まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

39 / 48
38話 Skoll

 

 

 

 ふわりと香る春の息吹。

 頬を撫でる風に乗って通り抜けていくその青さを追えば、さわさわ揺れる木々に草原、澄んだ湖、豪奢な紅い洋館。

 ――最後のは若干浮いてるかな。

 あれが純白だったら完璧だったんだけど。

 ま、それでものんびりするにはいい場所だ。

 

 

 

「いやはやなんとも……誰かの膝の上でのんびりするなんて、ここ数百年は考えもしなかったよ」

 

 いひ。

 だってこの人狼型の時って、お膝の上でちょうど良く収まる方って結構限られるんですもの。

 いつもの狼型ならお腹の上に乗っけたり背中に寝そべって貰ったりであんまり大きさは気になりませんし。

 でも何か落ち着くんですよね、こうやって人狼型になって誰かを抱きながらのんびりしてると。

 で、そこにですよ?

 このもっふりした尻尾といい丁度いい感じに収まる上背といい、ランさんったらぴったりっぽい! なんて思ってたらまさに大正解。

 んふー!

 

「こらこら、頭でぐりぐりするんじゃない。気持ちいいだろう」

 

 えっ…………あっはい、お褒めに預かり恐悦至極?

 ………………んん?

 一瞬迷う言い方はやめてくださいよもうっ!

 

「何、私にこんな扱いができるのは紫様だけだったからなぁ。新鮮で新鮮で、ついつい」

 

 むぅ。

 むぅぅ!

 からから笑っても誤魔化されませんからね!

 全く、何で皆して私をからかって楽しむ癖があるんでしょう。

 そりゃあんまり頭の良い方じゃないって自覚はありますけども。

 ありますけども!!

 

「はっはっは! ――あむっ……んー、美味い、美味いな。流石は咲夜。ここまでのバケットサンドはそうそう外でも無いぞ」

 

 あ、一人だけ先に食べるなんてずるいですよ!?

 油断も隙もあったもんじゃないですね!

 ほら、あーん! あーん!!

 

「顔の真横でこれだけ剣呑な絵面の大口が開いてるのに、危機感が一切沸いてこないあたりが凄いと思うよ、本当に。ほれっ」

 

 あむっ。

 むふぅ……!!

 おぉう、見た目に反して和風ですか?

 わさびのぴりりとした感じがたまらないですねコレ。

 

「あぁ、そっちはそうだったのか。私が食べたのはマヨネーズとマスタードだったんだけど」

 

 おやおや、色んな具があるなーと思ったら全部味付け違うんですかね?

 これはこれは、ランさんと半分こするべきでしたか。

 んむ。こっちに向けてくれればきっちり半分にしちゃいますよ?

 

「ふむ……ほれ?」

 

 あむっ!!

 ――よし、ちょうど半分くらい!

 ちょっとこっちが多い気もしますけど、誤差ですよね、誤差。

 

「お見事。……ふむ、こっちはケチャップとタバスコ、かな?」

 

 何か良くわかりませんけど、ちょっと舌に来ますね。

 うまうま。

 

「…………くふっ」

 

 おや、どうしたんですランさんったら。

 そんな吹き出すみたいな笑い方なんて珍しい。

 

「いや、今日は珍しい体験ばかりだなと思ってね。膝の上でのんびりするのも、こうして誰かと半分こ、何ていうのも」

 

 そこに関してはサクヤさんの気まぐれの産物ですからねぇ。

 丁度ランさんが果物を差し入れてくれたっていう偶然も絡んでますけど。

 いやはや、いつもありがとうございます。

 

「こっちも美味しいデザートで返してもらってるからね。おあいこだろう。それに毎回お返しで貰うケーキやらゼリーやらを橙が嬉しそうに食べるのがまた可愛くてなぁ」

 

 ついつい、と?

 確かにチェンさんはいい子ですよねぇ、若干優しすぎるきらいはありますけども。

 まだまだ年若い子っていうのもあって、これからがちょっと心配ですよ。

 

「優しすぎるというならお前もだろうに。こないだのお守り騒動の時はあんなに雄々しかったのに、終わってしまえばまたこれだ」

 

 やめて下さいます?

 その話題は私にとっての思い出しちゃいけない歴史ですので!

