クラス対抗戦。文字通りクラス対抗戦だ。代表者1名がクラスの威信をかけて試合に挑むなんて大仰なものではなく、千冬姉さん曰く、あくまで現時点での実力確認程度のイベントだとか。大概は専用機持ち達がクラス代表となるために、各国家代表候補選手の現時点の実力を確認するという、大人な事情しか存在しないイベントに参加するのはもちろんクラス代表の面々。
1組代表はボク等を楽しまてくれるオルコット。馬鹿飛車で他のクラスからもそういう評価を受けてしまっている残念なエレガント貴族女子。実力は未知数。本人があの態度を見せることを考えれば強い方だと思われる。
2組代表は知らない。クラス代表になれるはずの鈴はボクの左隣で戦いとは無縁とばかりにしているから。クラス代表になると時間が取られてしまうから、というのがクラス代表にならなかった理由だ。
3組のクラス代表は篠ノ之一夏。転入当日に祭り上げられてしまった結果の代表だ。抗うことも許されずにクラス代表となり、男子の転入を聞きつけて喧嘩を売りに行ったオルコットに触発されてクラス代表を完全に受け入れてしまった漢だ。ボクだったら何がなんでも拒否してみせるのだが、篠ノ之は強い身分なようで真っ当しようと頑張っているようだった。
4組のクラス代表も知らない。というか本日は一身上の都合により欠席だ。専用機持ちであることだけは相川さんからの情報で知っているくらい。それだけ。
第1試合はオルコットと2組の代表。オルコットが優雅に勝利しておしまい。レーザー・ライフルだけで勝利を収めてしまった。
で、第2試合であり、最終試合でもある次の試合はオルコット対篠ノ之という専用機持ち2人による熱い対戦カード。生徒たちの期待値はぐんぐんと上昇してうなぎ登りで、会場は灼熱にまで達していた。鰻のかば焼きの出来上がりだ。
どちらが勝利しても構わないボクは冷め切っていた。というよりもイベント開始するよりも前に頭痛薬を飲んだせいで少し眠くて熱中できる体調じゃない。太鼓の重低音がドーンドーンと鳴り響く鈍痛は精神を摩耗させて薬を飲んだ後でも辛い。だからこそ、副作用でやってくる睡魔に身を委ねると辛さから解放される。
「大丈夫?」
箒の膝枕を受けて横になっているボクに鈴が声をかけてくれる。箒の膝枕に対して不満を漏らさないのは、先日2人が互いを認め合ったからだ。河原で決闘して友情を実力を認めて友達になったとかではなく、放課後のアリーナでISバトルをしたのだ。軽快なステップと自分の身体を独楽に見立てた激しい立ち回りを見せる鈴と、要害のようにどっしりと全て攻撃を防いで見せる箒の激しい戦い。強烈な攻撃と、それを凌ぎ切る隙のない防御。攻撃が通るのか防ぎ切れるのか、と思わず手に汗握って観戦してしまった。すごい勢いで喉が渇いてしまったから、2リットルのペットボトルを3本も開けてしまったのは内緒だ。塩って喉渇く。
「ひとまずは」
2人のぬくもりに段々と瞼が重くなってくる。睡魔にゆっくりと引き寄せられていく。辛さからの解放を求めて意識が睡魔へと歩み寄っていく。
オルコットと篠ノ之の試合が始まったけど、眠気の方が魅力的なボクは簡単に意識を手放してしまう。だって、この頭痛の余韻が気持ち悪いのだから。
普段は高飛車で騒がしい愉快な人という印象をオルコットさんに抱いていた。だけど、それは間違いだった。間違いだと認識を改める必要がでてきた。青空に溶け込みそうでありながも、決して青空の色には紛れないブルーはオルコットさんによく似あっていた。その辺の者には埋もれない意志みたいなのが見える。もしかしたら勘違いかもしれないけど、そんなことを気にしては他人への評価なんてできない。間違えていたら評価を改めればいいのだ。
