あの後、ノリで走って学校まで(途中で男に戻った)行ったが一時間目はとっくに始まっており、予想道理に遅刻した。
俺のクラスは二年四組で、俺以外の生徒は全員座っていてこっちを見ていた。
なんだろう……少し快感。
「瀬能、これやってみろ」
厳しい上に頭が薄い国語の(そういえば一時間目は国語だった)教師が不機嫌そうな顔で黒板を指差す。
何々…『次の言葉を使い文章を作りなさい』か、お題はたらればね。
…………………………………よしっ。
「
「瀬能。廊下に立ってろ」
何故だ
☆ ★ ☆
今どき水を張ったバケツを両腕で一つずつ持たされる高校生がどれくらいいるだろう
そんな罰ゲームのような数十分を終えて、午前中の授業を全てこなしてからの昼休み。
結局休み時間には食えなかったおにぎりをここで食い、残り時間を寝て過ごすために机に突っ伏そうとした瞬間、見るからに軽薄そうなクラスメートがにやにやしながら手招きしているのが視界の端に映った。
名前は
「瀬能、呼んでるぞ」
まったく動こうとしない俺を見て、隣の席の奴が声をかけてくる。気づいてないとでも思ったんだろう
いい奴だな君は…えっと……名前は忘れたが
でもどうせろくな用事じゃないだろうから無視。寝よ寝よ
「おいナツル、どうせ気づいてんだろ。無視するなっ」
東田は業を煮やしたのか小走りに近寄って来た。
「お前に客だ。さっさと来い」
「先生なら、俺は死んだって言ってくれ。遺言は『なっ,なんじゃこりゃぁーーー!!』で」
「ジーパンか、そうじゃなくて」
なぜか顔を近づけて声を潜める。
突っ伏してるから見えてないけど気配でまる分かりだ。
「女だよ、女子部の生徒だ」
なにぃ……頭を上げて東田を見据える。変体ちっくな顔してんなぁ
「とうとう血のつながってない妹が弁当を届けに来てくれたのか?」
「お前一人っ子で一人暮らしだろうがっ」
大概の男なら一度は考えるシチュエーションだろう?
「じゃあ俺に恋心を抱く下級生か」
「ちげーよ、妄想から離れろ」
ひどい言われ様だ、実現しないだけで真実なのに。
「廊下で待ってるぞ」と言われたので東田に礼を言って席を立った。
私立星鐵学院高等学校は、他の学校と違い少し変わっている。
元々は女子学校で、戦前に創立された良家の子女を集めた花嫁修業学校だった。
が、十年前から「時代の
しかし、学校のOGたちが共学を反対。その反対は通らなかったが、代わりに「校舎を男女別に分ける」という意見が可決された。そのため広大な敷地は二つに分けられ、女子校舎と男子校舎が造られると
詳しくは小説『けんぷファー』一巻53ページをご覧下さい。
……とにかく、男子部と女子部は滅多なことでは行き来することが出来ないのだ。
塀のそばに立って女子の声を聞くと、自分が囚人になった気がすると皆が皆口をそろえるのはウチの学校だけの秘密だ。
何でこの学校入ったんだろう
俺が教室から出て廊下に行くとそこに女の子が一人で立っていた。
髪をヘアバンドで留めていて、眼鏡をかけた存在感薄そうな少女。
徽章を確認したら俺と同じ二年生だった。
「俺を呼んでるって聞いたんだが」
「…………はい…」
尋ねるともじもじしながらも小声で返してくる。
なんか今にも消えそうなんですけど。俺にしか見えない幻の少女ってワケじゃないよね?
「なんか用か?」
「…………はい……」
そこで会話が止まった。
何だろう、すごくイライラする。殴っていい?
「本当に俺に用事?」
「はい…」
「あー…名前はなんつーんだ?」
「あっ…その……とっ、図書委員ですっ」
「はっ?」
図書 委員?変わった名前だな
「図書委員ですのでっ、男子部に来られたんです。委員をやると男子の校舎に来なきゃいけないこともあるって先輩たちが…」
どうやら彼女の名前は図書 委員ではないようだ。当たり前か
しばらくして一人で先走っているのに気付いたらしく、慌てて頭を下げた。
「ご・ごめんなさいっ。あ・あたし変なこと言っちゃって……。その……男子とあまり、話したことなくって……」
男を目の前にしてパニックになっているらしい。初々しいくて可愛いらしくはあるが…
「ごめんなさいっ。あやまります、本当にごめんなさいっ」
何度も頭を下げられた。めんどくせぇ……
「そこまでせんでもええだろうに…」
俺も異性と縁はないが、ここまで極端ではない。
………ない、よな……?
「それより名前はなんてんだ?」
「………」
「えっ?」
「………」
「えぇ!?妊娠四ヶ月!?」
「言ってませぇん!!」
そうだね、プロテ…言ってないね。
「わーかった、わかった。悪かった、悪かったよ。冗談だ」
少し大きめの声で謝る。野郎どもがこっちを見てるからだ。
なに見てんだゴラァっ、て目で見た(※睨みつけ)ら、皆一斉に視線をそらしたけど。
「それで、名前は?」
「みしま…あかね…です……」
罪のない冗談のせいでみしまさんは半泣き状態だった。流石に罪悪感が芽生える。
「…みしまさんは俺に何の用事があって来たんだ?」
まだグズッてる彼女をなるべく、刺激しないように優しげに声をかけた。
「今朝…の……ことで…」
今朝のこと?
