まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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6話 Skoll

 

 

 

 私のお腹の上で仲直りをしたレミリアさんとフランさん。

 それからの日々は何と言うか、レミリアさんがフランさんにべったりでした。

 

 フラン!フ・ラ・ン!ふぅらぁぁぁん!と常にフランさんの傍でひたすら世話を続け。

 その甲斐あって、最近ではフランさんが本当によく笑うようになったのはとても嬉しい事ですよ、ええ。

 まさにレミリアさんの弛まぬ努力が実った結果です。

 弛まなさ過ぎて騒動も起こりました……色々と。

 

 初めてフランさんが笑った時なんて、やれ『パーティーだ!祝いの品に宝物庫から特大のルビーを持って来い!』等々。

 その時はいつものようにレミリアさんがパチュリーさんにからかわれて悔しげに唸っている最中でしたけれど、口の端が僅かに持ち上がるだけの小さな笑いだったけれど、くすりとフランさんが確かに笑ったのを契機に空気が一変。

 まるっと一日中、飲めや騒げや歌えやの大騒ぎでした。

 ……サクヤさんがコツコツ仕込んでいたワイン蔵がからっぽになるほどに。

 途中からどこか呆然としてましたけれど、宴が終わってからワイン蔵の前で生気の無い目をして立ち尽くしていたサクヤさんは非常に非常に非常に怖かったです。

 

 ちなみにレミリアさんよりもフランさんの方がお酒に強かったのには驚きました。

 最初はレミリアさんがカリスマとやらを発揮して『少しくらいは慣れておきなさい』と軽くグラスに注いであげていましたけれど、すぐに立場が逆転。

 似たような速さでボトルを空けているのに、顔を真っ赤にして涙目になるレミリアさんに対していくら飲んでも全く顔色が変わらないフランさん。

 ワインの味がお気に召したようで、ひたすら注いでは飲み注いでは飲みで一体何本空けたのやら。

 あれは面白かった。

 

 

 

 ……このパーティーを契機に、フランさんがどんどん変わり始めた気がします。

 乾いた砂が一瞬で水を吸収するように、一日毎の成長が目に見える日々。

 日に日に色んなものを怖がることが減っていったし、色んな事に興味を持ち始めたし、本人曰く自分から誰かに関わっていく努力もしていたようで。

 喋り方だってそれまでの片言じゃあなくなりましたし、喜怒哀楽が素直に表現できるようになってきて、とても輝いて見えるようになりました。

 

 

 

 ……あぁ、本当に色々ありましたねぇ。

 

 

 

 いつだったか、皆からの『妹様』という呼ばれ方に不満を持ったらしく『名前で呼んでよぅ』なんてぼろぼろ泣きながら駄々をこねたりもしましたし。

 自分という存在そのものを見てくれていないように感じてしまっていたようで、それまで少しずつ溜め込んでいたものが爆発したようです。

 そんな事あるはずもないのに。

 

 ちなみにレミリアさんはこれに便乗して、私の『ご主人様』というレミリアさんへの呼称を改めさせました。

 それまで色々と思うところはあったけれど機会がなかった、と本人は言っていましたけれど、あれは絶対あの時に思いついてましたね。

 だって、こう……『い~い事思いついた!』って顔してましたもの。

 レミリアさんは似たような事をサクヤさんにも言っていましたけど、こちらはさらりとかわされ不満げに羽をパタパタ。

 

 サクヤさん曰く、これは私のあいでんてぃてぃです、だそうで。

 

 他にも色々と理由を言っていましたけど、納得しようとしないレミリアさんへの最後の決め手としてケーキを投入。

 お皿が目の前に置かれた途端にピタリと静止。

 ケーキ一つであっさりと陥落する姿は大変可愛らしいものでした。

 まるでリスのように頬を膨らませてもごもごと咀嚼する姿には、カリスマとやらのかけらも感じられなかったのを覚えています。

 しばらくしてから今の自分の姿を自覚して唸っていたのも、また可愛らしいものでした。

 

 そういえば……常に傍に居ようとするレミリアさんに対して、フランさんが苦笑を浮かべるようになったのもこの頃でしたか。

 初めてそんな表情を向けられた時のレミリアさんの様子は、それはもう凄いものでした。

 

