けんぷファーt!   作:nick

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第26話 祭りのじかん

学園祭当日。

 

仮病でも使って休もうかと本気で悩んだが、後が怖いので結局女の姿で学校に向かう。

 

到着した途端前に着せられたメイド?服に着替えされ、学祭が始まると同時に給仕として客前に出された。

 

そして今に至る。

 

 

「瀬能さん、ご指名です。8番テーブルに」

「またですか」

もう始まってからニ十件くらい指名受けてるんですけど

 

 

喫茶店は指名制なので、人気があると文字通り引っ張り凧だ

 

廊下には二年四組のクラス全員の顔写真が飾ってあり、これを見て指名する()を決める(らしい)。

校門前に来てすぐ拉致られたから店の外観がよく分からん

でも話だけ聞いたらすごく…ホストっぽいです

 

システムとしてはまず食券を購入して、次にお付きのメイドを指名する。

 

別に指名をしなくても問題はないらしい。その場合は誰が接客に来るかはランダムだ。

指名した時だけ別料金が発生する。その金額は決して安くはないんだが…

 

「それだけ人気があると言うことです」

「全然うれしくないです」

「いいから早く行ってください」

 

問答無用で飲み物を乗せたオボンが渡される。ダリー…

 

抵抗しても無駄なので仕方なく運ぶ。

8番テーブルは…ゲッ

 

「……お待たせ、しました。ご主人様」

 

届け先のテーブルには男子部のクラスメートがいた。東田と…誰だっけ?

 

「君が瀬能ナツル!?」名前の知らない奴が興奮気味で話しかけて来た。

 

「そうですが…」

「うちのクラスに同じ名前の奴がいるけど段違いだ!スゲー美人!!」

 

 

同一人物だよバーロー

 

 

馬鹿一号はその後もしきりに「スゲー!スゲー!」と連呼してくる。他に言語を知らんのか

 

つーか止めてほしいんですけど。欝陶しい上みっともないから

 

「やあ、久しぶり。元気してた?」

 

今度は馬鹿二号こと東田がニヤついた顔で話しかけて来る。

馴れ馴れしんだよテメーは

 

「どちら様でしょうか」

「つれないなぁ、一緒にデートしたじゃん」

 

 

危うくフォークで眼球をえぐりそうになった。

 

 

このクズ自分の都合のいいように記憶を改ざんしてやがる。救えねえ

 

心中を悟られないよう作り笑顔を貼り付け、猫を被ってやんわりと否定する。

 

「記憶にございませんのでお客さまの妄想の中だけの出来事でしょう」

「そうだ、写真撮らしてよ。記念にさ」

 

聞けよクズ野郎

 

「……申し訳ありません。そのようなサービスは」

「ありがとうございます。瀬能さんとの写真撮影はこちらです」

 

突如後ろから声がして、慌てて振り返ると委員長が立っていた。

しかもその横で会計が電卓を叩いている。いつの間に…!

 

「写真撮影のお値段は、お一人様五百円です。こちらで撮影及び現像まで受け持つ場合は、千円となってます」

会計が料金表のような物を見せてくる。

 

いつ作ったの?

 

「……いい値段だなぁ」

馬鹿一号がため息をつきながら。

 

「謎の美少女、瀬能ナツルさんとのショットですから、十分お求めやすいお値段です」

「それもそうか」

 

委員長の言葉ですぐに納得したのか、いそいそとポケットから財布を出す。

それでいいのか

 

東田は早速カメラを取り出し、委員長に撮ってくれるように頼んだ。用意のいいこって

 

「それではどうぞ。…多少ならくっついても構いませんよ?」

 

 

俺が構うんだけど。なにさりげなく言ってんだよ

 

 

委員長の言葉に二人が近寄って来る…

が、すぐ止まる。

 

他の奴から見えないだろうが、この時二人のわき腹にはフォークとナイフの切っ先が突き付けていた。犯人は当然俺だけど

 

持っててよかった。銀食器

 

 

「はい、チーズ」

 

カシャッという音と同時にフラッシュが光る。

きっとコイツらの顔は引き攣っているだろうな

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

しばらく接客を続けてたら、あっという間にミスコンの時間が来てしまった。

時の流れって便利ー

 

