似てない。似てない。似てないって何さ。何がどう似てないって話だ。何と何が似てないんだって言うんだろう。
教官って誰。どちら様のことを言っている。何を言っている。おかしなこと言っている。教官教官教官からの千冬姉ってオチ。教官は千冬姉で千冬姉は教官だ。
つまりつまりつまりつまり、千冬姉と似ていない。ボクと千冬姉は似ていない。そんなことがあるはずない。そんなことあっちゃいけない。そんなこと信じたくない。そんなことないそんなことないそんなことない。
ボクと千冬姉は姉弟なんだ。血の繋がった、ちゃんとした姉弟なんだ。千冬姉だって言っていたんだ。姉弟だって。たった一人の家族なんだって。だからボクは千冬姉の弟で、千冬姉はボクのお姉ちゃんなんだ。
だから、ボクは姉弟だってことなんだ。それ以外のことはないし、あっちゃいけない。ボクは千冬姉の弟だ。似ているんだ。似ているはずなんだ。記憶がないだけで、ちゃんとした姉弟であることは確かなはずなんだ。
だからだからだからだから、姉弟なんだってことじゃなきゃいけないんだ。
「ににににににににににににににににににににぃている」
火砲参式を呼び出して、黒色の相手目掛けて引き金を引く。銃身の中で収束したエネルギーが今かと今かと待ちわびている。ボーデヴィッヒを蒸発させることを。ボクと千冬姉の仲を怯えさせる元凶を消し去ることを。消しちゃえばいいんだ。消してしまえばいいんだ。
頬を何かが伝っている。歯はかちかちと小刻みに鳴る。どうすればいいのかもよく分からない。何をすれば正解なのかも分からない。
千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん千冬姉さん。
ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね、ボクは弟だよね、血の繋がった弟だよね、姉弟なんだよね、似ているんだよね。
「そうじゃなきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!」
身体中が灼熱に晒される。内側から焼き溶かされていく。脳みそが溶けて溶けて溶けて気化してしまいそう。
頭が痛い。ああああああああああああああああああああああたまが痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。
「くるひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
段々と視界がぼやけてきた。狙いが定まらない。定まらないからとにかく撃たなきゃ。撃ってボーデヴィッヒを消さなきゃいけない。外れた次撃って当てる。
腕にも力が入らなくて砲口がぶれてしまうけど、そんなことおかまいなくビームが発射される。まっすぐまっすぐ天高く舞い上がったビームはアリーナを覆うシールド・バリアーを突き破って空の彼方に消えていった。
「あれいぇ?」
砲口が上を向いている。向いちゃってる。上にはボーデヴィッヒがいないのに。
「そんなものを考えもせずに使うな」
両腕が引っ張れたかと思うと火砲参式が手から離れた。ボーデヴィッヒが火砲参式を右手に持っている。なんでどうしてどうしてなんで。
「消えてよぉ!! ボクと千冬姉は姉弟なんだから!!」
景色の全てが歪んでる。見え辛い。でも両腕を振るってボーデヴィッヒに殴りかかる。だって、黙らせなきゃいけないから。ボクと千冬姉さんはちゃんとしたしっかりとした姉弟なのだから。
攻撃して黙らせようとすれば、火砲参式で殴り飛ばされて視界がぐらぐらする。頭は痛す過ぎて感覚がない。今の自分が何を考えているのかも何を考えられるのかも分からない。でも、千冬姉さんとボクは姉弟なんだ。
