IS ぎきょーだいになりましょう   作:ネコ削ぎ

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 1年3組にて阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてきた。それは絶望一色に染め上げられた人類の絶滅の序曲だと思われたり思われなかったりする。3組から惨劇が始まってしまっても困る。数字的に困る。確かに、とあるトンデモ合体ロボの3人目のパイロットはどの媒体でも惨劇に見舞われるほどの救いのない運命の持ち主だけど、この場合は3組じゃなくてゲン担ぎ的に4組で起きるのが筋だ。嫌な筋の通し方だけど。

 3組が絶望という名前のダークサイドに転がり落ちて騒音という迷惑をかけてしまっているのは、たった1人の少年が原因だったりする。

 シャルル・デュノア。おフランス生まれの生粋の貴公子だった少年だった少女である。ありのまま今日起こったことを話すぜ。男だと思っていたら女だった。何を言っているのかわからねーと思うが、ボクも何が起こったのか分からなかった。まぁ、つまりは男装してIS学園に忍び込んだネズミという訳ですね親分。

 シャルル・デュノアは男装時の偽りの名前だったらしく、本名はシャルロット・デュノアらしい。あんま変わらないところを見るとテキトーな名前の付け方であったことがよく分かる。ロドリゲス3世とかにすれば良かった。3組だけに……つまらない。やっぱ3は数字として駄目かも。

 デュノアの男装時の名前なんて気にしているのはボクくらいで、周りは専らデュノアが女子だったことを気にして泣いている。激しく嫌がらせにしか見えない。仲間に入り辛い雰囲気作りが大切なんだ。

 しかし、腐ってもIS学園。性根の腐ってる人はいないようで、デュノアは無事に3組にインした。だけど女子達はかなり戦々恐々としているとの噂である。噂を持ってきているのは相川さんで、相川さんが言うのに、同棲していた時間が2人の距離を一気に近づけてしまうのではとデュノアの今後の立ち回りを危惧しているとのこと。暇人しかいないんじゃないだろうか。

 3組の悲劇についてボクが嘆くことは一切ないので対岸の火事を眺める心境で過ごしていたいのだけど、残念なことに1組にもわずかに動乱が起きるような起きないような気配が見え隠れしている。見え隠れというか、もうすでに見えてしまっている。

 動乱の火付け役を演じかけているのはラウラだ。

 学年別タッグトーナメントの優勝者権限でボクと付き合うことになって以来、ラウラは休憩時間になる度にボクの隣を陣取って時間を潰すようになった。急激な接近でありながらも決して極端にパーソナル・スペースに侵攻してくるわけでもない。多少強引な時もあるけれど基本的には領土侵攻してこないところがグッドだったりする。魂をかけてもいい。

 個人的には全く問題のない状況だけど、箒や鈴にとってはそうではないらしい。ラウラの存在を前にしてまだまだ受け入れられない雰囲気を醸し出している。

「少し近過ぎやしないか?」

 箒は敵愾心丸出しのままで問いかける。暗に邪魔だから離れろと言っている気がするけど、分からないことにしておこう。

「付き合っているのだ。近くても構わないだろ」

 問題はラウラが一切気にしてないことだろう。ラウラの方が強いこともあるために突っぱねることができる。

「うう~。どうして負けちゃったのかな。今頃、アタシがそのポジションについていたかもしれないのに」

 鈴が頭を抱えて唸っている。箒と違って自分の敗北に打ちひしがれ続けていた。意外に引き摺るタイプみたいだ。サバサバとしていたと思ったけど鈴の知らなかった一面にちょっと嬉しくなった。分からないことだらけだ。

「お前に負けるほど愚かじゃない」

 フン、と馬鹿にしたように鼻を鳴らすラウラに、鈴の瞳がギロリと光り輝いた。

「……死ね!!」

「生きろ!!」

 渾身の蹴りを放っていたけど、ラウラはひょいと避けて鈴を突き飛ばした。殴り飛ばすかと思ったけど、そこらへんは考えているみたいだ。教卓の角に頭をぶつけて蹲る鈴を見ると、全く意味ない気がするけど。付き合っているとしても下手な指摘は命を捨てるのだから黙っておくけど。

