まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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37話 Aya

 

 

 

 今日はお仕事もお休みだし、特に予定も無し。

 いい具合に暖かいし、久しぶりにのんびりと縁側でお茶でも飲もうかなぁ……。

 同僚が体調を崩した事もあって、三日続けてまるっと哨戒任務に就いたおかげで結構疲れが溜まってますし。

 えぇと、咲夜さんから貰った葉、まだ残ってましたっけ?

 あんまりにも美味しいからって、事あるごとに飲んでたからそろそろ残りが怪しかったような。

 

「はっぱさ~んはっぱさ~ん…………ありゃ」

 

 この量じゃお湯飲みに一杯淹れられるか、っていう所ですね。

 こうして最後の一杯と思うと、ちょっと飲むのは勿体なく感じちゃいます。

 んむぅ……これ、何かと交換してくれたりしないでしょうか?

 

「んー…………交換、できる物……物」

 

 もそもそと縁側へお気に入りの大きな大きなお座布団を敷いて、その上へごろりとまぁるくなりながら辺りを見回してみても、ピンと来るものがまるでありません。

 お庭の果物や畑のお野菜は丁度食べごろの物がないし、それ以外となると?

 

「何があるかなぁ……交換してくれそうな物」

 

 山菜とかいいかもしれませんね……タラの芽とか天ぷらにすると美味しいですし。

 あ、それからお漬物なんかもいいかも?

 前に美鈴さんがお茶漬けとお漬物の組み合わせが~って語ってましたから、紅魔館でも需要はあるはず。

 他には何があるかなぁ?

 食べ物くらいしか無いですからねぇ、私が用意できる物なんて。

 

「ふぁ……ふぅ……」

 

 あぁ……それにしても丁度いい暖かさ。

 思わずあくびも出ちゃうってものですよ。

 あまり人に見せられる姿じゃないのはわかってますけど、幸いにして今はお家で私一人っきりの時間。

 目を閉じればゆるりと流れる澄んだ風の音、さわさわと歌う草木の声。

 ふと風が止めば、そこに紛れていた小さく響く小川の水音、そしてシャッター音。

 いやぁ、平和ですねぇ。

 ねむねむ……。

 

「……あれぇ、シャッター音?」

「いやぁ、良い垂れもみじが撮れたわ。今年のベスト椛ね」

「…………んん?」

「あ、いいわよそのまま寝てても。別に何か用事があるわけじゃないからね」

 

 ふわりとお庭に降りたって、そのまま靴を脱いで上がり込んできては私の様子に微笑む文様。

 ……ぽかぽか陽気に、ふわりと頭を撫でて下さる文様の柔らかな手。

 いやはや、幸せですねぇ。

 お座布団の上でぱふりぱふりと尻尾が揺れちゃいます。

 あぁ、でも私がお座布団を丸ごと使ってるから、隣に座った文様は当然のように縁側の板張りの上。

 いや、これはいけません、いけませんねぇ。

 ずずいとこちらへおいでくださいませ。

 ……あれ、来てくれない?

 

「全く、こんな安心しきった顔でじゃれついてくれちゃって……」

「んー……文様……こっち、お座布団に……」

「いいわよ、別に。そんな事気にせずにゆっくり眠るといいわ」

「いけません。いけませんよそれは……」

 

 むぅ……こうなれば力技です。

 幸せな感触を全力で享受しようと閉じたままだった目をうっすら開けて、文様の細いお腰を確認。

 そのままちらりと上を向けば、私の視線に気づいた文様が『ん?』なんて優しげな笑みを浮かべているお姿。

 お命頂戴……じゃない……えぇと、油断したな……でもない……まぁ何でもいいですよね。

 ずりずりと少しばかりお座布団の上を文様とは逆向きに移動してから、空いた場所へぐいっと文様のお腰を掴んで引いて、ご案内。

 まるで寝っ転がったまま文様のお腹へ抱き付くような形になってしまいましたけど、まぁいいですよねぇ。

 

「ちょ、ちょっと椛!?」

「んふ……んふふふふふぅ……」

「くすぐったい、くすぐったいからお腹に頭ぐりぐりはやめて!?」

「文様の匂いだぁ……」

「え、え、ちょっと待って? ねぇ、何か異様に恥ずかしいんですが!?」

 

