IS ぎきょーだいになりましょう   作:ネコ削ぎ

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だから篠ノ之箒である+凰鈴音よ

 油断大敵。油断こそが最大の敵であり、私の足を掴んで転ばせてくる。苛立たしいことこの上ない。警戒を解いてはいなかったのだが、まさか訓練機の貸出申請をしている最中に最悪の事態が起きているとは思わなんだ。おのれ貸出申請。紙一枚で済ませればいいものを。

 訓練機を借りていざ一夏の元へと行くと、待ち合わせの第3アリーナでは約束通りに一夏がいてくれた。いてくれたのだけど、一夏の様子がどこをどう見てもおかしかった。私の一夏に対してのみ発揮する目の良さが、一夏の目の焦点があっていないのを見つけ、顔面蒼白になっているのを確認した。唇は震えながらも何かを呟いていた。

 正常ではない一夏の姿を見てみれば、私の理性は瞬時にはじけ飛んだ。分かる。分かる。一夏を傷つけた奴がいることを。それも1番やってはならないことを仕出かしてくれた奴がいることを。

 アリーナを見れば分かる。一夏を傷つけたのはたった1人だ。黒い装甲に包まれたラウラ・ボーデヴィッヒ。奴が全ての元凶だ。私の最も守りたい大切な存在を傷つけた愚か者だ。

 そのラウラ・ボーデヴィッヒが一夏から武器を奪い攻撃し地面に叩き伏した。許されない。許される行動じゃない。同級生とかどうとかは関係ない。一夏を傷つけることが問題なのだ。加害者が誰とかは関係ない。

「斬り捨てるしかない!!」

 崩れ落ちて動かなくなった一夏から奴を引きはがす。すぐさま打鉄を纏って突貫する。脇腹目掛けて突進したが、ラウラ・ボーデヴィッヒは察知できていたようで軽やかに回避した。そのすました動きに私の低すぎる沸点が限界を突破して頭蓋すらも破壊してしまいそうだ。

「死ねぇ!!」

 篠ノ之の剣を穢す真似をしているが気にしない。剣の技術の大元は殺しの技術だ。それを武術の枠組みに収めるために研磨していっただけのもの。原点回帰したところで構うまい。

 愛と怒りと悲しみを乗せた太刀筋はラウラ・ボーデヴィッヒを捉えるものの、一撃も入りはしない。奴の装甲から伸びるワイヤー・ブレードが縦横無尽にうねり、全てを防ぎ切ってしまう。

「そんな腕で」

 馬鹿にされた。鼻で笑われた。鼻で笑われたのは高校受験の勉強をサボって頭を抱えていた時以来だ。あの時は嫌味ったらしい同級生だったな。その時は何も感じなかったが、今は身体中の水分が蒸発してしまうほど苛立つ。

「テメェー!! ブッ飛ばしてやるわよ!!」

 それは好敵手でもある鈴もらしい。突然の参戦と共にラウラ・ボーデヴィッヒを背後から襲う。しかし、難なく回避され、私の隣までやってくる。

「鈴。共闘していただく」

「決まってんでしょ!!」

 一夏という共通の大切を持つが故の信頼。私と鈴は揃ってラウラ・ボーデヴィッヒに攻撃を仕掛ける。

 その結果、一撃も攻撃を与えることはできず、ただ悪戯に時間を消費し怒りをため込むだけで終わった。千冬義姉さんの制止によってこの私闘は終了を告げ、私も鈴もラウラ・ボーデヴィッヒとの私闘を禁じられてしまった。

 それから私は妥当ボーデヴィッヒを掲げて鈴とペアを組んだ。互いにラウラ・ボーデヴィッヒに良い感情を持っていないからこその共闘だ。徹底的にしめてやらなきゃいけないと思ったのだ。私の、私の一夏を傷つけてくれた罪は重いぞ。

 

 

 

 

 一夏は記憶がない。過去の自分を全て失った。それは死というべきものと変わらない。ドラマとかである、何とかはもう死んだ、今の俺は〇〇だ、とかいうのと一緒だ。

 一夏は死んで、再生織斑一夏となった。

 そして、篠ノ之箒も罪の意識に苛まれて篠ノ之箒2代目として振る舞うようになった。私は篠ノ之箒2代目として、かつての篠ノ之箒の姿の全てを借り受けて、年齢の垣根を作ることなく生まれたのだ。

 かつての篠ノ之箒から成功も失敗も引き継いでいながらも、別の人間として自ら生まれ変わった私に対して、一夏は突然として自らを失ってしまった。世界の全てが見知らぬ恐い物と映っても仕方がない。だから、自己を存在を揺さぶる言葉に過剰な反応を示してしまう。それは小学生の時にもあった。

