今の私の気持ちを一言で表すならば、こうね。
『どうしてこうなった』
うん、これに尽きるわ。
何故友達の家に遊びに来ただけなのに、来たなり拉致されてお風呂に放り込まれるのよ。
扉を開いて、咲夜に出迎えて貰ったと思った瞬間に風になるなんて想像できるわけないでしょう。
正確に言うなら、咲夜に化けたスコールだったわけだけど。
わざわざ髪型から服装まで似せていたせいで攫われた瞬間はすわ何事かと思ったわ。
まぁご丁寧に横抱きで、さらには揺れ一つ無い素晴らしい走りを披露頂いたお陰ですぐに気付けたんだけどね。
そんな犯人もとい犯狼が何を思ってそんな悪戯をしたのかと考えても……私をゆるりと抱えたままご機嫌な鼻歌に夢中なようだし、ただの気まぐれでしょうけど。
全くいいご身分です事――ってこら!?
「お腹をもにもにして遊ぶんじゃないの!」
「えー」
「あんまり悪戯するようならもうあがるからね?」
「きもちいいんですよ、アリスさんのおなか!」
「そんな感想を求めてるんじゃないの」
油断したらすぐこれだもの。
そして何よりタチが悪いのが、そんなスコールの姿よ。
何で咲夜の姿のままなのかしらね?
これ絶対妙な所で確信犯でしょ。
そしてその姿でしょんぼりして耳を伏せるのは反則じゃないかと思うのよ。
何かこう、強く言えないじゃない!?
元になった咲夜の無駄なパーフェクトっぷりは何処に行ったのよ、これじゃただの残念美人じゃない!!
「むぅ……むぅ……!?」
「ええい抱き締めるんじゃない! 当たってんのよ!!」
「あ、あててるのよ!」
「どこで覚えたのよそんな言葉ぁ!?」
「こあくまさんにおそわりました!」
「自重しなさいよサキュバスゥ!!」
慌てて抜け出そうとするも、腰に回された右手がビクともしない。
押しても引いてもまるで微動だにしないあたり、見た目は咲夜でも中身はやっぱりスコールね。
その無駄スペックを本当に無駄な所で発揮するわ。
「ま、おちついておちついて。おふろばであばれるとのぼせちゃいますよ?」
「暴れさせているのはどこの誰かしらね、全く」
どう足掻いても抜け出せないのはわかったわ。
全く、どうしてこうなったのよ本当に。
スコールはスコールで特に何も言わないし。
ていうか今ふと思ったけど、これ本当にただの気まぐれよね?
咲夜の顔でにこにこ笑いながらこっちを見つめられてたら嫌な悪寒が沸くんだけど。
いや、嫌悪感とかじゃなくて『何されるんだろう』的な、ね?
「おふろあがりは、ふるーつぎゅーにゅーでいいですか? それともこーひーぎゅーにゅー?」
「……フルーツ牛乳」
「ちなみにきょうのはももとみかん。じゃない、おれんじ? ですよ、たぶん。こないだゆかりさんから、たいりょうにもらってましたから」
「へぇ、今度のは何を作ってお返ししたの?」
「ちぇんさんのごきぼうで、じ、じ……じぇるっと? いや、なんかちがいますね。とりあえずこおりっぽいあいすくりーむみたいなのです」
「んー? あー、ジェラート?」
「なんかそんなかんじのなまえでした!」
「確かに最近暑かったからねぇ。……ねぇ?」
思い浮かべたら食べたくなってきたわ。
この後水風呂に入る予定だからまだいいけど、流石に熱めのお風呂に入り続けるのは疲れるもの。
いや、気持ちいいんだけどね。
付き合ってあげてるんだから、これくらいの役得はあってもいいと思うのよ。
「んー、ざいりょうがあまってれば、つくってくれるとおもいますよ? あいてがほかならぬありすさんですもの」
「何よ、他ならぬって?」
「だってありすさんですよ? うちにどれだけなじんでるかわかってます?」
「いや、どれだけって……」
「ありすさんがきてくれたときは、てばなしでみんなだいかんげい、するでしょう?」
「……してくれるわね」
「つまり、そういうことですよ」
あ、まずい、これ恥ずかしい。
なんか恥ずかしい。
言葉にされると物凄く恥ずかしいんだけど!?