 黒歴史、とか言うんですよ、ああいう表に出しちゃいけない騒動は。

 

「別にいいと思うんだがなぁ、あの程度で済んでるんだから。私もちょっと見直したんだぞ?」

 

 見直した、って……いやいや、あれだけ迷惑を撒き散らして胸を張るとか私には無理ですって。

 

「撒き散らしたのはどちらかと言えばあちらで、お前のは純粋な『狩り』だったろうに。しかし見事だったな、あれは」

 

 止めようとしてくれたスイカさんをまるっと頂こうとするとか、今じゃもう考えられませんよまったく!

 

「あれはあの方の趣味だろうに。お前とやりあってる時、それはもう随分と嬉しそうだったしなぁ……紫様があんな止め方をするまで」

 

 あー……それに関してはさわり程度にしか聞いてないんですけども。

 なんか後からユカリさんがずたぼろにされたんでしたっけ?

『平面じゃー! おらおら平面じゃー!!』って巨大化したスイカさんにおっかけ回された挙句にやられたって。

 

「そうそう。ま、お二人とも最後の一線は超えない程度のじゃれあいだよ、あれも。何しろ幻想郷のヤバイ奴ら枠だからね」

 

 割とすぐにその枠内が想像できる辺り、私も結構危ない橋を渡ってきてる気がしてきました。

 それってあれですよね、おっかない時のユウカさんとか、殺る気になったレイムさんとかが入ってるでしょう?

 だ、大丈夫ですよね、私の言動で怪獣大決戦みたいな事になったりしませんよね!?

 

「むしろお前が引き金になったら、何してもぐだぐだになって『こんな空気で真面目な殺し合いができるか!?』みたいな幕引きになるんじゃないか?」

 

 喜ぶべきなんでしょうけど、何か釈然としません!

 いや、平和的なのは大変結構ですが。

 そんな私がしりあすな空気をぶち壊す専門家みたいな言い方はやめましょう?

 

「いやいや、こういう一時代も悪くないさ。どこもかしこも殺気立ってるんじゃ気疲れするし。のびのびと景色を観じて、美味いつまみを食んで、美味い酒をあおる。実に良い」

 

 あっ!?

 またずーるーいー!!

 それお外から持ってきたお酒でしょう!?

 えぇと……た、たけつる?

 何か美味しそうな匂いがしますよ?

 

「んむ。美味いぞ。日本製のモルトウイスキーだけどね、これが中々どうして、本場の物にも引けを取らないのさ」

 

 くっ……何ですかそのにやにや笑顔!

 魅惑的なのは大変眼福ですけれども。

 ええい、こうなったら私も対抗して秘蔵のサクヤさん酒を開けざるをえませんね!?

 

「咲夜さん酒って――――うん? この香りはキルシュヴァッサーかな?」

 

 あー、何かそんな感じの名前を言ってた気がします。

 そういえばこれもユカリさんから貰ったやつで作ったんでしたっけ?

 

「あの時はお返しにトルテを頂いたな。そうか、残ったキルシュでそんな物まで作ってたのか。……なぁ、一口くれないか」

 

 ふむ、口移しで?

 

「ははっ、私はそれでも構わないよ? …………ん?」

 

 いやいやいや、そんな顔で迫るのは反則ですよ!?

 ってあふんっ!? あ、顎の下は駄目ですって……耳をはむのも駄目ぇ!

 

「ふむ、ふむふむふむ。いや、これはまた良い出来だ」

 

 あ、あぁぁぁ!?

 そんな、私を誘惑してお酒を奪うだなんて!!

 色仕掛けなんて卑怯ですよ!?

 

「油断するお前が悪い。ほれ、竹鶴をやろう。交換だ」

 

 わほーい!!

 あっこれも美味しい。

 何かうちにあるお酒とはまたちょっと趣が違いますけれども、これはこれで。

 

「……あ、お前さては狙ってたな?」

 

 あ、当たり前じゃないですか。

 いつもやられてばかりだと思ったら大間違いですよ!

 いやぁ勝利の美酒は美味いと聞きますけれど、その通りですこと!!

 

「ほう? で、正直な所は?」

 

 普通に交換してもらうつもりだったら誘惑されました。

 でも結果おーらい?