「正気に戻れ!!」
黒色が寄って来る。虐めてくる。ボクを疑ってくる。正気に戻れなんて言葉には応じられない。だって、それに応じたら、ボクと千冬姉さんが姉弟であることが正気じゃないみたいじゃないか。絶対に正気になることを応じたくないし、そもそも応じられない。
「しょうおきだか……ら!?」
助けて千冬姉さん。ボクと千冬姉さんは立派な姉弟なんだもんね。間違っていないんだよね。だって、千冬姉さんは常に教えてくれるんだから。お前は、私の大切な弟だって。アイツらの言葉はでたらめだって。
「千冬姉さん……どこにいるの?」
頭が割れそうだよ。
気がついた時には何か柔らかいものに包まれていた。温かく安心できる柔らかさと、鼻腔をくすぐる匂いに、すぐに千冬姉さんに抱きしめられていると気がついた。顔を上げれば視界いっぱいに千冬姉さんの顔が見える。どこまでも格好よくて優しい姉さんの顔だ。
「一夏、無事か?」
心配してくれているのが分かる声に、ボクは必死に縋り付く。少しでも力を抜くと全てが崩壊してしまうそうなほどに臆病になっている。だって、イジワルな奴がボクと千冬姉を疑うのだ。疑って疑って、ボクと千冬姉が切り裂かれてしまうのが恐いんだ。だから必死に縋り付いてしがみ付いて離さないようにする。
「千冬姉さん。ボクは……ボクは弟なんだよね? 千冬姉さんはボクのお姉さんなんだよね?」
恐い。千冬姉さんが姉さんじゃないことが恐い。家族じゃないことが恐い。この生活が壊れるのが恐い。
恐怖で身体が震えるのを千冬姉さんがギュッと抱きしめて抑えてくれる。ボクを離さないでいてくれる。
「ああ。お前は私のたった一人の大切な弟だ。お前の姉も私だけだ。安心しろ。私はどこにも行きはしない」
さらに抱きしめてくれる。
そうだ。ボクの姉さんは千冬姉さんだけだ。だからボクは千冬姉さんの弟なんだ。家族なんだ。安心していいんだ。だから抱きしめられていいんだ。抱きしめ返していいんだ。
安堵が全身を支配していく。力が入らなくて千冬姉さんにもたれかかる。もうこの腕の中から出たくない。だって、大好きな千冬姉さんなんだもの。
「戦いをやめろ。篠ノ之、凰、ボーデヴィッヒ。教師として見過ごせる事態ではなくなった」
何があるのかは分からない。ボクの視界は千冬姉さんだけでいっぱいなのだ。外の情報なんて見えない。でも、千冬姉さんの言葉から、同じ空間に箒と鈴が居てくれるのは確かだ。千冬姉さんほどじゃないけど心強い。
「これよりトーナメントの間までお前ら3人の私闘を一切禁止する。分かったら散れ」
千冬姉さんは冷静に事態を一時的に終息させてしまった。
それからと言えば、ボクは1日中千冬姉さんにべったりで、千冬姉さんは千冬姉さんでボクにべったりのまま終わった。姉弟じゃなければ鬱陶しいことだろう。考えれば、ボク達は確かに姉弟なのだ。だから鬱陶しくも思わずにいられる。
箒と鈴に関しては怒り心頭に発していた。ボクを見るなり飛びついて来て頭を撫でながらボーデヴィッヒに対する罵詈雑言を吐き出し続けていた。
来たる学年別トーナメントが学年別タッグトーナメントに変更されたことを受けた箒と鈴は1も2もなくタッグを組んで教師にタッグの決定を報告していた。
ボクは仲間外れなのかな、と思ったけど、そこは千冬姉さんが上手く手を打ってくれていた。試合に消極的なボクのために、灰式が暫くオーバーホールで使えないために参加不能としてくれた。ちなみに嘘だ。オーバーホールしなきゃいけないほど使い込んじゃいないし、傷つけてもいない。全ては千冬姉さんの有り難い配慮だ。