いや、嬉しいけど!
「そうよアリス、素直に受け取っておけばいいの。前に言ったような気がしないでもないけど、服やら小物やら痴態やらでどれだけ点数稼いじゃったと思ってるの?」
「いつから居たのよ咲夜ぁ!?」
「他ならぬー辺りからかしらね。あとスコール、私の姿じゃなくて幽香の姿になりなさい」
「ほいっさー!」
…………だから、当たってるのよ。
当たってる感が増してるのよ!
なによ、自慢!?
そして怖いわその姿。
咲夜とは別ベクトルで、純粋に怖い。
無邪気に笑う幽香の顔とか、この館の面々なら素直に受け入れられるかもしれないけど、私に取っては恐怖の笑みだわ。
「幽香の顔で楽しそうに頬ずりするのはやめて。本当に怖いから」
「あら、私には大変眼福ですわよ? 金銀美人揃い踏み」
「いや、何かこう、今にもがぶりといかれそうでこわひゃあああああああ!?」
「――――良い仕事をしたわね、スコール」
「やめ、や、食むな!はむなぁぁぁぁ!!
こういう事の反応は早いわよね本当にコイツは!!
あぐあぐ言って甘噛みするんじゃない!
くすぐったいわ!
「美味しい?」
「ありすさんふうみですね。ちょっとあまいかおりがします」
「…………ほぅ」
「その『私もかじってみようかしら』みたいな顔はやめてよ!?」
「私もかじってみようかしら」
「やめい!!」
駄目ね、ここは包囲されてるわ。
援軍、援軍はいないの!?
「はーなーしーてー!!」
「はっはっは、どこへいこうというのかね? そのほそうででわたしとしょうぶするかね!」
「どこの大佐よ貴女は! そして咲夜、人の手をそっと握りしめて何のつもり!?」
「とある言葉を一緒に叫べば抜け出せるかもしれないわよ? 叫んでみる?」
「そのネタを引っ張るの!?」
た す け て。
別にこの手のかけあいは嫌いじゃないのよ?
でももれなく私が爆心地なこの具合は大変によろしくないと思うの。
助け船フランドール号はどこ!?
冷却材パチュリーでも……いや駄目ね、場合によっては煽るわあの魔女。
逃げ出そうにも相変わらず腰にはスコールの腕が回っているし、どうしろって言うのよこの状況!
「ていっ!」
「あいたっ」
「あふんっ!?」
!?
「傍に控えてた咲夜がいきなり消えたから嫌な予感がすると思ったら、案の定だったわ……」
「ふらぁん!!」
「大変だったね、アリスさん。大丈夫? 何か色々失ってない?」
「失いかけた感はあるわ」
「もう、スコールも咲夜も――――咲夜は?」
「ふらんさんがめをはなしたしゅんかんに、きえましたよ?」
「……今頃は無駄に完璧な無駄な動きでもしながら無駄じゃないスイーツでも作ってるわね、それだと」
「でしょうねぇ。さくやさんらしくていいじゃないですか」
「ま、何にせよやりすぎはだめだよ、やりすぎは。アリスさんはそっと見守る位でも十分に面白いんだから!」
「フランまで、何よそれは!?」
「え?」
「どこかおかしいところ、ありました?」
ようし貴女たちそこへなおりなさい。
何でここで『何言ってるんだろう?』みたいな反応をされるのよ!?
そんな面白い生き物みたいな生き方をしてるつもりはないわ!
