うなんて珍しいわね。こういう素直じゃない子は嫌いなタイプ?」

 

 どちらかと言えば、ですねぇ。

 別にツンツンするのが悪いと言ってるわけじゃないですよ?

 素直になれないだけなら微笑ましいですし、全力で見守りますけど……自覚してやってるような輩なら話は別です。

 泣こうが喚こうが、指先一つ動かせなくなるまで追い回してやりましょう。

 

(よくよく見れば……さっきの守り袋、こいつの妖力を糧にして力を増してるじゃないか。藍に紫め、何か見落としたか? ……いや、そこまで間抜けな二人じゃない。……何が原因かねぇ?)

 

「……ちょっと、言いながら本気になるのはやめなさいね。貴女らしくないわよ?」

「ハッ! 前の時は後ろでこそこそおろおろしてただけのヤツが何を偉そうに!」

「やめなさい、魔理沙。空気を敢えて読まないのは時と場合を選びなさいっていつも言ってるでしょう」

「お前、こいつの肩を持つのか?」

「そういう話じゃないでしょう……あぁもう、スコールも落ち着きなさいよ!?どうしたのよ本当に!!」

 

(おいおい、どんだけ影響受けてるんだよ。というか、異様に荒ぶりだしたぞあのお守り。こりゃ急いで萃めないと、それでなくても私じゃあ止めるのは相性が悪いってのに。……いや……でも……本気でやりあえるなら、悪くはないか?)

 

「上等だ、表に出ろよ犬っころ!」

「若さに任せるのは別にかまわないけど……アリスの言った通り、時と場合くらいは選べよぅ小娘」

 

(売り言葉に買い言葉、退けなくなったからって突き進むのは嫌いじゃないが、今回は私が頂いておくよ。ここでスコールがこの小娘を殺めるのは後々まずそうだし)

 

 ……おや、スイカさん。

 どうしたんです? 宴会の空気でもないのに……。

 

(何よりも、本気になったこいつと一戦交えるのは骨が折れそうで……楽しみだなぁって思っちゃったしねぇ)

 

「おぅ、大親友がやらかした……かもしれない、小さな失態の尻拭いさぁ。私の趣味も入ってるけどね」

 

 ほう?

 スイカさんの大親友というと、ユカリさんですか?

 何かありましたっけ……。

 

「細かい事はどうでもいいさ。ほれ、気に入らない事で熱くなった頭はどつきあって冷ますに限るんだ……やらないか?」

 

 ……いいですとも。

 ええ、ええ、いいですねぇ、楽しそうじゃないですかぁ!

 

「……おいおい、どこに原因があるかはいまいちわからないけど……本当に影響出すぎだろう、にっ!!」

 

 そこそこに萃まったので、とりあえず一発。

 外に放り出してからやらないと、こんな小さな家一軒なんて瞬く間に瓦礫の山だしね。

 ……しっかし、不意を突いたはずなのに手ごたえが殆どありゃしない。

 頭に血がのぼってもその辺りは健在かぁ。

 …………いいねぇ、いよいよ滾ってきた。

 

「ちょ、ちょっと?」

「あぁアリス。悪い事は言わないから、さっきのおまじないを全力でこの家に掛けて……そうだな、逃がす先は太陽の畑上空にでもしておきな。幽香がフォローに来るだろうさ」

「……それほど?」

「あぁ、それほどだ。これからさらに悪化するか、適度な所で打ち止めになるかなんてわかりゃしない」

「わかったわ。ならもう何も言わないから存分にどうぞ。……ただ、泥沼の殺し合いだけは勘弁してよ?」

「ははっ、理解が早くて助かるねぇ。んじゃま、いっちょやりますかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍」

「ええ、何やら妙な悪寒がしますね」

「……まさか、さっきの?」

「い、いやいやいや、それこそまさか……」

「…………アリスの家、行っておく? 手土産でも持って」

「瓦礫の山になったお見舞いにならないといいですね」

「元凶が何を偉そうに!」

「紫様だってさらっと見逃したじゃないですかぁ!?」

「…………」

「…………」

「とりあえず行きましょうか」

「ええ、そうしましょう。それがいい」

 

 

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