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竜兵side
ある日、突然現れた男――範馬勇次郎と名乗っていたか。
あの男は一目見た瞬間に俺、板垣竜兵じゃ敵わないと一瞬で理解した。
出会いは唐突で、舎弟の一人が俺の元へくると、こう言い放ったのだ。
『竜兵さん、あの廃墟マンションにやべえ奴が住み着いてやがる』
俺の目の届く範囲で調子に乗ってる奴は、何時もぶっ潰して川神から追い出すか、舎弟にするかしていたが今回はどうやら相当調子に乗ってる奴らしい。
あのマンションは俺のお気に入りで、部屋を自分の好みに
其処に住み着くって事は、この板垣竜兵に喧嘩を売っている事と同義。
それはこの歓楽街に住んでる奴等なら理解しているし、マンションへ俺の許可なしに立ち入る奴はいない。
どうやら、マンションへ勝手に入っていく男を見て、舎弟たちは追い払うために件の男へ接触したらしいが、”勝てる気がしない”らしく、俺に頼った。
「今から向かうぞ」
俺は部屋まで赴くと、確かにソイツを目にする。
まず驚いたのは、その
俺を目にしても全く驚いた様子も無く、ピンっと張った背筋で俺を見据える奴の眼光は鋭く、思わず俺は後ずさった。
(ありえねぇ……コイツ、何者だ?)
そう働かない頭で考えていると、不意に男は一歩前へ進み俺へと近づく。
余裕のない俺は、その一歩が戦いの合図だと勝手に認識し男へと殴りかかった。
特別な構えは必要としない、只振りかぶって殴る、それだけの事だが俺に勝てた奴はいない。
(ぶっ倒れろッッ!!!)
拳は、確かに男の鳩尾に直撃し、ドスンと鈍い音を発てて尋常じゃない痛みを
確かに、顔面を殴れば最悪此方の手が折れるほどには痛いが、俺が殴ったのは丁度骨も何もない鳩尾のど真ん中だぞ?
なのに殴った感触はまるで、鉄。
「てめぇ……腹に何か仕込んでやがるな?」
「エフッエフッ……自らの拳を疑う前に、俺を疑うか」
男は、不気味な声で含み笑うと俺の拳を見て、更に笑みを深める。
得体の知れないこの男に、背筋が粟立ったがそれは今はどうでも良い、というよりもどうしようもない。
今は、殴ったことにより生じたこの距離から離れないと、この男何をしてくるか分からないし、それが妙に恐ろしいのだ。
「チッ!!」
慌てて後ろへ、何が来ても対応出来るように摺り足で下がり、再び助走をつけて殴ってやろうかと考えていたが、俺のその考えは今思えば甘かった。
二メートル程距離を取り、男を正面に捉えた俺は何が起きても対応できるという絶対の自信を持って、次の攻撃への準備を瞬時に開始する。
「もうお帰りかァ?」
そんな男の声が聞こえた瞬間、まず隣にいた筈の舎弟が轟音と共に消えた。
次いで聞こえてきたのは、部屋に入る時逃げられない様にしっかりと閉めた扉が吹っ飛ぶ音。
そして、俺に襲い掛かるのは圧倒的な威圧感と釈迦堂のおっさんにも似た凶悪な闘気。
相対している男の髪がメリメリと俄かに立ち始めたかと思えば、マンションのコンクリート壁に罅が入り、何か黒いオーラの様なモノが辺りに立ちこみ始める。
恐らく、先ほどの轟音は、殴ったのではなく気を何らかの方法で見えない様に飛ばしたのだろう。
チラリと、吹き飛ばされた舎弟を見てみると目立った外傷は無いが気絶しているし、壁にめり込んでしまっている。
「アンタ……何者だ?」
意図せず、震えてしまう声を僅かに残ったプライドで必死に抑えつけ、聞きたいことを聞いた。
そもそもこんだけ強い奴が今まで、噂にならずに生きてきたことが可笑しい。
そして何故、今この川神に現れたのか。
あの有名な武神——川神百代は、強い奴がいるとすぐに会いに行くと聞くが、この男とは恐らく接触していないだろう。
「名は範馬勇次郎、それ以外はァ……拳で聞いてみるか?」
そう言って、男――範馬勇次郎はポケットに突っ込んでいた右腕を俺の眼前に突き出し、笑った。厳つい顔に皺を深く刻み付けて、純粋に笑ったのだ。
邪悪な鬼は消え、今は只々この雰囲気に似合わない爽やかな顔で笑みを浮かべて俺の返答を待つように拳を突き出している。
「範馬、勇次郎……さん」
「ただ、まァ」
————一発は一発だ
そう言って、俺が殴った時と同じ場所を、そのまま俺に返してきた。
軽く殴ったであろうそれは、恐らく内臓に傷をつけたと予想できるほどの衝撃を俺に与えて、意識を奪おうとしてくる。
だが、ここで無様にも気絶してみろ。
それじゃあ意味がない、俺はこの人に認められてぇんだ。
「はッはは!!こりゃ、いてぇわ」
いつの間にか、この人に認められたいという気持ちが芽生えていた自分に思わず笑いながらも、胸は痛いぐらいに昂ぶっていた。
あぁ……これは、恋だな。
「勇次郎
「……用が済んだのなら、疾く消えろ」
そう言って、勇次郎さんは俺に背を向けて窓から外を眺め始めた。