 まるで世界が終わったかのような表情をしてましたもの。

 すぐに取り繕ってはいましたが、これっぽっちもごまかせてはいなかったのが印象的でした。

 だって羽が忙しなく揺れていたし、不機嫌そうに逸らした目が涙目になっていたし。

 意地を張っている子供みたいな姿は非常に可愛らしかったです。

 レミリアさんには悪いですけれども、ある意味眼福。

 

 

 

 

 あぁ、事ある毎に可愛らしい可愛らしいと言う私の歳は一体いくつなのかとフランさんに問い詰められた事もありましたねぇ。

 この頃になると、初めて会った時のフランさんと今のフランさんは本当に同一人物なのかというくらい、フランさんはよく笑う子になっていました。

 

 とはいえ私も自身の歳なんてわざわざ数えていなかったので、思い出せる限りの事柄をスカーフの魔法を通じてパチュリーさんに伝え、おおよその生まれた年代を割り出してもらう事に。

 色んな事柄を伝えましたけど、記憶が前後している事も多々あって難航しましたが。

 

 ひたすら流れ続けていたせいで、事柄と事柄の繋がりがこれでもかというくらいに混線してしまって、思い出すのに苦労しましたとも。

 ついでに私の記憶力の悪さに自己嫌悪もしましたが。

 ……とりあえず、妖怪だらけの四角い町があった、という記憶がその中では一番古いものだったようで。

 家の上でケタケタ笑う妙なナマモノが居たのでこれはよく覚えていました。

 何やら槍のような矢で射抜かれていましたし。

 平安京、とかいうらしい町でおそらく間違いはないだろうという結論が出た後に、それがあった年代を把握した皆から妙な顔を向けられてしまいましたけど。

 具体的には『それだけ年経てるのに何でこんなに威厳がないのか』という様な。

 

 年齢は秘密ですと頭を掻くメイリンさんを除いて、何気に私が最年長だったらしいです。

 ちょうどメイリンさんを除く皆の年齢を足したくらい。

 

 でもそれがわかったからといって、私に対する皆の態度は何一つ変わりませんでした。

 変わらないで居てくれるのは本当に嬉しいものだと心底感じ入ってしまいましたよ。

 笑いながら頭を撫でてくれるのは嬉しいし、毛をブラシで梳いてくれるのは気持ちがいいし。

 私に体を預けて一緒に眠ってくれるのだって嬉しい。

 変わらなかった皆がこの上なく愛おしくて、愛おしくて。

 思わず涙が零れそうになったのは秘密です。

 

 

 

 ……私が何をしてきたのかフランさんがよく聞いてくるようになったのもこの頃でしたっけ?

 むぅ……良く思い出せない。

 

 とりあえず歩き続けてきた中で経験した色んな事を話しましたね。

 怖かったカミサマたちの話の時には怒ってくれて、優しかったカミサマたちの話の時には優しく笑ってくれたのは嬉しいものでした。

 

 雪の上で月見をしながら眠ったら、目が覚めた時には雪に埋もれてしまっていて、そのままだらりと春になるのを待った時の話で呆れられたのはちょっと悔しい思いをしましたが。

 でも笑うなら一回埋もれてみるといいと思います。

 もこもことひたすらに雪の中を掘り進むのはすぐに飽きますから。

 拗ねてそっぽを向いた私の尻尾を軽く引っ張りながら謝るフランさんは可愛らしかったですけれど、ここで甘い顔をしてはだめだと思ってしばらく拗ねたふりをしていましたね。

 ……あの時拗ねるのをやめたのは、サクヤさんから食事抜きにしますよと視線で脅されたからではありません。

 断じて、そう、断じてそうではありません。

 …………多分!

