IS ぎきょーだいになりましょう   作:ネコ削ぎ

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篠ノ之箒である

 織斑一夏との出会いは本当に小さい頃だった。父親が経営している剣道場に千冬さんに連れられて現れたのが一夏だった。そこいらの男子と同じような感じで特に注目することもなかった。きっと嫌々連れて来られただけのことだろう。

 最初は気にもならなかった。他の子供たちと一緒に子供用の竹刀を振るって練習しているだけ。たまに練習試合で徹底的に打ちのめす程度だ。

 だけど、暫くすると他の男子と違うことが分かった。女子に負けた腹いせにグチグチと文句を言ってくるだけの奴らとは違って、勝ちたいという想いだけを見せて練習に励む姿がカッコよく見えた。前向きでひたむきに打ち込む姿勢は男らしくて段々と目を引くようになっていった。

 カッコイイカッコイイカッコイイ。剣道がより楽しくなった。不純かもしれなかったけど剣道が今まで以上に打ち込めるようになった。父親に尋ねられた時は張り合いのある相手が見つかったと胸を張って答えたが、実際は恋心のようなものが芽生えていただけだ。邪念たらたらな太刀筋になってしまっていた。愛のために振るう刀もあってもいいんじゃないだろうか。

 小学校では一緒のクラスではなかったがそんなことはどうでもいい。道場では毎日のように顔を合わせることができるのだから。それが片想いでしかないとしても恋するおと……少女としてはそれだけの小さな甘さだけでも十分な心の楽しみだ。

 飴玉みたいな恋心を舌で転がして日々を楽しむ。一夏に助けられた時は心が胸を突き破って出てきてしまいそうになった。恋心に殺される幸せなんだか無念なんだかわからない死因は遠慮したいので、必死に手で押さえて封じ込めて命からがら礼を言うことができた。自分でも少し捻くれた礼だったけど、きっと伝わったはずだ。人間はそこまで愚かではないのだから。

 そう思っていたのが悪かった。悪すぎた。無口が誤解されてしまうのは当然として、捻くれた文言もまた誤解を生み、本質を妨げるのを助長させてしまっていた。

 結果、一夏との関係はいつまで経っても同じ剣道場で稽古する程度の仲でしかなかった。残念すぎる。

 

 

 

 そして関係が変化したのは何時だった。もう覚えていない。小学校滞在中の出来事であることは確かで、人生の分岐点であったことは確かだ。今までの関係を一歩前進させる起爆剤。爆発の余波で思わぬ方向へ飛んでいく危険性があり、その危険性が危険という形で背中を押してしまった。待っていたのは再生織斑一夏であり、強化織斑千冬であり、篠ノ之箒二代目の登場であり、織斑一夏、織斑千冬、篠ノ之箒の消滅である。

 織斑一夏の損傷、それが人生の分岐点となる。IFルートの進み方は織斑一夏を損傷させることで、その条件を満たすためには篠ノ之箒が鍵を握っている。

 学校で、階段で、照れ隠しで、自分の腕で、突き飛ばすという方法で、罪悪感なしで、何の考えもなしで、篠ノ之箒は織斑一夏を突き落としてしてしまった。階段の角に身体中を痛めつけられながら落ちていく一夏の姿。どうすればいいのか分からない篠ノ之箒。

 先生がやってきて事情を聞かれ、織斑千冬がやってきてすぐさま病院へと向かい、両親がやってきて家へと帰り、そこで事情を聞かれ、篠ノ之箒は泣いてうやむやと言葉を濁すばかり。

 

 

 

 数日後、篠ノ之箒は病院へと向かう。織斑一夏を見舞うためだ。そして謝るためだ。両親には事情を聞かれても、泣くなり黙るなり逃げるなりで回答することを避け、真実の開示を拒否し続けていた。