相川清香は静かに暮らしたい。もちろん嘘だ。趣味はスポーツなのだ。静かに暮らすなんて不可能だ。みんなでわいわいやったり、バカみたいな話で盛り上がりたいタイプ。暗い話はノーセンキューでござい。
オルコットさんは空中で優雅に舞い踊る。四基のブルー・ティアーズが空中でクルクルと助演俳優のようにオルコットさんの勝利を手繰り寄せようと動き回っている。
篠ノ之くんは目の前以外からの攻撃に悪戦苦闘。必死に回避してはオルコットさんに肉薄しよとしているけど、上手く出鼻を挫かれて近寄れていない。
「さあ、踊りなさい!! わたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!!」
台詞がよく似あっている。生まれと育ちが言葉すらも一体としている。私が言えば絶対に馬鹿っぽくなる。それを当然のように使えるオルコットさんはやっぱり貴族なのである。
レーザーが飛び交う中で、篠ノ之くんは全く対抗できていない。でも、負け犬ムードはない。必死に活路を見出そうとしている。真っ白な装甲と同じように敗戦の灰色ムードを映し出さない強さがある。一振りのブレードだけで攻撃を防ぐ姿は勝利をもぎ取ろうとしているのだ。
その姿を目で追っていると、ふと織斑くんが視界の端に映り込んだ。篠ノ之さんに膝枕をされて瞼を閉じて眠っている。さっきまで、教室で頭を抱えて呻いていた姿から一変して、穏やかな寝顔を見せている。ほにゃっとした頼りない雰囲気と顔だちで、守るよりも守られる方が性に会っている。いっつも篠ノ之さんや凰さん、織斑先生に守られている弱い男子だ。同じ顔をしている篠ノ之くんと比べると頼りない部分がより強調されてしまう。
でも、織斑くんはそれでいいと思う。人それぞれなのだ。いちいち押しつけていたらキリがない。
「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない」
おっ、篠ノ之くんが飛び回るブルー・ティアーズを一基撃破した。ブレードでぱっくり真っ二つ。ボンと爆発するブルー・ティア―ズの爆発の余韻で、手に入れた情報を披露して相手の弱点を抑えたことを告げていた。
それからポンポンと2番基、3番基を撃墜していく手腕はさすがとしか言いようがない。それで調子を乗せた篠ノ之くんが突撃を開始しようとするが、オルコットさんは不敵な笑みを浮かべるばかりで焦った様子はない。
「ふふふ。わたくしがはいつからブルー・ティアーズは四基しかないと言いましたか」
それはもう悪女の名前を広めていいほどの笑みと台詞。いつからオルコットさんが悪女じゃないと錯覚していた、なんてね。
訝しむ篠ノ之くんを観客として、オルコットさんが左手で髪を払った。それを合図にオルコットさんの周りで量子が集まっていった。それも大量に。
「わたくしのブルー・ティアーズ最大稼働数は14基でしてよ」
量子が形を成してブルー・ティアーズがわらわらと姿を現す。オルコットさんが指ぱっちんすれば一斉に動きだして篠ノ之くんを取り囲む。
篠ノ之くんはマズいと思ったのか、それとも囲みを突破すればなんとかなると思ったのか、前進する。ブレードを構えて一直線にオルコットさんを目指す。
上手い。全てのブルー・ティアーズを篠ノ之さんの周囲へと飛ばしてしまったために防御が手薄になったところを狙うなんて。
「零落白夜!!」
青白い光を発したブレードを両手に構えての突進。
変なものだ。零落白夜といえば織斑先生が現役時代に使用していたワンオフ・アビリティーだ。エネルギーの迸る刃に振れればシールド・バリアーを切り裂いて無理矢理絶対防御を発動させる最強の攻撃力を持った能力。織斑先生が世界最強の称号を得ることのできた圧倒的な力と言うべきだけど、それをどうして篠ノ之くんが使えるのだろう。織斑くんが使えるとしたら姉弟だからと納得できるけど。
