けんぷファーt!   作:nick

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次の話はギャグオンリーと言ったな…あれは嘘だ。




七章 夢の原石
第47話 瞬間センチメンタル


 

暑い。

 

とても暑い。

 

吹き抜ける風が暑い。照りつける日差しが暑い。

 

そんな暑い日の真昼間、前も後ろも人だらけの長蛇の列に一人紛れ込んでいる俺。

 

列は遅々として進む様子が見えず、諦めて離れていく人間もちらほらと出てくる。

 

正直俺も諦めたい。

 

「……なんでこんなことしてんだろう」

 

つぶやきは人の雑踏に紛れていった。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ゲームショウ?」

 

ある平日の昼休み。学食で昼飯を食べていた時に同伴者の紅音が発した言葉に思わず聞き返した。

女子部で周りに人が沢山いるので当然猫被り口調で。

 

「はい、お父さんが今ゲーム会社の社員なんですけど、今度出展するから友達と一緒に行ってみたらどうかとチケットを送ってくれたんですよ」

「へぇ…紅音ちゃんのお父さんってすごいんですね」

 

普通ゲームショウ(そういうとこ)に参加できるって、有名どこの大企業じゃない?

 

「そう…なんですけど。多分、今いる会社もすぐに辞めちゃうと思います。転職が趣味みたいなものですから」

 

変わり者じゃねーか。

 

流石に本人を目の前にしているから、父親を悪く言うようなことは抑えた。しかし贅沢な趣味してんな。

 

「それで…その…もしよかったら…ナツルさん、一緒に行きませんか?」

「え?」

「ちょうど、明日の土曜日開催ですし…」

 

なんて都合のいいことでしょう。まるで仕組まれたかのようだ。

 

 

つーか最近遊んでばっかじゃね?

 

考えてみれば、そろそろ期末テスト近いんだよなぁ…流石に勉強しなきゃヤバいような気がする。

 

ただでさえ成績が微妙な上、出席日数が少ないんだ。問題も…そこそこ起こすし。

さらに男子部と女子部両方のテスト受けろって雫から言われてんだよなぁ…

 

…考えれば考えるほど不安になってきた。嫌だぞ、進級できずにクラスの奴らを先輩とか呼ぶの。

 

 

「興味ありませんか…?」

 

しばらく黙り込んでいると、紅音が不安そうな表情で見つめてくる。

 

「う…」若干の涙を浮かべる瞳につい罪悪感が芽生える。

 

最近はずっと雫のターンだったし、引っ込み思案な彼女の我儘くらい聞いてやるべきなんじゃなかろうか…?

 

この前も課題手伝ってもらったし…そもそも自分の成績の心配なんて今更だし らしくない。

 

あーでもなー、今週の土曜ってそういえば 見損ねたアニメのニコ生放送日だったような気がする。即答するのはちょっとムリかな。

 

「ちょっとよろしいでしょうか?」

 

再び思考の海に沈み込もうとした瞬間、後ろから声を掛けられる。

 

 

余談だが、女子部の人間で俺に話しかけてくる奴はほとんどいない。

 

昼休みと移動教室以外クラスから出ないってのもあるが、どうも雫的なポジションの扱いらしい。

 

遠くから眺めるだけで満足。近寄って、触れられたらラッキー。声をかけられたら1日ヒーロー状態。

 

しかし話しかけるのは恐れ多い。一年生・三年生はそんな感じ。

 

水琴やますみ?あれは例外だ。

 

二年は…沙倉を除けば同じクラスの奴くらいしか会話しないな(興味もないし)。

そのクラスの奴との会話も一部とだけだ。

 

そしてその一部の人間は大概、碌でもない。つまり…

 

 

「話は一部始終聞かせてもらいました」

 

すぐさま声の主が俺と紅音、両方が見える位置に移動してくる。

 

「ナツルたんやっほー」

「お久しぶりです」

 

案の定、声をかけてきたのは俺以上にたちの悪い委員長・副委員長・会計の三人組だった。

 

「委員長さんたち…」

 

紅音が三人―――いや正確には副委員長(白銀だっけ?)を見てつぶやくように口を開く。

 

 

一応、彼女には副委員長(ヤツ)の妹がケンプファーだってことは話してある。襲撃してきた鎖鎌使いとは無関係ということも。

 

当人(副委員長)は見たところ、この前の祝日のことは覚えてないみたいだし、俺らのことについてはバレてないだろう。バレそうになったらその都度記憶を消していこうかと思う。

 

閑話休題。

 

 

「なにかご用でしょうか?」

 

