IS ぎきょーだいになりましょう   作:ネコ削ぎ

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 1年1組のクラス代表が決定したのはクラス代表の話が出てから1週間を要した。長い1週間を経験することで生徒達が相応の者を選出するだけの判断力を養わせて相応しい人物を代表として立たせたのだ。そんな事実は教科書のどこを見ても載ってはいないけど。

 セシリア・オルコット。1年1組のクラス代表として君臨した貴族風の生徒だ。生粋の貴族のような分かりやすい貴族のイメージを体現した格好と、上品さと品のなさを変に混ぜ合わせて化学反応を起こしてしまったかのような口調。高飛車なところが残念なところではあるけど、プライド高い貴族風少女には必要なアクセントなんだろう。納得すれば飲み込んで心穏やかに対応できてしまうのは、試合を通していちいち突っかかって来るのをやめてくれたかもしれない。

 オルコットは自らをエリートと公言するだけの実力を持ち合わせている。ISを使用した授業ではそれが真実だと思い知ることができる。

 空高く舞い上がったかと思えば地上へ向けて突撃して地面すれすれで着地してみせる。鼻先を掠めるかどうかのギリギリを攻めて攻撃的な姿勢に、やっぱりそりが合わないかも、と再確認するに留めた。

「では、次は一夏だ。無理せずにやってみろ」

 遥か地上からインカムを使用しての会話。眼下にはアリーナが見え、そこに1組の生徒達と千冬姉さんと山田先生が居るのが良く見える。ハイパー・センサーによる視力の強化のおかげだ。

 青い空の上で自由飛行ができる素晴らしさにいつまでも身を浸していたいけど、今は授業中だから継続不可能。空に浮かぶ灰式の灰色装甲はひと塊のどんより雲みたいだ。晴天には似合わない存在。

「ふふん。さあさあ、織斑一夏。わたくしのようにできるかしら。できませんわよね。わたくしのようなエレガントな身のこなしなど真似できませんわよね」

 プライベート・チャンネルを通してオルコットからの挑発が届く。火砲参式の出番かもしれないけど、過激キャラ目指していないボクはにわか雨に降られた程度で受け止めることにしておいた。そもそも狙っても当てられる自信もない。

 深呼吸を3回。ゆっくりと下降を始める。段々と速度を上げながら落下していく。流星のように落ちていく。後は野となれ山となれ。

 ISの保護機能がついていても恐怖心がゆっくりと顔を上げる。恐いものは恐いもので、目を瞑りたくなる。でも、瞑れば地上との距離は測れない。

 落下していくと不思議なもので、段々と組織への忠誠を誓いたくなってきた。どの組織にも忠誠を誓うほどの傾倒もないんだけど。

「駄目かも~」

 ぐっと身体を持ち上げるイメージをする。地上から10メートル離れた位置で落下から一転上昇することになった。かなり余裕がある位置だけど、個人的には全く余裕がなくてギブアップを宣言してしまった。ビビりじゃねーし。超ビビりなだけだし。

「おう。最初はそれぐらいでいい。少しずつ慣らしていけ」

 ゆっくりと着地すると千冬姉さんが片手を挙げて出迎えてくれた。

「わたくしは地上10センチ以内でしてよ」

 オルコットが自分の髪を払いのけながら出迎えてくれた。髪を払う仕草は貴族令嬢らしく様になっていた。箒がやったら違和感しかない行動もオルコットがやれば似合う。さすがに生粋のご令嬢だけある。

 千冬姉さんはエゲレス人なのに天狗になっているオルコットの膝に蹴りを叩き込んで黙らせる。ISの防御を以てしても防ぎ切れない攻撃の前にオルコットが膝をついた。

 千冬姉さんは満足いく結果を出せたのか、笑顔で振り返る。

「では、次は武装の展開を行ってもらう。一夏、武器を出せ」

 オルコットの惨事に震える女子達を無視しての授業続行。ぶれない姿勢がカッコイイと思った。

「了解です」

 脳内イメージ。あのでっかくて恐ろしい威力のビーム砲を思い描く。左手に粒子が集中して形作られていく。最後には火砲参式が姿を現す。

「もう少し早くな」

 軽く注意を受けた。5秒ほどの時間で武器を出すようでは確かに遅い。精進する必要性を感じた。

「オルコット。やれ」

 雑な指示にオルコットが生まれたての小鹿のように震えながら立ち上がると、すぐさまエレガントさを取り戻したのか、右腕で空を払いのけた。しなる腕が動きを止めた時にはレーザー・ライフルが握られており、射撃体勢にまで移行していた。まるでクール系なヒーローみたいな動作だった。