 だから一夏に謝って許してもらってから両親に全てを話すつもりだった。

 しかし結果は残酷だった。

 織斑一夏は消失してしまっていた。

「……だぁれ?」

 出会い頭の台詞はいまだに覚えている。絶交の意思表示のために紡がれた言葉ではなく、本当に知らないから放たれた言葉だ。

 隣にいた織斑千冬は泣きだしそうな顔を必死に抑え留め、いつもと変わらない表情で「篠ノ之箒だ」と言っていた。

 その日は何も言えずに逃げ出した。

 

 

 

 後日。織斑千冬から織斑一夏の容態を聞かせてもらった。

 記憶喪失、というものらしい。

 つまりは記憶を失ってしまったそうだ。以前までの想い出の記憶は綺麗さっぱり消却されてしまい、残っているのは『日常的な言動』と『名前』と『織斑千冬が姉』くらいだ。いままで交流のあった者は例外なく消え去ってしまっていた。

 篠ノ之箒は絶望した。自分のしたことによって自分の存在が抹消されてしまったことに。

 そして喪失感を中心とした絶望の日々の中で篠ノ之箒は消え去ってしまった。

 そして私こと篠ノ之箒二代目が誕生した。かつての篠ノ之箒の姿の全てを借り受けて、年齢の垣根を作ることなく生まれたのだ。

 私は全てを良い方向に捉えることで自己を救出した。織斑一夏はあの時に亡くなったのだ、今目の前にいる織斑一夏は再生織斑一夏だ。もはや別人で、かつての篠ノ之箒の仕出かしたことなど関係ない存在なのだ。だから、私が負い目に感じることなどありはしない。再生織斑一夏とは新たな関係を築けばいいのだ。

 照れ隠しで暴力に訴えなければいい、守ってあげればいい、私が強くなればいい。

 一夏が退院した。病院内ではちょっとした事件で忙しいことになっていたが一夏の退院には欠片も関係のない話だった。何故なら私にとっては一夏以上に注目すべき事柄など存在しないのだ。

 ああ、病院から出てきた一夏の姿を見た時は涙が溢れ出てきた。これでかつての篠ノ之箒の罪が幾分か減量したからか、それとも単純に一夏が元気になって喜んでいるのか。罪の意識をかなぐり捨てて生まれ変わったと逃げ出した私には窺い知ることはできない。それが自分のことであってもだ。

 で、事故が原因で弟想いが強化された強化織斑千冬に睨まれつつも、無事に一夏とお近づきになれた。初代に続いての快挙である。このまま快進撃を続けるのは鬱陶しいと思われるので、静々と半歩半歩の前進と味方であることをアピール。

 記憶を失い、ほぼ全ての人間関係がリセットされてしまった一夏には未知で溢れていた。かつては仲の良かった相手の問いかけにも窮する。

 はきはきとしていた一夏はそこにはなく、おどおどと守ってあげたくなるような小動物的な一夏がそこにいた。

 もはや別人である。食事の時も別人であることがよく分かる。右で持っていた箸が、今では左にあるのだから、これを同一人物とすることの方が難しい。失ったのは想い出だけではないのではないか。

 一夏は階段から転がり落ちてから記憶を失った代わりに片頭痛に悩まされるようになっていた。だから、授業中に頭を抱えて呻く姿がよく見られる。そしてその片頭痛を抑えるために錠剤を投入しているのもよく見る。本当に辛そうで薬を飲んだ後は青白い顔をして保健室に向かうのだ。

 だから私は保健係に就任して、一夏が薬を飲む度に保健係の特権を理由にして保健室へと付き添った。特権階級の力を甘く見てもらっては困るというもの。

 しかしどんなことにも別れは訪れる。せっかく一夏から友好の証として頭痛薬を託されたというのに、姉の所業によって私は転校を余儀なくされてしまった。残りたいと思ったが相手は国である。私のような木端の小娘が騒ぎ立てたところで覆せる道理はない。仕方なく、私は一夏と離れることになった。

 

 

 

 それからの日々は常に精彩の欠いた白黒映像のような日々だった。世界には私の目を引く色彩など存在せず、大切を失ったことで気力も出せない。

 唯一、私が私らしく過ごせる時は剣道をしている時だ。ストレス発散などというチンケな理由ではなく、再び一夏と一緒になれた時に私が華麗に守れる。そう、それが千冬さんから一夏を頂く条件だと信じている。あのブラコンをぎゃふんと言わせなければならんのだ。

