けんぷファーt!   作:nick

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44話でナツルが見た夢です。



番外編⑤ いつかのメリークリスマス

 

「あめはよふけすーぎーにー、ゆきへとかわるーだーろー」

 

適当な音程で口ずさみながら、掃除道具の詰まったバケツを手にガレージに向かう。

 

18歳になると同時に合宿へ行き、免許を取ったすぐ後に地元のバイク屋で購入した大型バイク。

 

こいつは趣味と言えるものがほぼ無かった俺を夢中にさせてくれるニクい奴だ。

 

少々燃料を食いすぎるのが玉にきずだが……それに見合うものが手に入ったと思い良しとしよう。ツーリング仲間も出来たしな。

 

「最近走らせっぱなしだったからな」

 

念入りに磨いてやろう。時間の許す限り。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「〜♪」

 

鼻歌を歌いながらスポンジとタオルで愛機を綺麗に磨きあげていく。

 

うむ…実にいい。彼女には不評だが。

 

思えば初めてお披露目した時は、凄い行動力だと呆れるような口調で褒められたな。

 

免許取得のために学校を数週間丸々休んだと知られたらものすごく怒られたが。

 

欠席届は出してたのに…。そう言ったらますます怒られた。なにがいけなかったんだろう…

出席日数は足りてるんだからいいじゃん別に。

 

 

『you get、the mail』

突然ポケットの携帯電話が震えだす。

 

「ん、メールか?」

 

面倒だな。後で見りゃいいだろ。

 

 

『you get、the mail』

『you get、the mail!』

『you get、the mail!!』

 

 

「うぜぇ!」

気のせいかだんだん音でかくなるし!

 

なんだよ誰だよ、こんな連打でメール送りやがって。

 

仕方なく手を拭いて携帯を取り出す。

画面を見ると『着信:東田(馬鹿)』の文字が。

 

……そういえばこの前巫山戯て電話の着信音を変えたんだっけ。

紛らわしいから後で直しておこう。

 

しかし東田か…なぜだろう、なんかろくでもねーこと聞かされそうな予感がする。

正直電話に出たくない。

 

『you get、the mail!!!』

「ハイハイ分かった分かったよ」

 

なかなか出ないことに痺れを切らしたかのように大音量で着信音を鳴らす携帯。

 

せっかちなヤツだ。スタミナ(電池)がすぐ切れる先代とどっちがマシだったかな。

 

 

『you get、th 』「(ピッ)…お前か」

『え、いや、なんだいきなり』

 

 

電話越しに東田(馬鹿)の狼狽えた声が耳に入る。

 

「…ダメだなお前。ホントダメだ。ダメダメだ」

『いやいやいや、なんでいきなりダメだし食らってんだ俺!?』

 

そんなのも分かんねーのか。マジ駄目だな。

 

「はぁ…まあ東田だしな。しょうがないか」

『お前が言うな!』

「それで?なんかようか」

くだらないことだったら即座に切ろう。

 

『なんか色々とムカつくんだが…まあいい。実は頼みがあるんだ』

「頼みー?なんだよ」

 

 

『今日クラスの奴らと一緒に合コンするからお前も出席して(でて)くれ』

「断る」

 

ブツッ (←通話OFF)

 

さて…と、もう少しバイク磨くか。

 

『you get、the mail!!!!』

 

「(ピッ) お前か」

『気に入ってんのかよそれ』

「わりと」

 

あ、小さな傷発見。ウィリー走行試した時のかな。

 

『頼む瀬能!どうしてもお前の力が必要なんだ!』

「嫌です」

『参加費払わなくていいから!居てくれるだけでいいから!』

「無理です」

 

そもそも今夜って、今日クリスマスだぞ。予定あるっちゅーねん。

 

『頼むよホントに!今度奢るから!もう女子側(むこう)に来るって言っちゃたんだよ!』

「しつこい!知るか!」

『そこをなんとか!お前がいるのといないのとじゃ女の子の集まりが違うんだよ!』

「ふざけんな撒き餌か俺は!」

 

携帯越しに怒鳴りつける。

 

クソめんどくせぇ。電源切ろうかな…いやダメだ。コイツ以外から掛かってきたら困る。

 

『お前が協力してくれれば、万事丸く収まるんだ。お前が協力してくれれば…!』

「ふりーんだよそのセリフ!懐かしいわ!」

 