「瀬能さん、そろそろミスコンの準備を」

「はあ…」

委員長の宣告に思わずため息をつく。

 

このまま逃げてぇ…

 

「これ。衣装です」

 

追い打ちをかけるように会計が紙袋を渡してきた。

……なぜだろう。とてつもなく嫌な予感がする

 

気になったので中身を覗いて見ようとしたら

 

「駄目です」会計に手を叩かれた。

「でも…」

「駄目です」

「………」

「これを着て会場に出てください」

 

かなり不安だが、いつもと違って凄みがあったので言い返すことが出来なかった。

なんでこの娘こんなに怖いの…

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

更衣室と指定されてるプレハブ小屋前。

 

今日のミスコンのためにわざわざ作ったらしい。なんでも出場者が着替えを行う場所だから盗撮されないようにとの処置だそうだ。

 

中に入るとすでに何人かの女子が準備していた。

流石にミスコンに出るだけあってみんな美人だ。

 

見たとこ着替えはほぼ全員終わってるみたいだな。よかった

……異性の裸をすぐそばで見る勇気は今の俺にはないからな

 

知人のはとくに

 

「ナツルさん!」

「沙倉さん。…凄い格好ですね」

 

俺を見つけて駆け寄ってきた彼女は、ウエディングドレスの格好をしていた。

…演劇部のか?寧ろ演劇部のだよな。私物じゃないよな?

 

「ありがとうございます!そんな隅にいないでこっち来ましょうよ」

 

そう言って俺を中央のテーブル近くに引っ張ってく。コラコラ待って待って

 

「いえ私は端っこで…」

「駄目です。綺麗な人は目立つ所にいなくちゃ」

 

目立ちたくねーから隅にいんだよ…!

 

俺の心中は見事に無視され、もっとも目立つ位置に移動させられてしまった。

周囲の視線が痛い…

 

「ナツルさんの衣装はどんなのですか?」

 

彼女は気にはならないんだろうか?普段と変わりなく、いや普段より嬉しそうに話しかけてくるんだけど

意外と神経が太いのかもしれない

 

…そういえば衣装の確認してなかった。

 

 

「…!!」

「どうしたんですか?」

「いえ……」

 

アイツらぁ……!

 

袋を覗いてみれば、中には革のパンツとサスペンダー、あとはナチス親衛隊の制帽となぜか乗馬用の鞭が入っていた。

 

 

冗談にしてはたちが悪すぎる

 

 

「? 着替えないんですか?」

「あ…あははー…」どうしよう

「そうだ!わたしがお手伝いしましょう!」

「え"」

 

彼女は両手をパチンと合わせ、ナイスアイディアと言わんばかりの笑顔で提案してきた。

 

ちょっと想像してみる。

 

 

それなりに大きく、しかし逃げ場のない密室で

中学からの知り合いの異性に

およそノーマルとは言えない格好にさせられる自分

 

 

死んでもゴメンだった。

 

「いや…その……」

軽く見積もっても死刑宣告に近い提案だ。なんとかしてかわさなきゃ未来が危うい。女の俺でも男の俺でも

 

しかし沙倉はガンとして譲る気はない。訊かなくても眼がそう言っている(笑顔なのに背後に龍が…!)

 

 

マジでどうしよう

 

 

「……花嫁さんは向こうで待機しててください」

 

ジリジリと壁方向に追い詰められていると、突然待ったの声がかかり、一人の女が俺と佐倉の間に割り込んできた。

 

おおっ、救世主(メシア)降臨!あなたが神か

 

ああっ、でも覇気が小さすぎる!せいぜい小猫の威嚇レベルだ!