「アリスさん――強く生きてね!」
「ふぁいと、ですよ!」
「やかましいわ!!」
とりあえずこれ以上この場で騒いだらのぼせるわ。
クールダウンよ、クールになるのよ。
「またお腹をもにもにし始めるのはやめなさい!」
「おお、気持ちいい……」
「ですよねぇ! くせになるてざわり、さすがアリスさん!」
……フランまで。
紅魔館最後の良心だと思ってたフランにまで弄ばれるなんて。
何なのよ今日は? 厄日!?
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「私の扱いに物申したいというか、物申したけど皆して同じ反応だったわ。酷いと思わない?」
「どこがよ?」
「全部よ!」
あの後、帰りがけに咲夜から追加で貰ったジェラートを手土産に博麗神社に寄ってみたはいいものの、こいつもか。
冷却魔法まで使って持って来てあげたっていうのに友達甲斐の無い。
「黙ってすました顔をしていれば『もの凄い美少女が居る!!』で済むのに、いじられた途端に『あ、残念な美少女だった……』になるじゃない」
「残念言うな」
「美少女は否定しないのね?」
「散々回りから言われてるからね。そこはもう流す事にしたの」
「聞きようによっては物凄い嫌な女よねそれ」
「……言われてみればそうね」
自称美少女。
痛いわ、色々と。
次からはちゃんと否定しよう。
「まぁ否定したらしたで、また嫌味かーって言われるかもしれないわね」
「どうしろって言うのよ!?」
「さぁ?」
あ、もう関心は無いわねこれ。
ジェラートに夢中だわ。
まぁ確かに美味しいし、この幻想郷には無い物だったわけだから仕方ないと言えば仕方ないけど。
…………ん?
「おー、お前ら何か美味しそうな物食ってるな。いただきます」
「お賽銭入れてきたら一個だけ食べていいわよ」
「そもそもコレ、私の手土産なんだけど」
箒に乗って颯爽と現れて、即座にジェラートに手をつける白黒。
「うっま!? おい何だコレ、甘味屋の新作か!?」
「紅魔館のメイド長謹製ジェラート。かの隙間に潜む大妖も絶賛の逸品よ」
「…………紅魔館?」
「ええ、紅魔館。前に貴女が盛大に喧嘩を売り逃げしたスコールの家ね」
「…………」
「何、アンタあそこに喧嘩売ってたの?」
「売ってたのよ、それはもう盛大に。まぁ意地張ってただけっぽかったけど」
あれは――うん、言うなれば数少ない『友達が少ない友達に、いつの間にか沢山の友達が出来てた』悔しさと言うか、何というか。
そんな素直になりきれない感じがしてたわね、今になって思い返せば。
その結果が、あの時のお守り騒動に繋がったわけで、まぁ間の悪い事。
結末としては私の家が堅牢かつ多機能に生まれ変わったから悪くは無かったけど。
便利な棚とか壁面収納とか増えたし。
「喧嘩は相手を見てしなさいって前に言ったと思うけど」
「……何だよ」
「色々と投げ捨ててでも僅かな勝ちを拾うつもりが無ければ、そもそも喧嘩を売るのが間違ってるわよ、あの館」
あら珍しい。
この霊夢がそんな評し方をするのは初めて見たわ。
全面的に同意するけど。
「前にごっこ遊びの延長であそこのヤツらとやりあったけど、ごっこ遊び抜きならよほどの事が無ければ二度と御免だわ」
「そりゃそうでしょうよ」
とびっきりの吸血鬼が二人、多才な魔法使いに、底がどこにあるかすら分からない門番に、時間を操るメイド。
そしてスコールが本気になったらどうなるかは、この白黒が証明してくれちゃったわけだし。
まさか極上の鬼と正面切ってやり合える程とは思わなかったもの。
あの後、萃香が家を建て直してくれてた時に心底楽し気に笑いながら言ってた言葉がまた大概だったし。
『私があいつを殴り殺したかもしれないし、私があいつの餌に成り下がってたかもしれない』
これを言ったのがあの鬼よ、あの。
幽香と真っ向から力比べしてガハハと笑えるらしい、あの鬼よ。
正真の化け物じゃない。
そんなのと真正面から文字通りの意味で命の削り愛ができるとか馬鹿じゃないの?