 よって剣道には真面目に不真面目で打ち込む。完全に趣味で剣道をやっているようなもので、そこいらの真面目くさって剣道に打ち込む人達から見れば、これほどふざけた動機はないだろう。女にモテそうだから剣道に打ち込むのと同じ過ちだ。

 どこか興味のない中学校に入学して、同じように守るための剣道に打ち込み、汗を流していけば流していくほどに毒素が抜けていくような感覚を覚える。まるで初代の過ちを流し落としていく気分だ。

 中学時代最後には剣道の大会に出場。気がつけば全国大会にまで駆け上っていったが、決勝戦で見事に敗北した。相手選手の勝利への気迫に圧し負けてしまったのだ。全然悔しいとは思わないので痛くも痒くもないけど、コーチに散々に言われるのは鬱陶しかった記憶がある。私には既に勝つための剣道を捨ててしまっている身であり、勝利への渇望甚だしい相手の前には打ち負けるのは当然の結果と言えばそうだ。

 中学はこのように剣道に明け暮れる日々だった。守るための剣道を興味のままに貫いていたのだ。だから、練習試合では専ら相手に先制を許す戦い方をしてばかりいたので、苛烈な攻撃の全て防ぎ切る守護大名みたいになってしまった。そのうち四本腕の剣豪の攻撃を防ぐマスター・ソレスになれる気がする。交渉は無理だけど。

 

 

 

 政府のお偉い方からIS学園に入学するよう通達が来たのは、高校受験間近なのに勉強していないじゃないか私、と自宅で木刀片手に瞑想している時だった。武士の本分は武芸に秀で敵を功名をあげることなり、と勉学から半歩逃げていたために、無条件でIS学園入学が決まったことにホッとしつつ、今からは真面目に勉強しなければマズかろう。すぐに木刀を放り出して学生の武器ことノートとペンを構えて毎日30分の勉強に励む。いきなり2時間は無理だ。もともと勉強なんて得意ではない。私は肉体労働担当な恋する武士道系女子だ。ちなみ木刀は放り出したが、代わりに竹刀で瞑想する。私は勉強のために確かに木刀を捨てたのだ。

 政府から渡されたIS学園の参考書の分厚さは他のどんな参考書も超える超大作だった。2時間の映画どころか3時間の映画でも収めきれないのは明白だ。こんなものを私は3ヶ月くらいで頭に叩き込まなければならないとは。記憶に役立つ食パンが欲しい。

 私は高校受験を控える学生に喧嘩を売っているのか、と難癖つけられてもおかしくないくらいに余裕の態度で勉強をしていた。余裕に決まってる。だって受験しなくても高校入学ができるのだから。問題は私の学力に見合った高校ではないということ。低すぎて欠伸が出るのではなく、高すぎて涙が出てくる。

 しかし、私は努力だけはした。テレビではとにかく詰め込むように勉強するよりも普段のペースを崩さないでいるほうがよいと聞いたことがある。気のせいかもしれないが、そんなことは関係なくテレビで聞いたのだ。

 30分も重ねていけば勉強量は相当なものとなりIS学園入学前夜には素人に毛が生えた程度にはISに精通しているプロになっていた。素人なのにプロである。ISの正式名称くらいはつっかえずに言える。

「姉にはぜひ交通事故でオシャカになっていただきたいものだな」

 天才発明家の妹は大変な苦労を背負わねばならぬか。しかし苦労だけでないのは確かだ。

 織斑一夏のIS学園入学。これは朗報だ。朗報過ぎてケーキで独り黙々と幸せタイムを堪能するほどの朗報。抹茶ケーキは甘くなくて良質な出来と評価をくだす。

 一夏と再び学校で学べる幸福の接近に、私は竹刀を片手に瞑想するふりをしながら妄想した。これ、素晴らしい日々の始まりだ。できることならクラスが同じだと嬉しい。

 

