けんぷファーt!   作:nick

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VS善くん編、決着。



第84話 哀切

ガシャンッ

 

善くんが地面に倒れ伏すのに同調するように、彼のすぐ側で金属音が響いた。

 

それはボウガンの矢を入れるための矢筒で、落ちた衝撃で力なく転がっていく。

動きからして中身はほとんど入っていないようだ。

 

「よくもまあ…」

 

あれだけの量で俺と渡り合えたもんだ。

 

おそらく大量に入れて重量が増え、機敏に動くことができなくなるのを嫌ったんだろうけど…案外ヘリオスの作戦は悪くなかったかもな。

 

「モラルリープ!」

「!?」

 

ズシャッ!!

 

 

突然――本当に突然、ほんの少しだけ善くんから意識を離した瞬間に不可視の"なにか"が俺の顔面右側。こめかみ付近を鋭く切り裂いた。

 

『ナツル!!』

 

ヘリオスが焦った様子で駆け寄ってくる。…くそっ油断した。

 

ただでさえ少ない体力がより一層少なくなった。かすり傷一つ負っただけで死なそうだ。

 

おまけに裂傷のバステ効果で血がダラダラ流れていって片目が見えん。てかこれが原因でHP0にならないの?

 

 

(状態異常:裂傷…傷口から血が流れていき、傷を塞がない限り徐々にHPが減っていく。ただしこの状態異常で戦闘不能になる事は無い)

 

 

大丈夫みたいだな。でもタチ悪いわコレ、見た目も。

 

「土壇場でやってくれるじゃねえか善くんよぉ…」

 

傷口を押さえながら(※止血効果がないので無意味)この状況を作った犯人に話しかける。

 

「まさかこんな奥の手隠し持ってるとは思わなかったぜ」

「…直前で躱されたがな」

 

技名が聞こえて反射的に身をよじったんだが、致命傷を避けれたのは偶然だ。普段だったらもろに食らってたよ。

 

「今は精神が高ぶってるからな。つーか、その状態でまだやる気なの?」

 

MPはほぼゼロ。HPも同じく。

武器は片方手放し、残弾は残り僅か。

仲魔の方も…なんだ、必死で魔法を撃とうとしてるのか手足をバタバタさせてる。

 

「どんなに絶望的な状況でも、少しでも身体が動くなら諦めてはいけない。昔そう教えてもらった」

「熱血な台詞だ。カッコいいねぇ」

「…ああ、私もそう思うよ」

 

なんか今妙な間なかった?

 

「当時は分からなかった…分かろうとしなかった。その行動に信念に、幾度となく救ってもらったのに」

「………」

「だが今なら分かる、理解してやれる、だからこそ、"今の私"が勝負を捨てて諦める訳には行かないのだ!!」

 

四つん這いの体勢から片膝付きへ。

そしてそこから両の足で…満身創痍ながらも自力で立ち上がる。

 

この世界でMP(SP)は使わなければ少しづつ回復していく。しかしHPは違う。治療しなかったら減ったままだしダメージも残る。

 

つまり今善くんを動かしているのは根性や気合いといった――純粋な意思の力だ。

 

人を動かすのはいつだって"思い"だ。その証拠に主人の意思に答えようとポルターガイストも必死になってもがいている。

 

かくいう俺も彼を突き動かす熱に惹かれている。もう少し、どこまで上がるのか見てみたいと。

でもそれは出来ない。してはいけない。未練を振り払い、傷口から手を離す。

 

 

「善くん、改めて俺はお前を強敵と認識した」

「……そうか…光栄だな」

「強敵と認めたからこそ、中途半端な技で勝ちたくはない」

 

 

ちらっとヘリオスに視線を向けると、無言のまま頷き返してくる。

 

この試合を通じて、目だけでの意思の疎通が信じられないほとスムーズに行えるようになった気がする。

まさか格闘のタッグパートナーができる日が来るとは…大会に出てみるもんだな。

 

 

「故に全身全霊を込めた一撃でお前たちを仕留る」

「どのような攻撃も大人しく受けよう、威勢よく啖呵を切ったが避ける力はすでにない。しかしそれほどまでの価値が私にあるとは…」

「やめろ」

 

喋りながら技を放つ準備を始める。

 

両掌を、間にスペースを作りながら向かい合わせ、背後に回ったヘリオスが支えるように俺の手の甲に自らの手を添える。

 

「『オーム』」

 

瞬間、感じたことのない力の高まりが全身から湧き上がった。

 

 