愛の方向性は食欲と戦闘欲っていうのがもう救いが無さ過ぎるわ。
「んー?」
「ん」
「何だよ二人して唸って」
うん。
ちらりと霊夢に視線を投げかけて問えば、やる気なさげに頷かれる始末。
まぁちゃんと釘を刺しておかなきゃ、その内比喩表現でなく消えちゃいそうだものね。
「まず門番。息をするみたいにほいほい放たれる、大岩ですら一撃で砕ける格闘術を全て躱して、貴女も見たことのある大江戸の爆発をケロリとした顔で耐え抜く耐久力を抜きましょう」
「は?」
「できなければ体の外側か内側かは分からないけど、パーンされます」
うん、スコールが『パーンは、パーンは嫌ぁ!』何て叫ぶのも分かるわ。
こうしてこうですよーなんて気の抜けた演武でスコールが掘り起こしてきた大岩をまぁ見事に砕くこと。
ほいほい気軽に振るったように見える四肢での一撃があんな威力とかどうなってるの?
あんなの当たったらパーンするわ、確かに。
中国怖い。
そんな事をしでかして『いい庭石ができましたねー』とか何なの一体。
「次に館内部。アホみたいな練度で放たれる多彩な属性魔法を全て防ぎましょう。防いで反撃できなければ追い込まれて散ります」
「いるのか、魔法使い」
「いるのよ、魔法使い」
七曜それぞれに搦め手もしっかり含めた小規模~中規模魔法から決め手の大規模魔法まであります。
本人の足は遅いけど、魔法障壁も含めたらそこそこ硬いみたいだし、万能型砲台かしらね。
ちなみに私がやった時はギュインギュイン回る魔法金属の刃に追い回されたと思ったら、その先にあったのは綺麗な緑色の魔法鉱物でできた迷路でした。
必至に逃げ回っていたら袋小路に追い込まれて、回転を止めた刃でつつかれたのは良くない思い出だわ。
あれは怖かった。
特にパチュリーの隣に居た小悪魔が頬を染めてこっちを見てたのが。
忘れよう。
「そして館へ夜にカチコミをかけてはいけません。特に月の出ている夜は避けるが吉。月夜の吸血鬼は文字通りの化け物です」
「いきなり雑になったわね」
「とりあえず、幽香とそこそこいい勝負ができるレベルに達していなければ、問答無用で散ります」
「まぁ、そうでしょうね。特に妹の方」
「仮に幽香と互角の勝負ができるようになっていても、油断すればとんでもない隠し玉で散ります」
運命予報からのきゅっとしてどかーん。
レミリアとフランに揃って『敵だ』と認識されたら基本的にその時点でゲームオーバーとかどんな鬼畜仕様よ。
あれ、魔法障壁だとか無視だからね。
それを差し引いても身体能力だけでお釣りが出るわ。
加えて、笑いながら鬼と殴り合えるだけの技術もあるのよ、レミリアは。
あのパチュリーが手放しで褒める程の魔法と追い込みのえげつなさがあるのよ、フランは。
前衛後衛なんでもござれ、補助魔法もバッチリ! とかどこの勇者よ貴女たち。
「そして貴女みたいなタイプの魔法使いが欠かしてはいけない、ある意味一番大事な事があります」
「……あー、メイドね」
「紅魔館に敵対行動を取った瞬間から、一時たりとも魔法による障壁を忘れてはいけません。でないと、ふと気づいた瞬間には彼岸に立っている事になります」
そもそも時間停止にどうやって対応しろと。
魔法は補助程度の練度で主力はナイフとは言え、奇襲し放題なあのメイドが本気になったら逃げられないわよ。
これが萃香や幽香みたいなナイフ程度じゃどうにもならない相手なら話は変わってくるけど、そもそもが脆弱な魔法使いじゃ無理ね。
「サクっとヤられてお終いだわ」
「咲夜だけにね」
「ネタを拾ってくれるのはありがたいけど、投げやりなのは酷くない?」
「ふむ、こっちのは桃ね。どれも美味しくて助かるわ」
「いつから博麗は自由の代名詞になったのかしら」
