言い訳としては、書く気力が沸かなかったのと、退職・就活等で忙しかったので中々時間が取れませんでした。
これからもドン亀投稿になると思われますが、ご理解の程をよろしくお願いします。
一大事だ。
衝撃の事実を知らされて早数日、とくに何事もなく過ごしていたが、"それ"は突然やってきた。
前から遅刻しがちで、しかも最近になって欠席や早退の数が目にみえて多くなった俺は課題を山ほど押し付けられたのだ。
…なに?ピンチの理由がしょぼい?大概の学生にとっちゃあ死活問題だろ。
そもそも学校自体には出てんだよ。学校自体には。ただ授業を受けんのが半分づつなだけで。
補習でないだけマシっちゃマシなんだろうが量がハンパない。
これで女子部からもきたら最悪なんてもんじゃねえんだが、担任がテキトー人間なためプリントはない。代わりに賄賂でもせびられそうだ。そのときは無視しよう。
しかし授業の大半を寝てるため全く分からん、我ながら将来が不安になるな。
しょうがない、誰かに教えてもらうか。誰にするかな。
雫…ダメだ。頭はいい(つーかよすぎる)んだが最近距離が近い。近すぎる。
ファンから抹殺対象になりたくないし、これ以上貸しをつくりたくもない。
成績のよさじゃ水琴も学年トップクラスなんだが、あいつは年下だし感覚で理解してるから教える側に向いてない。
それ以前にあいつからなにかを教わるのはプライドが許さない。絶対憎たらしい顔してくるよ。
沙倉に教わるってのも手だが……、モデレーターとつながりがあるんじゃないかと思うとなんか近寄りがたい。
先日の件(妄想癖)を訊いたからってのもあるが。
となると残りは紅音しかいないな。
成績の程は知らんが眼鏡キャラは伊達じゃねーだろ。そう思いたい。
というわけで早速図書館に行こう。
サブレがいなくなって、伝達手段が無くなったから、いちいち探さなきゃならなくなったのが面倒だ。
あいつ今頃どうしてるかな。
☆ ★ ☆
「………?」
図書館についた途端、違和感を感じた。
ここに来るまでも感じたが、妙に人が少ない…つかカウンターにいる奴以外誰もいない。
前はもう少し賑わってたはずだが。
気になったのでカウンター向こうに座っている、受付の女の子に聞いてみることにした。
「おい」
俺の呼びかけに今まで顔を伏せてた女子生徒がこちらを見る。
目が細く垂れ目な、なんとなく終始ニコニコしてそうな優等生タイプだ。
「はい、なんでしょう」
「なんで誰もいないんだ」
彼女はああ、と相槌をうち、
「先日、図書館で騒動がありまして」
もしかして俺が水琴…いやマコトか。に襲われた日か?
「そのとき、本棚と本が駄目になってしまったので今は改装工事中なんですよ」
そういやあちこちにビニールシートやらがあったな。
「あんたはなんでいるんだ」
「図書委員は蔵書のチェックがあるんです」
ふーん、紅音も来るかな。
考えてると目の前の少女は頬に手をあて、ふう…とため息を一つついた。
「誰がやったのか知りませんが、悪戯で本を無駄にするのはやめてもらいたいものです」
「まったくだな、非常識な奴がいたもんだ」
過去の知識を壊すとは…、嘆かわしいかぎりだ。
悲痛な面持ちで頭を左右に振ると、目の前の少女が静かに、
「…あなたのことですよ、瀬能ナツルさん」
名前を呼ばれた瞬間、バックステップをしながら上体を後ろに反らす。ほぼ反射的に身体が動いた。
するとその上を刃のような物が横薙ぎに通過する。
距離をとりながら上体を起こす―――と同時に踏み込んで左のハイキック。
狙いはこめかみ!
