いや龍がごとく見参という作品ではな、ライバルとの戦闘後にゴキ衆とか汚爺とかいう輩と戦う羽目になってな…
未だ収まらない振動を全身に感じながら集中して相手の動向を伺う。
開幕直後にツープラトンを放ったが、試合終了の合図がないからまだ仕留めてはいないんだろう。
「無傷かよ…」
技の影響で舞った大量の土埃が晴れてきて、そこから対戦者の姿が現れる。
パッと見たところ身体のダメージどころか服飾の破損すら無い。VRだからか?
「ケホケホッ、もー酷いよ。いきなりあんな大技撃つなんて。というかまだ撃てたの?」
「……」
軽口叩くその姿からも深刻さは感じられない。
善くんとの戦闘で三回。ついさっきので四回。
短い間で連続して使った事なかったけど感覚でなんとなく分かる。もうツープラトンは撃てない。少なくともこの試合中は。
勢いとはいえ浅はかすぎたかな。こっちは向こうのことなにも知らないのに。
「ラーメンって言ったのは訂正するわ」
「そう?」
「ああ…」コイツはそんな馴染みのあるもんじゃねー。
もっと得体の知れないなにかだ。
『林間学校の物体X…』
ヤメロ、一気に目の前のが凶々しくなっただろうが。善くんとの戦闘で精神高ぶってなかったら絶叫してたぞ。
というかなんで知ってんのお前?
「ぼーっとしてると危ないよ――っと!」
物体X…ダメだ。この呼び方は違和感凄い。普通に女と呼ぼう。
女が薙刀を斜めに振り上げて突進してくる。
「してねえよ」
迎え討つためにオーソドックスに拳を構える。
しかしコイツなんか違和感覚えるな…
「やぁっ!」
鋭い――と恐らく本人は思ってる――声とともに武器を俺目掛けて振り下ろす。
やっぱりおかしい。
足運びといい薙刀の構え方といいコイツ、全くの素人のそれだぞ。
数ヶ月部活動やってる奴の方がまだいい動きをするだろう。てかそもそも当たる軌道じゃねえし。
こんなのが本当に長年チャンピオンやれんのか?
「フンッ!!」
腑に落ちない点が多々あるが、攻撃されたので反撃することにする。
善くんの時の例があるので、薙刀の斬撃の延長上から完全に外れるように身体ごと移動して回避。
女の真横に位置取り、拳をその横っ面に打ち込む。
どグシャッ!!
確かな手ごたえと共に、女の頬にクリーンヒットした。
ってオイ、入るのかよ。
感触からしてこれ、防御とかまるでされてないんですけど。素の肉体なんですけど。
もしかしてこれで終わり?VR編第2部完?
呆気に取られて思わず身体の動きが止まる。
「ぼーっとしてると、危ないよ?」
――――――――――――――――――――!!?
女が再び、大きく上段に構えた薙刀を振り下ろしてくる。
オイ止まったっつっても一瞬だぞ、一体いつ振りかぶったんだ!?それ以前にどうやって離れた!?
空気を切り裂く鋭い音を発しながら刃が迫る。
今度は確実に当たる軌道だ。ダメだ避けられん!
俺の焦りを感じ取ったのか、薄っすらと口角を上げて一言発した。
「あっけなー」
…………………………ぁ?
ガギンッッ!!
「…え?」
残りわずかな体力を削りきらんと振るわれた兇刃は、目的を果たそうとした刹那に己と金属音を発する物体に阻まれる。
「なっなに!?」
「もう一度言ってやる」
――ブラッドセイバー
「ぼーっといていても呆気なくもねぇよ」
硬直している女の腹部に拳を密着させ、渾身の力を入れて押し込む!
「ヘイストブレイク!!」
ド グンッ。
触れ合った場所を起点に衝撃が駆け抜ける。
「つい――でぇっ!」
――プラズマチャージ!
リバーブロウで密着した状態でバチバチッと紫電を走らせ、勢いよく腕を振り抜く。
本来ならダッシュして使う事で十全に威力を発揮する技だけど、直前の行動のおかげで人ひとりをすっ飛ばすくらいは出来た。
女はしばらく山なりの軌道を描いて空を飛んだ後、サンドバッグのような中身がみっちり詰まった重量感のある物でも落ちたような鈍い音を響かせて着地する。
そのまま二・三回、横にゴロゴロと転がってから止まった。
……トラックにでも撥ねられたみたいな光景だったな。
「もー、ひっどいなぁホント」
すぐに何事もなかったかのようにむくりと起きだす。
寝起きとでも勘違いしそうな調子だ。とてもノーガードで空を飛び受け身も取らずに転がった後とは思えない。
「女の子はデリケートなんだから、もっと優しくしてくれなきゃ。そんなのだとモテないぞ?」
「自分で言うなや」
余計なお世話じゃ。
今更だけどコイツ口調がマコトそっくりだ。だからかすっげー腹立つ。
「今のは確実に攻撃がヒットした。それなのに傷一つないのはどういうことだ、状態異常も起こしてないみたいだし」
多少なりとも電気の影響で痺れるはずだ。
いやそれだけなら耐性スキル持ちとか理由付けが出来る。しかし俺の一撃がもろに入ったんだ。
善くんですら悶絶させた拳を連続で。それなのに不具合がなにもないなんてあり得ない。
「んー?それは当然だよ。だって私、ダメージ受けないもん」
「は?」
とんでもないことをさらっと笑顔で言いやがった。
「加えてあらゆる状態無効のスキルを持ってるから、あなたがどんなに頑張ってもHPは削れないよ?」
さも愉快そうに手に持った薙刀をくるんと一回転させ、切っ先を地面に向けて構えを取る。
「嘘だと思いなら試してみる?いいよ、私はどっちでも」
「………」
分かりやすい挑発に無言で睨みつけて返す。
嘘かどうかはわからんが、一つだけはっきりしてることがある。
コイツ、調子乗りすぎ。
消化試合とはいかない(させない)。
これがt!クオリティ
■ブラッドセイバー
体外に出た血を鋭く硬化させ剣のように扱う。刃の形態は騎士剣タイプ。
FF11の青魔法。
■ヘイストブレイク
自身のステータス"SPD"(速)の値を全て"ATK"(攻)につぎ込む(スピードをゼロにして攻撃力を強化する)。
今回一瞬だけステータスが下記のようになった。
ATK:1562(4212) → 3173(8473)
SPD:1611(4261) → 0
威力は凄まじいが速度が無いので密着状態で使わないとまず躱される。ちなみに犠牲にするのがSPDな理由は直前にポルターガイストに減速させられたから。
FFTAの青魔法。
主人公も無茶苦茶でんがな。