まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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3話 Remilia

 

 

 

 家の中で眠るのは初めてだったけれど、なるほど、これはいい。

 体を撫でる風も滴る夜露も感じないのは少し寂しい気もするけれど、これはこれでいいもの。

 それに何よりも、ここに居ていいと言ってくれた主人も一緒に眠ってくれている。

 小さな体を丸めて、私に抱きつくようにくぅくぅ眠る姿は本当に可愛らしい。

 ときおりもぞもぞと寝心地のいいポジションを探して身動きされるのはちょっとくすぐったいけれど、この可愛さを見ていられる事に比べればその程度が何だというのか。

 

 限りない感謝と親愛を込めて、起こしてしまわないようにそっと頬ずりを落とす。

 至近から眺める主人の顔が幸せそうに緩んだ事がただただ嬉しい。

 

 ……あぁ、空が白み始めた。

 

 部屋にある小さな小さな窓から見える空には雲もない。

 今日はよく晴れた日になるだろう。

 

 そんな事を考えながら白み始めた空をぼんやりと眺めていると、いつの間にか私のお腹の前辺りで座り込んでいるメイド長さんが居た。

 そう、イザヨイサクヤさん。

 顔は笑っていても、ちょっと怖い雰囲気の人。

 とりあえず睨まれるのは苦手。

 

 これからよろしくお願いしますと挨拶をした時は頭を優しく撫でてくれたけど、しばらくしてからまた元の雰囲気に戻ってしまった。

 全く以ってどうすればいいのだろうと、とりあえず顔色を伺ってみて少しばかり後悔した。

 

 何やら色々緩んでる。

 それはもうでれっと緩んでる。

 

 そんなサクヤさんの目線を辿れば、そこには私のお腹に抱きついて幸せそうに眠る主人の姿。

 心底可愛いと思っていらっしゃるご様子で、色々緩んでいるのに目だけは食い入るように主人をろっくおん。

 その内この視線で主人が起きてしまいそうな気がする。

 まぁでも日の出の時間だし、丁度いいと言えば丁度いいのかもしれない……日の出?

 

 そこまで考えて、ふと昨晩主人が誇らしげに語っていた事柄を思い出した。

 私は500年生きた吸血鬼だと、夜の支配者と畏敬を受ける存在であると。

 そんな吸血鬼なご主人様は日光が嫌いであると。

 曰く、難敵ではあるけれど致命的ではない、だとか。

 しかしながら、わざわざそう言う程なのだから、あの小さな窓から入るだろう光は体に悪いのではないだろうか。

 

 でもこんなに気持ちよさそうに眠っているのに起こすのは可哀想の一言に尽きる。

 どうにかなりませんか、そんな思いを込めた視線をサクヤさんに向けると、微笑を浮かべながら心得ているとばかりに一つ頷いてくれた。

 その瞬間にお腹に感じていた主人の重みが消えたのには慌てたけれど、目の前に居るサクヤさんが何一つ慌てていないのだから、サクヤさんが何かしたのだろう。

 

 主人が居なくなった事で自由になった体で思いっきり朝の伸びをしてみる。

 独特な満足感と共にぺきりぺきりと体が鳴る音が響いた。

 

 ……あぁそうだ、とりあえずは朝の挨拶をしておこう。

 のそりと一歩を踏み出し、軽く腕組みをして立っているサクヤさんの前にきっちり座って頭をぺこり。

 

 おお、撫でてくれた!

 思わずごろごろと喉が鳴ってしまうじゃあないですか。

 

「日が昇りきったら朝食の時間だから、それまでは好きにしていなさい」

 

 ぱたりと嬉しさから尻尾を一つ揺らす私に苦笑を浮かべて、最後に頭を一撫でしてくれる。

 そして瞬きを一つしたら目の前からサクヤさんが消えていた。

 

 これはいろんな意味で心臓に悪い。

 音もしなかったし匂いも綺麗に途切れてる。

 これはきっと超スピードとかそんなチャチなものじゃあないのでしょう。

 いやはや、人の子だっていうのに不思議が一杯のお嬢さんですね。

 

 

 

 

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 まだ頭の回転が鈍いままの狼が与えられた自室で首を捻っている頃、寝所を移された日光嫌いな吸血鬼はそれまでと違う寝心地から目を覚ました。