 

 

 そして当日、一夏を目撃した私の心臓は震えた。血管千切れるほどの振動に内出血で死ぬ気がした。死因は幸せ死である。

 一夏の容姿を確認する。

 昔のあのふにゃっと頼りない雰囲気を更新することなく引っ張ってきたのか、以前と変わらず守ってあげたくなる男子模様だ。背は私よりは高くあるがコンビニの扉ほどは高くない。顔は相変わらずふにゃっと頼りなくあるけど、それは一夏のチャームポイントだ。カッコイイ系の顔をしているけど、階段を落ちて記憶喪失になってからカッコイイ雰囲気は風に吹かれた埃のように飛んでいってしまった。それはいい。だがその結果、一夏が頼りない守りたくなる系男子になったことは現在の一夏を見れば一目瞭然である。

 初日からお盛んな授業の1番手を切り抜けて、ぐってとしそうになる一夏へと声をかける。

 一夏との会話は緩やかで今まで止まっていた時間が動き出したかのようにカチリと時計の動くような音が聞こえた。白黒のテレビみたいな世界に色彩という光が差し込んで暖かみを取り戻していく。カラーテレビ時代の到来に私の心は技術革新に湧く大衆のようだった。

 しかし、長い間隔はかつての距離間を見失わせていた。なので私は若干の挙動不審になってしまっていた。照れるとも言うが、個人的には挙動不審である。

「箒が同じクラスなのも嬉しいね。また迷惑をかけちゃうけどよろしくね」

 嬉しいと言われた。嬉しいことを言ってくれる一夏。また迷惑をかけるだと。どうぞ迷惑をかけてくれ。つまり私を信頼してくれる証だろ。

「頭痛を抑える薬持ってるんだろ。少し寄こせ。どこかで倒れられたら困るからな」

 頭痛薬を託すことは一夏なりの信頼の証。もらえれば私が信頼されているということが言葉以外でも証明されるのだ。

 ズイッと手のひらを突きだせば薬の束を貰える。どうだ、これが信頼されているという証だ。

 幸せな気分に浸りながら次の授業を終えて、再び一夏のところへとお邪魔する。ただ近くにいたいだけだ。他意はない。

 しかし、空気の読めない無粋な輩が存在してしまうせいで、私は不愉快の沼に浸る羽目になってしまった。

 金髪碧眼のイギリス人。セシリア・オルコット。見るからに上流階級からこんにちはしてきた見た目と振る舞いの女は、中身に関しては貴族の嫌な部分だけを抽出して固めていったような性格だった。第一声でもう駄目だ。思わず睨みつけてしまう逸材だ。

「わたくしに話しかけられただけでも栄光に思うべきですのに、その気の抜けた返事はいただけませんわ。それ相応の対応を見せるのが当然だと思いませんか」

 視線で退けてやろうかと思ったが、さすがに食い下がって来る。その金髪縦ロールを木刀でグルグル巻いて引き千切ってやろうか。巻き技で巻き取って進ぜよう。

「痛々しいな」

 金髪縦ロールを失った貴族令嬢なんて体毛を刈り取られた羊と変わらない。つまりは威厳なしの情けない姿。それで威張り散らす痛々しい姿に腹が痛くなりそうだ。

「お黙りなさい、大艦巨砲主義の権化」

 オルコットが吐き捨てるように言ってくる。

 大艦巨砲主義だと。守護大名のような刀捌きを見せることのできる私を捉まえて大艦巨砲主義とは見当違いも甚だしい。銃や砲などは野蛮な武器だ。使うに値しない。

 訳の分からないことを言うもんだな。それとも私だけ分かっていないという置いてきぼりな雰囲気なのか。もしかして、という恐怖を胸に抱きながら一夏の顔を盗み見る。同じように疑問を浮かべて首を傾げているの姿が、これでもかと私の心をくすぐってくれる。

