第13話 Pursuing My True Self
葛原との闘いからしばらく経ったある日。俺こと瀬能ナツルは男子部の自分の教室に向かっていた。
多少コントロールできるとは言っても、相変わらずケンプファーへの変身はランダムなので、今日も朝から不安を胸いっぱいに抱えながら登校する。
他にいねーだろうなこんな思いしながら学校に通ってる奴
「うぃーす。ちゃーす」
教室に入ったらフランクに挨拶。ニンゲンならアタリマエ~
「…おい聞いたか…の……」
「ああ…例の………」
誰一人として反応してこなかった。
返事どころか見向きもしねえ。もうみんななれちまったのかな
「だからだな……ん?おお、ナツルか。今日は早いな」
趣味はナンパ・特技は盗撮。星鐵学院男子部で一番女子に詳しいと言われているキモい男、東田が俺に気づいて今までしていた会話を打ち切って話しかけてくる。
「東田、なんかあったのか?心なしか全員微妙に興奮してるみたいだが…」
「そりゃあそうだろう。なんせ切り裂きマリーさんが出たんだからな」
は?
「なんだよ切り裂きマリーさんって。怪談ならメリーさんだろ」
「怪談と言えば怪談なんだが、そこまで怖いもんじゃないんだ」
そう言って東田は内容を話し始める。
切り裂きマリーさん。本名不明。出身不明。学年は多分二年生だろうとのこと。
初夏近いこの時期でありながらも冬用の改造制服を着込み、コードレスのヘッドホンを首にかけている金髪美女子。
ほとんどの場合放課後に出現するらしいが、詳しいことは不明。昔学院で非業の死を遂げた幽霊だとか、本当は星鐵の生徒じゃないのかもとか言われているが、結局のところなにも分かってはないとのこと。情報が少なすぎるんだと
で、なぜ切り裂きマリーと呼ばれてるかと言うと、自分を見た奴の服をバラバラに切り裂いてしてしまうからだとか…
「今日の一時限目は英語か…。苦手なんだよなぁ……」
俺は生粋の日本人なんだ。ちんぷんかんぷんでもしょうがないよね?
「おいナツル。お前から聞いておいてそれはないだろ」
服をバラバラに~の辺りでさっさと自分の席に移動した俺に再び近寄ってくる東田。
たしかに今の行動はちょっと失礼だろう。でも…
「バカだろお前」正直他に言葉が浮かばない。
「いくら思春期でもそれはないわ」
「いや、俺の妄想ってわけじゃないからな!?」
じゃなんで慌ててんのお前?どうせ『こんなんだったらいいな』って想像図に一枚かんでるんだろう
「だいたいなんでマリーなんだよ。剣の魔法使いか」
「いいだろそこは。どうせ名前知らないんだから」
まあ確かにそうだけど
周りを見渡せば、クラス中が人の服のみを狙う切り裂き魔の話題でもちきりだ。
どいつもこいつもアホばっかだな。そんな被害がでりゃ教師やあの腹黒万能生徒会長が注意のひとつでも呼びかけるだろう。ま、それを分かってる上で盛り上がってるのかもしれんが
この時はとくに気にも留めなかった。
しかし俺は、自分が非日常に片足を突っ込んでいることをまだ自覚していなかったのだ。
少なくともこの時は。
☆ ★ ☆
二限目の授業中、それは起こった。
英語でNP(眠気ポイント)を程よく貯められ、うつらうつらとフナをこいでいたら急に腕輪が点滅しだしたのだ。
またかよ……もういっそ無視して寝ちゃおうかな
紅音が言うには意識がないときは変身しないらしいし、それもひとつの手だな。いつもいつも振り回されてたまるか
そう思って机に突っ伏したが、途端に右腕が廊下側に向かって伸びた。
正確には引っ張られた、だ。こんなこと変身がランダムになってからは初めてだ。
しかしこの感覚はどことなく覚えがあるな…そう確か紅音と出会った時もこんな―――
ガタッ!
即座に立ち上がる。
衝撃で椅子が倒れたが気にはしない。どうせ後ろは東田だし
「せっ、瀬能?どうしたいきなり……」
教鞭をふるっていた教師が恐々と尋ねてくる。
大概の教師は俺が奇妙な行動をとっても『またか』みたいな顔してスルーするが、社会科の教師だけは今だにビクついた対応を取る。そういや二限目は社会だったな
「瀬能…?黙ってちゃ先生わからんぞ…?なにか不満があるのならべつの先生に相談をしてくれんか?」
あんたにじゃねーのかよ。まあいいけど
「すいません先生、ちょっと席外します!」
怯えた視線を無視して廊下に駆け出す。
教師がちょっとホッとした表情見せたのは気づかなかったことにしよう。今にはじまったことじゃないし
廊下に出てしばらくすると、腕輪から発せられる光が強くなり、次の瞬間
幸い(て言っていいのかな)今はどこも授業中なので、変身を見られた様子はない。
俺はそれらの奴らに気づかれぬよう細心の注意を払いながら、辺りを伺う。
すると
廊下の突き当たり。ちょうど階段があるところに、そいつはいた。
「………………」
金色で長い髪をポニーテールのように括っていて、首にはコードレスのヘッドホン。
長袖の星鐵学院の制服を着ていて、瞳は血のように紅く、睨みつけるように目尻を吊り上げてこっちを見ている。
「切り裂き……マリーさん…!」
夕方に出るんじゃなかったのかよ。東田の野郎適当なこと言いやがって
ダッ―――!!