 

「うん、やっぱりスコールはスコールだな。平和そうで大変結構」

 

 てへぺろ、ってヤツですね。

 さーておつまみおつまみ。

 

「おい、ちゃんと半分に食いちぎれよ」

 

 わかってますってぇ。

 あむ!! んむ、よし半ぶ――んむぁ!?

 

「!?」

 

 か、からっ!?

 何ですかこのさんどいっち!?

 ってほぁぁぁぁぁ!? ほあああああい!?

 これ、これ知ってますよ!? なんとかじょろきあとかいう唐辛子ぃ!!!

 

「…………ほら、私に遠慮せずに全部たべるといい!」

 

 酷い!?

 って口に押し込むのはやめっ! ほあっ!?

 

「こっちに向けて息をするのはやめろ!? って目に来たぁぁぁぁ!!!」

 

 ははっ! 因果応報ってやつですねぇ!!

 ってあぁぁぁもう口が痛いいいいい!!

 

「咲夜め、仕込んだな……!?」

 

 ふひー、ひぃー!?

 

「だからこっちに向けて息を吐くな!?」

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 なーんて事がありましてねー?

 そろそろサクヤさんに仕返しをせんといかんと思うわけですよ。

 どげんかせんといかん! ってやつです。

 

 どこーん。

 

「だーかーらー! 基本は回転、全身の回転を拳に収束して叩き込むの! 無駄口叩いてないで回す!」

 

 ぱかーん。

 

「だから違う! それ馬鹿力で砕いてるだけでしょうが!?」

 

 ……ガスッ。

 

「指で岩を貫いてドヤ顔しない。それも硬気功じゃなくってただの身体能力」

 

 ……………。

 

「あぁ駄目だ、いじけちゃった……」

 

 メイリンさんの注文が難しすぎるんですぅ。

 何ですか回転って。

 何につけても回せ回せって、こないだ小悪魔さんが習得したじゃいろぼーるでも投げろってんですか!?

 それとも黄金長方形の回転でも描けってんですかぁ!?

 

「誰も奇妙な冒険なんぞしろとは言ってないでしょうが!?」

 

 大体何でいきなり中国拳法!?

 さてはアレでしょう、私に教え込んで頑丈で動く木人代わりにでもする気でしょう!?

 嫌ですよ私、気を打ち込まれて内側からパーンされるのなんて!

 

「……そうか、その手が。てかパーンて。家族相手にそんな事するわけないでしょうが」

 

 ほぁた、墓穴!?

 いやいや、ほら!

 これだけメイリンさんと大きさが違ったら練習相手としては失格でしょう、ええ。

 ここは涙を飲んで他の方を鍛えて下さいね!

 

「大きな相手でも、それはそれで?」

 

 やめましょう?

 ここに泣いてるスコールさんだって居るんですよ!?

 

「そこまで嫌がらなくたっていいじゃない。ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから!」

 

 その笑みは絶対にちょっとじゃない笑みですよ?

 ……あっ。

 そこを行くイザヨイさんちのサクヤさん、メイリンさんがおっそろしい事を画策してますよ!

 ここは伝家の宝刀、ご飯抜きを放ちましょう!?

 大丈夫、メイリンさんなら半年くらい食べなくたって平気ですって!

 

「いきなり何よ? 美鈴が企むなんて言ったら、門前にどれだけバカンスセットを充実させるかとか、そんな所でしょう?」

「否定はできませんねぇ、いやはや」

 

 そういった方面でなくて、私に中国拳法を仕込んで木人代わりに叩きのめしていい汗をかこうって!

 ああもう、考えただけでも恐ろしい!

 内部からパーンなんて嫌ァ!?

 

「だからなんで家族相手にパーンさせなきゃいけないのよ!?」

 

 じゃあ何をするって言うんです!?

 

「……えーと、組手、かな?」

 

 自信なさげに言うのはやめましょうよ!?

 

「んー……別にいいんじゃない? スコールだって人型でできる事が増えるのは良い事でしょう?」

 

 それについては否定しませんが、これは私が考えていた方向性と違いますので!

 どっちかって言うとこういった技術よりは鍛冶とかの技術方面をやってみたいんですけど……サクヤさん、何ですかその溜息?