ごそごそと保冷バッグを漁って新しいジェラートを頬張る霊夢には本当に毒気を抜かれるわ。
「さて、最後に。魔理沙にとっては目下一番の火種になりかねないスコール」
「ある意味一番やばいヤツね」
「そう、ある意味でね」
「……なんだよ、ある意味って」
いや、スコール自身もアレだけどね。
「能力抜きの純粋な身体能力だけでも馬鹿みたいに速い硬い強いと揃った、そこだけ見るならガッチガチの直接戦闘タイプ」
「千年生きたっていうのは伊達じゃないわよ、アレ。笑いながら逃げてもらえる内が花ね」
「そんな身体能力が、能力や強化魔法込みだとレベルが跳ね上がります。馬鹿みたいに跳ね上がります。あの馬鹿でかい体が、純粋な速さだけで残像を残して消えます」
「そこまで速くなかっただろ、アレ」
「貴方が私の家からさっさと消えた時点ではね」
音速とか軽く超えてるわよアレ。
私の家と庭が大惨事になった一因だもの。
まぁ被害度合で言えば萃香の方が遥かに酷かったけど。
「でもそんな直接戦闘能力とは別の意味で、やばいのよ。というか現在進行形でどんどんやばくなってるのよ」
いや、強さで言えば結構な上位に来ると思うのよ、スコールは。ただ逃げさえしなければ。
純粋な基本スペックでゴリ押して来る相手には、そのスペックを上回るか、余程の搦め手を使わなければ打倒はかなわない。
スコールならそうなる前に逃げるでしょうけど。
――――ただ、もしもスコールが逃げきれずに打倒がかなった場合。
それはもう恐ろしい事になるのが目に見えてるわ。
「知り合いの知り合いって具合に増えて行った交友関係がやばいわ。あれどうなってるのよ」
「しかも人里の信仰で神化までしたしね」
「紅魔館を筆頭に大妖怪がずらり。しかもしっかりばっちり友好的」
「はぁ?」
「魔理沙、貴女は幽香と真正面から撃ちあって勝てるの? 神出鬼没の鬼を相手に零距離で殴り合える?」
「紫の所は……まぁ立場的に出てこないにしても、この時点でお釣りどころか一財産築けるわよ」
「他にも色々と出て来ると思うわよ。不老不死な自爆特攻上等の焼き鳥さんとか、冥界の亡霊姫とか、下手したらウチの母親とか」
「一人でも手を焼くような面子がうようよ。しかもこれからも多分増えると見るわ」
「ちょっと喧嘩した程度なら皆笑って流すだろうけど、悪意を持って害したとなれば話は別」
打算的な思考なんて無いのが透けて見えるからこそ、スコールの周りにあれだけの面子が揃ったんでしょうけどね。
揃った面子がその居心地の良さから宴会の常連になり、散歩コースの一部となり、食べ歩き仲間になり、と。
こうやって魔理沙に説明すればするほど、何だこの交友関係って思い知らされるわ。
どこの最強系主人公物語の主人公よスコールめ。
とはいえ、その下地はあれど実現するかと言われれば、まぁ、うん。
「そんな事態を引き起こすだけでもとんでもない労力が必要だろうけどね。そもそもスコールは気質が後ろ向きに楽天的だもの」
「はぁ?」
「貴女が煽った時は不幸な偶然が重なって攻撃的だったけど、普段なら人里の住人に翻弄された程度で『戦略的撤退!』とか言って逃げ出すのよ?」
「私が見た時は縁台で休んでた年寄りの集いに混ざって愚痴ってたわ」
「まぁそのくらいのゆるーい性格なんだから、さっさと和解しておくのをお薦めするわ。人里に別荘までできるみたいだし」
「そういえば地鎮祭の依頼が来たわね。手付に茶葉やらお菓子やら色々くれたから請けたけど、まだ設計段階でしょアレ」
「設計図ができたら早いわよ。人海戦術で即座に建ちあがるわ」
「なら準備だけはしておくことにするわ」
「…………」
よし、悩んでる悩んでる。
あれだけ真向から喧嘩を売った手前、どうしたものかーってところ?