全力で気づかなかったふりをしたいが、それは流石に無理そうなので仕方なく対応する。正直嫌な予感しかしない。

 

「お二人は今度の休みに開催されるゲームショウを見学に行かれるとか」

「という流れではありました」まだ俺行くっつってねーし。

 

「でしたら入場券が必要なはず。いかがでしょう瀬能さん、今なら格安でお譲りしますが」

 

タダじゃないんかい。

 

いやそれ以前に、紅音が複数枚持ってるような口ぶりだったから買う必要がないんですけど。

 

「まず美嶋さんに入場券を渡してもらい、それを私たちが瀬能さんに買い取っていただく。最後に幾許(いくばく)かの手数料を美嶋さんに払う。誰も損をしない有益な取引きと言えるでしょう」

 

俺以外にはな。はっ倒すぞクソアマ。

 

ダメだ。ここで行かないことを表明したら延々と付きまとわれる。場合によってはゲームショウ終わっても入場券売りつけられるかもしれない。

 

いやそれより先にイライラがピークに達して無意識に手を上げる可能性が大だ(マコトの時みたいに)。

 

 

なにより三人組(こいつら)に得させるのは神が許しても俺が許さない。許せない。

 

 

…仕方ない、アニメはテレビで再放送するのを待とう。

 

「紅音ちゃん。ゲームショウの会場入りする時間と、待ち合わせの場所は後で話しましょうか。そろそろ午後の授業が始まりそうだし」

なによりこいつらが一緒にいるところで相談とかはマジで無理。ついて来てくださいって言ってるようなものだ。

 

「おや、やはり行かれるのですね。それでは美嶋さん、チケットを―――」

「それじゃあ失礼しますね」

 

会計の言葉を遮って、トレイを片手に席を立つ。会話をしながらの早食いは必須技術です。

 

紅音も連れて行きたかったが、残念ながら彼女はまだ食い終わってなかった。少々不安だが信じて置いていくとしよう。

 

この三人は嫌いってほどじゃないけど、一緒にいるとストレス溜まってくる。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

ゲームショウ当日。

 

事前に待ち合わせに指定してた場所に向かって歩く。

 

ちなみに今は男の姿だ。

 

というか お誘いを受けてから(昼休み)、時間と場所を打ち合わせするまで(放課後)は女の姿で過ごしたが、それからはずっと男でいる。

 

…いかんな。だいぶ感覚が麻痺している。

普通産まれてから死ぬまで性別って一定なのに、なんで俺はコロコロ変わるんだろう。1/2のアレな主人公じゃねーんだぞ。

 

「あ…ナツルさんっ」

 

指定された場所に行くと、すでに紅音がそこにいた。人混みから少し離れたところで笑顔を向けてくる。

 

まだ時間まで30分以上あるんだけど…

 

「待たせたか?」

「いっ、いえ、今来たところですっ」

 

軽くキョドってる。いったいいつからいたんだろうか。

 

「じゃ、早速入ろうか。結構混んでるし。チケット頂戴」

 

手を突き出して入場券をねだる。

 

すると紅音は気まずそうな雰囲気を醸し出して、視線を逸らしもじもじと身をよじらせる。

 

「え…ええと…その……ないです…」

「…は?」

「たからその…入場券…ないです…」

 

……………………は?

 

「実はその…ナツルさんがいなくなった後…兼元(かねもと)さんに押し切るられちゃいまして…」

 

誰だよ兼元って。

 

訊ねてみるとどうやら会計のことらしい。

 

あの無表情で隠しもしない守銭奴オーラの持ち主に威圧されて、つい差し出してしまったとか。

そのため、自分の分はあるが俺の分は無いと…ふむ。

 

「じゃあ…帰るか」

「ふぇえええっ!?」

 

紅音が驚きの悲鳴を上げる。

周りの注目集めるからヤメろ。

 

「なっ、なんでですか!?」

「当たり前だろ」

 

前売りで1000円、当日で1200円だぞ。映画が見れるじゃねえか。

 

しかも…当日券買うだけで何時間待ちだよ?てくらいの行列出来てるし。

目当ての会社が出展してるわけじゃないのに(そもそも調べてないからどこが出るのか分からない)、なんでそんなのに休日潰さなきゃならんのだ。

 

「つーか電話してくれてもいいじゃないか。そうすれば電車にも乗らずに済んだのに」

現地集合にしたのは失敗だったな。

 

「電話は…しようとしたんですけど…ナツルさんの携帯、電波の届かない場所にいるって…」

 

………携帯の弊害がこんなところに…

 

