IS ぎきょーだいになりましょう   作:ネコ削ぎ

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 最近妙な噂が飛び交っていると専らの噂である。噂を噂するなんて2重にダブルなことをするのが最先端を行くIS学園の特色だ。言い方を変えれば日本語力の低さに定評のあるIS学園ということにもつながってくるので、それは言わないでおくのがいい。

 噂の内容については簡単で面倒で迷惑なものだ。なんでも、今度の学年別個人トーナメントで優勝した者には織斑一夏及び篠ノ之一夏と付き合うことができる、というものだ。それはもうはた迷惑な内容だ、と箒や鈴が憤りを見せていた。そして、何故か千冬姉さんがとってもやる気を出していた。姉弟間の許されざる恋愛が巻き起こりそうな予感に、ちょっとだけドキドキしてしまったのは秘密にしておく。まるでテレビや小説みたいな展開に、もしやボクは血の繋がりのない姉弟なんじゃないかと思ってしまう。だとしたらショックだ。

 箒はやる気を出している。何故か、と疑問に思って問いかけてみれば、一夏を守るのが私の役目だろ、とキュンとするようなことを言ってくれた。ボクが女だったら1発で恋に落ちる台詞に、箒にはどんどんと迷惑をかけていってしまっている気がした。はちみつレモンの差し入れをしなくては。

 同じく鈴のやる気を出していた。何故か、とやはり同じく疑問に思って問いかけてみれば、アタシが面倒見てあげるか大人しく守られなさいよ、とこれまたキュンとするようなことを言ってくれた。ボクが女だったら1発で恋に落ちる台詞に、鈴には全くかなわない気がした。酢豚の差し入れをしなくては。

 渦中の本人様ことボクは全く危機意識を持たずに日々を過ごしている次第である。果報は寝て待て、既に動き出した事態に対して今更ちっぽけないち個人がどうにかできるものじゃないし、箒や鈴が強いことを知っているので、2人なら絶対に負けないだろうという信頼感があった。他力本願と笑われても構わない。プライドありませんから。

 1年1組の教室は妙に殺気立っている。もちろん理由は学年別個人トーナメントだ。みんながみんな鍛練を重ねて実力アップを目指している。本番当日は各国のお偉いさんがやってきて将来有望な生徒を発掘することがあるからだ。つまり、此度の戦は自分を売り込む最大の機会ということになる。決して、ボクと篠ノ之と付き合える権利を真剣に狙っていることはないはずだ。あったら困る、切実に。

「そこのところ、相川さんはどう思う?」

 朝の教室で相川さんに相談してみる。本日は箒も鈴も朝練で不在のために教室にはボクと相川さんしかいない。相川さんは底抜けに明るくあくてぃびてぃー女子だから、一緒に居ると気分爽快で明るくいられる。難点は明るくなりすぎて疲労困憊になること。途中でついていけなくなるから、早々に相川さんをワールドパージするに限る。友達とは切り離し棄てることと見つけたり。

「ふっふっふぅ。このIS学園において男子は2人だけ。それも片や守りたくなるほにゃり系男子。片やイケメンでカッコイイ系の男子。慎み深い女子高生の皆さまが涎垂らして虎視眈々と狙うのは仕方がないと思うよ」

「全てが全てがっつき系女子の話をしているような気がするけど……気にしない方が無難に終わる話かな」

「ここでの話は終わるけど。血肉を喰らう肉食系女子の間での話は終わらんぜー」

「聞かなかったことにしておくよ。それに箒や鈴が何とかしてくれるさ」

「ほほうほう。それはもう凄い他力本願な感じで、いっそ清々しくて見ていて爽やかライムミントだね。まぁ、万一にも私が優勝できたら織斑くんと楽しくデートでもしようと思いますゆえ、全てがゼロになりそうなほどの霞な確立を心待ちにして」

 ウインクして舌を突きだす相川さん。茶目っ気を狙っているにしては表情がよろしくなく、薬でラリッているようにしか見えない不思議。まぁ、ボクも薬でラリるタイプだから他人のこと言えないけど。

「そういえば、布仏さんから聞いたけど」

「どちらさま?」

 聞かない名前に問いかけずにはいられない。のほとけとは何者か。クラスメイトの顔と名前なんてほとんど一致しない中では、プラモのパーツを全て切り取って混ぜ合わせてから、必要なパーツを見つけ出して組み立てるかのような苦行だ。よって、クラスメイトの顔なんて分からないのばかりだ。

「ほら、あそこのぶかぶかっとした服着てるのほほんとしている子。ああいうキャラ設定は人前でマジギレできないから大変だと思う」

「人前でマジギレするのも後々けっこう大変だけどね」

「確かに。でね……こっそり聞いた話だが、本日、1組と3組に転入生がやってくるらしい」

 相川さんがこっちの心の奥まで見透かすようないやらしい目で見つめてくる。視姦されているようでいけない気持ちになってきた、ということはないので安心する。

「1組と3組。見事に奇数組」

「何でも1組は女の子。3組は男の子が来るみたいだよ。うーん、布仏さんの情報収集力には感服いたす。その調子で期末テストの答案か問題をこっそりリークしてくれたら親友になってあげてもいいほどにね」