 寝ぼけ眼で辺りを見回すと、そこにあるのは蝋燭の灯りが揺らめく窓の無い豪奢な部屋。

 

「……ああ、わたしのへや」

 

 スコールと一緒に眠ったはずなのにこちらに居るという事は、咲夜が移動させたのだろう。

 日が昇るような時間になっているという事か。

 少しばかり生活時間が狂ってしまっている。

 

 まぁいいかと一つ大きな伸びをしてから寝ぼけ眼を擦っていると、目の前にまるで切り貼りをしたかのように忽然と現れる、私の着替えを手に持って準備万端で御座いますと言わんばかりの咲夜。

 いつもの事だからもう慣れたけど。

 

「おはようございます、お嬢様」

 

 綺麗な礼と共に寝起きの耳に優しい朝の挨拶。

 うん、相変わらず良い仕事をする。

 一つ頷いてみせると、言葉通り『瞬時に』服が変わる。

 うん、良い仕事だ。

 

「朝食の準備は?」

「整っております」

 

 メニューはハニートーストのハーフサイズに砂糖アリアリのスクランブルエッグ、咲夜の能力でいつまでもフレッシュな血液らしい。

 好物ばかりじゃないの。

 うむ、褒めてつかわす。

 

「お嬢様、朝食の後の歯磨きをお忘れなきよう」

「余計なお世話よ」

「失礼致しました」

 

 咲夜め……そこまで子供じゃないわ。

 

 

 

 

 

 ……今、ナチュラルに子供だというのを認めかけたけど、これはそう、若さゆえの過ちというもの。

 私は子供ではなく淑女!

 チャイルドではなくレディ!

 

 

 

 ---クッ。

 

 

 

「咲夜、今笑わなかった?」

「何の事でしょうか?」

 

 さらりととぼけているけどね、咲夜。

 貴方がそんな反応をする時は大抵ヤっている時よね?

 しかもそれがバレているのを確信した上で。

 

「笑ったでしょう」

「笑ってなどおりません」

 

 全くやれやれ、と言わんばかりに首をかるーくふりふり。

 ここは主の威厳というものを少しばかり見せ付けておかなければいけないわね。

 

「この私を笑うとは何事か!」

「お嬢様への限りない愛ゆえに微笑みは浮かべております!」

 

 ……まぁ良い事にしておきましょう。

 どうせ、どうせ何時もの事だ。

 こうなった咲夜から本当の所を引き出すのは並大抵の労力じゃないし、こんな些事でそんな労力を費やしたくもない。

 それよりも今は朝食よ、朝食。

 

 食堂にて誇らしげに鎮座する大きなテーブルへ着いた途端に、食事が目の前に現われる。

 染み一つ無い紅いテーブルクロス、ふわりと漂うハチミツと血液の香り。

 

 よきかなよきかな。

 

 そんな朝食に手を伸ばしかけて、ふとスコールの事が気になった。

 この館での初めての食事になるのだ。

 一緒に食べるのもいい……いや、一緒に食べるべきだろう!

 

「咲夜、スコールは?」

「先ほど昨晩の夕食の際に出た骨を与えてまいりました」

「……骨だけ?」

「いえ、肉もついております」

 

 ……ほんの少しだけ。

 

 最後にそう聞こえた気がした。

 しかし初めての食事がそれだと可哀想じゃないの。

 あれだけの体なんだから、それだけで足りるはずもないでしょうに。

 

「喜んで食べていましたよ?アバラ骨をまるで綺麗に焼けたクッキーのようにぼりぼりと」

 

 可愛らしく首をかしげながら言っても駄目。

 

「昨日は子牛を一頭まるまるバラしたので、骨だけでも結構な量になるのですが」

 

 骨のついでに中身も、とか可愛らしく微笑みながら言ってもダメ。

 いくら吸血鬼の私と言えど、そちらは守備範囲外。

 食事時に聞かされて気分の良いものじゃないわ。

 

 そんな私の考えを読んだかのように、一礼して後ろに下がる辺りは良く出来たメイドだ。

 …………でも昨日からどうにも言動がおかしい気がする。

 

 いや、おかしいのは元からね。

 

 ああいや、でもどこか、どこか違う。

 そういえば私の言動も思い返せば少し……いや、かなり、おかしい?

