けんぷファーt!   作:nick

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時を重ねるほどに形を変えるけど、
今この瞬間に出会うこと

それ自体が奇跡。


番外話 偶然の確率

三郷雫―――。私立星鐵学院生徒会長。

 

彼女との初邂逅はケンプファーになってから……ではない。

 

と言っても、廊下で偶然すれ違ったとかそんなオチでもない。第一この学校ではそれも無理だ。

 

ちゃんと話もした。……まあ最近まで忘れてたけど。

 

そうあれは、まだ俺が一年だったころのことだ―――

 

 

 

その日は図書館に用があった。

と言うのも、東田に女子の写真を撮るからついて来てほしいと頼まれたから。まあ盗撮だな。

 

物陰からからこっそりとカメラを構える姿は変質者そのものだった。

 

そんなのと一緒にいたら誤解されるので、東田を置いてさっさとその場を後にする。

幸い(と言っていいのか?)奴はシャッターをきるのに夢中で、俺が離れても気づかなかった。

 

……途中女子生徒に通報されてたみたいだけど大丈夫かな

 

もしあいつが捕まったら、知らなかったことにしよう。俺無罪だし

 

 

そう思いながら本棚のすぐそばで本を読んでいると、

 

「椅子があるのだから使ったらどうかしら」

 

急に声をかけられた。

 

不審に思いながら声のした方を向くと、そこに彼女はいた。

 

「あんたは……生徒会長か。何してんだこんなとこで」

「私も生徒よ、図書館ぐらい利用するわ」

 

ごもっとも

 

「それで。なぜ椅子を使わないのかしら」

 

「古本屋と同じ感覚だよ。立ち読みしたい気分だったんでね」今まで読んでた本を棚に戻す。

 

どうもこういう空間で人に立ち読みを見られるってのはちょっと……

 

「読んでいたのは…『人体の仕組み』?おもしろい本を立ち読みするのね」見んなよ。

 

「ちょっと気になっただけだ。……やはり人間の声帯で1000ホーン以上の音を出すのは無理か」

「当たり前でしょう」呆れた口調で言われた。うっせーな

 

余談だが俺はジェロが好きだ。なぜなら人でありながら一千万パワーの超人と真っ向から挑み、勝った男だからだ。自分で自分の心臓を動かした時は凄いと思った。

しかし疑問に思うんだが、岩をも砕くおたけびを真直(まじか)で受けて、使い手の鼓膜は大丈夫なのだろうか

 

 

「…あなた、瀬能ナツル君ね。一年四組の」彼女は腕組みしながら言葉を発した。

 

東田の話では。この生徒会長様はうちの生徒全員の名前だけでなく教師の名前まで全て記憶しているそうだ。

俺なんか知り合いの名前さえ危ういのに…

 

「確かあなた。数カ月前にクラスメートに暴行を行って謹慎処分を受けていたわね」

 

いろんな意味で俺は有名らしい。

 

「ブレインバスター事件のことか。動かなくなった時は流石に焦ったぞ」

 

食らった奴はもちろん生きてる。まだ病院通いはしてるみたいだが。

 

 

「なぜ暴力行為を続けるの?あなた、顔立ちはいいのだから大人しくしていたら異性にモテるでしょう」

なんだいきなり。

 

そんなこと面と向かって言われたのは初めてだよ。なよっとして存在感が希薄とはよく言われるけど

 

「あー…自分を隠してまで彼女が欲しいとは思わねぇな」

俺は頭を掻きながら続ける。

 

「結局それは相手を騙してるだけだから長続きはしない。だから最初からありのままを晒して、その上でつきあえる奴に出会えるのを待つさ」

 

東田と友達付き合いっぽいのはそれが理由だろうな。あいつはいつも自分に正直だから

 

キモくてたまにウザいけど

 

「…理解者がいない場合はどうするの」

「そんときゃ一人でいるだけだ」

半ば予想してた質問だから即答できた。

 

「誰だって一度は一人になる時期があるもんだ。それのまま人生終わってもしょーがないだろ」

 

一人で生き一人で死ぬ。それもまた人生だ。

 

…なんで俺会ったばっかの人間にこんなこと喋ってんだろう

 

 

「……そんなものかしら」

会長は目をつむり、髪をかきあげながらそう呟く。何か思うとこがあるのだろうか。

 

「あなたの考え方はあまり共感できるものではないわね」

「べつに納得してもらおうとは思わないけど」

世間一般的じゃねえってのは分かってるし

 

それに、

 

「少なくとも今この瞬間は一人じゃねーしな」

こうして他人と会話してんだから

 

 

「俺が消えた時は、俺のことは忘れていい。だがあんたに考え方を言った奴がいたことは覚えててくれ」

 

 

「………っ!」

 

何となくカッコよさ気なことを言ったつもりなんだが…、なんで目の前のこいつは驚いたように目を見開いて俺を見てるんだ?

 

「……あなた」

会長が口を開いたが、

 

「あ、雫ちゃん!やっと見つけたよ」

第三者の声でまた閉ざしてしまった。つーかこの声は

 

「佐倉?」「楓」

 

同時に相手の名前を呼んでしまった。えっ、知り合い?

 

「え?ナツルさん?」沙倉が驚きの声をあげる。

その時

 

「ナツル。こんなとこにいたのか」

新たな声が。つーか…

 

「東田…捕まってなかったのか」

てっきりもう補導されたと―――ゴメン嘘

ぶっちゃけ今の今まで忘れてた。

 

「危なかったがな…ってそこにいるのは会長と佐倉さん!?」疲れた顔から一転、急に驚いた顔になった。

 

いちいち忙しい奴だなコイツも

 

「カ・カメラ…。カメラは…!?」手に持ってんじゃねーか。コント?

 

「落ち着けウザったい」

「これが落ち着けるか!星鐵二大美女が揃ってんだぞ!」

 

激しくウザキモいなコイツ

 

「逆になんでお前冷静なんだ?!」

「興味ないから…かな?」

 

確かに美人だが、イマイチなんか…好きになれない?ていうかー。

 

「どっちかっつーと俺はギャルゲーのヒロインの方が好きだ」

「お前それでいいのか!」

東田は目を覚ませと言わんばかりに俺の両肩を掴んでブンブンと前後に揺すってくる。

 

若干気持ち悪くなってきた…

 

 

「雫さま!」

「会長、こんなところに!」

「ほ…本物だ!!」

 

なんか気付いたら大勢の生徒がやって来ていた。

最後の奴おかしいだろ、全校集会で見てるはずだぞ

 

「図書館では静かになさい」

 

会長は嫌な顔一つせず騒ぎをおさめた。このへんは流石だろう。

 

「東田。そろそろ帰んぞ」

「いや、写真を撮るまでぐふっ!」反論する前に鳩尾を殴り気絶させる。

 

すると周りからヒソヒソと非難の声がする。また一段と評価が下がったようだ。

 

まあいいけどね

 

「………」

「じゃーなカイチョー」

 

ひらひらと適当に手を降り、ずるずると東田を引きずって教室に戻る。

 

そうして去って行く俺を、会長は無言で見ていたた。と思う。真後ろで見えなかったから知らないけど

 

 

 

これが俺と雫との初めての会話だ。

 

今思えば、これが目をつけられたきっかけだったのかもしれない。

 

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