その逞しくてデカい背中からは、気のせいかも知れないが優しさが滲み出ている気がする。
俺は、気絶している舎弟を背負ってその場を後にした————。
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勇次郎side
「勇次郎さん、誰がリークしたのか分からないが警察の奴等俺らが攻めてくること知っていやがったッ!!」
お、おう。
俺がマンションの自室で、出番がない事を祈りながら炭酸水を飲んでいると、不良の一人が頭から血を流して駆け込んできた。
既に警察とドンパチしてるのだろうか……まさか流血するほど激しいとは思わなかったけど、まぁ警察が相手だ殺されはしない筈。
それに、幾ら
俺はその思いを乗せて、息を切らしながら青い顔で俺を見つめる不良を見た。
ますます顔が青くなった気がしたけど、恐らく出血量が見た目以上に酷いのだろう。
これは、俺も行かなきゃいけないだろうか……正直、俺が出ても何も変わらないと思うんだけどなぁ。
それを言葉に出すと
「俺が出て、一体何が変わる?」
「ッ!!……まだ、自分達でやれます。勇次郎さんは、此処でゆっくりしていてください!!」
俺の言葉を聞いて、一瞬驚いた顔をしたかと思えば、次いで決意を固めた顔で不良は走って、来た道を戻っていった。
あぁ、使えない奴だとか思われてるんだろうな……多分、『俺達で何とかしないと』って感じで決意して戻っていったんだと思う。
……様子ぐらい、見に行くか
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舎弟side
「お前達は、向こうの鉄パイプ持った餓鬼どもを鎮圧しろッ!!だが、只の餓鬼だと侮るなよ、ガキはガキでも戦えるガキだ!!」
「「「了解ッ!!!」」」
「おう、お前等!!勇次郎さんのお手を煩わせねぇように死ぬ気で戦えやッッ!!!」
「「「おうッ!!!!」」」
俺は、さっき竜兵さんの指示で勇次郎さんに助太刀を頼みに行ったが、死ぬかと思ったぜ……。
竜兵さんの情報だと、勇次郎さんは弱者が嫌いで弱くても最後まで戦い抜くような奴が好きだ、とか言っていたが本当なのかもしれない。
俺が、遠回しに助けてくださいと勇次郎さんに言った瞬間、勇次郎さんの表情が豹変した。
透明な何かを飲んで若干ゆったりしていた目が、ギョロリと俺に向いたかと思えば不機嫌そうな表情でこう言い放ったんだ。
『俺が出て、一体何が変わる?』
これは、俺達に対する言葉だ。
勇次郎さんが出て、警察を壊滅させたとしても、それは俺達の力では無い。
つまり、勇次郎さんは、
それを竜兵さんに伝えると、竜兵さんもそれで納得したのか深く頷き警察へ再び勢いよく向かっていった。
ただ、俺達は圧倒的に不利だ。
最初は、俺達が圧倒的に警察を追い込んでいたのに、奴等は追い込まれるのを分かっていたのか、特殊部隊まで登場して流石に俺達もドンドン数を減らされて気が付けば竜兵さんと、数人しかいない。
あの特殊部隊は一人一人が相当強いし、装備が硬く、おまけに催涙弾やらゴム弾やらを持ち出してくるので竜兵さんですら上手く動けないのだ。
「ぐッ!?」
そしてついに竜兵さんも、特殊部隊の奴等の連携した攻撃に突進を止められ、その隙にドロップキックで吹き飛ばされた。
後方で警察と戦っていた俺の方に竜兵さんの巨体が飛んできて、容態を確認する為に其方を見やると、体の至る所にゴム弾や殴られた青い痣が出来ている。
恐らく、もう竜兵さんは動けない……。
「ガキどもが……手こずらせやがって!」
特殊部隊の隊長と思わしき人物が、気絶した他の皆に手錠をかけた状態で真ん中へ集めて苛立った様子で殴り始めた。
ここは警察庁だし、周りにひかれたバリケードのせいで通行人からは何も見えない。それゆえの暴行なのだろう。
しかし、敗者にそれを咎める権利は無い。
それに俺達は警察に喧嘩を売ったのだ、本来ならもう社会に出る事も難しいという所なのだから。
暫く、特殊部隊隊長からの暴力に皆で耐えていると、不意に辺りの風が止んでいる事に気が付いた。
どうやら、特殊部隊の隊員達も気が付いた様でキョロキョロと辺りを見渡し始めている。
しかし、隊長の奴は興奮状態なのか全く気が付かずに未だに拳を奮い、脚で蹴り上げていた。
「ッ!!」
俺達の周りを囲っている、特殊部隊や警察の奴等の向こうから何か近づいてきているのを直感で感じる。
何というか、力を抑えつけて静かに歩いているといった風に、そうまるで火山が噴火する直前のような……。
「隊長……あ、アレ何ですかね?」
「あん?どれだ?」
不意に、特殊部隊隊員の一人が一カ所を指さし、青ざめた顔をして目を見開いた。
次いで、隊長の男もその方向へと目を向けて、動きを止めてしまう。
(一体何が……?)
