「カレーを……カレーを食わせろォォォ!!」
「先生!六号室の患者さんが!!」
「いかん!すぐに鎮静剤の用意を!」
「カレエェェエェエェェ!!」
「先生…。ナツルは、息子はどうなるんでしょうか…?」
「分かりません…。何分初めてのケースでして……」
「そんな……!!」
「しかし、全力を尽くします」
「お友達からお便りが届いてますよ。早くよくなるといいですね」
「……カ………レ……………ー…………」
「…マーボー………ピラフ…うどん……スープ…」
「だんだんカレー以外の食べ物を言えるようになりましたね」
「ああ…だが、まだ油断はできない。すべてカレーを使うことができる料理だ」
真っ白の部屋、静寂が俺を包む。……ああ…小鳥のさえずりが……
「ナツルー!カレー作ったんだ!食べてー!」
「ギャアアアァァァァ!!(ゴヅッ!)いてッ!?」自分の悲鳴と額への衝撃で目が覚めた。
ゆっ…夢………?よかった…!ほんとによかった…!
ここ最近で一番怖かった…!
☆ ★ ☆
今朝の目覚めは今までで最悪のレベルだった。
きっと水琴が帰国したせいだろう。もしくはケンプファーになったから。
よりによって過去の記憶を夢としてダイジェストで見るとは思わなかった。
「ベットの下なんてところで寝てたからだと思いますけど」
ハラキリのツッコミは聞かなかったことにする。うえ、寝汗でぐっしょりだ…気持ち悪っ
とりあえず汗を流してから、朝飯でも食おうとリビングに移動してみれば、俺を病院送りにした当人がいつの間にかソファーでくつろいでいた。
多分シャワーを浴びてる間に解錠しつたんだろう。ドアを開けたら音が鳴るように罠を設置してたんだが…
「なにあれ、罠のつもりだったの?」
しれっと悪びれもせず、テレビのリモコン片手に
ちなみに紅音は、しばらくしてから家にやって来た。べつに水琴のアホな行動に付き合わなくてもいいのに、律儀なやっちゃ
☆ ★ ☆
制服に着替えて(俺だけ)から家を出て、とりあえず監視の名目で学校のすぐそばにある喫茶店に入った。
「女のナツル、早く来ないかしら」本人前にして来たら奇跡だ。
「(このまま来なかったらあきらめるでしょうか…)」
紅音が小言で尋ねてくる。
それは絶対ないだろう。水琴は食らいついたら飽きるまで離さないからな。
いや、どっちかって言うとワニだな。無駄に被害を大きくするから
「あ、沙倉さんだ」
「マジか」
思わず食い入るように窓の外を見た。昨日あんなことがあったからな
…パッと見とくに何ともないみたいだな
「……キモい」
いきなり水琴に暴言を吐かれた。何でやねん
「目が汚れてる、変質者みたい」
「よーしよく分かった。表出ろやコラ」
思わず立ち上がる。長年の怨み、今こそはらしてくれるわ
「あ…あの」
ずっと黙ってた紅音が俺の服を軽く引っ張った。
「とめるな紅音ちゃん。コイツとは拳で語らなきゃならんのだ」
「いえ…そうではなくて……」煮え切らないな。なんなんだ
そこで気付いた。腕輪が光ってるのだ、敵はいないようなのでランダムだろう
俺は慌ててカバンを掴み、走った。
「ちょっとナツル、どこ行くのよ!?」
水琴が騒ぐが無視。よかったな、噂の女ナツルにすぐに会えるぞ
店から出て、人気のない路地に入った途端に変身した。誰にも見られちゃいないだろうな
「また女子部か…」正直嫌だが仕方ない。それもこれも雫のせいだ
重い足を引きずり、そのまま学校の敷地内へ歩を進める。
すると俺の姿を確認した女子一同が一斉に左右にバラけた。なぜに?
「あれが噂の…」
「老若男女問わず食った…」
「年下にSMを強要してる…」
「近付くと妊娠させられる…」
「ナツルたん、ハァハァ…」
ハハッ、やだな。泣いてなんかないよ?
…てか最後のホントに女子?
一日で噂がエライことになってる…。尾ひれ背びれ付き過ぎだろ、胸ビレまで生えてんぞ。俺が何をした
「ちょっとあんた」
呼ばれたので振り返ると、そこには水琴がいた。その後ろには当然紅音も
「聞きたいことがあるんだけど」
ここで断ったら…後がメンドくさそうだ
「ついてきて」水琴は俺の返答聞かずに校舎の方へ歩きだした。
仕方ないのでついていく。
昔不良にタイマン張られた時を思い出すな。状況どころか性別違うけど。
「ついたわよ」
水琴が目差してたのは新聞部だったようだ。ここは嫌な記憶があんだよな…
「あんた女好きってホント?」
俺を椅子に座らせると、すぐさま質問を開始する。いやむしろこれは刑事の取調べに近い。
ますみといいコイツといい、先輩への対応の仕方を間違えてないか?
元が男だから女が好きなのは当たり前なんだが、それ言ったらややこしいことになるからここは首を横に振っとく。
ちなみに喋らないのは声でばれるかもしれないから。一応幼なじみだし。
「ふーん…。ま、聞きたいのは他に流れてる噂なんだけどね」
他の噂?
紅音ちゃんの方を見るが首を傾げていた。こっちも知らないようだ。
「あんたが実は男子部の瀬能ナツルが好き、ってやつ」
は?
はあぁぁぁぁぁっ!?