 ぎゅっと抱きしめた文様から微かに感じるインクの香りに、お気に入りだと言っていつもちびりちびりと飲んでいる、咲夜さんから貰ったというお酒の香り。

 あぁ、いつもの文様の香りだ。

 落ち着く香り、です

 

「あのあの、椛? モミジサン? おーい?」

「むぅ…………うぅっ……!」

「いやいや、『むぅ』じゃないでしょう椛?」

 

 ぷにぷにと私の頬っぺたをつつく文様の指から逃れるように、ぎゅっと文様のお腹に顔を押し付けていやいやと頭を振ってみる。

 ちょっと我がままだと自分でも思いますけど、それもこれもこんなに私を安心させてくれる文様がいけないんです。

 そうしてしばらく抱き付いたまま文様成分を堪能していると、ふすー、なんて気の抜けた吐息の気配。

 ほら、外では何だかんだと厳しい言葉を口にしたりもする文様ですけど、こういう時はいつもお優しいんですから。

 

「駄目だ、完全に寝に入る体勢だわ。全く、これで私が悪い狼だったらそのまま致されちゃうわよ?」

「文様は烏天狗じゃないですかぁ」

「そういう意味じゃないってば」

 

 苦笑の気配。

 わかってます、わかってますとも。

 でも、頬にかかった髪を指先で流して、そのままするりするりと髪を梳き、時にはふわりふわりと撫でてくれるその手は暖かくて、優しくて。

 まるでここが私の帰る場所だと思わせてくれるような安心感が溢れてしまいます。

 

「……ま、たまにはいいかな。こんなに幸せそうな顔をされちゃかなわないわ」

 

 暖かい……柔らかい……あぁ、幸せですねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なんて! なーんて!! どうです、可愛らしいでしょうウチの椛は!? 見て下さいよこの幸せそうな顔。思わず手持ちのフィルムを使い尽くしてしまいましたよ!?」

「ん、確かに言うだけあって良い顔してるわね。ちなみにこの写真はおいくらかしら?」

「んふふふふ! 残念ながら非売品です!」

「あら残念」

「こんなに可愛らしい寝顔椛の写真なんてそうそう撮れませんからね! 他でもない幽香さんですから見せるのは結構ですが、お譲りはできかねます!!」

 

 日頃から記事に食事に癒しにとお世話になる事の多い幽香さん。

 故に、幸せのおすそ分けはさせて頂きますけれど、それとこれとは話が別!

 この椛の写真を譲るなんてとんでもない!!

 本来であればそっと自宅のアルバムや写真立てに収めて幸せな気持ちで眺めるべきものですからね!

 

「……それにしても本当に幸せそうな顔だこと。これだけの信頼を裏切るような事はやめてあげなさいよ? 主に無駄スクープで」

「そんな! 裏切りなんてするわけがないでしょう!?」

 

 ちなみに、あの後しばらくして起きた椛は『そこまで小さくなれるのか』と言いたくなるくらいに縮こまって申し訳ありませんを連呼してたけど、気にする事なんて何一つないのに。

 普段から可愛がってる子が甘えてくれて嬉しかったと言うのに、それを謝られてしまっては逆に悲しくなってくる。

 まぁ何を言いたいかと言うと、ウチの子は可愛い。

 それはもう、可愛くて可愛くて仕方がない。

 あの子が慌ててお茶を用意しようとした時の、『咲夜さんから貰ったお茶、無くなったんだった』なんて心底残念そうな一言を耳ざとく聞いて、お暇したその翼でそのまま幽香さんの所へ飛び込むくらいには。

 

「というわけで、幽香さん。紅魔館に持ち込んでいる緑茶の葉、少しでいいので分けて貰えませんか?」

「どういうわけなのか聞けていないんだけど、まぁ茶葉くらいならかまわないわ」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「聞いてないわね。飛び込んできた途端に鞄から出した一升瓶を一気飲みして、そこからは椛の可愛らしさトークしかしてないわよ、貴女」

「おやおや、おかしいですねぇ……ところで、この散らかった酒瓶の山はどうしたんです? 綺麗好きな幽香さんが珍しい」

「貴女の仕業でしょうが。出したお酒を片っ端から飲み干してくれちゃって……一体どれだけ飲めば気が済むのかしらね?」

 

 呆れたものね、とばかりに苦笑を浮かべる幽香さんも中々にいいものですが……ふむ、あまり覚えていませんね。

 おっしゃる通り、鞄の中に常備している紅魔館製のお酒を詰めた一升瓶を駆けつけ一本と飲み干したのは記憶にありますが、その先は……あ、確かに幽香さんが酒瓶を抱えてきてくれたような?