 本当に織斑一夏なのか、という何気ない一言を聞いた一夏が泣き崩れ、頭を抱えて必死に千冬義姉さんの名前を呼び続けるのだ。

 今回もきっと、ラウラ・ボーデヴィッヒが余計な言葉を口走ってしまったのだろう。一夏を脅かす悪魔の言葉を。

「排除しなければならないな」

 一夏に対しては暴力に訴えなければいい、守ってあげればいい、私が強くなればいい。それ以外の相手には暴力で訴えればいい、虐げてやればいい、私より弱ければいい。

 ラウラ・ボーデヴィッヒを前にしてそのどれもが成立しない。暴力も虐げることもできない私の弱さ。強くなって一夏を守りたいのだが、壁が立ちはだかっている。

 なら強くなればいい。答えは驚くほどシンプルである。驚くほど難しい答えでもある。しかし、難しいからと諦める私ではない。それなら剣道なんて続けていない。

 向かう場所は鈴の居る2組の教室ではなく2年生の教室だ。2年生の中に普段ISの練習を手伝ってくれる先輩がいるのだ。

 その先輩は専用機持ちであるらしく、4本の腕を持つISで息もつけぬ苛烈な攻撃を得意としていた。防御を主体とする私の練習の相手としてはこれ以上ないのだ。

 来たるタッグトーナメントに向けての訓練は、4本腕の先輩と、その先輩が連れてきた大和撫子な先輩の3人で行われる。

「ほらほらほらほらねぇ!!」

 4本腕の先輩が4本のブレードを竜巻のように振り回してくる。1本1本の腕がまるで独自に意思を持っているかのように振るわれ、隙のない攻撃を見舞ってくる。防戦一方になるのは当然の結果とも言える。

「意気込みはとても評価できます!!」

 大和撫子な先輩は巨大な片刃剣を疾風の如く打ち込んでくる。身の丈を超える巨大な片刃剣は背の部分にブースターが設置されているようで。そのブースターの推進力を乗せた一撃はまさしく神速の一撃とも言えよう。

 驚異的な手数の連撃と、凶悪な一撃のコンビを前にして私はなんとか防御できている状態でしかなかった。

 だが、この攻撃で音を上げているようではラウラ・ボーデヴィッヒには打ち勝つことはできないだろう。

 攻撃を何度も受け何度もエネルギー切れを起こして何度目かの休憩しているときに、4本腕の先輩が気になったのか提案してくれた。

「防御は目を見張るものがあるけどねぇ。攻勢に転じるとどこまでの感じか気になるかな」

「そうですね。私たちばかりが打ち込んでばかりなのは申し訳がありません。今度は篠ノ之さんが攻撃役で、私達が防御役に交代しましょう。それがいいです」

 大和撫子な先輩が胸の前で両手をポンと合わせて賛同してくるから、私は2人の胸を借りるつもりで再度手合わせをお願いする。どちらかと言うと、大和撫子な先輩の方が大きいが、私には関係のない話だ。

 攻守交代しての手合わせは刺激的で、私が忘れていたことを思い出させてくれた。良い記憶ではなかったが、今回においては必要不可欠であろう。

 4本腕の先輩も大和撫子な先輩も、私の苛烈な攻撃には舌を巻いたようで、手加減の欠片もなく全てを防ぎきってくれた。少しは自信をつけさせてくれても良いのではなかろうか。

 

 

 

 一夏が傷つけられた。アタシを幸せにしてくれる大事な大事な一夏が傷つけられた。許されることじゃない。許してなるものでもない。

 でもアタシにも落ち度がないわけじゃない。一夏はアタシを幸せにしてくれるけど、アタシが一夏を幸せにしているかと問われれば全く自信がなくなる。アタシが胸を張って「幸せにしている」と豪語したところで、現実じゃあ一夏を傷つけられたんだから幸せにしているとかあり得ない。馬鹿も休み休み言えだ。

 じゃあどうすればいいのか。アタシには答えが出ている。アタシだからこそ答えを見つけるのが早い。思い悩まなくても既に目の前に答えがあるわけだし、端からずっとその答えを抱きながら生きてきたわけだ。

 強くなればいい。強くなって一夏を傷つける奴を根こそぎ払い除けてやればいい。シンプルよ。今までだってそうしてきた。一夏を傷つけようとする奴らをかたっぱしからブッ飛ばして。

 今よりも強くなってボーデヴィッヒの奴をブッ飛ばす。だけど時間がない。いくらアタシでも短い期間に驚異的にパワーアップすることなんてできない。

 だからこそ、タッグトーナメントと聞いてすぐさま箒とペアを組むことにした。だって、アイツが1学年の中で1番強いのだ。セシリアの方は性格的に合わないから却下。絡まれるとめんどい奴に自分から絡んでいくのは蜘蛛の巣に飛び込むのと同じ。

 箒とペアを組んでまず始めたことは、箒と練習試合をすることではなく、ある人物へと連絡を取ることだった。その人物はアタシがいったん中国に帰国するまでの間にお世話になった武術の先生だ。先生というほど先生していなかったけど便宜上と本人の名誉の為に先生と呼んでおいてあげる。だから感謝して授業料無料を要求する。