 だけど、千冬姉さんは不愉快そうな目つきを見せて批評を開始するのだった。素人目から見れば完璧に見える動作も、教師の目から見てみれば改善すべきところが何点も発見できるようで、何故右手を振るう必要があるのか、横に銃身を向けて誰を狙い撃つのか、無駄なカッコつけがダサい、と散々な評価をぶつけて心身を衰弱状態まで追い込んでいた。オルコットの反論も全て封殺する強さが圧倒的じゃないか。

「次は近接武器を出せ」

 的確な批評に軽く私情を混ぜた評価を終えた千冬姉さんが続いての指示を飛ばす。

「え? あ、……あー、はい」

 ボロクソに言い包められて放心間近だったオルコットが数秒遅れて指示を受理する。あの評価を受ければ、ボクだって心がズタズタになって意識を遠い世界に飛ばしたくなる。

「ええと……インターセプター!!」

 レーザー・ライフルを粒子へと戻したオルコットは暫く右手をぼんやりと見つめていたが、思い出したかのように武器の名前を叫んでブレードを取り出した。名前を呼んで呼び出すのは初心者のやり方なのだけど、オルコットは特に何とも思わずにコールしてしまった。

「ふふん。どうですか?」

 誇らし気である。素人のボクでも誇るべき部分が見当たらないと分かってしまうのに。

「高評価が出ると思っているのか?」

 千冬姉さんが養豚場の豚を見る目をしていたのはボクと箒だけの秘密だった。

 

 

 

 翌日の早朝。ボクと箒は生徒がまだまだ微睡みの中で起床する。速過ぎやしないか、と自分でも考えることがあるが、長年の習慣は中々変容することはなく、今も早朝起床を敢行している。疲れて夜遅くまで活動できない生き物なのだ。

「2人きりだな」

 着席するなり箒が音もなくやってくる。鞄を机の上に放り出したまま中身も出さずに放置。やけに軽い音がしたので、鞄の中はすっからかんかもしれない。かくいうボクの鞄も羽のように軽い。

「そうだね」

 鳥のさえずりと風の音以外には2人の息遣いだけしか聞こえない。2人だけの空間だ。まるで管理の行き届いた廃校舎にいるみたいに人の気配がない。

「そういえば」

「ふむむ」

「箒の練習は見ていてすごいよね」

「日々精進しているからだな」

「IS使っても鉄壁の防御を維持しているのがカッコよかった。あの練習に付き合ってくれている4本腕のISの先輩もびっくりするほどの猛攻だったけど、それを全て防ぎ切る箒は何倍もカッコイイよね。ボクが女なら惚れてかも」

「男でも惚れていいぞ」

「うん。じゃあ男だけど惚れちゃいそうだね」

 箒が不敵に笑うから、ボクもわざとらしく胸の前で手を組んで惚れてますアピールをしてみる。男がやると気持ちが悪いかもしれないけど。

 箒が顔を赤くしているけど、見なかったことにしておこう。男としてどうなのかな、となりそうだったから。

 それから暫く談笑する。内容は本当に他愛のないもの。同じ部屋で過ごしているから目新しい内容はなく、だらだらと過去話や互いの視線での身の回りの話くらいだ。下手すればこの前話した内容もリサイクルしているほど。それでも飽きもせずに話し続けられるのは、会話の内容が問題なのではなく、箒と会話していること事態を楽しんでいるからだ。

「それにしても、もうすぐ始業の予鈴が鳴りそうだというのに誰も来ないな」

「そうだね。集団寝坊でもしているのかな」

「聞けば、昨日は寮の食堂でオルコットのクラス代表就任パーティーが催されていたと聞く。なんでも奴自ら催したとか。気前よくやるものだ」

「それで騒ぎ過ぎて誰もこないとか。でも、教室の外で賑わっているみたいだから登校はしているみたいだよ。教室には入りたくないとか」

「校舎に入った時点で諦めつけろと言いたくなるな」

 誰もやってこない教室で取り残されてしまった2人。外に顔を出して誰もいなかったらホラーの始まりだ。映画みたいな冒険と推理と脱出劇が幕を開けることだろう。おそらく主役は箒で、ボクは物語を盛り上げるビビりの親友役に落ち着く。