しかし、その一撃は空を切る。
それもそのはず、狙った場所には頭どころか人影すら無かったのだから。
「!?」
「ハッ!」
その事実を確認すると同時に、背後から殺気。
俺は、蹴りの勢いをそのままに一回転して真後ろにまたハイキックをかました。
「オラッ!」
「、くっ!?」
いつの間にかそこに立っていた女は持っていた武器―――形状はサーベル―――を盾にするように構え、苦悶の表情で後退する。
その隙にもっと広い空間に移動する。カウンター前は不利だ。
「…やりますね」女は剣を構え直しながら、ゆっくりとこちらに向き直る。
「そりゃどーも、アンタも中々悪くはない」返答しながらいつでも対処できるよう、踵を軽く上げ、拳を構えてファイティングポーズをとる。
本当は変身したいところだが…流石にそれを許してくれるほど優しくはないだろう。
「こんなことする理由はちゃんとあるんだろうな。ほんのおちゃっぴぃとか言ったらぶっころすぞ」
「まあ怖い。殺すだなんて」
「人聞きの悪いことゆーな」
俺がやるのは『ぶっころ』だ。殺人じゃない。
実際なにをどうするのかはさっぱりだが。
「先程の戦闘能力といい…聞いていた通りの変人ですわね」
初対面の存在にため息つかれた。
サーベルぶん回すキチ○イよりかはなんぼかマシだと思うんだが。
「申し遅れましたがわたくし、中尾沙也香と申します。女子部の二年一組です」
女――中尾か――は佇まいを直して優雅に腰を曲げる。
「そりゃドーモゴシンセツに、俺は瀬能ナツルだ」
「知ってます、有名ですから。…ちなみにわたくし、沙倉楓さんと同じクラスです」
「それで?」なにが言いたいんだコイツ。
「興味ありませんの?」
「用がないなら俺は帰るが?」
はっきり言ってこの時間無駄でしかない。帰って部屋の片付けした方がマシだ。
すると中尾はコホンと咳ばらいをして。
「では単刀直入に…瀬能さん、あなたに生徒会長の側から、わたくしたちの仲間になっていただきたいのです」
「は?」
いきなりなに言いだすんだコイツ。
「それはアレか?俺に雫と敵対しろと?」
「まあそうですね」
しれっと答えやがった。
ハハハっ、ご冗談を。鼻で笑えるね。
というか俺雫の仲間だったのか。敵の敵は味方、的な関係だと思ってた。
……なんか仲間っぽいな。まあいいか。
「問答無用で切り掛かってくる奴と仲間になれると思うか?」
「美嶋さんたちとも出会い頭に戦闘をしたのでしょう。それと変わりません」
「…ちなみに断ったら?」
「分かりませんか?」チャキ、とサーベルの切っ先を向けてくる。
なるほど、ハイかイエスで答えてくださいね。って訳だ。
「わっかりやすいねーアンタ。そういうの、嫌いじゃないよ」
軽口をたたきながらファイティングポーズを解く。
「ありがとうございます。わたくしも賢い方は好きですよ?」
「あははは、そーかそーか」
にっこりと微笑む彼女に合わせるように、同じく笑顔になりながら頭をかく。
「ちなみに俺の好きなのは…自分が強いと思ってるやつに『No』と断ってやることだ」
"陽炎"!!
残像を残す程度の速度で近づき、そのまま右拳を突き出す。
それだけでおおよその人間は倒してきた。
しかしその絶対とは言えないが必殺の一撃は、先程のハイキック同様虚しく空を切る。
「…なるほどね、そういうカラクリか」
またしてもいつの間にか背後に回っていた中尾に、今度は俺がゆっくりと向き直る。
「いきなり酷いですね。当たったらどうするんですか?」
「あたんねーだろ。その剣を持ってる限り」
呆れ口調でサーベルを指差す。
「空間を一瞬で移動する能力付きとか、けったいなもん使ってんな。どこで買ったんだ?」
初めに受付席前でやりあったときは、俺に気づかれずにどうやって背後に回ったのかと不思議だったけど、武器のお陰だった訳だ。
技の発動から拳が当たるまで一秒も無かったはずだが、そこは腐ってもケンプファーだから。ってことにしておこう。
「あら、興味あります?こちら側にくれば与えてもらえるかもしれませんよ」
「じゃあいらねーな」
そういうチート臭い武器得る奴って、一握り除いて身を滅ぼすから。
つーかまず『与えてもらえるかも』ってのが気に食わん。乞食か俺は。
「プライド売ってまでそんなうさんくせーもん欲しくねーな」
「…言ってくれますね」
中尾が目を細めて睨んでくる。
「あなたこそ、古武術とかいうわけの分からないものに手を出しているらしいじゃないですか。念心流でしたっけ?」
「………」