隣で血を流して動かない竜兵さんの様子を見つつ、俺も其方へ目を向け思わず声を洩らしてしまった。
俺達の周りを囲む警察や特殊部隊の向こうに、二メートルはあろうかという人影が見える。
否、あれは最早人では無い————鬼だ
『随分と、世話になったみてぇだなァ?』
警察達の向こうにいたのは、範馬勇次郎さんその人であった。
しかし、その形相は最早人に非ず。
赤黒い髪は逆立ち、警察達を見渡している瞳は充血しきり真紅に染まっているのだ。
ポケットに突っ込む手や、犬歯を剥き出しにして凶悪な笑みを浮かべている表情には太い血管が幾重にも浮きだっており、全身から滲み出る闘気は空気を歪ませる。
鬼の様な形相で放った言葉は何故かエコーがかっているように聞こえ、間違いなく警察達の動きを止め、飛んでいた鳥や歩いていた猫達は例外なくこの街から出て行った。
この状況に、警察達も後ずさり腰に巻いたベルトから拳銃を迷わず取り出し、震える手で構える。
この状況、勇次郎に怯えているのは何も警察だけでは無い。
勇次郎さんを慕う俺達もまた、酷く怯えていた。
「や、やべえな……勇次郎さん、俺らが余りにも不甲斐ないからブチ切れだぜ」
竜兵さんが、勇次郎さんの形相に震える声でそう呟き、青い顔で俯くと汗をダラダラ流しながら動かなくなる。
恐らく、思考が止まってしまったのだろう。
「お、お前は
『あァ、ご名答』
警察隊長の問に、勇次郎さんは笑いながら手をパチパチと叩いて見せた。
その勇次郎さんの動きに、何かを仕掛けてくると思ったのか何人かの警察が悲鳴を挙げて一歩後ずさる。
そして、暫く勇次郎さんは拍手してから不意に動きを止めて、虚空を見つめはじめた。
それを見た警察の一人が、慌てた様子で懐から無線を取り出すと何処かへと電話をしてから勝ち誇った表情でこう口にする。
「おい、範馬とやら!!今、川神院へ救援要請をしたところだ。其処のお仲間達を置いてお前は消えろ!!」
警察は川神院と繋がっていたのか……。流石に、あそこの師範代レベルがきたら勇次郎さんでも危ない。
その門下生でも、複数くればとんでもない強さだ。
川神院は日本の最終防衛ラインとも呼ばれる程、猛者たちが集っているし、総代なんて軍隊でも勝てないんじゃないかと噂されるほどに強いらしい。
それは、幾ら強い勇次郎さんでも知っている筈……なのに、勇次郎さんは笑みを浮かべてその場から動こうとしないければ、むしろ楽しそうにしている。
『ふふふ……』
「な、なにがおかしいッ!!」
川神院へと無線をかけた警察が、勇次郎さんの余裕な表情と態度にイラつきながら声を荒げた。
しかし、幾ら有利な状況になっても勇次郎さんを恐れているのか声は震えているし、体も随分と震えている。
すると不意に勇次郎さんは、空を仰ぎ呟いた。
『成程なァ』
勇次郎さんの言葉の意味が分からず、その場の全員が訝しげにしているとすぐに言葉の正体が分かることとなる。
全員が勇次郎さんと同じように空を見上げて、其れに気が付いた。
ドカンッッ!!