「何のことだ?」
とりあえず、途中から女になっていたのですっとぼけることにした。
よく考えると銃持ってるやつと互角以上に戦ったんだよな…すげぇーな俺
「痛かったです…、ウォーズさん…」
そのネタまだ引っ張るのか。じゃなくて
「
「………(コクリ)」
彼女は顔を真っ赤にして頷いた。
これが俺以外初のケンプファー、
☆ ★ ☆
その後、俺と美嶋は図書館に移動することにした。
図書館などの男女共用にする必要のあるものは、敷地内の男子部女子部の境界線上に建てられている。
美嶋が「これ以上男子部は無理」と(実際は違う風にだが)言ったのでここに来た。さすがに少しやりすぎたようだ。イジメ、いくない!
「落ち着いたか?」
「…はい……」
俺たちは勉強用の幅広い机に、向かい合せになって座った。
今は昼休みだが、幸いこの辺には他に人影は見られない。密会にちょうどいい空間だ。
「あたしも、ケンプファーなんです」
慣れた場所で幾分か回復してきた美嶋が、右腕にはまっている腕輪を見せながら語りだす。
「これ、誓約の腕輪っていうんだそうです」
「らしいね」
「ケンプファーの証だそうです」
「俺もあるけど……」
美嶋の顔を穴が開くほど見つめて。
「ほんとに今朝の?」
「……はい」
美嶋は再び顔を赤くしてちょっとうつむきながら、
「あれ、あたしです……」
今にも消え去りそうなほど小声で肯定する。
……俄かには信じがたいな
「なんかすごいことばっか言ってたが」
「……はい」
「死ねとか」
「……はい」
「ぶっ殺してやるとか」
「…………はい」
「蹴り殺してやるこのド畜生がッとか」
「それは言ってませぇん……」
どさくさに紛れてはいと言うかと思ったけど、ひっかからなかった。案外冷静だな
「ケンプファーになるといつもああなのか?」
「……はい」
「…凄いな、なんか」
「……!もういじめないでくださぃ!」
美嶋は今にも泣き出しそうだった。というか泣いていた。
「あたし変身するとすごく気が大きくなっちゃって…、下品なことばっかり言っちゃって。ウォーズさんにあやまろうと思って…!」
いい加減やめようよソレ
「もう過ぎたことだから気にすんな。あと俺の名前は瀬能ナツルだから」
多少引きつりながらも笑顔を作って、安心させようと試みる。
ちなみに美嶋は俺のことを沙倉から聞いたそうだ。どうせなら名前も聞いとけよ…
「ケンプファーになると身姿だけじゃなくて性格も変わるんだな」
「そうなんです……」
彼女は涙をにじませながら顔を上げる。
「登校中にいきなり変身しちゃって。なんでもいいから撃ちたくなったので誰かいないか捜してたら瀬能さんたちが……」
物騒な話しである。
「攻撃をやめたのは?」
「味方だとわかったからです」
「?どうして?」
「腕輪の色が青なら味方なんです。敵は赤です」
「ほぉ…」
俺たちは連邦軍か……
「なんでそんなに詳しいんだ?」
「ぬいぐるみさんが教えてくれました。臓物アニマルのセップククロウサギです」
とりあえず、ハラキリトラは帰ったら吊るすとしよう。
「最初のうちは変身はランダムです。近くにケンプファーがいると、引きずられて変身するみたいですけど」
連鎖反応みたいなもんかな。
「武器はどうしてたんだ?銃を消してみせたが…」
「ケンプファーにはひとりに一つづつ武器が与えられてるんです。武器は、『
「それぞれ何ての?」
「銃,剣,魔法です。瀬能さんは何ですか?」
そういえば俺も知らない(やばいんじゃないか?)。どれがいいかと聞かれたら剣かな。両手用のゴツいバスターソードで武神覇漸!とかやってみたい。ヴィンみたいに銃でクイックドロウもいいな。
でも見た目貧弱そうなの当たったらいやだなぁ
「こんなに男の子と話したの、初めてです……」
色々考えている間に美嶋が喋り始めた。
「あの…瀬能さんのこと教えてもらってもいいですか?」
「いいけど、かわりに美嶋さんのことも教えてくれよ」
「……えっと、」
彼女はためらいがちになったが、すぐに
「紅音でいいです。クラスメートも、みんなそう呼びますから」
男の人に呼んでもらったことはないですけど……と彼女は顔を赤面させて今にも消え入りそうな声で言った。
なにこれ、可愛いんですけど。
「じゃあ俺もナツルでいいよ」照れくさくなったので壁の時計を見ながら言った。そろそろ昼休みも終わりか。
「わかりましたっ、ナツルさん。あたしはほとんど図書館にいるので、なにかあったら話しかけてくださいね?」
ゲームのキャラみたいだな…一定の場所にいるって。
「じゃあさっそくいいかな…」
「はい?」
「俺と付き合ってくれ」
服屋に
「えぇ!?」
紅音は目をしばたたかせて、見る見る赤くなっていった。明らかに勘違いしとる…
「あの……その……でも……ナツルさんとは今日…はじめて会ったばかりで…い・いぇ嫌いってワケじゃっ……ぇえっと…」
「勘違いしてるようだけど買い物にだから」
「はい?……」
紅音は見る見るうちに落胆していった。
「買い物…買い物……そうですよね………すいません…勝手な勘違いしちゃって……あはは……あは………」
………すげえ影を背負ってやがる
これって俺が悪いのか?
「じゃ・じゃあ今日の放課後に。頼んだよ紅音ちゃん」
一気に居心地悪くなったので早口にそう言って背を向けたら―――
「(ジャキン!)よークソ野郎。あたしをちゃん付けで呼ぶとはいい度胸だ」
後頭部に固い感触がした。