「ええと、失礼を承知で訊ねますけど、どちら様でしょうか?」

 それだけでなく相手のプライドをへし折りかねない一撃を一夏が呼吸するように吐きだす。これが私の一夏だ。これを千冬さんの目の前で豪語すれば目と耳と鼻が千切られそうだ。それは困る。一夏が犯罪者の身内として非難されてしまうじゃないか。

 

 

 

 

 初日最後の授業を無事に消化してしまえば待つのは放課後であり、勉強の疲労と頭痛薬の副作用で睡魔にふにゃふにゃにされてしまった一夏を愛でる時間が幕を開ける。かつての照れ隠しで暴力的スキンシップな旧三部作の教訓を経て、これでもかと優しく優しくしている新三部作の始まりである。

 ただ、授業中は心配で心配でたまらなかった。睡魔に苛まれて誤ってシャーペンを指に突き刺してしまうんじゃないかとヒヤヒヤものである。もしくはバランス崩して椅子から転げ落ちてしまうとか。窓側最前列では助けにはいることもかなわず。なので、早く授業よ終われと千冬さんに念を送ってしまった。失敗してボールペン投擲という呪い返しを受けてしまったのが痛手だった。

 しかし、今の私は癒しタイムを享受する身である。激痛という呪いなど一夏が解呪してくれるのだ。

 途中で邪魔しに来たのか、山田先生がパタパタとやってきて一夏の寮部屋の決定を告げてくるものだから、私は剣道で鍛えた筋力が悲鳴をあげかける速度で山田先生が手にするメモ用紙を借り受ける。教師相手に窃盗を働くなんて恐れ多くて出来はしない優しい子を自任しているが故に、私は無事に山田先生からメモ用紙を見せてもらうことができた。まったく、山田先生も意地悪しないで素直に手渡してくれればいいのに、茶目っ気たっぷり過ぎるものだからこちらも多少本気を出してしまったではないか。

 メモには私と同じ部屋番号が書かれていて、私は脳みそが幸せパニック状態になってしまった。だって同じ部屋ってことは愛でて愛でられの愛の巣を作れという啓示だろう。それも千冬さんが認めてくれたということだ。これはもう一夏と乳繰り合う将来しか見えない。他の未来のビジョンが全て曇って見えるもんだから、未来を見通すのは難しいと痛感しておく。悪いが一夏と仲良くする未来しか見えないのだ。

 これはもう良妻演ずるがよろしい。山田先生にメモ用紙を返却してすぐさま寮へと向かい、部屋に入って身支度を整える。着物と洋服はどちらが好感を持ってもらえるのだ。それとも箒が出迎えてくれることに意味があるんだよ、とか申し上げちゃうでござるか。いいや、一夏だって片頭痛持ちではあるが健全な男子だ。裸エプロンに興味あるんじゃないか。いやいや、はしたない女を演じて減点喰らってどうする。減点法なら終わりだぞ。

 どうするべきかどうするべきか。扉の前で右往左往していると、扉がノックされてしまう。しまった旦那様のお帰りだ。まだご飯の支度もまだだというのに。そこまでして私に会いたかったのか。

「入ります」

 どうぞお入りください。念願の二人暮らしなのだ。遠慮しないでほしい。

 ささっと居住まいを正す。着替える暇もなく制服姿で正座して扉が開くのを待つ。玄関でご主人の帰りを待つ愛犬の気分を味わっている。うんと甘えていいパターンだな。

「あああああぁぁぁああああああ、貴方お帰りなさぁい!! お風呂でする? ベッドでする!? そ・れ・と・も……私ぇぇええでするぅ!?」

 嬉しさと緊張としょうもない妄想のせいで舌が上手く回らないという失態を犯したのであった。風呂やベッドで何をする気なんだ私は。そもそも私でするってなんだ……営みか。

 一夏がふらりとベッドに倒れ込んで意識を飛ばしてしまったので、私は仕方がなく膝枕してその重みを堪能するだけに留めることにした。

 数分後に千冬さんの襲撃を受けて私も意識を刈り取られてしまったのは不覚というしかないが。

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