「俺が認めたお前の価値をお前が否定するな、俺自身を侮辱されるより腹が立つ。いつまでも自分はどうでもいい存在だとかスカしてんじゃねえよ」

「……君が見知らぬ他人に侮辱されたら、私は本気で怒るよ」

「そいつはどーも」

 

 

掌を地面に向けて開き、両腕をクロスさせる独特な構え。

 

 

「これが現段階での俺たちが放てる全力で最強の技だ」

「…先程の発言を取り下げてもいいだろうか?『直感』スキルがあり得ないほどの警鐘を鳴らして、出来れば受けたくないのだが」

「だが断る」

 

敬意も信念も気遣いも―――

 

 

 

 

「楽しかったぜ、善くん。またいつか()ろう」

「ふっ、それは同意だ」

 

 

 

 

―――銀河に散れ。

 

 

「『ギャラクシアンエクスプロージョン!!』」

 

 

突然宇宙が出現し、幾千もの星々が生まれ、それらが一斉に爆ぜた。

 

その衝撃に善くんとポルターガイストが飲まれていく。

 

 

次はもっと強く―――

 

 

爆発の最中、微かにそう聞こえた気がした。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

『決まったーーーーーー!!!!近年稀に見る激闘を制し決勝へと駒を進めたのはエクスペンダブルズ!この俺様も手に汗握る展開だったぜぃ!!さて、ここで若干のインターバル。10分ほど休憩を挟んだあと決勝戦を…えっ?』

 

瀬能たちの勝利宣言を聞いた直後、会場に響いたアナウンス。

 

『おぉーっとここでビッグサプラーイズ!!なんとエクスペンダブルズの次の相手、現闘技場のチャンピオンが今の熱戦を観ていて血がたぎったのか今すぐに対戦を始めると言い出したぁ!!』

「、!?」

『大会側はこの提案を……快く承諾!てな訳でいきなりだけどモンスタータッグトーナメント、決勝戦を始めるぜえぇえええええええっっ!!!』

「なっ」

 

なんだと!?

 

信じられない台詞に、肉体に受けたダメージが疲労へと変換されたのも忘れて勢いよく対戦者ゲート――先ほど私が出てきた場所を見つめる。

すると試合中ということもあって扉で閉ざされていた出入り口が、ゆっくりと開こうとしていたではないか!

 

「バカな!試合が終わったのはついさっきだぞ!?それなのにもう始めるなどと…!」

瀬能は体力も魔力も使い切ってボロボロ。ヘリオスだって似たような状態なんだぞ!?

 

「それがまかり通る世界ってことだろ。長いことチャンピオンに君臨してる奴ってのは運営側を完全に味方にしてるみたいだな」

「なにを冷静にっ!」

 

慌てふためく私とは対照的に穏やかな様子を見せる瀬能に勢いよく視線を移す。

 

「自分が今どんな状況に立たされているのか分かっているのか!?試合中のアイテム持ち込み禁止というルールのせいで回復も出来ないのだぞ!!」

 

しかも向こうは今まで試合を観戦していたから連戦の(このような)提案を出したのだろう。

こちらの手の内を知られているのに、瀬能は全くの未知な人間を相手にしなくてはいけないのだ。満身創痍なのに!

私がわがままを通したせいで…!

 

「そんな顔すんなよ善く〜ん、全身ボロボロでの連戦なんて経験済みだから問題ねーよ」

「問題しかないだろう!」

「ぐいぐい来るなお前…」

 

珍しい一面が見れてお兄さん嬉しいよ…などと、軽口を叩いてリラックスした様子を見せてくる瀬能。

なぜそんなにも余裕なのだ!

 

「すでに決まってんだから、今さら俺が騒いでも決定は覆らんだろ。ジタバタしてもしょーがない。少しでも休んで魔力(SP)だけでも回復に専念するのが正解だ」

 

肯定するようにヘリオスが目を瞑って小さく頷く。一言も喋らず静かにしていると思ったら、ずっと身体を休めていたのか?

 

「っ……すまない、瀬能。私が身勝手な欲求をしたばっかりに…!」

「乗ったのは俺だ」

「しかしっ」

「善」

 

 

「俺はそんなにも頼りないのか?」

 

 

「………!」

「この程度の逆境を危機と思われて心配されるほど、お前の記憶の中の俺は弱々しいのか?」

 

 

それは問いかけというよりもむしろ、幼い子供に言い聞かせるような優しいものだった。

 

そうか…

 

助け合うこと、気にかけあうことが仲間なのだと思っていたが、

 

黙って送り出すことも…信じることも、大切なのだな……

 

 

「どうなんだ?」

「……私の…」

「ん?」

「私の記憶の中の君は、誰かに敗北した事は一度もなかった。誰が相手だろうとな」

 

ヘリオスが羨ましい。微塵も疑いもせずに彼を信頼できるのだから。

 

「勝って祝杯をあげられることを信じている」

「そうだな…あ、チャンピオンが来たみたいだぞ」

 

そう言われて開かれたゲートの方に目を向ければ、優雅な様子で仲魔と共に歩いてくる人影が。

 

「なっ、あれは!?」

「あ?なんだ善くん、知り合い?」

「何を言っている瀬能!彼女は―――」

 

説明しようとした瞬間、急に瀬能の姿が消えた。

さらには場面が屋外からどこかの部屋の中へと変わる。

 

ここは…選手控室!?なぜだ!?