 タイミング良く差し出してくれるおかげで次から次へとラッパしたんでしたっけ?

 ……あぁ、うん。

 私が原因ですねコレ。

 でも出してくれたお酒が美味しいのもいけないんです。

 さらに言うなら、おつまみにお酒にとかいがいしくお世話をしてくれた幽香さんもいけないんです!

 

「何気に幽香さん、人を駄目にしちゃいそうなタイプですよねぇ」

「甘えるだけの輩にいつまでも情を掛けるほど優しくはないけどね」

「おや、ではスコールさんやフランさんはどうなるんです?」

 

 猫かわいがりしてる所しか見ていない気がするんですが。

 特にフランさんなんて、顔を見ればお膝の上にご招待してるような。

 そしてなでなで頬ずりしてはまるで花の咲いたような笑顔を浮かべるお二人の図も最早見慣れた感がありますよ?

 撮った写真の枚数的にも。

 

「フランはちょくちょく畑の世話なんかを手伝ってくれるわよ?」

「ほう?」

「真冬以外は大体何かしらの草花がここにはあるもの。あれもこれもとゆっくりしていたらあっという間だからね」

「なるほどなるほど。そして手伝えば手伝うほど、甘やかし度が上がるという事ですか」

「否定はしないわ。だって可愛がっても付け上がったりなんかせずに、純粋に甘えてくれるのよ?」

 

 確かに。

 打算とか嫌味のない笑顔ですよねぇアレ。

 しかも甘えるばかりじゃいけない、なんて本人が積極的に動くものだからもういい意味で手に負えません。

 何ですかあの可愛らしい吸血鬼。

 見た目じゃなくて中身も可愛らしいとか反則ですよ全く。

 ……まぁそればっかり見てると、たまに本気で怒った時のおっかなさが増すわけですが。

 五百歳程との事ですけど、吸血鬼の基本スペックにあのとんでもない能力が合わさると、もう本当におっかない。

 視認してきゅっと手を握るだけでドカンとか何ですか一体。

 ただ壊すだけなら再生できる妖怪は数多くいますけど、あの能力はそれ以上の本質的な部分を壊せるようですし。

 前に一度『まとまった風の目』を壊して局地的な無風状態を作る、なんて私に対する鬼門的な使い方まで披露してくれちゃいましたからね。

 おお怖い怖い。

 でも、それ以上に可愛らしいって印象が強いっていうのも凄いですねぇ。

 

「とにかくあの笑顔は胸に来ますよねぇ。本当に夜型妖怪ですか貴女ってくらいの太陽みたいな笑顔」

「夜型妖怪って……」

「吸血鬼なんだから夜型でしょう?」

「いや、間違っては無いけど、何か違うんじゃないかしらね」

 

 そんな事はないと思いますが。

 レミリアさんは自称夜の王ですし。

 宴会でしこたま飲んで酔っ払った後に胸を張って宣言してた程度の自称ですが。

 まぁ、その自称については否定はしませんけどね。

 フランさん然り、レミリアさん然り。夜の吸血鬼は知る限りでもかなりの大物ですし。

 特に大きな月の出ている夜なんて、どっから出したのその力、とばかりに出るわ出るわ、妖力魔力膂力。

 妖力のぶっぱだけでも割と手に負えないレベルなのに、レミリアさんもフランさんも館の魔法使いの影響か、魔法に関してもそれなり以上に扱えますからね。

 そして鉄すらあっさりと捩じ切るだけの馬鹿力に、はじけ飛んだ体すらも即座に復元する事のできる継戦力。

 それこそレミリアさんなんて酔っ払った伊吹様と真正面から殴り合って無事で済む以上の成果を出しちゃう有様。

 けらけら笑いながら色々とぶちまけながらも殴り返し続けて伊吹様を満足させるとか、一体何がどうなってああなった。

 …………あ、思い出したら何か酔いが覚めてきました。

 いけませんね、いけませんよ、これは。

 