分からないことだらけだ。ま、きっと私には関係のない話だろうから気にしないでおこう。暗い話はノーセンキューなのですも。
「かかりましたわ」
うーん。私も眠っている織斑くんの頭を撫でてみたくなった。篠ノ之さんや凰さんがよく撫でているからきっと撫で心地がいいんだろうな。
「わたくしのブルー・ティアーズの最大稼働数は確かに14基までですが、このブルー・ティアーズに搭載されているブルー・ティアーズの数は30基ありましてよ!!」
なんだかオルコットさんがややこしいこと言っているな。イギリスはISにも武器にもややこしい名前をつけて判別つけ辛いと考えなかったのかな。
意外に試合に専念できていないままに眺めると、オルコットさんの周りに十数基のブルー・ティアーズが現れた。またか、と思っちゃうのは仕方がない。
そんな気持ちでいたのが悪いのか、何かがやってきた。
最初は何か分からなかった。後だしじゃんけん的に今度は篠ノ之くんが何か新しい手札を出したのかと思っただけ。
だと思っていたらアリーナのど真ん中に変なのがいるではありませんか。人間とは思えない奇抜なシルエットをした変なのは、空中でぶつかり合おうとして中断されて手持無沙汰になった2人目掛けてビームを撃ってきた。
「ありゃ? ビームじゃないの」
とか言っている場合ではないので会場にアラームが鳴り響く。えまーじぇんしーあらーむだ。マズいじゃないでしょうか、と周囲を見渡せば顔色青くして皆がアリーナの出入口へと殺到していた。でも波は途切れずつかず離れず。どうやら扉が開かなくて逃げられないらしい。そりゃ大変だ。
私としてもさすがに浮足立ってしまったのは乙女の恥じらいでして、これはいけないなと思いつつ急いで織斑くんの近くへと向かう。打算的かもしれないけど、織斑くんと凰さんは専用機を持っているから2人のいるところがおそらく一番安心安全なのである。キレる頭脳に我ながらの称賛を送りたい。脳には糖分ということであまーいケーキをホールで注文して脳にご褒美身体に贅肉さ。
ふざけているわけにもいかず、全速力で織斑くんの元へと向かう。スカートがはだけてもいい。だってスパッツ穿いているし、という周り女子だけだから気にならない。
「ナンバーワンよりナンバーツー。これが相川清香の人生哲学だ。文句あっか!!」
「緊急時に突然やってきて突然何言ってんのよ!?」
「いえいえ、これは場を和ませる小粋なジョークでして」
「声震わせて言われても和めないから。和むっていうのはね、この一夏の寝顔のことを言うのよ!!」
「静かにしろ、一夏が起きてしまうだろ」
「私が言うのもなんだけどきんきゅー事態だよ。寝顔とかなんとか言っている暇じゃない」
「いやいや、相川。私たちにとっては一夏以上に優先することはない」
「その通りよ。まったく騒がせなんだから」
「ええと……ほら、アレほっとくと織斑くんにも被害が行くかもしれないんだよ」
事実なので包み隠さず伝えてみる。いくら私だって命の危機には鈍感ではいられない。それに織斑くんとはなんとなく仲が良いので危害が向くのは忍びない。忍びないでゴザルよ。
「本当だな。アレであのアイツらがアレされてしまえばアレの攻撃が一夏に向くかもしれなな……調子に乗られるのは耐えられないな」
「篠ノ之さん。アレばっかりで意味分かんないけど」
「ちょっと!! 一夏が危険に晒されるなんて許せるわけないでしょ。許せるわけないんだから、ぜっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーたいに許せないんだから」
