朝である。
誰がなんと言おうと朝である。
…ダメだな、昨日変な夢を見たせいか今ひとつ切れがない。
やっぱ疲れてるのにゲームするのはよくねーなー、起きたらテレビ付けっぱだったし。ゲーム機も動いてたし。
ゲームの方はセーブ画面で止まってたんだけど、いったいいつの間にセーブしたんだろうか。寝落ちしたせいか記憶が全くない。
……おっと、もうこんな時間か。早くしないと学校に遅刻する。
思考を切り替えてゲーム機とテレビの電源を落とし、素早く着替えを済ませる。朝飯は抜きだ。
食ってる時間がないってのも理由なんだが、我が家の食材はカレーの申し子の手によって悉く調理されたからな。口に入れても問題なさそうなものがない。
非常用の菓子パンとか買った方がいいかな。
「そこまで徹底して避けてると逆に好きみたいに見えますよ?」
黙れハラキリ、嫌いじゃなくて怖いだけだ。
摂取したら発狂するかもしれない物質が常時室内にあると思ったら誰だって意識するだろうが。
「考えすぎですよ。実際試したことあるんですか?」
「…………いや、ないけど…」
でも普通試さないだろ。中毒脱したかどうかなんて
「水琴さんがせっかく作ってくれた料理なんですから、一度くらいは食べてあげてもいいんじゃないですか?食材もかわいそうですよ」
「むぅ…」
無機物のくせに正論を…、俺は可哀想じゃないのかとかはとりあえず置いといて、食材を無駄にするのは確かにいただけない。
ただ………怖いんだよ正直。いやマジで
カレーがなみなみと入っているパスタ鍋の前に立つと、その思いが余計に強くなる。
この鍋も二日前空にしたばかりなのにもう満タンになってやがる。俺に気づかれずにどうやって作ったんだ?
「ほらほらナツルさん、早くしないと学校に遅れてしまいますよ」
「うう…っ」
とりあえず一口、とお玉で掬って口に運ぶ…がなかなか口内に入れられずにいると、ハラキリが囃し立ててくる。
他人事だと思って気楽に言いやがって
「ええいチクショウ、男は根性だ!俺の生き様見届けろ!!」骨は拾え!
「大げさすぎますよ」
俺は意を決して、お玉を仰いだ―――
☆ ★ ☆
「ナツル、なんかあったのか?ずいぶんと機嫌が良いみたいだけど」
学校の教室で、東田が顔を合わせるなりそう訊いてきた。
「分かるか?」
「そりゃあな。お前のそんな爽やかそうな
失敬な。俺だって過去何度かは爽やかにしていたことぐらいあるわ
「他の不良をボコボコにのしてた時とかな。それよりなにがあったんだ?」
「まあちょっとな」
そう、他人からしたら鼻で笑うほど些細なことだ。
しかし俺にとっては果てしなく大きい。まさに奇跡!
発作も中毒症状も起きず、普通に食えたカレーは美味かった…あれは人生で一番だったかもしれん。
なによりカレーを憎む日々から解放されたんだ!これが一番嬉しい
「俺は今日という日を永遠に忘れない…」
「明日には忘れてるだろ」
いちいち失礼な奴だな、よく分かってるじゃないか。
まあいいさ、これからは飯盒炊爨のたびにガスマスクを持っていく必要がなくなったんだ。素直に喜ぼう。
…いや、油断は禁物か。まだお玉一杯分しか試してないからな。
調子に乗って大量に食うと病気が再発するかもしれん。ゼブラさんもしょっちゅう言っている、調子にのんじゃねーぞ、と。
当分は茶わん一杯分完食を目標にしよう、そうすれば高校卒業までには人並みに食えるようになってるかもしれん。
「ふふ…ふふふ……」
やべ、変な笑い出た。
そのせいかなんか、東田達がギョッとした表情でドン引きしている。
でも気にしない。なぜなら僕はギョライだから!!もう最高にハイッてやつだぜ!
今なら大概のことは許せそうだ。
『(ピンポンパンポンッ♪)男子部、二年四組瀬能ナツル君。至急生徒会室にお越し下さい。繰り返します。男子部二年四組―――』
これは絶対、大概の枠から大きく外れてるよね。
☆ ★ ☆
「瀬能、お前にお客さんだ」
昼休み、教室でクラスメートの一人が話しかけてきた。
朝から機嫌がよかった俺は、午前の授業をすべて、男子部で真面目に受けた。
普段なら寝ている授業も、姿勢を正して真剣に内容をノートに写した。教師全員に「瀬能、保健室に行ってこい」と言われるとは思わなかったがな。
いや、現国と社会は「今日が人類最期の日か…」と遠い目をしたり、「きゅ、きゅきゅうしゃ…れいきゅうしゃァァアッッ!!?」って騒いだりしてたけど。教師の台詞じゃねえ
え?朝の放送?ははっ、無視したに決まってるじゃないですか
「客ー?誰だよ」
「いいからこいよ」
「今昼飯の真っ最中なんだが…」
「…献立はなんだよ」
「お好み焼き」
ジュウウウゥゥ…!