 

普通に考えれば試合が始まるので、関係ない者は強制的に退去させられたのだろうが、気が動転していたのでその考えに至らなかった。

 

少しの間訳が分からずその場に立ち尽くした。

しかし、私の事などお構いなしに状況は進んでいく。

 

 

 

ドン―――――――――――――――!!!!!!

 

 

「!?」

 

天地を貫かんばかりの衝撃が突然室内…いや闘技場全体を揺るがし、

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――――――――!!!!!!

 

 

 

街中に響いていると言ってもいいほどの歓声が襲ってきた。

 

「なっ、なにが」

起きているのか。

 

その答えを得るために、すぐさま客席へ向けて足を走らせた。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「何を言っている瀬能!彼女は―――」

 

対戦者を見て、それからすぐに焦った様子で振り向いた善くんの姿が忽然と消えた。

 

同時にポルターガイストもいなくなったからコンビで転移させられたようだ。そこそこ話し込んでたから、時間稼ぎとでも見られたか?

中途半端に打ち切られたから焦らされ感が強い。

 

「で、おたくが俺たちの次の相手でいいのか」

 

お供に白い虎を引き連れた学生服姿の女が、会話ができる距離にまで近づいてきてた。

女はニコリと楽しそうに微笑み口を開く。

 

「うん、そうだよ。ついでに言うとすぐに試合を始めるように指示したのも私。長年ローレルズルカス(ここ)のチャンピオンやってると急な無茶振りしてもOKなの」

 

運営組織との闇を笑顔で…

 

「一応聞くけど、なんでこんなことしたん?」

「えー?そんなの決まってるじゃない。負けるのが嫌だからよ」

 

喋りながらどこからともなく、長い柄の先に反りのある刀身を装着した武具…薙刀を取り出す。

 

いやホントどっから出したの?コイツも袋と同じアイテムボックス的なスキルを持ってるんだろうか。

 

「HPもMPもほとんどない状態なら、さっきみたいな大技は放てないよね?」

 

余裕綽々でさも愉快そうに笑みを深める少女は、両手を使って薙刀を軽く回し、構えを見せる。

 

「その発言がすでに相手に勝てないことを認めてない?」

「万全な状態でなら、でしょ?勝てば官軍なんだよ?」

 

試合開始の合図が上がった。

それと同時に少女が突っ込んでくる。

 

「言い訳はいくらでも聞いてあげるから、遠慮せず負け犬の遠吠え上げちゃって!」

「…悪いけど俺」

両手を広げて地面と平行に腕をクロスさせる。

 

 

「猫派だから」

 

 

 

――ギャラクシアンエクスプロージョン!!

 

 

 

「なっ――きゃあああああああーーーーーー!!」

 

いくつもの星が爆ぜ、閃光の中で女の悲鳴がこだまする。

 

「最っ高に美味い肉食ってゴキゲンな気分だったのによぉー、シケたインスタントラーメンねじ込みやがって」

 

ゴギっ

思わず握りしめた拳が鈍い音を鳴らした。

 

 

 

「殺される覚悟は出来てんだろうなぁオイ…?」

 

 

 

ラウンドスリーだ。殴殺してやる。

 

 




■モラルリープ
 PQ善くん専用技。敵1体に斬属性の小ダメージを与え、中確率で呪い効果が発生。
 原作でどうやってるのか全く分からないのでとりあえず、目に見えない透明な触手状の魔力の刃で対象を切り裂くってイメージで使わせてもらってます。
 善くんがそんなの使ってるって想像するとなんかやだなぁ…

■オーム
 セイント星矢。乙女座が使用。本家だと攻撃に使っているけどウチではチャージとコンセントレイトを合わせたような強化技。次に放つ攻撃の威力を十倍に引き上げる。

■ギャラクシアンエクスプロージョン
 同じくセイント星矢。(おそらく)単体で人類最強の技。
 正直あの構えで銀河が生まれるのがよく分からない。
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