「凰さん。もしかしてアヌビスの支配下に入っちゃってるとか言わないよね」
もう覚えた、とか言い出しらどうしようかな。とりあえず織斑先生に報告でもしておこうと思う。
そうこうしている内に、アリーナでは篠ノ之くんとオルコットさんが必死に変なのと戦っていた。ビーム連射で上手く近づけてないみたいだ。あんなに大量にあったブルー・ティアーズなんて全部落とされちゃってるし。オルコットさん涙目になってるし。安心要素の欠片もないし。
「というわけで凰さん出番ですから」
「どういうわけよ。というか出番と言われてもバリアーが邪魔で割って入れないしさ。扉はどこも閉め切っちゃってるんだけど。それでどうやって助太刀しろと?」
うん。正論に返す言葉もありません。セイロンティーもありませんと。
「ううん……うーん」
凰さんが苛立った顔してシールド・バリアーを素手で叩いていると、ぐっすりと眠っていた織斑くんが目覚める。ちょっと可愛いと思った私は間違いじゃないはずだ。状況を考えなければ。
「一夏、おはよう」
「おはよー。ああ、寝ぐせついてるじゃない」
「うん。おはよ……う?」
寝起きで思考の回っていない織斑くんが目をこすりながら辺りを見渡して、アリーナで行われている惨事に気がついた。
そこで気がついた。そういえば織斑くんのISはシールド・バリアーを貫通する威力だったような。アレ、織斑くんが狙撃すれば丸く収まるんでね。
「お2人さん、お2人さん。モノは相談でございますけど。織斑くんのISで不届き者を成敗してもらえるように説得してもらえんでしょうか?」
過保護な2人だし、織斑くんは争いごとに向かないタイプだから無理かもしれない。でも言わなきゃ分かんないっしょ。1パーセントの可能性があれば、私はその可能性にかける。まるでマンガのヒーローみたい。おっと、男じゃないからヒロインじゃないと駄目だね。
「……ふむむぅ?」
篠ノ之さん。意外にも迷ってはくれるんですね。ちょっと希望抱いてますよ私。
「えー? でも危ない事態だしね。ほっとけば一夏も危ないし。うーん」
アレ、これ一夏くんダシに使えば交渉は上手く行く気がする。
「ほ、ほら。一夏くんの安全を考える必要もあるしさ。もしも攻撃外しても、シールド・バリアーを破れるわけだから、その穴から凰さんが討って出ることもできるよ。守りは篠ノ之さんがいるわけだし」
ここで折れるわけにはいかない。学園の平和のために、なんて偽善は置いておくとして、やっぱり自分の身が可愛くて仕方ないのよ。ナルシストと笑いたきゃ笑え。お前らもどうせそうなんだろ。おまえらって誰だ。
「そうね。ここで一夏が初陣を飾るもよし。失敗してもアタシがぶっ叩けばいいわけだし」
「そうだな。いざとなれば私がなんとでも守ってみせようぞ。そのために鍛えたこの身体だ」
頼もしいこと言ってくれる2人。後は織斑くん次第だ。
「お願い、織斑くん。清香を平和に連れてって」
甲子園に興味はないからこんなことしか言えない私を許してください。
「うーん。分かったぁ」
ちょっと頭の弱い子みたいな感じになっているのは寝起きのせいだろうか。それとも頭痛薬がまだ効いているからだろうか。でも、今はそれが救いだ。スイスイと事態を進めてしまう。
織斑くんは了承してISを纏う。篠ノ之くんの純白のISに比べると見劣りしてしまう灰色のISが今はとても頼りになる。
巨大なビーム砲を構えて、アリーナの敵へと狙いを定める。
「もしもだけど。アレに人が入っていた場合は……相川さんを恨んでいいんだよね」
織斑くんが引き金を引く間際に、そんなことを言ってきた。私が思わず振り返ると、溢れんばかりの光の束が砲口から伸びて、シールド・バリアーを突き破って変なのの上半身をグズグズに溶かして無力化してしまった。