 先生は同郷の人だ。アタシが初めて日本に来てからずっとお世話になっていた。武術の先生をやっているという割にはふざけた態度をしていたし、武術というよりは単純に喧嘩が強いという印象しかない。少林寺拳法とか八極拳とかそんな型にハマった綺麗な武術を見たことなんてない。ただ、寄ってたかって来る酔っ払いをボコボコにしてから警察にこんなひどい姿で倒れてました、と嘘の申告をしに行く程度の人だ。

 しかし、強いのは紛れもない事実である。だからこそアタシは電話で先生を呼び出した。交通費は向こう負担でお願いしておくのも忘れずに。

 放課後の時間なると先生が突然やってくる。連絡を入れたのが昨日であることを考えればかなり早い。

「久しぶりネ。少し見ない間じゃあ全く変わらないアルね」

 先生は今時中国人でも着ないような派手なチャイナドレス姿で、日本人が考える中国キャラみたいな言葉で話す悪しき人間だ。先生がいたからアタシは「中国人だろ。アルとか言えよ」と言われたのかと思うと軽く殺意が湧く。先生仕留めて免許皆伝してしまうべきか。

「鈴。なんで黙っているアルか? 先生寂しいヨ」

 中華まん片手に言われても困る。全然寂しそうには見えないのだから。

「……1つ頂戴」

 美味しそうだから欲しい。先生見るよりも中華まん見ている方が有意義だし、中華まん相手にしている方が健全な気がしてきた。別に先生の存在が不健全というわけじゃないけど。いいや、不健全だ。チャイナドレスで綺麗なおみ足を惜しげもなく見せていれば、酔っ払いの1人や2人や3人や4人釣れるのは自然の摂理だ。この足フェチ共。

「駄目アル。これはワタシのおやつネ。金払うアルよ」

「じゃあ要らね。それよりも早く練習するわよ」

 先生と呼ぶのは便宜上だ。立派な大人ではない。だから敬語は使わないし、使う気になれない。アタシだって弁えているけど相手は選ぶ。それが自由意思じゃない。

 さて、練習はどこで行うかな。そう思っていたら視界の端で妙な動きを感じた。風を切るような音と共にアタシの身体は無様にぶっ飛んでいった。廊下を滑り身体がゴロンと1回転して止まる。こめかみに鋭い痛みが走り、振り返れば先生が伸ばした右足を折りたたむのが見えた。

 不意打ち気味に蹴られた。理解がいったと同時に、やっぱり立派な大人じゃないと痛感した。マジで痛いし。

「常在戦場!! 気を抜けば終わりヨ」

 先生はそう言うなり視界から消えた。そしてアタシは前につんのめるかのようにブッ飛ばされた。

 

 

 

 先生は強い。事実だ。悔しいけど事実だ。あんな日本人がイメージする典型的な中国人みたいなことをしている先生が強いのは腹立たしいけど事実だ。千冬義姉さんとどっちが強いのかは分からないけど、とにかく強い。圧倒的な強さ。

 アタシの蹴りは尽く避けられ、代わりに蹴られ殴られ関節をきめられる。最初の不意打ちはともかく、正面から向かってくる先生に対していくら攻撃しても避けられ防がれる。そして隙を突かれてボロクソに床に転がされる。立ち上がって拳を突きだせば受け止められ、身体を引き寄せられて膝を叩き込まれる。型なんてない喧嘩染みた攻撃だけど、動作の1つ1つが嘘のように流れていく。何度も立ち上がってみせるけどすぐに沈められる。

「いやぁ。やっぱり鈴を虐めるのは最高アル。もう信じられないくらい高揚しちゃうヨ」

 ウザい。顔面殴りつけて泣かせてやりたい。実力的に不可能なのがムカつく。こんなのに頼らなきゃいけない自分にもムカつくけど。

 何度も殴られ蹴られ投げ飛ばされと、乙女の柔肌をこれでもかと痛めつけられたことで、床に仰向けになって動けなくなった。荒い呼吸を繰り返すばかりで言葉を話すこともままならない。

「無事アルか。まぁ、手加減はしてあげたから大丈夫ネ」

 お気遣いどうも、と言いたくなったけど、先生の言っていることは事実だ。先生が本気を出せば岩も砕いてしまう人間離れした蹴りを放つことができる。喰らえば骨なんて容易く砕けてしまうだけでなく内臓までもズタズタにしてしまうはずだ。ご近所ではぐれ暗殺者じゃないかと噂されていたのは噂じゃないかも。

「明日もやるから」

 なんとか起き上がって告げる。この程度で泣き言は言ってられない。一夏を幸せにするためには困難を乗り越えてアタシ自身が強くならなきゃいけない。血反吐吐いたって構わない。本当に守りたければ道中の擦り傷切り傷なんて気にならない。

「さすが諦め苦手の鈴だネ。キミはまだ強くなれるヨ」

 気休めの言葉ではない。デリカシーもオブラートもない先生ならではの信頼できる評価だ。だからこそ、アタシは先生に頼ることにしたのだ。

 箒は箒で上級生と切磋琢磨しているようだから、アタシはアタシで人生の先輩にでも習って何がなんでも強くなる。

 

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