「胡散臭いの代表じゃないですか。科学も技術も発達した現代で、時代錯誤も甚だしい」
「…優れた古武道は文化財として高い評価を得ているんだが」
「自分のもそうだと言いたいんですか?歌舞伎や能じゃあるまいし…、そんなただ真っ直ぐにしか進んで攻撃しかできない欠陥品が、有名な伝統芸能と肩を並べられるわけないじゃないですか」
中尾は吐き捨てるようにバッサリと切り捨てる。
ここまで容赦無く言い切られたのは雫以来――いや、あいつはなんだかんだ言ってもキチンとフォローはしてたな。
それにあれは客観的な意見だけで悪意は…あまりない。はず。多分。
ああ、だからか。だからここまで…純粋に腹が立つのか。
確かに
自分で言うのはOKなんだが、他人にちょっと貶されただけでもう顔面を赤色アンパンマンにしてやるプランを頭の中で立てている。
かなり重症だ。
そんなに好きじゃないと思ってたんだが、俺の流派への愛ハンパねえ。
「あの方もなにを考えているのやら…理香の尋常じゃない怯えぶりが気になって会いに来ましたが、突進力くらいしか特筆できる箇所がありませんね」
中尾はため息をつきながら、瞳を蔑みの色に変える。
そして武器であるサーベルを腰だめに構え、
「本当はあなたみたいに猪突猛進な人材要らないんですが…鍵となる存在が他にいない以上、そうも言ってられませんわね。手足の1・2本は覚悟してください、ねっ!」
台詞が終わると同時に、横薙ぎに斬りかかってきた。
どーしてこう、俺と対峙する人間は舐めきった態度取るやつが多いんだろうか。言動といい態度といい街のチンピラとエラく変わらん。
初めは丁重と思ってた言葉遣いも、今じゃ神経を逆撫でするスパイスにしかなっていない。
しょうがねえな。
☆ ★ ☆
サーベルの刃が描く横一文字の軌道が、当然のように瀬能ナツルの身体を斬り裂いた。
「っ!?」
そのあまりにも手応えの無さに驚愕する。
呆気ない。
呆気なさすぎる。
あの方が『手を出すのはあなたの自由だけど、覚悟はしてね』と言ったり、理香がああまで怯えて帰ってくる人物がこれほどあっさりやられるなんて。
やはり、買いかぶり過ぎていたのだろうか。見るからに単純そうな人間だったし。
「どうしたよそんなに一点を見つめて。何か珍しいもんでもあったか?」
!?
背後から急に声をかけられ、慌てて振り返る。
そこには先ほど斬り裂いたはずの軽薄男が、事も無げに立っていた。
「くっ!」咄嗟にサーベルを振り抜く。
先ほどと同じく刃が通る―――ことはなかった。
刃が身体に当たる前に、瀬能ナツルの手によって止められたからだ。
それだけでも驚くべきことだが、掴まれたサーベルが固定されたかのように動かせない。
いや、掴むというより指先で摘まんでるだけだ。他になにかをしている様子はない。
それだけなのにびくともしない!ケンプファーの力なのに!
「あなたいったいなにを…?」
「胡散臭い古武術?」
ごッごカッコキッ!
自分の身体の特定の部位から、そんな音が響いた。
「ああああああ!?」
一瞬の間を置いて激痛が襲ってくる。
右ひじ、右肩、…あと左の親指。その付け根。
いったいなに?なにが起こったの?
いくつもの疑問が生まれては、答えが出ぬまま消えていく。
それでも確実に理解できるのは、目の前のこの人物は危険だということだ。
「グっ!」
腕の痛みを堪えてサーベルを引くが、先ほどと同じくびくともしない。
仕方なく武器を一旦仕舞い、後ろに跳ぶ。
「おおっ?掴まれてても収納できるのか。便利だな」
瀬能ナツルは感慨深そうにつぶやく。少なくとも、言葉だけは。
「あなたいったいなにを―」
「それをお前に説明してなにか俺に得があるのか?」
声のトーンは変わらず、
ケンプファーにも変身していない。
しかしその眼はなんの感情も読み取れず、まるでガラス玉がはまっているだけのような印象を受ける。
「ば…化け物…!」
自然と口から飛び出した。
しかし紛れもなく本心だ。
「……頭は人身体は虎、口には猪の牙があり――」
「ひっ」
「死ぬその時まで暴れ狂う。なるほど確かに化け物だ」
―――そこからのことはよく覚えていない。
気がついたら自宅の、自分の部屋のベッドに潜り込み、頭まで布団を被って震えていた。
『ナツルさんを勧誘してきなさい。…別に手段は選ばなくてもいいけど、責任は自分で取ってね?』
無意識にズキズキと痛む腕と指を押さえていたら、ふとあの人に言われたことが頭に蘇った。
はたして私はもう一度あの男の前に立ったとき、平常でいられるのだろうか?