「その条件ならボクも親友になってあげてもいいかも。それにしてもIS学園はこんなことがけっこう多かったリするの?」

「こんなこと?」

「転入してくる人の数」

 きっと分からないだろうな、と失礼なことを思いつつ聞いてみる。相川さんもボクも入学したばかりのひよっこだ。学園の特色なんて表面上のものくらいしか披露することができない。

「どうだろうね。うーん。でもIS学園は世界で唯一のIS操縦者養成学校だから、途中参戦者もけっこう多いと思う。完成した専用機の稼働実験の役割もあるのかもね」

 詳しくは分からないけど、と締めくくった相川さん。分からないなりに自分の予想を話すことのできる姿はまさしくできる女子だ。分からないことを分からないままの回答で終わらせずに、できる限り相手の質問に答えてくれるのだから。ボクなんかだと分からないままで答えを提出して加点も減点もされずだ。

 相川さんとああでもないこうでもないと話していれば、遂に教室に千冬姉さんが入室した。それまで喋っていた人達は出来の良い犬のように座席へと着席を果たしていた。かくいう相川も笑顔を曇らせないままに座席へと撤収していった。

「おはよう諸君」

 クールに挨拶をする千冬姉さん。カッコイイ。様になっている。さすが千冬姉さんだ。右手に引き摺っている死に体の箒に目を瞑ればカッコイイ。めんたまひん剥いて見れば……やはりカッコイイ。最強な姉に尊敬と敬愛が止まらない時間になりそうだ。

「ああ、右手のコイツか。気にするな。ビックマウス過ぎるから軽く活締めにしてやっただけだ。他意はない」

 座席に箒を座らせた千冬姉がこともなげに言ってのける。教師がポロッと体罰を告白したところで、この教室においては誰も密告も通報もすることはありえない。だって、箒が締められるのは今に始まったことじゃないのだから。ついでに鈴も締められている。シバキ倒すほど期待していると考えることにした。

 千冬姉さんは教壇の上に戻ると、コホンと咳払いをして周囲の注意を集めた。数秒前の惨事の結果から目を逸らしていた人達がすぐさま視線を戻したのだ。

「既に広まっていると思うが、本日から転入生が2名ほど来る。いいや、来ていると言うべきだな。このクラスには女子生徒が来る。3組の方は男子だ。それじゃあ紹介しようか」

 千冬姉が手を打ち鳴らして合図をすると、教室の扉が音もなく開かれた。

 

 

 

 ぐらりとした。頭がぐらぐら、脳みそガタガタに揺らされて、わけも分からずに椅子から転げ落ちてIS学園お馴染みの綺麗過ぎる床にまた頭を打ちつけてぐらぐらガタガタ。気がつけば誰かの足が視界の正面にいる。

「この程度か。この程度が教官の守りたいモノ?」

 上から声が聞こえてくる。つまらないと声色で分かってしまうほどの淡泊な声だ。

 一体全体ボクが何をしたんだって言うんだよ。

 教室に入ってきたのは銀髪と眼帯が目を惹く少女だった。それは冷たい氷のような表情で歓迎されにきたというムードじゃなかった。特に興味ないなー、と見ていれば少女と目が会って急接近されて頭を横殴りにされてしまったというわけだ。理不尽な暴力に頭が痛すぎる。

 ぐらぐらする頭を抱えて置き上がった時には、千冬姉さんが銀髪の少女を絞め落として無力化していた。ぶくぶくと口の端から泡を吹いているだけでなく白目を剥いている。千冬姉さんが腕に僅かに力を入れると、その平均よりも小さい身体がビクンと反応していた。千冬姉さんの抱えられた少女は、キモカワ系の人形にも見えなくない。泡吹いて白目剥いている姿に可愛いは絶対に当てはまらないと思うが、個人の感性に左右されるものと思えばいい。

「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ。仲良くしてやらなくてもいいが、少しでも一夏に手を出していたら報告するように」

 千冬姉さんがパッと腕を離すと、キモカワ系人形と化したボーデヴィッヒが音を立てて崩れ落ちる。圧倒的なパワーの前に無惨な初登場を果たした少女の運命はいかに。

 

 

 

 謎の少女との遭遇と思いもしない考えもつかない謎の因縁が渦を巻いてボクを取り込んでしまっている。少女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。既に謎の少女ではないという矛盾だ。名前からするに恐らくロシアの人だと考えられる。なんとなくロシアっぽい。グスタフ的な感じで。

 初対面の相手に殴られて喜ぶ阿呆はいない。いないわけじゃないけど、特殊な性癖の持ち主でない限りは喜ぶ者はいないのだ。ボクは真っ当な人間だ。だから殴られて怒り心頭に発することはなく、意気消沈になってボーデヴィッヒに怯えているだけ。視界に映り込む度にびっくりして顔を歪めたくなる。