 

 

 

 ……げふんげふん、あーあー、ホンジツハウテンナリ。

 

 …………うん、本当に色々ありましたねぇ。

 

 

 

 そんな日々が続いていく中で、フランさんの騒動からどこか沈んだ空気を漂わせていた家の中が、日に日に華やいだ空気に変わっていくのは本当に嬉しい事でした。

 せっかく貰った居場所が沈んだ空気でいるのは酷く悲しい事でしたから。

 

 笑い声が絶えずに、いつも何かしらの騒動が起こる日々は楽しかったですよ。

 今首に巻いているスカーフが最早何代目かわからなくなるほどの慌しい日々でしたけど、それでも今を思えば軽く笑い飛ばせてしまいます。

 こんなに幸せな場所に居ることが出来て、本当に私は幸せ者です。

 この家の皆が愛おしくて仕方がありません。

 

 私に色んなものを与えてくれたレミリアさんや、成長を見続けてきたからか、私の子のように思えるフランさんも。

 相変わらずちょっと怖いけどどこか抜けていて面白いサクヤさんや、いつも私をソファー代わりにして本を読みたがるパチュリーさんも。

 コアクマさんやメイリンさんも……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇスコール……? 横でそんな事をひたすら考えていられると、流石にちょっと恥ずかしいんだけど……」

 

 そうフランさんから声をかけられてはたと気がつけば、レミリアさんと一緒に私に寄りかかって本を読んでいたフランさんの顔が少し赤くなっていました。

 レミリアさんも少しばかり居心地が悪そうで。

 

 どうやらスカーフにかけられている魔法が起動していたようです。

 強い思考に反応する仕様ですから、考え事をしている時にはいつの間にか起動してしまいますからね、これ。

 でも今回は考えている事が漏れていても何ら問題はないでしょう。

 むしろ、どうぞ漏れてください。

 

「私たちの軌跡を感慨深げに思い返される事が、これ程居心地の悪いものだと思わなかったわ」

「だよね…」

「しかも嬉しい、愛しい、可愛らしいって事あるごとに思っているのがわかるんだもの……」

「照れちゃうよね……」

 

 仕方がないことだと思う。

 本当に、掛け値なしでそう思っているんですから。

 これは胸を張って言えます!

 

「だから、そういう風にストレートに思われると、その……」

 

 その、何ですか?

 照れちゃいますか?

 

「照れちゃいます」

 

 持っていた本で顔を隠して羽をパタパタ揺らすフランさんが可愛らしい。

 本の端から僅かに覗く顔が赤く色づいているのが見えた。

 もそりと下から見上げるようにして顔色を伺うと更に赤くなっていくのが見える。

 ああ、本当に可愛らしい!

 

「うぅー……!」

 

 唸るフランさんも可愛らしい!

 あの出会いの時からたった数年でこんなに素直で可愛らしい子になってくれたなんて……もう何と言えばいいのでしょう。

 言葉が見つかりません、感無量。

 

 ……って泣かないでくださいよ!

 フランさんに泣かれると、その、あれです、非常に困るんですよ。

 

「スコール」

 

 あぁぁぁん……!?

 ちょっと、今ばかりは私を静かに呼ぶレミリアさんの方を振り向きたくありません。

 きっとすごく『いい』笑顔を浮かべているはずです。

 

「ねぇ、スコール? ……こっちを向きなさい」

 

 いきなり声を低くしないでくださいよ……!

 こ、怖い怖い怖い、怖いですよもう。

 ……でもこれだけは、これだけは言っておかねばならぬでしょう!

 

 仕方のない事だとはわかりますけど、いくらなんでもレミリアさんは姉馬鹿すぎると思います!

 もうフランさんだって立派な一人前の吸血鬼になったのに!

 

「一人前になろうと二人前になろうと関係ないわ!フランを泣かせるんじゃないの!」

 

 意見をしながら振り向いた瞬間、レミリアさんの右腕が二本に見えました。

 残像ですか? 残像ですね。

 そうですか、それほどの速さで私の尻尾を捕まえたんですね。

 流石吸血鬼、そこらの木っ端妖怪には出来ないことをあっさりやってのけます。

 そこに痺れる憧れ…………落ち着いた振りをするのはもう無理です。

 

 痛い痛い痛い!ちぎれるぅ!尻尾!尻尾が!!

 

 ばたばたと私が暴れた事で、私のお腹の上に居たフランさんが宙を舞ってしまいました。

 ぱたりと羽を動かして、逆さになったまま浮かんでこちらへ驚きの目を向けて……はっ!

 

 へるぷ!