あーもー、面倒だな…この汚れ。落ちる気配がまったくない。

 

洗剤で洗うか?……ってもうこんな時間か。待ち合わせに遅れる。

 

「そろそろ切んぞ」

『クッ…こんなに頼んでるのにダメか…付き合い悪いぞお前』

「こんな日に誘う奴のほうが悪い。友情より愛だろJS」

 

普段ならともかく、今日は彼女と過ごす初めてのイヴだ。邪魔する奴は親でも殺す。

 

『チッ憎たらしい…!仕方ない、なら隣のクラスの忌塚に代わりに…』

「大地なら今日は彼女と凄すって言ってたぞ」

『ちくしょう、お前らリア充爆発しろ!!』

 

ブツっ。今度は向こうから切れた。

 

最近知ったこと①、どうやら俺はリア充らしい。

 

とても非モテらしい魂の叫びだった。東田(ヤツ)にはお似合いだ。

しかし自分から頼みにきといて、いい返事が貰えなかったら逆ギレするって人としてどうなんだろう。

 

まあいいか。あいつが他人からどう思われようとどうでもいいし。

 

 

「あ、おいナツル!」

「あん?」

 

 

通話の途絶えた携帯をポケットに仕舞い、一息入れるかと立ち上がった瞬間、後ろから声を掛けられた。

 

振り返るとそこには一組の男女。

男の方は、

 

「大地」

 

我らが星鐵学院男子バスケ部キャプテン。忌塚大地その人だった。

 

 

最近知ったこと②、意外と近所に大地の家がある。

 

初めて知った時はそれなりに衝撃的だった。

 

「バイクの整備中か?」

「ん?ああ…まぁな」

 

大地達の視線が、手に持ったタオルと足元のバイクに集まったのに気づいて少しばつが悪くなる。

 

「瀬能ナツル、今は大会の期間中です。だからと言う訳ではありませんし、自動二輪車に乗るのは構いませんが、あまり派手な行動は慎むように」

「はいはい分かってますよ」

 

軽く流すとムッとした顔で睨まれる。

 

バスケ部に入部してから人に小言を言われる数が圧倒的に増えた。

主にコイツに。

 

大地と一緒に歩いていた女。名前は―――

 

 

「…生徒会長が目に掛けてると言うからどんなのかと観察してみれば、完全に身体能力が高いだけの子どもね。問題を起こさないように監視してるだけじゃないの?」

「言ってくれるじゃないの…」

「みどり、瀬能もこう見えて節度を……保たないこともないこともないこともないこともない」

「フォローになってねえよ」結局(問題児であること)否定してねえし。

 

 

葛原みどり。生徒会の役員を務めながらも、男バスのマネージャーもこなす大地の幼なじみ。

 

俺もバスケ部員だから、一応は顔なじみでこうやって話すことはあるんだが…

 

「なんですか人の顔をじっと見つめて…。不愉快です、今すぐ辞めなさい」

「いや…」

 

ご覧の通り、仲はあまりよろしくない。

 

つか辞めるってなにをだ。部活?

まさか人間辞めろってんじゃねーよな。怖くて訊けないよ。

 

「お前ら休日満喫してんな…今さらだけど今日休みにしてよかったのか?大会期間(ウィンターカップ)中だろ」

「今年はシード枠取れたからな。たまにはいいだろ」

 

他校の奴が聞いたら発狂しそうだな。

 

「それにお前だって、恋人がいる初めてのクリスマスには一緒に過ごしたいだろ」

「そうだけどさぁ…」なんかなぁ。

 

と、そうだ。待ち合わせの時間が近いんだった。

 

「あー悪い。そろそろ用事が…」

「ん?ああ、いや。こっちこそ悪かったな呼び止めて」

 

大地に軽く詫びて、バケツを掴む。

少しのんびりし過ぎたな。間に合うか?

 

「お前らも性夜を楽しみすぎて明日休むなよ」

「なっ、なにを言うんですかいきなり!?」

葛原が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

隣の男とシてる場面でも想像したか?やーらしー。

 

「私と楓さんがそんな…!でも可能性がまったくないわけでも…」

 

「「は?楓?」」

 

思いも掛けない台詞につい大地とハモった。

 

楓?って…もしかして沙倉か?