 教室の出入口に目を向ける。かれこれ1時間は働いていていない扉が、まるで扉に似せた壁のように立ち振る舞っている。押しても引いても動かざる、といったところだろう。実際はスライド式だから押しても引いても糠に釘。観察を怠ることなかれ。

 扉の開閉の違いを理解しなければいけない。どうでも良い話だけど、それはそれでシリアスな場面では大切なことを考えていると、見つめ合い宇宙をしていた扉がガラリとスライド。スルスルと音もなく、立て付けの良さを感じさせる扉の振る舞いは良いところの出であることが窺える。IS学園は大小様々な備品の品格が違う。

 扉がスライドすると、廊下を背景にして1人の少女が姿を現す。

 サニーレタス、サニーサイドアップ……ツインテールにした髪が特徴の少女はニヤリと笑って快活そうな雰囲気を与えてくる。それはもう手近な机を足場にして義経8艘跳びのように机から机に飛び移ってボクの前へと着地してきた。

「中国国家代表候補生、凰鈴音。アンタに会いに留学成功!!」

 ビシリと右手を突きだして挨拶してくるのは鈴だった。少し前に見た時と同じく身軽に飛び回る姿は問いかけずとも元気と分かってしまうほどの軽快さ。

「久しぶり」

 ボクは控え目に挨拶する。鈴の常に爆発を繰り返しているような明るさと原動力がないので、これで精一杯だったりする。

「久しぶりなんだけど……どしたの? この前中国に戻ったと思ったんだけど」

 箒と別れてすぐに出会った友達の帰還。親の都合で祖国中国への航路についたと思っていた矢先の再会に、首を傾げずにはいられない。気分は浮気現場を見られた夫ではなく、大好きな友達と再会できた嬉しさだ。

「アンタがIS動かすなんてトンデモニュースを見たのよ。それでIS学園への入学の切符を掴もうと頑張って今に至るというわけ。まぁ、アンタがニュースに出てなくてもIS学園への入学はアタシの中では決定事項だったけど」

 えへん、と胸を張る鈴。それから遠慮なくボクの頭を撫でまわしてくる。千冬姉さんといい箒といい、ボクの頭部は撫でることでご利益でもあるというのだろうか。気持ちいいから拒否するつもりはないけど、幸運エナジーでも湧き出ているのなら一儲けできる。撫でられ過ぎて剥げないことを祈るべきかもしれないが。

 撫でるだけ撫でまわした鈴はホクホクした顔で改めてボクと向き直る。片や椅子に座り、片や机の上で正座している。机の上で正座するのは、昔に流行った体罰の一環なのではないだろうか。いくらIS学園の机が一流の物であったとしても、机の上に座ることなど考えられていないので座り心地はそれほど良くはないはずだ。鈴が正座を続けていられるのは丈夫さを売りにしているのからだろう。売りにしていたかは定かじゃないが。

「IS学園の入学って大変だと聞いているけど……鈴って頭良かったっけ?」

 中学時代は弾が哀れむほどの成績を叩きだしていたのを記憶している身分としては、鈴がIS学園の試験にパスした事実は驚愕に値する。勉強ができるイコール頭が良いは別ものだけど、勉強ができなきゃ名門校には進めないものだ。血のにじみような努力を重ねたのだと推察できてしまう。

「脳ある鷹は爪を隠すって言うじゃない。中学時代は実力を隠していたわけ」

「勉強教えてとか言ってたのは嘘だったりする?」

「うん。有意義な時間だったりするぅ!?」

 にっこりと元気100倍な笑顔を見せていた鈴が正座の姿勢から突如机から飛び退く。ボクの視界を手刀が通り抜けていく。箒が仏頂面で教卓の上に飛び移った鈴の前に立ち塞がる。箒の背中しか見えなくなってしまった。

「貴様、何奴だ。名を名乗れ!!」

「名乗れと言われて、素直に名乗るバカはいないっつうの」

「貴様の名前などどうでもいい。一夏の机に座るんじゃない」

「名乗れって言ったのはそっちじゃないの。我が儘すぎやしない?」

「教卓にも座るな。この教室の担任は織斑千冬義姉さんだぞ」

「マジで!? すぐ降りなきゃ駄目じゃない。千冬義姉が担任だったなんて聞いてなんだけど」

「1組の所属じゃないのか?」

「したかったけど、残念なことに2組。アンタ、誰だか知らないけど交換してくんない」

「死んでも断る!!」

「気安く断ってんじゃないわよ!!」

 表情は読み取れないが、やり取りと雰囲気から白熱していることだけは確かだ。そして教室の入口で腕を組んで静観決め込む千冬姉さんがいることも確かだ。目が合えば手を振ってくれる。それから千冬姉さんは振っていた手で握りこぶしを作って見事に振るっていた。