 ……原因として考えられるのはスコールしかないけれど。

 昨日から、となればそれしかない。

 

 後でパチェに意思疎通魔法でも作らせて話を聞いてみよう。

 主人に隠し事などさせてやるものか。

 

 

 

 

 

 ……あぁ、やってしまった。

 考え事をしながら食事なんてするものじゃないわ。

 折角の好物だったのに、それほど味わう事無くいつの間にか食べ終えて……。

 

 ハニィトォストォォォ!

 

 心の叫びと共に思わず手に持ったままのナイフとフォークに力を込めてしまう。

 手の中でぐにゃりと潰れた感触がしたけれど、気にしないでおきましょう。

 

「お嬢様……」

 

 くっ……その『仕方ないですね、全く』と言わんばかりの声色は何よ!?

 私は何も言っていないわ!

 そっと追加のハニートーストが乗った皿を出すな!!

 

 ……いや、でも、うん、あれだ。

 出されたのだから食べてやろう。

 そう、この良くできたハニートーストには何一つ罪などないのだ。

 うん、いい出来だ。

 

 

 

 

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 朝食を終えてすぐにスコールの所へ行こうとしたら、咲夜からの冷たい視線が後ろ頭に突き刺さるのを感じた。

 そうね、歯磨きをすればいいんでしょう?わかってるわよ。

 吸血鬼でも映るように魔法陣を仕込んである特性の鏡の前で自慢の牙を念入りにしゃーこしゃこ。

 うぇ……歯磨き粉を少しばかり飲み込んでしまった。

 

 咲夜、笑うな。

 鏡に映ってるわ!

 

 視線にそんな思いを乗せて鏡越しに咲夜を睨むと、口の端が更に吊り上っていくのが見える。

 この辺はそのうち躾けなおさなければならないと思う。

 何だかんだで逃げられそうな気はするが、それでも。

 レディにはたとえ無理だと分かっていても突き進まねばならない事があるの。

 覚えてなさい……!

 

 視線だけの攻防を繰り広げながらひたすら磨き続けて、キラリと光る牙が眩しくなってからようやく目的の場所へ足を運べた。

 そろりと扉を僅かに開いて中の様子を伺うと、昨日寝るときは部屋の真ん中に居たスコールが何やら部屋の角で丸まっている。

 スコールの前には一体何に使うんだと言いたくなるくらいに馬鹿でかい大皿が一つ、空っぽで鎮座していた。

 部屋の中央から何かを引きずったような跡が毛足の長い絨毯についているから、恐らく自分でその皿をはしっこまで引きずっていったんだろう。

 広い部屋の中央という場所に落ち着かなかったのかしら?

 

 しばらくそうやって観察していると、皿の周りに小さな白い粉の様な物が飛び散っているのに気がついた。

 そこでようやく皿に乗っていたであろう物が何か、確信した。

 咲夜、貴女本当に骨をあげたのね。

 それもあんな馬鹿みたいな大皿を使う程の量を。

 でも、そんな量の骨をぺろりと食べちゃうなんて中々やるじゃないか、スコールよ。

 それでこそ私の狼だ。

 

 ちょっと誇らしげな気分で部屋へと足を踏み入れると、それまで丸まっていた毛玉がもそりと動いた。

 うぁぅ……ね、眠たげな目で首をかしげながらこっちを見るな!

 

 思わず毛玉の中心へフライングボディープレスを敢行してしまった。

 

 もふりと大きな腹へ着弾すると、もそもそと優しく私を包み込むかのように体を丸めてくれる。

 これはいい!これはいいわ!毛並み革命よ!!

 この毛並みなら……世界を狙えるもふーぅ!

 

 まるで毛並みの中で泳ぐかのようにもふりもふりと夢中で堪能していて、ふと思い出した。

 

 私は誰と一緒にここへ来た?

 

 恐らく、いや間違いなく残像が残るくらいの速さだったろう。

 ぐるんと後ろへ振り向くと、そこには鼻にハンカチを当てながら恍惚とした表情を浮かべている咲夜の姿が。

 一瞬後にそのハンカチは消え、いつも通りの微笑を浮かべた咲夜がそこには居たけれど、私の目はごまかせない。

 貴様、見ていたな!!