「あはは。篠ノ之さんも凰さんも飽きないよね。その調子でファイトだぜ~」

 相川さんの立ち位置は相変わらず。試合で漁夫の利を狙おうとして失敗した末路は元の位置に戻るだけで、特に痛手を被った感じはない。実際に何も被害は被っていないから。だからこそ、日常も崩さずに対応できる。1組の太陽の王女は今日も健在だ。ニコリと屈託ない笑顔を見せられると自然とこちらも笑顔になってしまうから、いかに相川さんが笑顔生産機としての社会的役割を持っているかが分かる。1人居るだけで教室が今日も暖かくなる。

 だけど、そんな相川さんを見るらラウラの目はどこか疑いが籠っているような気がして、ボクも少しだけ相川さんのことを疑ってしまう。具体的にどこを疑うとかはないけど。強いていうならその胸の膨らみだ。セクハラになるから絶対に言わないけど。

 

 

 

 ラウラと付き合うことになって変化したことがある。それは日常の風景だったり、箒や鈴の態度だったりするけど。劇的な変化と言えばボクの部屋にラウラが居座ることになったことだろう。

 学年別トーナメント終了した日の翌日になって、荷物を抱えたラウラがやってくるなり箒を部屋から追い出してしまったのだ。青天の霹靂だったようで、ボクを抱きしめてまったりとしていた箒は反論をする暇もなく投げ捨てられてしまった。

 箒が部屋に入り込んで来て、顔を真っ赤にしながらラウラに抗議していたけど聞き流された挙句に、新しい部屋割りが書かれた紙を差し出してきて教師から認められたのだから大人しく出ていけと、にべもなく追い出してしまった。

「相変わらずだな。奴らのつっかかりは」

 1日の終わりに部屋に戻ると、ラウラはベッドに腰を下ろすなら溜息を吐きだした。全部そのつっけんどんな態度が原因じゃないだろうか。ちょっとくらい愛想を見せれば円滑に進む。それはそれでラウラらしくない気がするけど。

 らしくない、とか思っている時点で、ラウラのことをけっこう受け入れてしまっている自分がいる。まぁ、出会い頭に比べてそこまで恐くなくなったからかもしれない。それと便宜上付き合っているだけあって互いのことを見るようになったのもある。第一印象も付き合ってみれば良くも感じられるし、悪くも感じられる。

「胸に手を当てて考えれば原因が分かるかもしれないよ」

「やはり、男は胸の大きい女の方が好ましいか」

「ごめん。どうして話が大きく逸れたのか分からないんだけど」

「やはり大きい方がいいのだな」

「ちょっと、会話を部分的に拾わない。誰もそんなこと言ってないんだから」

「冗談だ」

 けろりと言ってのけるラウラ。申し訳ないけど全く冗談に聞こえなかった。

「そう言えば。一夏、お前は明日外出するとか言っていたな。何処に行くのだ?」

 ベッドの上でゴロリと転がったラウラは仰向けになりながら顔だけこちらに向けてくる。年相応に見えるけど、眼帯と冷淡とも思える瞳のせいでちょっと減点だ。ちなみに持ち点100の減点方式。

「病院。片頭痛の薬を貰いに行くだけ」

「ついていっていいか?」

 付き合っているからこその何となしの提案だ。しかし、診察は常に1人で来るように言われている為にラウラを伴って行くことはできない。先生が言うには他人の言葉で聞きたいのではなくて、直で体調を聞きたいらしいのだ。まぁ、あの接客業に真っ向から喧嘩を売るようなだらけきった態度を晒す関係上他の目は困るということだろう。

 先生の顔を思い浮かべると、たまには嫌がらせがてら誰かを伴って病院を訪れるのもいいかもしれない。駄目なら待合室で待ってもらえばいい話だ。

「今回だけだよ」

 そもそも今回が初めてだけど。そして今回限りだけど。

 

 

 

 ラウラは意外にも面倒見がいい。初日にクラスメイト達に指導している姿を見たのだ。ちょっとは面倒見がいいのは分かるけど。付き合うようになってより一層に面倒見のいいことが分かるようになった。

 ISの訓練をしたときは色々とアドヴァイスを貰ったし、転びそうになったら身体を支えて助けてくれるし、勉強も教えてくれるし。至れり尽くせりだ。箒がブチ切れそうになったり、鈴が地団駄を踏んだりしていたけど。何だかんだ上手くやっている気がする。相川さんも含めて5人で食事をすることもあるのだから。喧嘩するほどなんとやらだ。