…無理そうな気がする。
☆ ★ ☆
「逃げたか」
直前まで中尾が居た場所を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
そんな動作は見えなかった(出来なかった?)のに、一瞬でいなくなりやがった。あのサーベルほんまチートやわ〜チーターやわ〜。
人のこと言えんのかって聞こえた気がするけど、気のせいだよな!ナツルさん普通の一般人デスヨー。
一般人―――
『ば…化け物…!』
「…………」
心底怯えた表情。
震えた声。小刻みに震える身体。
ふと自分の手に視線を落とす。
いつ以来だっけ、あんな眼で見られたの。
「……あー、タバコ吸いたい」
それも大量に。
今まで最高…六本?くらいかな。一回の喫煙で吸った本数。
一ダース吸い切りたい気分だ。
でも屋上まで行くのめんどいなー。何度も使ってるからそろそろ監視とか入りそうだし。いっそここで吸うか?…警報器鳴ったりしないかな。
「ナツルさん?」
一瞬心臓が飛び跳ねた。
咄嗟に胸筋に力を込めて、ゆっくりと声がした方に振り返る。
「…紅音ちゃんか」
そこには見知った眼鏡の図書委員が。
「どうしたんですか?ここは今一般の生徒は立ち入り禁止ですよ?」
そう言って不思議そうな顔で近づいてくる。
そういや前に担任が言ってたような…、最近は激動な日々だったからすっかり忘れてた。
「あー…実は、さ」
「はい?」
「……いや、大量に課題出されちゃって?しかも内容がさっぱりで…」
説明しながら鞄からプリントを出す。
改めて見るとホント多いな。進級できるか不安になってきた。
「できれば手伝ってほしいなーと…」
「いいですよ?」
「マジありがとう」
救世主キタコレ。無事に全部終わったらなんか奢ろう。
………そんな奴に、嘘は言ってないけど真実を隠したことに胸が痛んだ。
仲間であり相棒でもある彼女には、
「…紅音ちゃん」
「はい?」
「紅音ちゃんにとってさ…俺って、なに?」
「ふえっ!?」
ぼふんっ、と音がしそうなほど一瞬で紅音の顔が真っ赤に染まる。
そこまで驚くような質問かなぁ?
「ええええええええとっ!あっあたしにとってナツルさんは初めてできた男の知り合いといいますか友達といいますか、ちょっと気になる方と言いますか…いっいえ!気になると言ってもその気になるではなくて――」
「いや、どう思ってるのかじゃなくて、どういう奴に見えてるのか訊きたいんだけど」
「ふぇっ!?」
好きなのその返事の仕方?
「そっ、そうなんですか…?」
「うん」
俺の言葉に彼女は、「そうなんですか…」と小さくつぶやいて、ほっとしたようながっかりしたような表情で息を調え出す。
…なんか誤解させたみたいだ。
「えっと…ナツルさんがどう見えてるか、ですよね。うーん…」
顔色も通常に戻り、紅音は軽く握った拳を口に当てて真剣に考え始める。
そうしてしばらく―――だいたい一分くらい―――してから、唐突に顔を上げて
「ナツルさんは、ナツルさん…じゃダメですか?」
少なくともあたしにはそう見えてますけど。と最後に自信なさげに付け加えた。
……………………
「あの…ナツルさん?」
「ん…ああ、悪い。ちょっとぼーっとしてた」
軽く謝ると、近くの机に向かって歩き出す。
「くだらねーこと訊いちまったな。課題、さっさと終わらせちまおうぜ」
「え?あ、はっ、はい!」
紅音は困惑した様子を見せながらも、小走りに近づいてきて隣に並ぶ。
その頭を、ぐしぐしと乱暴に撫でた。
「わっ…!な…なんですかいきなり!?」
「べつに、なんでもない」
再び赤くなり、驚いて抗議の声が上がったが、それを無視して撫で続ける。
俺は俺――か。
中尾の誘いを一蹴した理由は"気に食わなかったから"だけじゃない。
義理?正義感?ポリシー?言葉にするには難しいし、多分全部違うだろう。
でもなんとなく…こいつらのもとに残った理由が、少し分かった気がした。
ぶっころ
ミスターフルスイングというジャ○プで連載されてた漫画で出てきた単語。『ろ』の後になにが入るかは不明。
ちなみに俺の好きなのは…自分が強いと思ってるやつに『No』と断ってやることだ
ジョジョの某漫画家の台詞。「だが断る」「この○○が好きなことのひとつは、自分が強いと思ってるやつに『No』と断ってやることだ」
・念心流“陽炎”
その場に残像を残しつつ一直線に踏み込みながら突きを放つ技。
相手から見ると、無防備な状態から急に攻撃が来ることになるのでタイミングが計りにくいのだが、「試合で構えを取らないのはありえない」という理由から全く使われなくなった。
しかし、開発から往く年月。陽炎は瀬能ナツルに出会った。
・陽炎・改
サイドステップで横に移動することを主にすることで大きく生まれ変わったナツルオリジナル(?)技。
「真島ステップをイメージしてやったら残像拳みたいになった」と本人は語る。
・念心流“盗骨”
触れた箇所から気づかれないように振動を流し込み、対象の関節を外す技。
難易度が高く、化物じみているため“トウコツ”と名づけられた。
トロフィー獲得!
(銅):念心流・初段
お久しぶりだよ(機械音声)。43話目です。中尾さん登場です。
ロリっ娘の理香同様武器に特殊能力(空間移動)が付いてますが…何度読み返してもナツルの異常性の方が前に出てて影が薄く感じる。
普通ならかなり高性能のはずなのに…おかしいなぁ。