 ぷりーずへるぷみぃー!!

 尻尾が冗談抜きにちぎれそうです!

 

「ちょ、ちょっとお姉さま!?」

「大丈夫。加減はしているわ」

 

 できてない!できてないですよ!!

 痛いですよ!ちぎれるぅぅぅぅ!!

 

「むぅぅ……スコールを苛めるお姉さまなんて嫌い!」

「!?」

 

 ちょっと、レミリアさん?

 何で握る力が強くなっていくんですか!?

 ショックを受けたのなら握る力を緩めてくださいよ!

 私の尻尾がえまーじぇんしぃ!

 

「離してあげて」

「あの、フラン……」

 

 フランさんが頬を膨らませてレミリアさんを睨んでいますけれど、その顔は思わず痛みを忘れてこう思ってしまうものでした。

 怒った顔も可愛らしい。

 あ、赤くなった。

 

「……余裕があるわね、スコール?」

 

 ……いえ、私の尻尾は既に危険でございます。

 ですので、また力を込めていくのはやめて下さい!

 

「お姉さま?」

 

 …………フランさんの声が一気に冷たくなりましたね。

 これはあれですね、本当に怒ってる時のフランさんの声ですね。

 わ、私のためにこんなに怒ってくれるなんて感動しちゃうじゃないですか。

 これ以上私を骨抜きにしてどうしようって言うんです!

 

「フ、フラン!違うのよ!!」

「何が、違うの?」

 

 慌てるレミリアさんを、先ほどまでとは打って変わって静かなフランさんが見据え、冷たい声で切り捨てて。

 それまでフランさんの胸に両手で抱かれていた分厚い本が、まるで鈍器のように右手で握られ、掲げられ…………鈍器?

 

 フランさん……まさかそれを振り下ろすおつもりでしょうか?

 割と洒落にならないくらいの威力になりますよ、きっと。

 

「うん、お姉さまったら口で言っても聞いてくれないんだもの」

 

『仕方ないよね、うん、仕方ないよ』と呟きながら一つ頷いて、ぐおんという音が聞こえてくる程に本を振りかぶるフランさん。

 それ、最早本を振りかぶる音じゃないと思いますよ。

 そもそも本は振りかぶるものでもないし、ましてや鈍器でもありませんけど。

 

 ………あぁ、握り締められたままの尻尾から震えが伝わってきます。

 然もあらん。

 さ、流石に止めた方が……?

 

 

「お姉さまの馬鹿ぁ!」

 

 

 ……遅かった。

 酷く鈍い音が部屋中に響き渡ってしまいました。

 これが人の子であれば『ばこん』で済んだのでしょうが、そこはほら、夜の支配者なんて言われる程の種族、吸血鬼ですよ。

 音を言葉で表すなら、そう…………『ずがぁん』ですね。

 本で叩いて出る音じゃないですよ!

 

 思わず閉じてしまった目を恐る恐る開いていくと、そこには本を振りぬいた姿のまま目の据わったフランさんの姿が。

 それでいて爛々と赤い目が輝く姿はちょっと……いえ、かなり、その、怖い。

 

 

 

 ………………ってあれ?

 れ、レミリアさんは?

 

 

 

 ……あぁぁレミリアさんの首が!?

 パチュリーさん!!サクヤさぁぁぁん!!

 首!首がにょろんって!!にょろんってぇぇぇぇ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その程度で吸血鬼がどうにかなるのなら、遥か昔に十字教徒たちの手で滅ぼされ尽くしてるわよ。あと、本は大事に扱いなさい」

「心配しなくても、お嬢様ならケーキタイムまでには回復します」

「……出してみたら?ケーキ」

「ふむ…………お嬢様、本日は洋梨をたっぷりと使用した近年稀に見る自信作ですよ」

 

 がばり、こきゃん、ぐりぐり、こくこく。

 

「頂くわ」

「まずは目の前で得体の知れないナマモノを見る目を向けてるフランをどうにかなさい」

 

 今の……子供が見たらトラウマになる光景でしょうね。

 いや、悪魔的にはトラウマを植えつけてナンボかしら?

 色んな意味で植え付けられたくないトラウマなのは間違いないけど。

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