「というわけでお酒お酒……」

「まだ飲むの? いい加減にしておかないとしばらくお酒臭い烏天狗に成り下がるわよ」

「いえ、レミリアさんと伊吹様の殴り愛もとい殴り合いシーンが脳裏をよぎりまして。背筋がちょっと寒くなっちゃいましたので」

「あー……あれは……まぁ、確かにちょっとやんちゃが過ぎるシーンだったわね」

「やんちゃで済ませますか、あれを」

「本気の殺し合いじゃないんだからやんちゃで済むでしょう?」

 

 済みません。

 何をどうしたらモツを撒き散らしながらのカウンターがやんちゃで済むんですか。

 しかもあの、そう、あの伊吹様に『久々にいい殴り合いができた!』なんて満足げな叫びを引き出せるだけの殴り合いが?

 やんちゃ先輩の存在が揺らいでます。

 

「でもレミリアも中々どうして、殴り合いも様になってたわよね」

「あ、幽香さんもそれ思いました?」

「ええ、力に任せるだけじゃなくて、ちゃんと力の伝え方を知ってる動きだったわ」

 

 然り、然り。

 受け流すくらいなら、その手間やダメージを切り捨ててぶん殴ると言わんばかりの荒々しさでしたけれども。

 型のようなものこそ見て取れなかったですけれど、その時の体勢で出せる最適解と言わんばかりに出るわ出るわ拳、肘、膝、足。

 果ては頭突きまで。

 

「あれ、あの頑丈な伊吹様だから『効くなぁオイ!』で済んでましたけど……割とどれを貰ってもそこらの妖怪じゃ致命傷クラスですよね」

「将来が楽しみよね」

「末恐ろしい、と言うべきだと思うんですけどね。どちらかと言えば。割と本気で」

 

 あの紅魔館の気質を知っているからこそ、それほど危機感はありませんけど……でもですね?

 あそこ、明確に敵対行動を取っちゃうととことん容赦が無くなりそうな気配がするんですよねぇ、ひしひしと。

 しかもあの館は脳筋集団でもなければ、口だけ集団でもないという。

 本気になられたら洒落じゃ済まないレベルなんで、これ以上は遠慮したい所ですね。

 いや本当に。

 ともすれば、有り得るかもしれない有事の時を考えると。

 

「知ってる? レミリア、最近ちょっと身長が伸びたらしいわよ?」

「へ?」

「今までは『何で伸びないのよぉ!?』なんて悔しがってたらしいんだけど、こないだ測ったら少しだけ、ね?」

 

 まぁ幽香さんが指先で『少しだけよ?』なんて示すだけあって、見た目じゃ全くわからないんですが。

 でも何でそれ程小さな変化が、そんなに嬉しそうなんですかね、幽香さん。

 完全に子供を見守るお母さんの顔になっちゃってますよ?

 

「……えーと、つまりどういう事です?」

「あの子の、あの子達の止まった時間が動き出したって事」

「んん?」

「あの館で何があって、それに起因してどうなっていたか。それを知っていると嬉しくて仕方がないわ!」

「…………んんん?」

 

 とりあえずフランさんが五百年程地下に居た、という事くらいしか知らないので何とも。

 ちょっと調べてみま…………せん。

 やめましょう、うん、やめましょう。

 ちらっと頭を掠めた瞬間に幽香さんの威圧感が半端ないです。

 

「ちなみに、この部分を無遠慮に暴くような真似をしたら妖怪の山を物理的に吹き飛ばしてやるわ。後がどうなろうと知った事じゃないわね」

「ちょっ!?」

「トップは一筋縄でいかない所じゃ済まないバケモノなのは知ってるけど、それも知った事じゃないわよ?」

「いやいやいやいや、そこまで行っちゃいます!?」

「行っちゃうわよ。私は身内にはとことん甘くなるタチだもの」

「外様的には激辛を通り越すわけですが!」

「仕様ね」

「うわぁ……うわぁ…………!」

 

 そっと私の首筋に手を掛けるの、やめて頂けます?