 

「じゃあまず、サイズダウンしたらどうかしら。今の貴女の体躯で鍛冶って……なに? バトルアクスでも作るの?」

「一体何と戦おうって言うのやら」

「でも似合いそうではあるわよね、巨大な人狼にバトルアクス」

「確かに。まぁそっちの方向性で攻めるなら、私もことさら拳法を仕込もうとは思いませんが。精々が基礎程度ですかね」

 

 ば、ばとるあくすって何です?

 話の流れからそこはかとなく剣呑な香りがするんですけど。

 

「戦斧。戦闘用の斧ね。スコールの場合は大戦斧になりそうだけど」

 

 剣呑もいい所ですね!?

 あ、でも斧その物は結構便利そうな気がします。

 人里でのお小遣い稼ぎに使えそうな。

 

「スコールがそれでいいなら別にいいけど……ねぇ、美鈴?」

「ええ、悪くはないですね。斧であれば、普段使いでも十分に技術習得は……うん。確か、倉庫にインゴットがありましたよね?」

「そこそこの量はね。失敗しすぎて足りなくなったら埃をかぶってる鎧や剣を鋳潰せばいいでしょう。所詮は放りっぱなしの鋳造品だもの」

「んー……鍛冶関係に強くなれば、その無駄資源を色々と有効活用できそうですよね。鍛造品の強みは魔法じゃあ再現できない部分も多いですし」

「ふむ。いいわね、そう考えると」

「なら決まり、ですかね」

 

 お、おう?

 何です、お二人ともその悪そうな顔?

 

「いやはや、面白くなってきましたね咲夜さん。私はパチュリー様に炉や道具の作成をお願いに行きましょう」

「ええ、なら私はお嬢様に材料の使用許可を貰ってくるわ」

 

 え? え?

 していいんですか、鍛冶!?

 

「ええ、まず間違いなく許可は出るでしょうし、そうなったら存分に打ちなさいな」

 

 棚から牡丹餅と言うか、瓢箪から駒と言うか……?

 

「それじゃ、咲夜さん?」

「ええ、そっちも頼むわね」

 

 わほーい! やった、やりました!

 じゃあとりあえず人里の鍛冶屋さんに基礎だけでも聞いてきます!!

 善は急げ思い立ったが吉日、ひゃっほー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………即座に走り出すのはいいんですけど、いくらスコールでも流石に教えてくれないんじゃないですかね? あちらにすれば飯のタネでしょうに」

「案外あっさり教えてくれるかもしれないわよ? 普段あれだけ点数稼ぎしちゃってるわけだし」

「あー……そう考えるとありえそうな気もしてきますねぇ」

「無害でとっつきやすい、神になりかけている狼。こう言えば中々いい感じに聞こえるから不思議だわ、本当に」

「全く以って。本当に不思議ですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、何か鍛冶ができる環境になりました。

 でも知識も何もないんですけど、どうしましょ鍛冶屋さん。

 

「……いや、いきなり『どうしましょ』何て私に言われてもなぁ。別に秘伝ってわけでもないし、教えるのは構わんけども」

 

 あら、随分とあっさり……もっと『私の飯のタネを奪おうってのか? アァン?』くらいは言われるかと覚悟してたんですけど……?

 

「お前さんが作るのは包丁だの鉈だのじゃないんだろ?」

 

 ええ、予定では大戦斧、らしいです。

 とりあえず斧っぽいなら何でもいいんですけど。

 

「なら構わんよ。ただし競合品を作りだしたら徹底抗戦だ!」

 

 この体でそんな物を作れるとお思いで?

 私がそういった小さな物を作る金づちを持ったところで、鍛冶屋さんの感覚で言えば指先くらいの大きさの金づちで爪楊枝くらいの包丁を打てって言われるようなもんですよ。

 そんなの無理無理、私そこまで器用じゃないですもん。

 

「それもそうか。ま、お前さんの性格なら悪用も嫌がらせもせんだろ。むしろ何かしらの形で技術が残るのは俺も嬉しい事だしな」

 

 やぁん鍛冶屋さんったらいけめん!

 何で奥さんが居ないのかわからないですね?

 

「てめぇ金槌でぶん殴られてぇのか? アァン!?」

 

 ごめんなさい、冗談です。

 でもお嫁さんが欲しいなら人里に良い方がいらっしゃいますよ?

 折角ですからご紹介しましょうか!

 

「……一応聞いておこう、どいつだ」

 

 甘味屋さん。

 

「よし、出てけ。お前に教える事は何一つ無くなった」

 

 えぇぇぇそんな酷い!?