「教室で…いや学校で鉄板焼きするな!!」
お好み焼きにはブルドッグよりおたふくだよね(購買に売ってっかな?)
「いいからさっさとこいっ!」
腕を掴まれ無理矢理立たされる。
ああ…俺の昼飯が……戻ったら焦げてそう。
それにしてもこいつはなんでこんなにカリカリしてるんだろうか。もしかしてお好み焼き嫌い?もんじゃ派?
とくに抵抗する理由もないので、引っぱられるまま廊下に出る。
すると雫が腕を組んだ状態で立っていた。
さっきからやけにざわついてるなと思ったらこいつのせいだったのか。
「あまり待たせないでほしいわね」
彼女はなぜか不機嫌そうだった。意味が分からん。
しかしなんか、相変わらずスゲェ存在感だな。男どもの注目の的だ。前来た時より多いんじゃねえか?
どいつもこいつもあの時と似たような、羨望に似た眼差しで雫を見てる。なにがしたいのかさっぱり分からん。
「なんだカイチョー、俺になんかよう?」
尋ねた瞬間後足を蹴られた。何事?
「お前雫様…、生徒会長になんて口きいてんだ」
犯人は俺を呼びにきたクラスメートだった。
こいつ、『三郷雫様に罵られる会』とやらの会員か?クラスにもいるとは…学校の七割以上がそうらしいから当たり前か。
とりあえず無視しよう。
「で、カイチョー。なんのようだ」
「だから…!」
いちいちウザいので、素早く腕を引いて肘を突き出す。この感触は…鳩尾だな。
背後にいた奴は音もなく崩れ落ちた。
「仮にも私は生徒会長なのよ…目の前で問題を起こさないでほしいわね」
「こんなん日常茶飯事だろ。いいからさっさと本題といこうぜ」
そろそろ周りの視線がきつい。羨ましいんなら代わってくれ。
「少し、歩きましょう」返事も聞かず歩きだす雫。
仕方ないのでその後ろをついていく。
すると周りの奴らも一緒になってついて来た。気色悪っ。
幸いというか、進行方向を邪魔するのはいないらしい。前に立つ勇者もいないようで、人垣が雫を中心に半円を描いている。
「……瀬能君。私の隣に来なさい」
雫がいきなりそう切り出した。いやいやいやいや。
「いやその……、小心者のわたくしめが生徒会長様の隣に並ぶなどと…」
「いいから。並びなさい」
有無を言わせぬ迫力を持って、隣に移動してきた。
「ああっ……」
「会長と並んで歩くなんて、なんて羨ましい……!」
「瀬能コロス」
周りの奴らがいっそうざわつきだす。誰だ明確な殺意の言葉を吐いたの。
「……昨日、図書館で騒ぎがあったわね」
ギクリ。
「本棚の半数が倒壊。本もほとんどダメになったわ。新調したばかりなのよ」
冷たい物言いに居心地が一気に悪くなる。最初からあまりよくないけど。
「それと俺がなんの関係が…」
「あら、白を切る気?事件のすぐ後、騒ぎが収まったときに図書館から出てきた瀬能ナツル君」
嫌味ったらしい言い方を…
「もうすぐ期末試験なのよ。図書館を閉鎖されて、テスト勉強する生徒はどこに行けばいいのかしら」
「家か市立の図書館に行けば…」
「修理費は?生徒会の特別会計からも出すけど、限度があるわ」
「いや、その……」
「それに、私が証言しなかったら女子の瀬能ナツルは犯人と疑われてたのよ?」
「…………」
「分かってる?」
一つも反論できない。
全部水琴のせいなのに、説明できないからしわ寄せが俺にくる。
「……ゴメンなさい」
「いいわ。それで、誰と戦ったのかしら」聞かれて困ることがズバッときた。
「まさかここまでの被害を出しておいて、ケンプファー同士の戦闘じゃない。なんて言わないわよね」
どう説明しようかな……、下手なこと言ったら水琴が危ない。気がする。
その前に俺がヤバイか?試してみよう
「幻魔界とやらからやってきたコーガンザンテツなる者がいきなり斬りかかってきて仕方なく」
「…腕を組むから」
「は?」
俺が確認するよりも早く、雫が腕を絡ませてくる。
その瞬間、一斉にざわつくボンクラども。殺気も強くなる。
「雫様があんなことを……!」
「チクショウ瀬能っ、許せねぇ!!」
「雫様…、おかわいそうに……」
「瀬能コロス」
当然ながら後ろの奴らは俺が強制させたと思ってるようだ。なんて都合のいい頭してんだろう。真実は違うのに。
二の腕に柔らかい感触を感じ、後ろから殺意の視線を受ける。なにこれ天国と地獄?
予想の斜め上をいく結果になった。胃が超いてー…!
「瀬能君、私に集中なさい」
「ムリだろコレ……!」
「いいから、デートしてると思って」
「なおさらムリだよ」
したことないし
「あら……」
なぜか雫の声が固くなる。
腕を抱く力も僅かに強くなった。
………胸の感触が…
「それで、話してくれるかしら」
「………」
「話さないならそれでいいわ。でも後ろの人たちはどういった行動にでるかしらね」
なるべく考えたくない…
今微かに「うめる」とか聞こえたぞ。君らなにする気?