「隙を見つけて切り捨ててやる。だから一夏、そんな顔をするな」

「そうよ。ソイツの頭を蹴っ飛ばしてやるわよ」

 午前中の授業はISの実技授業。1組と2組の合同で行われるので、授業中だというのに鈴と一緒に居られることになっている。その鈴はボクが殴られたことについてまるで自分のことのように怒ってくれている。癖となっている何かを叩き続けてる動作がその証拠で、さっきから腕を組んで指先でトントントンと自分の腕を指先で叩いていた。同じく怒ってくれている箒は鋭利な刃物のような目で、前方でぴしりと綺麗な立ち姿を見せるボーデヴィッヒを睨みつけていた。

「くぅ~。どーしてわたくが1組で一夏さんが3組なのでしょう。もしも今日の授業が1組と3組の合同授業なら、わたくしのスペシャルで2000回の華麗な動作をお見せすることができたというのに」

 そして、少し離れたところにいるオルコットが嘆いていた。何がどうスペシャルで2000回なのかは無視しておくことにする。そもそも関わりたい人種じゃないので。箒も鈴も見向きもしていない。周りも疑問を浮かべながらもそっとしておいてくれている。今日もオルコットはクラスメイトの生温かい視線に守られていた。

「今日はISの実習を行うが、その前にちょっと模擬戦をしてもらう」

 1組と2組の生徒を瞬く間に黙らせて円滑な授業の進め方をする千冬姉さんが、億劫そうに首を回しながら言う。周囲から憧れるような溜息が聞こえてくる。カッコイイのは否定しない。弟としては姉の評価に鼻高で天狗になってしまいそうだ。鞍馬天狗になって山で仙人みたいな暮らしも憧れる。箒、ボクは人間をやめるぞ。迫害されるかもしれないから遠慮するけど。というか、千冬姉から絶交宣言されたら生きていけないから無理だ。

「オルコットと凰の2名。前に出ろ」

「申し訳ありませんが、わたくしは今忙しいので」

「左にいるけど右に同じ」

 千冬姉さんの指名を受けたオルコットと鈴はさも当然とばかりに拒否するものだから、千冬姉さんの拳が2回ほど2人の頭部に着地した。ちなみに各人2回ずつ着地した。前のめりに倒れそうになるくらいに身体が揺れ動いていたのだから、その威力は想像を絶するものであることだけは確かだ。オルコットは頭を抑えて暫く無言で蹲っていたけど、慣れている鈴は涙目になりながらもボクにしがみ付いてきた。余裕しゃくしゃくな様子に思わず拳の着地地点を撫でまわしてしまう。ほにゃっとした鈴の無防備な顔にほっこりしたとだけ言っておこう。

「鈴の顔にほっこりした」

 有言実行を座右の銘にしてはいないけど、口にして困ることじゃないので鈴に伝えてみた。友達に隠し事をしたくはない性格なんだ。実際は言えない事の方が多いから、正確については嘘丸出しだ。

「マジで!?」

 鈴がぎょっと抱き着いてくる。安心できるな、とか思っていれば箒が鈴を引きはがして千冬姉さんの前まで連行していく。見てよ、連行されてるのに幸せそうな顔している。

 連行された鈴とオルコットは嫌々ながら周囲から離れた位置に立つと互いに向きあった。これから2人が戦うものかと考えている生徒たちを他所に、千冬姉さんは咳払いを1つしてから「対戦相手は別にいる」と予想を否定する。

 対戦相手は別にいる、と発言してから数分の経過を許しても、その対戦相手はやってくる気配を見せない。ビビって逃げ出したのかもしれない。なにせ相手はあの鈴なのだから、とちょっと鈴の株を上げてみる。心の内での話なのでボクの中だけで株が上昇した。今こそ売り時なのではないか。

 このまま何も起こらず授業が終わってしまえばどんなにいいものだろうか。そんな怠惰な学生らしさを醸し出していれば、遠くの方から変な音と悲鳴が聞こえてくる。

「はわわわわ!! ちょっと退いてください!!」

 明らかにパニックを起こしている声に、周囲が何事かと声のした方を眺めるなり逃げ出す。遅れて声のした方を見たら、山田先生が急速接近してくるのが分かった。それも真っ直ぐにボクを目指している。あの胸の凶器が迫ってきているのだ。男子冥利に尽きるというものであります。

「させるか!!」

 グイッと腕を引っ張られ、箒に抱きしめられる。それから箒に抱きしめられたままその場から退避するのと同時に、鈴がISを装備して山田先生を飛び蹴りで撃退していた。顔面で地面を滑る山田先生。誰も心配そうな声もかけない。

「無事か一夏」

 箒に抱きしめられたままのボクは無事も無事だ。これで無事じゃなかったら、箒の抱きしめるパワーが強すぎるか、敵のスタンド攻撃を受けたかのどちらかになる。

「無事だよ。ありがとう箒」

「気にするな。私とお前の仲だろう」

「そうだね」

 お礼の代わりに抱きしめ返してみる。そしたらもっと抱きしめられた。

 2つの方向から舌打ちが聞こえた気がしたけど気にしないでおくことにした。箒が勝ち誇った顔をしていたけど、それも気にしないでおくことにした。

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