それからというものの、箒と鈴はそれぞれで試合に向けて訓練を開始していた。一緒に練習するのかと思えば、箒はお世話になっている2年生のところへ顔を出して訓練し、鈴は休日の度に外へと繰り出してへとへとになって帰って来る。しかし、一切の弱音はない。ただ無心に訓練に励んでいる。
だからこそ、ボクは2人のために朝昼晩と料理を作って出迎える。ボクにはこれしかできないから。戦いに関しては2人に頼みこむしかない。
「……いやぁ、なんと申し開きをすれば許してもらえるでしょーか?」
夕飯作りのために厨房を借りようとしていたらばったりと相川さんに出くわす。時刻を考えればそろそろ部活動が終了するような時間だ。どんな活動をしているか判断できないけど、寮の廊下で相川さんに出くわすのは不思議じゃない。
不思議じゃないけど、相川さんが出会い頭に謝罪しようとしてくることには不思議でしかない。ボクの認知していない中で悪いことでもしたのだろうか。もしもそうなら、千冬姉さんに報告してみようかと思う。
「内容によりけりだよね」
小さなことなら許すけど、大きなことに関しては要検討が必要になってくる。何事も煮詰めてから結論を出すのがいい。煮詰めて焦がしたらどうにもならないけど。
相川さんは苦笑いを浮かべてあーとかうーとか呻き声を上げはじめる。新手の発声練習とお見受けいたします。
しばらく、あーとうーを繰り返す相川さんを見つめてみる。ツーとかカーとか言えば何かが変わりそうな気もするけど、茶化していると思われそうなのでやらない。滑った時の被害が凄そうだからやらない。
「実は……ですね。篠ノ之さんとか凰さんとかには言わないでいただけると非情に助かるのですが」
視線をあちこち忙しくなく移動させながら相川が意味のある言葉を紡ぎ始める。人類はようやく言葉を操ることを覚えたわけだ。ボクはきっと人類の偉大なる1歩を目撃した。
「私、相川清香はトチ狂ってボーデヴィッヒさんとタッグを組むことにしました……ごめんなさい!!」
45度という綺麗な謝罪を披露した相川さんは暫く頭を下げたまま微動だにしなかった。でも段々と身体がプルプルと震え始めていた。
「ぷはぁ!! 無理、これ以上の謝罪は体力的に無理なのだ。というわけで裏切りゴメン」
謝罪の雰囲気がどこかへと吹き飛んでしまっていた。最近、底抜けの明るさで太陽の王女とか言われちゃってる相川さんらしい言動である。真面目な場でやれば潰されること間違いなし。
「うーん。言うほど裏切りでもない気がするけど」
別に相川が誰と組もうと問題ない気がする。箒と鈴はぶっちキレそうだけど、ボクにはそれがない。特に傷つくことも怒りを覚えることもない。
「ちなみになんでボーデヴィッヒと?」
裏切り云々よりも理由が知りたい。親しい姿を見たことがないからこそ気になる。
「それは先生。アレですよ」
「どれですよ?」
「織斑くん、篠ノ之くん、デュノアくん。男子3人を巡っての血で血を洗うばっちい試合を清潔なままで勝利するためでございますよ」
「もしかして、優勝したら誰かと付き合えるとかいうアレ?」
「いぐざくとりー。不肖なわたくしめも参加を決め込んだ次第なのさ。そして、1学年で一番強いと思われるボーデヴィッヒさんとタッグを組んじゃったわけ。私って頭良い」
「理由は分かった。ちなみに誰狙いなの?」
「それはもちろん織斑くんだよ。篠ノ之くんは好みじゃないし、デュノアくんも何か違う気がするからね。織斑くんはどストライク。私の心臓を撃ち貫いても足りないのか、脳みそまで抉ってきよる」
「弁解しておくけど、相川さんを徹底的に殺したのはボクじゃないからね。裁判起こしても無駄だからね」
「分かってるよ。ただ、私が織斑くんを気にいっているのは確かだよ。理由は自分でも判断つかないけどね」
じゃあね、と手を振って走り去る相川さん。気にいられているらしい。ボクも相川さんを嫌いではないからちょうどいい。そこから先に発展する可能性は今のままではありえないけど。