「どうなの?」
「…………」
「殴った方がいいかしら」
駄目だ。喋んないとずっと脅迫される。
仕方なく水琴のことを話す。許せ幼なじみ。
「そう、ブーケを渡されたのは近藤さんなのね」
「………水琴をどうすんだ」
「どうしてほしい?」
「……言ってもきかねぇんだろ。だがこれだけは言っとく」
「何かしら」
「あんたが水琴と敵対した場合、俺はあいつに付いてあんたと戦う。絶対にだ」
あんなのでも付き合いが一番長い。見捨てるのはなしだ。
裏切りはしない。絶対に
「……まあ、立派といえば立派ね」
「なんとでも言え、こっちも必至なんだ」
普通に接してくれる数少ない存在を無くしたくはない
「私のものにするにはまだ色々足りないようね」
「おい今とんでもないことサラっと言わなかったか」
「気のせいよ」
嘘だ。絶対嘘だ。
かなり気になるがスルーしておこう。なんか怖いし。
「そういえば沙倉の家に行くっつってたが、俺場所知らねえんだけど」
話題が話題なだけに小声で話す。
いい機会(?)だから今のうち訊いておこう。なるべく接触の回数は減らしたい。
「あら、そうなの?」
「普通知らんだろ…。あともう少し小声で話してくれ」後ろのボンクラに聞かれたらヤバイどころじゃねえ。
すると雫は顔を近づけてきた。それと同時にヒートアップする殺気。
「おい!磔台持ってこいっ!!」
「あのヤロぉもう許せねぇ!」
「生かしてたら雫様に害を与えるだけだ!!」
「瀬野ブチコロス」
なんか土曜どころか明日の朝日も拝めるか不安になってきた。
「なら当日は待ち合わせしましょう。駅前の噴水前なんてどうかしら」
「それはいいけど…。なあ、あんた俺に怨みでもあんのか」
後ろからジャラジャラと音がする。
なんだろうねあれ。鎖が似た音だすんだけど、だとしたら相当太いやつだぞ多分。
「特にはないわ。どうして?」
「後ろ見りゃ分かんだろ」振り返る勇気ないけど。
「そろそろ授業の時間ね」
あれっ、スルー?時間関係ないよあいつら。普通に殺す気満々だから。
不意に頬に柔らかい感触がした。雫が口づけしてきたようだ。
「運がよければ助かるわよ。授業には遅れないことね」
ああ分かった。コイツ俺を死なす気なんだ。
「…今度からは呼び出しを受けたらきちんと応じなさい。待ちぼうけをくらったのは初めてよ」
そうつぶやくと彼女は俺の腕から離れ、優雅さを感じさせる歩きで女子部へと向かう。お怒りの理由はそれかい。
その姿が見えなくなると同時に
「瀬能ォおぉおオ!」
「殺す!マジ殺す!!」
「一気にかかれ!絶対に逃がすな!!」
「瀬能コロスケ」
最後の奴おかしくなってんぞ。
その後、全力を超えるぐらいの勢いで逃げたが結局捕まり、グリードの刑になった。
でも大丈夫、死ぬほど痛みを感じたが死んではいない。俺ってば頑丈〜。
生きてるって素晴らしい!
~~~私刑執行内容(一部抜粋)~~~
グツグツと水が煮えたぎる大釜の上、一人の男が十字架のようなものに磔で宙吊りにされていた。
「これより、重犯罪人瀬能ナツルの刑罰を行う」
「いいぞー!」
「早く落とせー!」
「テメエら、あとで見とけよ…」
男―――瀬能ナツル―――が苦々しく言うが気にする者はいない。
「流石の貴様でも鎖で拘束されては手も足も出まい…。貴様の魂は浄化され、新しく生まれかわるのだ」
「とか言ってるけど、ただの嫉妬だろ。見苦しいぞ」
「そうだがなにか?」
その場を仕切ってる者が片手を上げる。すると十字架がゆっくりと降下し始めた。
やがて、ナツルの足が湯の中に触れる。
「がっ…ああああああぁぁ!!!」
「苦しめ苦しめ!その苦しみが我らの喜びだ!!」
男の言葉に周りが一層熱狂的に騒ぎ立つ。
尚も降りつづける十字架。しかしナツルはニヤリと笑い。
「はっ、いい湯加減だなチクショー!!地獄の業火はこれほど熱くねえんだろーな!!」
体を揺すり、額に玉のような汗を浮かべ。
「こんぐれーじゃ、俺は死なねーからな!!首洗って待ってやがれぇぇぇ!!」
んがっはっはっはっと大声を上げ、完全に頭まで漬かり見えなくなる。
その後、彼がどうやって生還したかは知るよしもない。
トロフィー(金):胡蝶の夢 を手に入れました。
トロフィー(銅):旧式強欲 を手に入れました。
トロフィー(銅):非常識三冠王 を手に入れました。