 

「私は何も見ておりません」

「まだ何も言っていないわ」

「私は何も見ておりません」

「それは見ていたと言っているのと何ら変わらないわ」

「私は、何も、見ておりません」

 

 言葉を交わす度に、浮かべていた微笑みが段々と三日月のような笑みに変わっていった。

 おのれ咲夜め……!

 

 赤くなった顔を隠すために毛並みへ顔を埋めると、スコールはそんな私に優しく頬擦りを落としてくれる。

 ああ、慰めてくれているのね。

 本当に良い子だわ。

 スコールへ顔を向けずに、ゆっくりと持ち上げた手で頭を撫でてやると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。

 昨晩もそうだったけれど、どうも撫でてもらうのが好きらしい。

 

 

 

 しばらくそうしたままで居て、ようやく顔の赤みが取れたように感じたので起き上がる。

 その時、この部屋に居たのは咲夜だけではなかった。

 ……パチェ、小悪魔、その笑みは何?

 

「昨夜はお楽しみだったみたいね?」

 

 オーケィ、わかったよ親友。

 パチェ、お前もか!

 私をからかって楽しむなんてこの不届き者どもめっ!

 

 ……ちょっと小悪魔、なんで赤くなってるのよ。

 わざわざ手で顔を隠していやんいやん頭を振るな!

 吸血鬼なめんな!指の隙間からこっち見てるのがしっかり見えてるのよ!

 

 怒鳴り散らしてもいいけれど、それをした時にこの場に流れるのはひたすらに微妙な空気だけだろう。

 つまり、私は耐えねばならぬのである!

 何故かって?それは私が空気を読めるレディだからさハッハッハ!

 

 ……そんな私の言葉では言い表せない悔しさを感じたのか、スコールが私を庇うように更に丸くなって、きゅんきゅん鳴きながらパチェを見ていた。

 大きな体に似合わず気が弱いみたいだけれど、それでも私を庇ってくれるのか。

 まだたった一晩しか一緒に居てやれていない私を、庇ってくれるのか!

 ちょっとホロリときてしまったわ……!

 

「あら、一晩で狼を手篭めにするなんて流石はレミィね?」

「台無しだよパチェのばかぁぁ!」

 

 どうしてもそちらの方向に持って行きたいのか、親友!

 今、この場所この時、私の味方はスコールだけ。

 ずっと視線でパチェに訴えかけ続けているスコールだけよ!

 とりあえず、あれだ、お前らニヤニヤ笑うのやめろ!

 

「スコール、聞きなさい。私はレミィを苛めているんじゃないの。ほら、レミィだって本気で嫌がっていないじゃない」

「本当に気に食わない事であれば、お嬢様は問答無用で実力行使に出ますもの」

「スコール、騙されちゃダメよ。相手は魔女と悪魔の犬なんだから」

 

 こら、首を傾げるなっ!疑うなっ!!

 き、きゅんきゅん鳴いても許してあげないんだから!

 すりすりするな!あ……あぁ……!?

 

「陥落したわ。ちょろいわね」

「これでこそお嬢様ですわ」

 

 

 

 

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 ふと薄く目を開けた事で気がついた。

 いつの間にか眠ってしまってたのね。

 うん……スコールにごまかされてやったのよ。

 そうよ、そうだわ、そういう事にしておきましょう。

 

 自己暗示じみた決定を心の中で下しながらぼんやりとした視線を辺りに巡らせると、私の横でパチェがスコールに背を預けながら本を読んでいた。

 何の本かは知らないけれど、やたら古臭そうな本を本当に読んでいるのか疑わしい速さでぺらりぺらりと捲っている。

 

 スコールはその本に興味があるのかしきりに首を伸ばして覗き込んでいた。

 寝ぼけ眼のまましばらく観察していると、パチェが本を変えるたびに覗き込んでは落胆したように目を離しているのに気がついた。

 本を変えるたびにという事は、何か読める言葉でもあるのかしらね。

 

「とりあえず英語、仏蘭西語、独逸語、伊太利亜語、中国語は駄目だったわ」

「趣味と実益を兼ねた検証でございました」

 

 私の考えをさらりと読んでにやにやしながら言うパチェと咲夜。

 私が眠ってしまったから、いじる対象をスコールに移したらしい。

 言われてようやく気がついたのか、スコールがどうにも拗ねているのを感じた。

 尻尾がばたばたと床を叩いている。

 スコールが喋れたとすれば、どんな風に文句をつけるのだろうか。

 

「パチェ、スコールに使える意思疎通の魔法とかないの?」

「あるわよ」

 

 あるんかい。

 だったら出すもん出しなさいよ!