空から降ってきた物体により、アスファルトが砕け散り辺りに巻き散っていく。
数秒遅れて風が砂と共に辺りに吹き荒れると、その中心にあったのは人間。
しかも黒髪の美少女だ。
しかし、その美少女は川神に住んでいれば……否、住んでいなくても誰しもが知っている人物。
武神と謳われるほどの強さを生まれ持った才能で得た怪物————川神百代が鋭い瞳を更に細めて、
対する勇次郎さんは、浮べていた笑みを深めてその顔は更に鬼へと近づいていく。
逆立っていた赤髪は、意思を持ったように揺ら揺らと左右に揺れているし、空間を歪ませていた透明な闘気は強まって紅い色に変わっていた。
「会いたかったぞ、強敵」
『エフッエフッ……俺からすると逆だな』
瞬間川神百代の姿が消え、勇次郎さんの顔面へ拳を放った———。
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川神院
「つまんないにゃぁ~。構えよ~大和ぉ」
「そう言われてもね。姉さん暇なら勉強しようか」
全く、姉さんにも困ったものだ。
暇だから遊びに来いと言われ、川神院に赴いてみたら黒のタンクトップを着て畳でゴロゴロしている女子力ゼロの姉さんを見た。
正直、俺は姉さんが好きだ————異性として。
理由は分からない、いつの間にか好きになっていたのだから。
口では姉さんに意地の悪い事を言うけれど、本当はもっとアピールできる様な事を言いたい。
それに、姉さんはつまらなそうにしているのが不甲斐ない思いにさせて、兎に角姉さんと話を繋げようと躍起になってしまうのだ。
普段の姉さんは、誰といても表面上は楽しそうにしているが何処か退屈そうな顔を見せる。それは風間ファミリーの皆でいるときも変わらない。
それが歯痒く、悔しかった。
「ん、電話か?」
不意にどこかから電話の音が聞こえてくるが、姉さんは動く気配を見せずに只ゴロゴロとしている。
それどころか、俺に代わりに対応してきてくれなんて言ってくる始末だ。
姉さんのだらけ切った様子にため息が洩れるが、姉さんのそういう所は別に嫌いなわけでは無いので顔は自動でニヤケてしまう。
一人でニヤニヤしつつ、電話に出て俺の笑みは消えた。
『警察のモノだが、川神院に繋がっているかッ?』
「えぇ、一応川神院ですがどうかしました?」
一瞬、川神院に住んでいる訳でもない俺が対応していいのか迷ったが、これは姉さんに聞かせて良い内容では無いと勘が警鐘をならすのだ。
気が付けば俺が対応する流れになっていた。
鉄心さんがいれば、すぐに変わるのだけど……。
『奴だ、奴が不良を束ねて攻めてきたんだッ!!至急、応援を頼む』
奴?
まさか、姉さんが言っていた例の……。
これは余計に姉さんに教える訳にはいかなくなった。が、姉さん以外の川神院の人に言わないと流石に不味い。
「分かりました。すぐに救援に向かいます」
そう言って、俺は相手の返答を待たずに電話を切った。
そして、どうするべきか考えつつ電話に背を向けると何か柔らかいモノに体が当たり、軽くよろけてしまう。
柔らかいモノの正体を探るために顔を正面に向けると、其処にいたのは真剣な顔で俺を見つめる姉さんだった。
「大和、今のは誰からの電話だったんだ?」
「いや、姉さんには関係の無いことだよ。他の川神院の人に伝えられればそれで大丈夫だから」
俺の言葉に、姉さんは苛立った様子でトントンと足で床を叩き俺を睨み付ける。
あの電話は聞かれていなかった筈……何故姉さんは此処までイラついているんだ?