 しかし、箒や鈴と再会したとしても、先生の元に誰かを連れてきたことなんて一度もない。最初の頃は千冬姉さんがつき添ってくれたけど、先生が脚色し過ぎて状態が分からん、と切れてから千冬姉さんは出禁を喰らってしまっている。ブラコンであることが弊害になってしまった悪い例だ。個人的にはシスコンだから千冬姉さんのブラコンぶりはとても嬉しくて胸が暖かくなる。

 身内な千冬姉さんが出禁を喰らってしまっている中で、ラウラを連れて行くことがいいことなのか分からないけど、ひとまずはラウラをパーティーに加えて病院への道のりを進んでいく。もちろん、車が恐いので車の通りの少ない道を選んで進んでいく。

「一夏。何故に遠回りをする。調べたが、お前の向かっている病院はこちらの方から行くのが近道だぞ」

 やはり突っ込まれてしまった。事情を知らなければボクのやっている行動は不可解極まりない。わざわざ遠回りかつ車の入れないような狭い道を選んでいるのだから、病院に行きたくない子供と思われても仕方がない。子供じゃないもん、とかぶっ叩かれても文句を言えないようなことは言わないけど。いいや、16にもなって言うことじゃないし。

「ええと……はじめてのデートみたいなものだから、ちょっと2人きりの時間を堪能と思いまして」

 咄嗟におかしなこと言った自覚はあるけど時既に遅し。ラウラが腕に絡みついてきてしまった。そこは淡泊に「ああ、そうだな」で終わらせてくれるところじゃないのだろうか。メロンパンだと思って食べたら、中にメロンクリームが入ってた時と同じ気分になってきた。ただのメロンの見た目したパンだと思っていたのに。

「ふふふ。一夏も言うじゃないか。確かにデートだ。病院の後に食事でもするか」

「ごめん。そういう理由じゃないんだ」

「ほう。残念だ。しかし、時間も理由もともかくとしてデートにはなるな。ちなみに聞いておくが、どうして遠回りをする?」

「車が恐くて恐くて仕方がないから」

「車が恐い? たしかに車は便利ではあるが、使い方次第では凶器になる。恐いと思うのも致し方ない」

「別に凶器になることが恐いわけじゃないと思うんだけど。うーん、実は車が恐い理由については分からないんだ。ただ恐くて恐くて避けたくなる。そんな感じかな」

「理由が分からないのか」

「うん。もしかしたら記憶がなくなる前になんかあったのかも。記憶ないから分からないけどね」

「車にくくりつけられて引き回されたとかだな」

「日本でそんなバイオレンスなこと起きちゃあ困るんだけど」

 それでトラウマになるのだとしたら説得力あるけど、現実味はなさ過ぎてあり得ない。ボクとしてもそんな過去は御免こうむる。

 くだらないやり取りをしながら歩みを進めていくとかかりつけの病院へとたどり着く。院内はいつも通りに盛況だ。つまりはここら一帯は未だに不健康者だったり怪我の常習犯が跋扈している不穏な地域ということになる。健康という名の閑古鳥が鳴く日は何時になることやら。

 受付に向かえば係の人が内線でボクの来訪を告げ、すぐに診察室に入るように指示される。ぶいあいぴーな気分になれる。VIPな対応に周囲からの視線がおっかないけど、こっちにはラウラが居るから安心だ。

「じゃあ。ちょっと待ってて」

「了解した。気をつけろよ」

 何に気をつければいいのかと疑問に思いながら診察室に入ると、いつも通りな先生がちょっと値の張るアイスクリームを堪能しているのだから、不真面目であることをありありと見せつけられてしまう。しかも先生はこちらに視線を向けるだけでアイスクリームを食べるのを止めない。動画に撮ってネットにバラまいて病院を傷物にしてあげるのが、この人を更生させる手段かもしれない。先生は死んでも更生しそうにないが。

「おお、少年くん。聞けば今日は彼女同伴らしいじゃないか。病院をデートスポットにしちゃいけないですよ。独身共が血の涙を流しながら診察室に入ってきてしまう。鬱陶しくて血管に空気を注射してしまうかもしれないだろ」