 私を弄ぶだけ弄んでポイだなんて鬼畜ですよ鍛冶屋さん!!!

 

「おいこら!?」

 

 何が目的だったんです!?

 まさか私の体(毛皮)が狙いですか!?

 

「待て、待て待て待て、人聞きの悪い事を馬鹿デケェ念話で吹聴すんじゃねぇ!?」

「話は聞かせて貰った! 最低だなお前ぇ!!!」

「うっせぇ出てけ八百屋!!!」

「私も話は聞かせて貰ったわ! ちなみに私としても貴方の嫁になるのは御免だわ!!!」

「てめぇどっから沸いた甘味屋ァ!?」

「わ、私も話は聞かせて貰いましたが……流石にそういうのはどうかと思いますよ?」

「け、慧音先生ぇ……!?」

 

 私はただ、ちょっと木材の仕入れのために斧の作り方を習おうと思っただけなのに……鍛冶屋さんがぁ!

 

「なぁ、お前ちょっとその顔を覆ってる馬鹿でかい手ぇどけてみ? ん?」

 

 ……やーでーすぅー。

 あっ! ちょっと、力づくではがそうとするなんて酷い!!

 かよわい私をどうするつもりなんです!?

 

「てめぇの馬鹿力のどこがか弱いんだよ! てか笑い堪えてんのがバレバレなんだよボケェ! そしてお前らも何でノった!?」

「何となくだ! あ、それからうちの菜切り包丁砥いでくれ」

「ええいそこ置いとけアホ!」

「ちなみに私はそこに笑いの種があったからよ!!」

「甘味屋、俺を笑い者にするのがそんなに楽しいか?」

「今さら何言ってんのアンタ。楽しいに決まってるじゃない」

「だめだコイツ……」

「貴方程じゃないわよ。ね、慧音せーんせっ?」

「えぇ、皆まっすぐに育ってくれて、嬉しい限りです」

「せめて私の目ぇ見て言ってくれませんか慧音先生!?」

「……私にだって、できない事は沢山あるんですよ」

 

 …………うわぁ。

 この丁寧系な時のケイネさんにここまで言わせるなんて、流石は人里の大人たち!

 本当にロクでもありませんね!

 ……んむ? そういえば皆さんケイネさんの寺子屋出身で?

 

「遺憾ながら、非常に遺憾ながら同期だ。ちなみに茶屋とか小物屋もな」

 

 何ですかその濃すぎる面子。

 濃度おかしいでしょう?

 どう考えたっておかしいでしょう?

 もう濃すぎて固形化しちゃったような方々ばっかり揃って何やってんですか。

 さては類は友を呼んじゃったんですか?

 

「ふざけんなって真向から否定できねぇのが、本当に、本当に辛いところだな」

 

 あっはっは、ご愁傷様です。

 さてさて、そろそろ話を戻しましょうか。

 こちらとしては鍛冶の基礎だけでも教えて貰えれば、後は試行錯誤しながら作ってみようかと思ってるんですよ。

 

「あー……じゃあ今度、今作ってるっていう炉だとか用意した材料だとかを見に行くか。そこを確認してからじゃねぇと助言のしようが無い」

「あらあら、随分と優しいのね? ……貴方、まさか噂に聞く『けもなー』とかいう性癖があったの?」

「けもなー、とやらが何かはわからんが馬鹿にされてんのはわかった。冗談は頭と腹ん中だけにしとけや甘味屋」

「言うわね。なら私は今受けた心の傷の報復として、里中の女の子にある事ない事ない事ない事を吹き込んでおいてあげる」

「おい比率ゥ!?」

 

 うわぁ……うわぁ…………!?

 ケイネさん、よくこの問題ばかりの大変な方々をまとめて寺子屋ができましたね……?

 

「いや、皆さん出来は良かったんですよ――そう、勉学の出来は」

 

 中身は?

 

「お察し下さい」

「ちょ、ちょっと慧音先生、私をバ鍛冶屋とか八百屋ジと一緒にしないでくれません?」

「……まぁ、貴女が一番の問題児だったんですが。あぁ、そういう意味では一緒にできませんね」

「なっ!?」

 

 おうふ、この穏やかケイネさんの状態でこれだけ言わせるなんて一体何やったんですか甘味屋さん!?