 

「少しばかり面倒だし、私たちの言葉を理解できているんだから文字盤でもいいかと思ってね」

 

 それで読める文字を確かめていたの、と続けたパチェ。

 先のやり取りを見る限り1%くらいはそれも含まれているのだろうけど、それ以外は全て遊んでいただけでしょう。

 

「まぁ無駄じゃあなかったわよ。

 中国語で少しばかり反応を示していたから、大方日本語あたりが読めるんじゃない?」

「なら試しなさいよ」

「ここには日本語の本を持ってきていなかったの」

「そもそも言葉を理解できているんだから、読めるかどうか聞けば済む話じゃないの」

 

 現に貴女の後ろでぶんぶん首を縦に振っているわよ?

 ほら、尻尾でもアピールしてるじゃない。

 

「私の目には文字しか映っていないわ」

「私の目にはお嬢様しか映っておりません」

「お前ら自重しろ」

 

 私の目には、と言いたげだった小悪魔を無視して言葉を返してやった。

 あくまでもそちらへ視線を向けないパチェと咲夜の言葉にスコールの動きがピタリと止まって、持ち上げていた頭と尻尾がぽとりと床へ落ちる。

 ……拗ねたわね。

 時折ぱたりと尻尾が床を叩く辺り、それでもかまって欲しいのだろうか。

 ええい愛いやつめっ!

 

 

 

 

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 ひたすらにぐだぐだな進行具合を見せたオハナシシマショウ計画は、最終的にスコールの意向に沿って文字盤ではなく意思疎通の魔法を使う方向で決定。

 とは言え魔力も無く詠唱もできないとあっては魔法を使うことなどできるはずもない。

 しかしながらそこは我が紅魔館自慢の知識の魔女。

 魔力は無くとも潤沢な妖力があるのだから、魔力への変換魔法陣を仲介して意思疎通の魔法陣へと魔力を循環させれば済む話だとあっさり切って捨てた。

 そしてそれを成すに当たり、魔方陣を何に刻むかという話では特に意見の対立は無く、そう、満場一致で。

 

『首輪』

 

 ならば色は?

 

「紅」

「紫」

「銀」

「こぁ」

 

 輝くような笑顔でふざけた事を言い放った小悪魔にちょっとばかりイラっとした。

 そう、イラっとしたのだ。

 思わず右手が動いてしまう程度には。

 

「悪魔がそんな笑顔を浮かべるな」

「そんなっ……悪魔権侵害です!」

「理不尽はこの館の常よ」

「その筆頭はレミィね」

「そんなに褒めないでくれないか、親友」

 

 私がかるーく撫でてあげた後頭部を抱えて悶えている小悪魔を尻目に、話が再開される。

 

 デザインを決める段になって、首輪というよりスカーフのような物になったけれど、どこぞで見た狐の石像も赤いスカーフを巻いていたので問題はない。

 うん、決定。

 

「形はスカーフ、布部分は紅、縫い糸は紫、銀は止め具とワンポイントのアクセサリーに使用。おーけー?」

「異論はありませんわ」

「一つ言うなら、紫は薄めの物じゃないとドギツイ配色になるから」

 

 角を付き合わせることも無くすんなりと決まった。

 その後、そそくさと動き出したのは先ほど色んな意味でやらかした小悪魔のみ。

 材料の調達、頑張るのよ。

 

「あぁ、そうだわ」

「はい?」

 

 忘れていたわ。

 

「小悪魔、完成予定は今日の内だからそのつもりでね?」

「……はい?」

 

 輝く笑みのこぁ色事件はただ買出しに行かせるだけじゃあちょっとばかり足りない。

 そもそもこぁ色って何よ。

 私色に染めてやりますよふふんって事?

 あ、考えたらまたちょっとイラっとしたわ。

 

「そのつもりでね?」

「…………はぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ティータイムね。

 今日はアールグレイの気分だな、うん。

 

「アールグレイでございます」

 

 音も無くテーブルに置かれたティーカップの中で、澄んだ色が揺れていた。

 ……まだ何も言ってないわよ、咲夜。

 

 

 

 

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