「殺人を仄めかすのはやめてください。本気でやりそうで不安になりますから」

「やらないよ。そんなつまらないことしなくて、ただ出禁にしてやればいいだけさ。私は寛大だからね。命までは奪わないんですよ。まぁ、社会的に抹殺することはするかもしれないが」

「十分に致命傷ですよ」

「馬鹿言え。命あっての物種さ。生きていれば何とかなるもんだよ」

 診察室の椅子に座ると、先生が目の前にやってきて診察が始まる。片手のアイスクリームが気になる。べたべたの手で触らないでくれると助かる。

 先生はアイスクリームを盛大に堪能しながらもボクの近況を質問し、片頭痛の具合に変化がないかを訊ねてくる。アイスクリームがなければ100点なのに。先生らしさを言うならば言うことなしの100点だけど。

「変わりなしね。まぁ、渡している薬はあくまでも頭痛を和らげるものだからね。改善させようにも原因が分からないんだ。下手な手を打って悪化させる訳にはいかないな」

「永遠に片頭痛とは友達なんですね。先生の役立たず」

「ふふふ。酷い言われようだ。これではせっかく用意した新しい薬を処方するのをやめてしまいたくなるわ」

「申し訳ございません。前言撤回をいたしますのでどうかお許しください」

「そうそう。素直が一番。嘘でも言っちゃいけないことだってあるんだから」

 先生は頼れるお姉さんみたいな感じを出して説教してくる。まぁ、片頭痛の関係上、ボクとしては頼れるお姉さんだ。千冬姉さんほどのお姉さん感は受けていないけど、それでも頼れる年上としてのお姉さんであることは間違いない。

「さて。ジェファーソンくん!! 新しいお薬を持ってきておくれー」

 先生が部屋の奥の人物に声をかける。反応なし。着信拒否されている模様。先生は暫くの沈黙の後に椅子から転げ落ちておいおいと泣きだしてしまった。助手の塩対応に耐え切れない程度のメンタルではないはずなので嘘泣きだ。

 ガラガラとボクの背後の扉がスライドすれば、ジェファーソンくんが薬の入った袋を抱えて入ってきた。そもそも部屋にいなかったのだ。何故に先生は気がつかなかったのかが分からない。

「何をしているんですか、先生?」

 薬をデスクの上に置きながら泣き崩れたままを維持する変人に、これでもかと冷たい声を浴びせるジェファーソンくん。先生を立たせて椅子に座らせると部屋の奥へと引っ込んでしまった。質問しておきながら答えを聞き入れる気がない態度は沈着冷静だ。冷めているとも言えるけど、熱血な病院なんて暑苦しいだけだからベストマッチ。

 先生は先生で居住まいを正すと、仕切り直したいのか咳払いをすると再びジェファーソンくんの名前を呼んで、薬を持ってくるように頼んでいた。

「新薬を持ってきてくれたまえ」

「机の上に置きました」

 気を取り直したのにも関わらず一瞬で突き崩されてしまっている。先生が惨めに見えてしまう。頼りになる先生なのに惨めに見えてしまうとは潮時かもしれない。頼るしかないから絶対に引き潮にはならないけど。

「やーん、先生困っちゃう」

「勝手に困ってください」

「あれれ、ジェファーソンくんが冷たい。クビにしなきゃいけないかも」

「勝手にしてください」

「ごめん。嘘だよ。居てくれなきゃ困るから」

 仲いい人達だな、と思っていれば先生がこちらに向き直る。

「さてと。この新薬を処方するにあたってこの手紙を君のお姉さんに渡してくれたまえ。薬の効力等が記載されているのと、どうして私がこの薬を処方することに決めたかが書いてある。保護者との語らいだからね。絶対に中身を見ちゃいけないよ」

 診察はその言葉で締めくくられた。手土産に持たされたのはいつもの薬ではなく、新しい薬と千冬姉さんへの手紙だった。

 診察室の扉を開けると、まるで扉の前に待っていたかのようにラウラが出迎えてくれた。だけど、来た時とは違ってどこかおかしな気がする。不機嫌と言えばいいのか、不安と言えばいいのかは分からないけど、別れる前と違うことだけは確かだった。

「……長い」

 不機嫌の理由が分かった気がした。

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