金髪の女は猛スピードでこちらに走り寄ってきて、いつの間にか手に持っていた剣を勢いよく突き出す。
「くっ!」
なんとか初撃を躱す。クソ速え!
それにしてもぐにゃぐにゃとしたもん使ってんなぁ。ドラクエのさざ波の剣みたいな形してんぞ
「………!」
ヴォン、ヒュッ、ビュンシュッッ!
水平斬り。突き。払い上げ。袈裟斬り。
おおよそ考えつくだけの剣の振るい方をしてくるが、そのどれもが素人に毛が生えた程度のもの。
身体能力は高いがあんまり戦い慣れてねーなコイツ。剣が波うってるせいで距離感が掴みづらいが、雫の時ほど苦戦はしないだろう。
でもなぜだろう、少し――――――嫌な予感がする。
何に対してかは分からないが、長引くと不利なのは間違いないだろう。場所や時間の関係もあるし。
俺は避けるのを止めて、人気のない場所へと移動するために踵を返して走り出す。
すると相手も、攻撃を止めて無言でついてくる。無論、一定の距離を置いてだ。
てっきり「逃げるのか!」とか言われるかと思ってたんだが……人目に触れられたくないのは向こうも同じなのかな。
そうして走ること数分。先日の襲撃事件のせいで半ば閉鎖状態になっている図書室へとやってきた。
ここならどんなに騒いでもまあ大丈夫だろう。授業中だから使ってる奴はいないし、すでに色々壊れてるし。
「………!」
向こうもそれを分かってるらしく、図書室に入ると同時に攻撃を再開してきた。
波打つ凶刃が再び襲いかかる。
ゥヴォンッ!!
即座に身体を捻りつつ、極限まで
「!?」
あまりの速さに一瞬腰から上が完全に消えたように錯覚したんだろうな。
その隙に半歩飛び退き、祈りのポーズを取るように両手を叩く。
パンっ チリッ…
「?」
ボゴンッッ!!
「!?―――っぁ…!」
瞬間、火花が飛んで相手の顔から爆発が起きた。
焔の錬金術だ。
「槍でも出すかと思ったか?」
あいにくそこまで器用じゃないんでね
その代わり――
「いいもんくれてやるよ!」
体の横で両手を上に向けて、その両手から弓なりに伝わる炎の柱のようなものを発生させる。
それを頭上で両手を合わせて圧縮し、投げつけるようにして撃ち出す!
―――ベギラゴン!!
「!!」
ドォオンッッ!!
炎は一直線に飛んでいき、本棚を2・3なぎ倒しながら壁際に設置されていた別の本棚に激突。そのまま一気に炎上する。
スチール製でも燃えるときは燃えるんだな
プシャッ、シャーーーー――――
火災が発生したせいで、天井に備え付けられたスプリンクラーが作動して室内に雨が降る。
すぐさま濡れねずみになるが、気にせずあたりを見回す。
さっきの金髪ポニーテールがいない。
どうやらベギを避けた上に逃走したみたいだ。すばしっこい奴だな
『なんだなんだ?』
『やだ火事?』『凄い音がしたけど…』
『図書室の方からみたいだぞ』
火災報知器の音に紛れて男子部女子部両方から慌ただしい声が聞こえてくる。
いつまでもここにいるわけにもいかないな。ずぶ濡れだし
しかし…
「うーーーーーむ……」
さっきの奴……なんか引っかかるな………
一度も見たことない(はず)の少女に多少の違和感を覚えたが、いつまでも唸ってはいられない。
とりあえず一刻も早く身を隠すために、俺は図書室を後にした。
「くしゅっ」
途中でくしゃみをひとつして。
風邪とかひかないだろうな
☆ ★ ☆
図書室からすこし離れたとある場所。
金色の髪をポニーテールに纏めた少女が一人、刀身が波打つ剣を片手に歩いている。
「……なりたてのくせに手ごわいな…」
少女は急に呟いたかと思うと、持っていた剣を2・3度軽く降る。
すると左手に握られていた剣は跡形もなく消えさった。
「まあいいさ。倒す手段はある。…」
歩みを止めぬまま、どんどん少女は人気のない方へと突き進んでいく。
「首を洗って待ってろ。瀬能ナツル」
ネタばらし
焔の錬金術
ハガレン。本当ならあと20話以上しないと使えないはずなのにこのこ普通に使ってます。
ベギラゴン
ドラクエ…と見せかけてダイの大冒険。初期でハドラーが使ってたやつですね。
というわけでハイ。けんぷファーt!完全オリジナル話です。にじふぁんにもいなかった新ケンプファー登場です。
キャラモデルはシャドウ制圧兵器。八高・鋼鉄の生徒会長の方です。髪は金髪ですけど
さて…次の投稿はいつになるかな……