 

「なんで沙倉が出てくるんだ?」

「今夜楓さんの家で行われるクリスマスパーティーに出席するからです」

「え!?」

 

さらりと言った葛原の台詞に大地が驚愕の表情を見せる。

お前も知らなかったんかい。

 

葛原(お前)はクリスマス、大地と凄すんだろうって思ってたんだが…」

「はい?大地君と?たしかに毎年今の時期は一緒に祝うことがありましたけど、幼なじみってだけでいつまでも続ける必要はないでしょう。子どもじゃあるまいし、馬鹿みたいな発想しないでください」

 

 

グサグサグサァっ!!

 

 

辛辣な言葉が鋭い刃となって勢いよく突き刺さった。

 

大地の身体に。

 

「……ドンマイ」

「ふっ…ふふっ……笑ってくれてもいいんだぜ……?」

 

陰を背負って渇いた笑いを浮かべる大地。

 

いや、普通に笑えねえよ。

 

数日前予定を訊いたときは嬉々として語っていたのに…悲惨すぎる。

こいつの恋は前途多難だな。東田に誘わせてやるべきだったか。

 

 

 

    ☆     ★     ☆

 

 

 

ブロロロロロロ…

 

 

さっきまで清掃していたマシンを駆使し、猛スピードで街中を走る。

 

750ccのバイクはアクセルを回すたびにグングンと先を行く車や景色を抜き去っていく。

 

その分馬力も風圧も半端じゃねえが、それがまた気持ちいい。無理して買った甲斐があった。

 

「ウィィィィリィィィッッ!!」

 

調子に乗ってウイリー走行とかさせてみる。

 

すぐ側を走っていた車の運転手がギョッとした顔で見てくる。

次いで、慌てた様子でスマフォを取り出し―――ってヤバ。

 

急いで前輪を下げて普通に走らせる。

 

ドライブレコーダーとか搭載されてたら…どうするかな。まあフルフェイスタイプのヘルメットだから顔はばれないだろう。

いつか朝の番組なんかで報道されるかもしれないけど。そんときは全力で白を切ろう。

 

 

そんな紆余曲折を経ながらも待ち合わせ場所にむかう。

 

駅前のショッピングモールまで来ると、駐車場が見えたのでそこにバイクを留める。

有料と書いてあったので金を取られた。世知辛い。

 

 

急いで待ち合わせの場所まで走る。どうやらまだ彼女は来てないようだ。

 

「遅れるよりはいいか…」暇だったのでつい辺りを見回す。

 

この季節特有のクリスマスツリー。今日がイヴとあってイルミネーションで大々的にライトアップされている。

 

その周りには恋人を待つ人の姿がちらほらと存在する。俺もそのうちの一人だ。

 

今、一組の男女が歩き去っていった。

それを見ていると不意に視界が真っ暗になる。

 

直後、だれだと声をかけられた。

 

 

見なくても分かる。彼女だ。

 

 

ここでわざと不正解を言ってもいいのだが、わざわざこんな日に不機嫌にさす必要もない。

 

「―――」

 

名前を告げるとうれしそうに “ 正解 ” と声がして、視界が戻る。

 

振り返るといたずらっぽい笑顔で “ 待った? ” と聞かれたので、「一万年と二千年前から」と返す。

 

すると彼女は目を細め、クスクス笑ながらこう言った。 “ 八千年過ぎたらもっと好きになってくれるの? ”

 

「…そうかもな」自分で言っておいてなんだが、かなり照れ臭い。

思わずついッと、そっぽを向く。

 

“ でもそれまで待てないから… ” 不意に顔を優しく両手で包まれる。

そのまま流れるように首筋に腕が回され、彼女の顔が近づいてきて―――

 

“ 今すぐ、夢中にさせちゃう ”

 

距離が、零になった。

 





これプロトタイプで掲載してた時は一話に収まってたんですけどねー。大地のくだりとか入れたら一気に長くなりました。

設定(的なもの)としては、ナツルはケンプファーに選ばれず、それにより葛原戦・大地戦は無し。
さらに本編でもあった大地との1on1を経てバスケ部に入部。みたいな感じです。

その他も色々妄想…考えてたけどこれまた長いので省略。

たった一つのネタをやりたいがためだけに登場させたキャラなのに、気づけばこの作品でかなりのウェイトを占めている。忌塚大地…恐ろしい子!

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