俺の携帯電話は①電波受信が悪い ②通信速度が遅い ③電池がすぐ切れる の三重苦をその身に背負っている。

いい加減機種変更した方がいいかな。

 

「とーにーかーくー、俺は帰るから。紅音ちゃんはゲームショウ楽しんでおいで」

 

軽く手を振りながら、紅音に背を向け駅へと足を動かす。

時間無駄にしちまったな。

 

「…………ですね…」

 

つぶやくような声が背後から聞こえた。

 

 

「生徒会長とはデートできてあたしとはできないんですねあげくには家にまでいって長い時間をすごしたのにあたしとは嫌なんですね酷いです妬ましいです憎い憎いにくいニクイニクニクニクニクニク」

 

 

慌てて咄嗟に振り向いた。

 

「ナツルさん?」そこにはいつもと変わらない、ちょっと不安げな表情を浮かべる気弱な少女が一人。

 

 

………幻聴?

 

 

いや、あの瞬間的に背中に感じた悪寒は決して気のせいじゃない。

 

なんか…暗黒物質を凍らせて作った氷がヌルっと這い寄ってきたような、そんな感じがした。

なにを言ってるか分からねーだろうが、それぐらい得体の知れない感覚を味わったのは確かだ。

 

…もしかして覚醒!?負のフォースに目覚めつつあるのか!?

 

これはマズイ。

 

 

「やっぱり俺もご一緒させてもらおうかな」

「え、ほ、本当ですか!?」

「うん」

 

 

暗黒面に堕ち入られたら困るからね。

 

 

ヤンデレ属性に転換しない程度に彼女に付き合おう。鉄パイプや金属バットで殴られても多少は平気だが、刃物的ななにかをぶっすり刺されたら死ぬからな。

 

そうと決まればあのクッソ長い行列に並ぶか…

 

「あの、あたしも一緒に…」

「この晴天で気温も高い中を帽子も持ってないのにか?」

 

ちなみに今日の最高気温は29°C だ。

 

「いいから先に入って、飲み物…出来れば食物も確保しといてくれ。俺が行く頃には昼回ってるだろうから」

「……はいっ」

 

紅音は嬉しそうに笑って、開催会場である建物に走っていった。

 

それを見送ってから行列に向き直る。

並ぶ前に飲み物だけでも買った方がいいかな。俺も帽子持ってないし。

 

なにが悲しゅうてこんな苦行体験せにゃならんのだ…なんて日だ!

 

 

え?じゃあなんで紅音ちゃんから入場券もらって、彼女に並ばせることを提案しなかったかって?

 

俺はゲスであってもクズになったつもりはないからな。女に鞭打つようなマネはせん。

 

相手が男だったら容赦なくもぎ取ったけどね。(東田とか)

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「やっと入場できた…」二時間かかったぞ。

 

建物の中も人・人・人、人だらけの人まみれだ。

移動してる奴以外はほとんどがブースに群がっている。

 

こりゃ早々に紅音と合流した方がいいな。

 

「とはいえどこにいるのやら」

中のどこで待ち合わせするか決めるの忘れてた。

 

手に入れた館内マップを開きつつ、それとなく周りを見回す。コスプレイヤーばっかだ。

 

こんな人混みの中から特定の人物を探し出すなんて、藁束から一本の針を見つけるような―――

 

「あ、いた」

案外簡単だったわ。

 

先ほども見た服装の後ろ姿に、特徴的な色の髪。

間違いない、紅音だ。

 

「ぅおーい、紅音ちゃーん」

 

いきなり大声出して、さらには相手が見ていないにも関わらず高らかに腕を振る俺を、周りの人間が何事かと注目しだす。

 

しかし、あえて無視。瀬能SANちのナツル君は強い子だから。

 

「あーかーねーちゃーんってばー」

気づいてんだろ絶対。無視すんなや。

 

とくに警戒することなく、手の届く範囲にまで近づいて、肩を軽く叩く。

 

「ねえ紅音ちゃ――」

「ちゃん付けすんなクソが!!」

「ぐぼっ!?」

 

彼女が振り返った瞬間、すごい勢いで拳銃のグリップ部分が頬に突き刺さった。

 

 

紅音は紅音でも変身後の狂犬の方だった。

 

どうやら今回も 一波乱ありそうです。

 

 

 





紅音ちゃん(表)回だと思ったかい?残念、紅音(裏)回だよ。(ややこしいなオイ)

キャラの口調や性格を確認するために原作を読み直したら、自分の作品とのギャップにちょっと困惑した。

この主人公もはや別物じゃないですかーやだもー
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