 

 

 

「それにしても過剰な投資に見えなくないわね。広い食堂に多種多様な料理。贅沢尽くしているっちゃあ贅沢ね」

 再会を果たしてから数時間後、小休憩の度に2組からせっせと足を運んでくる鈴と雑談を交わしつつ過ごし、昼食時にも合流して一緒に食事を取る。

 ずっと箒の機嫌が悪いけど、それはどうにも鈴に対してのみ発揮されるみたいだ。鈴の方は特に科学反応を見せることなく箒に対しては淡泊な反応だ。関心がないともとれる。

 2人の間には敵対心と無関心の異なる心の変化がある。相性が悪い。ほんのりギスギスと油切れのボルトとナットのような関係だ。

 食堂では生徒たちが今日の出来事についてああでもないこうでもないと言い合っているのが聞こえてくるけど、鈴との会話の方が優先なので聞き流し嵐だ。朝から興奮しているみたいだけど関係ない。

 から揚げ定食の味に舌鼓を打っていると、隣に座っていた箒からの視線を感じてしまったので振り返ってみると、異心はないけど不満あり、と言いたげな箒と目が合った。ひとまずから揚げを贈呈して進ぜよう。ヒョイと口元へ持っていけばパクリと食べてくれる。

「ふむむ。中々美味いシチュエーション。満足できる」

 喉に通してしたり顔。わざとらしく鈴を見下す顔の位置で言ってのけるものだから、さすがの鈴も無関心のままでいられなくなってしまったようだ。人差し指でテーブルをコンコン叩いてあからさまな苛立ちを表現し始めた。コツコツとリズミカルな音が小さくも耳に入り込んでくるのは、弾と不穏な状態になった時以来の刺激だ。あの時は弾が要らん一言を言ってしまったのが原因だった。飛び膝蹴りがストマックを直撃したのは痛そうだった。

「はい、鈴」

 から揚げの数が少なくなるけど、2人が不穏なまま地割れみたくなってしまうのは忍びない。から揚げを摘まんで鈴の前に持っていいけば、目をキラキラさせてパクリと食べてくれた。

「美味しい。格別な味。今日1日フルスロットルで頑張れる気がするわね」

 ニヤっと笑う鈴を見た箒が舌打ちした気がする。

「それで、お前は誰なんだ? ずいぶんと一夏に気安いじゃないか」

「そりゃあ勝手知ったる仲だもん。気安くて当然。それよりもコッチも聞きたいけど、アンタ誰?」

「篠ノ之箒。一夏の幼馴染兼婚約者だ。どうだ、思い知ったか!!」

「明らか嘘と分かるのが1つあるけど……それでも思い知らなきゃダメなわけ?」

「……いいや。気にしないでやってくれ」

「じゃあ言わなきゃいいでしょ」

「うるさい。攻めるのは苦手なんだ。たまにはミスだってする。それよりもこちらは名乗ったぞ」

「いやいや、アタシも最初に名乗ったでしょ。なに? 健忘症? まあいいけど。アタシは凰鈴音。一夏とは蜜月な日々を過ごした関係よ。ついでに中国の代表候補生」

「なん……だと!?」

「さすがに蜜月はまだだけど、アンタ防御もからっきしじゃない!!」

 項垂れる箒。純粋な心はちょっとした冗談も真剣に受け止めてしまうが故に、常に心に傷を負ってしまうのだろう。ふらつき始める身体がこちらに倒れてくるものだから、傷を負った心を収めた肉体を非力ながら支えてあげる。抱きしめて箒を支えてみれば、箒も藁にも縋りたい思いなのか、抱きしめ返してくる。

「私の一夏が穢された~。あんな油ギトギトの中華鍋みたいなのに油まみれにされてしまった」

 油まみれにされた記憶はございません。タンカーの座礁事故で油まみれになる生き物とか本当に不快な気分にさせられるはずだ。油に染められるのは絶対に御免こうむりたい

「一夏。この女、ブッ飛ばしていい?」

 鈴が物騒なことを言うのだから、ボクは箒を庇って首を横に振るしかなかった。

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