 いや本気で。

 大輪の花と言われても納得する以外の選択肢が出家しちゃう程の笑顔と妖気が眩しすぎて眩しすぎて、冗談抜きに目が潰れそうです。

 

「ま、脅しはこれくらいにしておきましょうか。思わず口を滑らせちゃったのは私だし、それ以降は敢えて口にした部分もあるしね」

 

 せぇふ。

 カタカタと震えていた全身が沈静化の様相を見せるお時間になったようです。

 しゃめいまるいきのこった。ちょうがんばりました。かんどうしました!

 …………いやいやいやいや本当に冗談じゃないですって、心の弱い妖怪なら十回は死ねますよあの威圧。

 

「個人的に仲良くなって本人たちの口から聞いたのなら、私は何も言わないし、しない。でも暴くのは許さない。絶対に、許しはしないわ」

「リョウカイデアリマス」

「ええ、相変わらず物分かりが良くて助かるわ」

「コウエイデアリマス」

 

 ゆるりゆるりと妖艶に微笑んで頬を撫でてくる幽香さん。

 普段であればもう『これは赤面待った無し!』と荒ぶる所ですが、もうそれ所じゃないです。

 この笑みが意味する所へ下手に踏み込むと、もれなく全方位死地なわけでして。

 やっぱり八雲一家やうちの天魔様等と並んで、幻想郷で絶対に敵に回しちゃいけない一角ですよ、このお方。

 普段は優しいお姉さんの部分が前に出ていますけども、本気で怒らせたらアレです、アレ。

 どこかの勢力が一夜で滅んだとか、何もないだだっ広い荒野が突如として現れたとかって聞いても何ら不思議じゃないですもの。

 

「さて、剣呑なお話はこれでおしまいね。どう? ちょっとは酔いが覚めたかしら?」

「むしろ色々と冷めたわけですが」

 

 背筋とか、心胆とか。

 シャツが冷や汗でべっとりですよもう!

 

「重畳。じゃあそういう事だと心に留め置いてくれると助かるわね」

「文字通り、心しましょう」

 

 組織として『お前、死んで来い』とでも言われぬ限りは。

 私にも立場がありま「お・た・が・い・に、ね?」……すん。

 

「安心させた後の威圧はやめましょう!?」

「念には念を。貴女、中途半端に知ると最後まで知りたくなるタチでしょう。あとしがらみ的にも。ちゃんと釘を打ち込んで蓋をしておかないと」

「その釘、蓋や入れ物以上に大きくないですか?」

「そう思わせる事ができたなら良かったわ」

「体に教え込まれましたね、ええ」

 

 …………んん…………まぁ幽香さんが口にした通り、無遠慮に押し込みをかけるような真似をしなければ、ですよね。

 切り替え切り替え。

 それはそれ、これはこれ。

 個人的に仲良くしておきたい所なのは変わりませんし、お山が敵対する理由も今の処ありませんし。

 そもそも今の関係は気に入っていますからね。

 その関係にヒビを入れるような真似は、今の処する気も起きないわけで。

 うん、何ら問題ないですね。

 

「貴女のそういう所、好きよ?」

「あややや、幽香さんに面と向かって好きなんて言われると照れちゃいますね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アリスサン、コチラスコール。イマ、ユウカサンノオウチノソトニイマス。チナミニヘンシンフヨウ』

 

 何ですかこの桃色な感じのお二人の図。

 ちっちゃな机でお互いに『うふふ♪』なんて表現がぴったりな近さでにっこにこ微笑み合ってるといふ。

 思わずアリスさんに通信魔法でのご報告と蛇さん任務が発動してしまいました。

 おうおうおう、そうです、ここはアヤさんのお株を奪って写真をば!

 

『キャー、ナカンジノスクープ、ゲットデス!』

 

 えぇと、カメラカメラ。

 ってその前に人化しないと!

 ふんぬっ!ふんぬぅ!!

 

 

 

 …………ふぅ。

 

 

 

 さて、それじゃカメラを!