「相川さんは本当に太陽の王女だね」
太陽という言葉が妙に頭に残った。相川さんらしくない、と何となく思ってしまった。
学年別タッグトーナメントを翌日に控えた日曜日。1日自由な時間を満喫できる日において、ボクは1人でかかりつけの病院へと顔を出していた。へへへ、薬が切れちまってよぉ。冗談抜きで頭痛薬が切れてマズい状況なのだ。
予約しなくても顔パスで先生の診察を受けることができる。顔なじみの特権だ。盛況な病院だけに待ち時間もなく診察室に入るのは、先に待っている人達の視線が痛くて嫌だけど、大人しく待っていれば先生が探しにきて大声で「順番なんて気にしなくていいのに。少年くんは何よりも優先すると私が決めたから」と言ってくるので大人しく待てない。何故あの人は沢山の診察待ちの人を目の前にして言えちゃうのか不思議だ。医師だけに意志が強いからとか。うん、つまんない。
「オッス。ヤク中少年くん。またこの病院のスキャンダルをネタに薬を強請りに来たのかね」
まだ診察室と待合室を隔てる扉が締まりきっていないのに、大声で駄目なことを言う先生はやっぱり駄目人間だ。助手のジェファーソンくんが特に気にした様子もなく背後に控えているところが、既に言っても無駄なことなのだろうと教えてくれる。反面教師として生きているみたいだ。
「ちゃんとお金は払ってますよ」
「実は足りなかったりして。まぁ嘘だ。代金はきちんと頂いているから、いつも通りちゃんと診察してちゃんと薬を渡すよ。というわけで早速だけど、服を脱ぎ脱ぎして先生に16歳の健全な肉体を見せてくだっさい」
「なんか嫌です。というか片頭痛のことで服脱ぐ必要ってありましたっけ?」
「ない。強いて理由をつければ私の目の保養。死に体のジジババの身体に汚染されて腐りそうな私を助けると思って」
「先生。金のなる木になんて失礼なことを」
さすがにNG発言だったのか、ジェファーソンくんが注意する。注意できる立場の人間じゃない気がしないでもないけど、聞かなかったことにすればいいのでそうする。
「冗談置いて、真面目に診察しよっか。片頭痛に変化はなかったかな。少しでも変化があれば構わず言うように」
きりっと仕事モードになった先生。ふにゃりとだらしなく座っていたのが一転して、できる医者へとトランスフォームした。全ての動作が無駄なく滑らかに行われ、ボクに嘘を許さないと鋭い視線を向けてくる。わずかな変化も見逃すことのないソレは、きっと先生が凄腕の医者と言われる理由の1つだ。
「相変わらずです。改善も悪化もありません。このまま付き合っていくしかないのかなーと思っています」
「そうか。変化なしか。改善は無理と分かっているから構わないけど、悪化していないのは喜ばしいことだ。せめて最後の最後まで悪化しないことを神にでも祈っておこう」
「神頼みしちゃうんですね」
「そりゃあ医者も人間だぜー。自分の限界以上のことに関しては神頼みをしたくなるものよ。毎年初詣はちゃんとお参りしているわけ。あの、いかにも神に恵んでやってんだ、と賽銭投げつける感覚が癖になっちゃって」
それを神頼みというのか分からない不思議。先生はテヘぺろとか口に出しながら舌を見せびらかしているけど。
「さて不真面目な話はひとまず中断。ジェッファーソンくん、皆さんに例のモノを」
「2週間分でいいですか?」
「オッケー。その塩梅でよろー。後は君の愛情もたっぷり染み込ませておけばいいから」
無表情に無言のダブルパンチで奥へと消えていったジェファーソンくんが、薬に愛情を染み込ませないことを祈りながらボクは先生と無利益な会話を繰り広げた。野郎の愛情が染み込んでいないであろう薬がやってくることを切に願いながら。