 

「慧音先生の立つ教卓の所の床板に細工して落とし穴とか作ってたよなぁ――バ鍛冶屋と一緒に。はっは、バカっつーのは間違ってねぇな、バカ」

「うっせぇぞオヤジ。テメェこそ甘味屋と結託して『どろり濃厚野菜と甘味の融合』とか言って毒物を慧音先生に仕込んでただろうが」

「アァン? 俺がオヤジならテメェもオヤジだろうがよ」

「あんだヤんのかテメェ?」

 

 とりあえず何やってんですかアンタら。

 そりゃ問題児扱いされても何一つ文句なんて言えませんって。

 

「失礼な! この二人はともかく、私はただ知的好奇心に基づいて行動しただけですよ!」

 

 ちなみにどういう風に知的なわけで?

 

「落とし穴に落ちた瞬間の、素の慧音先生はどんな声で驚くんだろうとか。どこまで煮詰めたら味覚は死ぬんだろうとか」

 

 うわぁろくでもない。

 やっぱりどこまでもろくでもない。

 

「改めて聞くと本当にろくでもないな、ア甘味屋」

「まったく、バ鍛冶屋の言う通りろくでもねぇな、ア甘味屋」

「あぁ、ここに関しては八百屋ジと意見が合ったか。流石ア甘味屋だ」

 

 意見が合ったんならもう少し仲良さそうな顔しませんか、二人とも。

 何ですかその子供が見たら即座に泣き叫びそうな凶悪な老け顔と悪人顔は。

 あとさっきから何です、誰がうまい事言えと言った、みたいなもじったあだ名の数々。

 絶妙に似合ってて笑いを堪えるのが大変なんですが。

 

「うっせぇ、それ言いだしたらテメェは何だ!? ちったぁ美人に化けろや馬鹿野狼!!」

「そうだ馬鹿野狼! とっととウチの野菜を買って帰れ馬鹿野狼!!」

 

 ちょっと!?

 何でいきなりここまで馬鹿野郎扱いされなきゃいけないんですか!?

 ……あっ、まさか野郎、じゃなくて野に狼で野狼ですか?

 

「おう、ぴったりだろ馬鹿野狼」

「そうだ馬鹿、野菜買って帰れ」

 

 あんたらですか、元凶は!?

 ていうか美人に化けろって何ですか一体!

 

「言うなれば妖狐の藍さん」

 

 いやいや、いくらなんでもそんな無茶言わないでくださいよ鍛冶屋さん。

 あのお方、聞く所によると傾国の美女とかって名をはせたらしいじゃないですか!?

 そんなレベルを求められてもいかんともしがたいですって。

 

「まぁあんなえらい別嬪に言い寄られたらいかんともしがたいものはあるな。うん、たまらんな」

 

 …………なるほど。

 鍛冶屋さんの趣味がわかりました。

 結婚できないわけですわこれ。

 

「でしょー? こいつ平凡な顔なくせして理想だけは妖怪の山より高いんだもの」

 

 で、ちなみに甘味屋さんのご趣味は?

 

「私に『お前は働かなくていい、全部俺に任せとけ!』って言ってくれる金持ちのイケメンかな」

 

 なるほど、結婚できないわけですわ。

 

「使い回された!?」

「ざまぁ、人の理想にケチつけるからだよア甘味屋」

「まったくだ。ザマァねぇなア甘味屋」

「ようしあんたら、表に出なさい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みっなさーん! ここに居る男二人、スコールに『美人に変化しろよー可愛がってやるからさー』なんて詰め寄ってましたよー!!」

「テメェ!? おいこら待てや甘味屋ぁ!!」

「畜生なんでヤツは昔から無駄に逃げ足だけは異様に速えんだよクソがああああ!!」

 

 

 

 ないわー……。

 

 本当になぁ……美人になったって中身があのスコールさんじゃろ?

 

 まぁあの甘味屋の嬢ちゃんの言う事だから、話半分どころか一割も原型が残ってれば御の字だろうがよ。

 

 そりゃそうか、さ、仕事仕事。

 

 

 

「………なぁ八百屋、本気でおいかける必要なかったな、冷静になると」

「本当に、なんで追いかける前に気づかないんだろうな」

 

 

 

『所詮ア甘味屋の戯言だった』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。