 

「人化のスピード、上がったのね。頑張ってるようで何より」

「というかいつの間に」

「つい先日ね。おかげで酷い辱めを受けたわ」

「ほうほうほう、興味深いですね!」

 

 …………そっと、鞄の中へ。

 

「で、そんなスコールさんは今鞄へ戻したカメラで何をしようとしていたんです?」

「さっきの私達をカメラに収めて……そうね、アリスにでも流そうとしたって所かしらね?」

「あやややややや! それはそれは、恥ずかしいですねぇ!!」

 

 そーっと人化を解いて、全力でかーるくかーるく色々とかーるくかるくかるく。

 あと、スカーフの念話魔法も起動。

 

「あら、折角変化したのに戻っちゃうの?」

「中々に面白い変化の仕方をしますねぇ?」

 

 いやほら、ね? ね?

 お二人とも、落ち着きましょう?

 そもそも何で気づいていらっしゃる。

 ちゃんと気配は消してたはずなのに!

 

「愚問ですよね、幽香さん」

「そうねぇ、気配を消したっていっても、窓の外で大きな大きな狼さんが変化してるのが目に入らないとでも思ったのかしら?」

「しかももっふもっふの毛玉みたいに丸まったと思ったらいきなり二足で立ち上がるんですから、救いが無い」

「不自然が過ぎるわよねぇ」

 

 あ、はい……ええ、解説、ありがとうございました。

 えーと、お二人の前ですがちょいと失礼。

 

『アリスサン、ミツカッチャイマシタ。アリスサントオハナシシテタノモ、ナンカバレチャイマシタ』

『ちょ、一体何なのよそもそも!?』

『イチレンタクショウ。アリスサン、ガンバリマショウネ!』

『だから何の事!? ってちょっと待ちなさい、まさかこの通信魔法、幽香達の前で使ってるんじゃないでしょうね?』

『ゴメイトウ』

『こんの馬鹿! 私まで巻き込まないでよ!?』

 

 ……お、おや?

 そんなこれ見よがしに指輪を見せつけてくるなんて、ユウカさんも通信魔法をお使いになるんで?

 

『アリス?』

『幽香、私は無関係だからね!? そもそも何の事かすらわかってな『今から、お邪魔するわね?』…………だからなんなのよぉ!?』

 

「さ、行きましょうかスコール?」

「あ、私一度スコールさんの背中に乗ってみたいと思ってたんですよねぇ!」

「走ってる時の躍動感も、ゆっくりと歩いてる時の独特な浮遊感も、中々癖になるわよ?」

「あややや、それは楽しみです。ちなみに今回はどちらを?」

「無論、全力で走って貰いましょうか。アリスが逃げ出す前に着くように」

 

 ぜ、全力で?

 

「全力で。噂で聞いたけど、妖力の身体強化だけじゃなくって、加速の魔法も使えるんですって?」

 

 スカーフ頼みですけど、まぁ、はい。

 

「いい? 全力で、ね?」

「興味深いですねぇ、どこまでの速さが出せるのか!」

「ほら、幻想郷最速さんがこんなに期待してくれてるのよ? 頑張りなさいね」

 

 あ、あい、まむ!

 アリスさん、今、会いに行きます。

 死なば諸共ォ!

 …………って、あぁぁぁぁ!?

 か、か、か、カメラ落としたぁ!?

 壊れてないですよね!?

 ほあああああああレンズが、レンズがポロリって!ポロリってぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に巻き込んだ上に、売る。中々に外道な真似ですよねぇ、普通に考えて」

「でも、スコールの場合はどこまで行ってもイタズラの域を出ないと言うか、憎めないのよねぇ」

「それは確かに。というかカメラに気が行って私達の事を忘れてるようなんですが」

「もう勝手に乗っちゃいましょう。今日ばかりは許されるわ」

「…………幽香さん、ちょっと面白くなってきたでしょう?」

「ん、わかる?」

「ええ、幽香さんはそういう微笑みの方が似合いますよ?」

「貴女も中々言うわね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………あ、ただ外れただけ?

 やった、くっつきました!

 やぁよかったよかった、っておぅふ!?

 お二人とも背中への強襲は卑怯ですよ!?

 

「さぁカメラは仕舞った? スカーフの魔法は? アリスのお家へ脇目も振らずに突撃する心の準備はオーケィ?」

「あやややや、ノってますねぇ幽香さん!」

「さぁ、往くわよ!」

 

 りょ、了解であります!?

 

 

 

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