「関係無い筈がないだろ?確かに聞こえたぞ、奴が攻めてきたから助けてほしいと。何故嘘を吐くんだ大和?」
っ!聞かれていたのか……これじゃあ何も言い返せない。
それに姉さんに睨み付けられると、怖いんだ。威圧とかそういう意味で怖いんじゃなくて、嫌われるのが怖い。
正直に話すしか、姉さんに嫌われない道は無いのだ。
「正直に言ったら、姉さんは行くんだろ……?」
「当たり前だ。私の助けを必要としているのだからな」
そう言った姉さんの顔は、やっぱり俺達に向ける笑みとは違う。
本当に楽しそうに、笑っていた。
獰猛にも見えるけれど、それは近しい者なら分かる純粋な笑みだ。
俺達は姉さんを真に楽しませることなんて出来ていなかったんだな、とこの笑顔を見るたびに実感する。
そして、戦いが終わり相手が姉さんに手も足も及ばずに負けて、姉さんはとても悲しそうな表情で学校へと現れる。それが日常。
きっと、今回もそうなのだろう。
「ん~、じゃあちょっと行ってくる。大和、留守番頼んだぞ!!」
「……うん、行ってらっしゃい姉さん」
俺のモヤモヤする心は晴れないままだ
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百代side
「会いたかったぞ、強敵」
そう言った私の顔は酷く歪んでいるんだろうなぁ。
大和にも、私が戦う前の表情は余り好きじゃないと言われた事があるし、そんなに酷いのかと一時期止めようとしてみた……けど、やっぱり強い奴を目の前にするとどうしても抑えが利かないんだ。
昂ぶる心に同調して、自然と体が火照り顔が歪んでいく、此ればかりは止められない。
いつもそうだ。
そうして、世間では強いと言われる奴らと戦って、私が勝つ。
全力何てここ数年出していない、否出す必要が無い。
勝った後の、心にぽっかり穴が開いたような虚無感は、例えファミリーの皆や大和といても塞がらないし、心の奥底から楽しめないんだ。
強い男、いや女でもいい。私はきっと、真の強者に会った時ソイツに惚れる自信がある。
そして、今目の前にいる男。
少し前から急に、警察や川神院で噂が出てきてあっという間に、危険人物と言うレッテルを張られた。
不良達を束ねて、裏でコソコソ何かやっていると思ったら、こんな大掛かりで大胆な事をやってくるとは思いもしなかったぞ。
警察に囲まれた不良達も個人個人はそこそこ強いと見たが、目の前に立つ男――範馬は別次元だ。
溢れ出る闘気に底が見えないし、まだまだ余力がある。きっと。
『エフッエフッ……俺からすると逆だな』
闘気をふんだんに含んだ声は、低く重い。
あぁ……コイツは強い、強すぎる。きっと、私が男だったらこんな風になっているだろうな。
思わず、強烈な範馬の気に腰が砕けそうになるのを耐えて小手調べに一発殴ってみよう。話はそれからだ。
それに、範馬の言葉『俺からすると逆』というのは、私が強敵として見られていないという事なんだろう。
なめられたものだが、今はそれも心地いい。
「耐えろよ範馬ッッ!!!」
口ではそう言ったが、私はこの男が耐える事を確信していた。
腰を大きく捻り、大振に拳を突き出す。
強い奴なら、瞬時に避けられるか反撃を喰らうか……そのどちらかだが、さぁ範馬はどうする!?
今の攻撃は大振だが、そのぶん威力は高い。
普通に考えれば当たると言う選択肢はない、ないのに
「は、はははっ!!範馬、アナタは最高だな!!」
思わず笑ってしまう。
範馬は、私の一撃を顔面にモロで喰らったのに、耐えた!!
しかも、笑顔まで浮べているなんてな。
私は確信した。
範馬を越える男は存在しない、正しく最高の男だ!
きっと、笑顔を浮かべているのは私と同じ理由なのだろう。
強者故の孤独、それは本当に強い奴にしか分からないし、分かり合えないもの。
漸く、漸く分かり合える人が現れてくれたっ!
『貴様も、か』
やっぱりそうだ。
範馬は私と同じ考えをしている。
範馬も孤独だったんだなっ?
私がその孤独と虚無感を今すぐに、取り除いてやるぞ
「さぁ、闘おうッ!!私達にはそれしかない、
もう私は範馬にゾッコンだぞ?
その言葉は言わない。きっと、範馬はそれを嫌がるだろう。
すると、私の言葉を聞いた範馬の表情は見る見るうちに変化していき、笑みは消えて驚いた様な表情を浮べた。
次いで、怒髪天を衝く勢いで顔が怒りに歪み強烈な殺気と共にこう言葉を放つ。
『孤独やら何やらと仲良しごっこかァッ?そんなモノは闘いに於いて、上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想だッッ!!!』
そう言って範馬は、近距離に居た私の腕を掴むと放り投げた。
私も多少は抗ったのだが、やはり範馬はとんでもない力を持っていていとも簡単に、私の体は空中を舞い、地面に叩きつけられる。
今は、それさえも心地よく心に空いていた虚無感は見る見るうちに塞がっていった。
掴まれていた腕がジンジンと痛い、痛いがその痛みも範馬が与えたものだと思えばジンワリと熱に変わる。
さぁ、範馬。
存分に
何か余りにも切り方が……。
次回は、オリ主側の勘違いと百代とのイチャイチャ(闘い)の二本です。