外堀を埋めるように話を持って行ったのは正解だったかしらね。
そもそも魔理沙だって意地っ張りなだけで悪い子じゃないんだし、それこそ何かしらの和解の言葉一つ程度でも普段のスコールなら受け入れるでしょう。
というよりむしろあのお守り事件さえ無ければあの場で友達が増えてたんじゃないの? お互いに。
「とりあえずアリス、ジェラートおかわり」
「もう無いわよ」
美味しかったのはわかるけど、何個食べるつもりなの巫女さんよ。
お腹を壊す……と言いたい所だけど、この霊夢がそんな事態になる姿を想像できないわ。
「なら地鎮祭の打ち合わせついでに、紅魔館でご飯でも食べてこようかしら」
「ついでに宴会にならないかなーって思ってる顔ね、それは」
「なりそうじゃない?」
「なるわね、多分」
「じゃあ宴会も込みでお腹一杯になってくるわ。ほら行くわよ魔理沙」
「あん?」
「うじうじ悩むくらいならさっさと『悪かったな』の一言でも投げておけばいいじゃない。あいつならそれで終わるわよ」
「むしろその後に来るであろう猫可愛がりの可能性に悩むべきね」
「何だよそれ!?」
私の時は釣瓶落としからのウルフハッグ、愉悦を添えて……だったかしらね。
あれのせいでその後の扱いが決まったようなものだし。
魔法使いだとよっぽどの身体強化特化でもない限りは抜け出せないんじゃない?
苦しくはないけど、がっちがちに固められてモフるからね。
「まぁとりあえず頑張りなさいねー」
「さーくーやー」
「こちらに」
「何か食べ物をたかりにカチコミしてきそうな気配だわ。準備なさい」
「…………はい?」
「ついでに酒もね。私は白。フランは?」
「じゃあスピリタス」
「フラン、それは単品で飲むような物じゃないでしょう」
私もそう思いますが、お嬢様もご存知の通り、フラン様はあれを一気飲みしてもほろ酔いで済むのですよ。
しかしながらそれ単品で出すのは私の矜持に反しますので。
「ではグレープフルーツの果汁と塩を付けておきますね。ソルティードッグ、というやつです」
「なるほど、しょっぱいスコールね」
「それをスコールに言ったら『犬じゃなくて狼です!』なんて拗ねてしまいますよ?」
「なら狼のカクテルは?」
「ウォッカにグレープフルーツ、カシスから作ったグレナデンシロップで『ブラッシング・ウルフ』ですかね」
「ならそのセットを用意しておいて。スコールと一緒に飲むわ」
「かしこまりました」
カクテルに必要な酒や果物は全て紫さんから仕入れた物。
この館の消耗品は幻想郷で手に入らない物が多いので、今後ともいい関係で居たいものですわ。
そのためにもしっかりがっちり胃袋を握らなくては。
まずは黒猫さん大好物の甘味。そして藍さん仕様の特製油揚げ。更には紫さんお気に入りの晩酌用おつまみセット。
腕によりをかけてご用意させて頂きましょう!
「お姉様、何か咲夜が黒いわ」
「いつもの事でしょ。真っ白な咲夜なんて逆に怖いわ」
「お嬢様、白ワインにはスピリタスを混ぜておきますね」
「やめなさいよ!?」