「とぼけても無駄よ。生徒会長が聞いたって言ってるもん」
出どこは
俺が考えごとをしていても構わず水琴は話続ける。
「はっきり言って
ぶち殺す!もう少しでそう叫びそうになった。殺意の波動に目覚めかけてるのが自分でもよく分かる。
しかし水琴は顔を赤くして、話すのに夢中で気がついていないようだ。紅音は顔面蒼白で今にも倒れそうなくらい震えてんのに。
「…ツルのことが好きなのは他にも…」
知らない間に話しが進んでしまったようだ。どっちにしても声小さくて聞こえねーよ
「とにかく!あんたホントに男ナツルのこと好きなの?!」急に大声をだしたかと思えば、くっつきそうなくらい顔を近づけてきた。
こいつ…意外と……
「どうなの!」
水琴の迫力に思わず頷く。
…って何してんだ俺ェェェェ!!!??
「……そう…」
水琴は一瞬ショックを受けた後、沈痛なおもむきで絞り出すように声を出した。
「…こんなとこに呼び出してゴメンね…。応援、するから」そう言って部屋から出ていく。
あとには俺と紅音だけが残された。
「……エライことになったな…」
「はい……」
二人してため息をついた。
応援されても困るんだけど
☆ ★ ☆
チャイムが鳴るまで新聞部の部室で沈んでたせいで、一時間目の授業は遅刻してしまった。
なので仕方なく、終了間際に教室へ向かった。
だって担任の授業なんだもん…途中で入ったらどうなることやら……
紅音も何も言わず俺と同じ行動にでた。生徒にこうまで思われる教師っていったい…
「瀬能様!」
「あの噂は本当ですか!」
「わたしを捨てて男に走るだなんて!!」
教室に入ったらそれはそれでメンドいことになった。頭イテェ…
「瀬能さん、もう少しまってください。オッズが上がります」人を賭けの対象にすんな
「あたしは負けに賭けたからー」ヘラヘラしてんじゃねーよ、髪の毛染めんぞ
「人の不幸は蜜の味…ふふふのふ」自分じゃなかったら賛成なんだがな
誰にも頼れないこの状況、まるで四面楚歌だ。唯一頼れそうな紅音はオロオロしっぱなしだし。
「瀬能様!!」
「瀬能さん、助けてほしかったら報酬を」
キサマらの言うことを聞くくらいならぁー!!
窓際を目掛けてダッシュ。
「ナツルさん?!」紅音が驚いた声を上げた。
俺は開いていた窓から勢いよく外へ飛び出す。ここは二階?そんなの関係ねぇー!
ガサッ!バキバキバキ!!
☆ ★ ☆
「抜かったわ…」
まさかすぐ外に木が生えてるとは思わなかった。
二年四組の教室からは「まさかそんな行動に!」とか「瀬能様ー!!」等の声が聞こえてくる。
「また噂が増えるんだろうな…」
それも悪い方に。
もう今日は帰ろうかな…と考えながら、とりあえず靴箱に向かう。
自由に変身できれば一応男子部に行くんだけどね
「………ん?」
昇降口まで行くと、見知らぬ女生徒の姿が目に映った。
そいつはなにやら靴箱の一つを開けてガサゴソと―――ってアレ俺の靴が入ってるところじゃないか?
「あの!なにをしてるんですか?」
「っ!?」
念のため猫かぶりボイスで話しかけると、見知らぬ女子生徒はギョッとした顔で一度こっちを見て、慌てて走り去っていった。
「あっ、ちょっと!」呼びかけるが、聞く耳を持たず逃げていく。
…今の、ホントに誰だったんだ?流石に女子部の生徒の顔を全員知ってるってわけじゃないが、それを差し引いても見たことない奴だったぞ
とりあえず靴になにかされてないかと、開けっ放しの靴箱の中をのぞき見る。
前に一度靴を取られたからな。会計さんに。
なんでも俺関連のものは高値で売れるそうで、見つけたとき競りにかけられていた。
当然返して貰ったが、あのときはイジメの方がなんぼかマシだと思ったね
「靴は大丈夫そうだな…だけど……」
靴の上に見慣れない封筒が置いてある。さっきの奴が入れたのか?
余談だが昔、男子部の俺の下駄箱にも一度だけ似たような物が入ってたことがある。
もしかしてラブレター?と思い、心臓をバクバク鳴らて期待に胸を膨らませ、誰にも見つからないように慎重かつ迅速にトイレの個室まで行き中身を読んだ。
そこに書いてあったのはただ一言だけ、
『残念賞。次に期待』
…書いた犯人は捜し出して半殺しにしたのも、今ではいい思い出のはず。
閑話休題
「今度は何だ…」
ケンプファーになってから
「何々…」
『同じケンプファーとして決闘を申し付ける。夜十一時に星鐵学院女子校舎にて待つ。約定をやぶれば恋人の身に災難が降りかかるであろう』
………斬新なラブレターだな。
いや、よく見たら表に果たし状って書いてあったわ
今時果たし状なんて貰ったの、高校入ってから初めてだよ。つーか恋人って誰?なんか字も古風だし。
ていうかこれ本当にさっきの奴が入れたのか?よく見えなかったけど、先に入ってた上に俺に声かけられたからビックリして逃げたって可能性も―――
「……ん?」
ぼーっと見続けるうちにあることに気付いた。
「…………時間は?」
俺は『いつ』の夜十一時に学校へ行けばいいんだろうか。
ナツルの悪夢→水琴ショック→果たし状騒動。ホントはもっと後だった闘病生活時の記憶をここにぶっ込んでみました。
怖いですねぇ、みんなが好きなはずのカレーで起きた悲劇。皆さんも用法、容量に注意して正しく召し上がりください。
なんちゃって