 

 

「…美嶋さん。邪魔するんですか」

龍が早速噛みついた。

 

どっちかってーとお前の方が邪魔なんだが

 

「あたしは…、どっちのナツルさんも守ります!!」

 

 

え…何この流れ

てっきり紅音ちゃんが押し切られて引き下がると思いきや、猫パンチで反撃したよ

 

つか、今俺告白された?『あなたを一生守ります』みたいな感じで

 

 

沙倉も、普段から大人しい彼女が強気に出てくるとは思ってはなかったらしく、少々面食らったような表情を見せた。

しかしすぐに反撃に出る。

 

「…だいたい美嶋さん、なんでここにいるんですか?スタッフの方は入っちゃいけないんですよ」

 

「スタッフではありません、あたしもミスコンに出場します!」

そう言って番号札のようなものを突きつける。

 

えっ、本気?言っちゃ悪いけどキミ、超地味じゃん

 

つーかミスコンっていう大舞台に出る度胸はないと思ってたんだけど。なんかあったの?

 

 

「…そうですか。ならわたしたち、ライバルですね」

札を見た途端、沙倉は眼を細めた。

 

「手加減しませんから。わたし、ステージでナツルさんに告白するつもりです」

 

待てやコラ

 

なにサラっと爆弾発言してくれてんだテメー!ステージ上で告白っておま、逃げれんじゃないか!?なんてこと考えてやがるんだ!

 

あまりの衝撃に言葉が出ず、その上硬直する。

一方沙倉は、言いたいこと言って気が済んだのか、失礼します。と軽く頭をさげて背中を向ける。

 

本当ならこの場でなんか声をかけて、止めさせるのが得策なんだろうが、困ったことになにも思いつかない。

 

そうこうしてる内に彼女は去っていった。

最悪だ…いっそ振ろうかな

 

「びっくりしました……」

「うん…」

 

人生でトップ5に入るくらいびっくりだよ

 

「そういえばナツルさん衣装は…?」

「………」すっかり忘れてた

そして出来れば忘れたままでいたかった

 

無言で紙袋―――置く機会を逃してずっと持っていた―――を突き出す。

紅音は不思議そうな顔をしながらもそれを受け取り、中を覗き込んだ。

 

「………なんですかこれ…」

「…さあ……」

 

しょっちゅう考えるんだけど、俺は二年四組(あのクラス)にいて大丈夫なんだろうか

 

「…着るんですか?この服…」

「なわけねえだろ」

つい素のままの対応をしてしまった。

 

「一難去ってまた一難だ…もういっそこのままで出ようかな」

「それはさすがに…あたし、他の服捜してきます」

「頼む。まともなのだったらなんでもいいから」

 

俺の言葉に、紅音は頷いて更衣室から出ていった。

 

ありがたい…んだが大丈夫かなぁ。あいつセンス最悪だから……

 

それにそろそろ開始の時間だ。

まあ間に合わなかったら予定通りこの格好で行こう

 

 

「顔色がよくないわね」

「は?」

 

急に声がしたので慌てて背後を振り返る。

そこには壁に寄りかかっている雫の姿が

 

「会長、あんたいつから…」

「細かいことは気にしないの」

 

無理言うなよ。無茶苦茶気になるわ。気配が全くしなかったんだぞ

つかいたんなら止めろよ、親友だろ?

 

 

「あなたが来るちょっと前、楓が臓物アニマルを配っていたわ」

「なんだよいきなり…」

「もしかしたら出場者の誰かが新しいケンプファーになるかもしれないわね」

「ふーん」

 

正直『だからどうなの?』って感じだ

あまり興味もないし

 

ただ俺らに危害を加える奴だったら…手を出したことを後悔してもらわなきゃな

 

「もしそれらしいのを見つけたら教えてちょうだいね?」

「余裕があったらな」そう言って手をひらひらと軽く振り、雫に背を向けて出口へと向かう。

 

 

「あら、着替えは?」

「代えの服を取りに行ってもらってるんだ。来るまでそこら辺ぶらつくよ」

「そうじゃなくて、私の着替えに興味はないのかしら」

 

何言ってんだコイツ

 

「ねえよ」

嘘。興味深々です。だって男の子だもん!

 

でもここでチラッとでも見たら今度こそヤバイ。綿流しにあうかもしれない。

だから俺はクールに去るぜ

 

 

「……つまらない男」

「ジェントルマンと言ってくれ」

雫の呟きに背中越しで返した。

 

…でもやっぱり惜しかったな




早くも投稿しちゃいました。さっさと書きたいとこまで行きたいので


ナツル君、えぐるならスプーン使ってー。フォークは刺すものだから
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