――三年後。
というのはもちろん嘘だ。
まああながち嘘でもないけどな。
その間なにをしていたかというと――
「紅音ー晩飯できたぞー」
「あん、もうそんな時間かよ」
敵が出るフィールドでひたすらサバイバルをしていた。
☆ ★ ☆
3日前。上階の街からこのフィールド―――見た目は荒廃して砂漠の山岳地帯みたいになった廃墟―――に落とされた俺と紅音の二人は、パーティ登録をしていたおかげかすぐに合流できた。
それから色々試したが、あのクソプログラマーの言う通り自力でのログアウトは不可能だとわかった。
なので仕方なくゲームをクリアするために、準備も兼ねて一度上階の街に戻ろうと決めたのだが―――思わぬ問題が発覚した。
「それにしてもナツル、お前よくこんな環境でこんな飯作れるな」
紅音がお椀の中のスープを匙ですくいながら話しかけてくる。
「ん?ああ…まあな。中学のころもっと酷い環境に一人でサバイバルしたことあるし、まだ恵まれてる方だ」
「ここより酷いってどんだけだよ…」
某自殺の名所の樹海です。
ちなみに今キャンプ地点にしてるのは周りに何もない平原。ところどころ廃屋はあるけど。
「敵が肉なんかをドロップしてくれて助かったな」
おかげで毎日三食肉の入ったスープを食える。
あ、一応言っとくとお椀と匙は自作。俺が作ったものだ。
「でも野菜や調味料がないから、栄養が偏るな…若干飽きても来た。物資にも不安はあるし、やっぱ近いうちに街に戻りたいな」
「VRでビタミンバランス気にしてどうすんだ」
エアガイツには炭水化物とかのパラメータが存在したぞ。
「それもこれもお前のせいだぞ…そろそろ慣れた?」
「うるせーな。もうちょっとだよ」
忌々しそうに睨まれる。匙を咥えるな匙を。
上階への旅路、フィールド移動初日。
とりあえず落下地点から棒を突き立て倒れた方向に歩いた。
今考えると適当すぎだが、地図もコンパスもないんだから勘で進むしかない。高台も四方に点在してたしな。
ぶつくさと文句を言いながら道無き道を進むこと数十分、武器の選択があった時から予想はしてたが、敵が突然襲いかかってきた。
こげ茶色で3メートルほどの巨大トカゲ――あいにくアナライズ機能はないらしく、名前は分からなかった。便宜上ロックリザードとしておこう。
当然即座に戦闘に入った。入ったんだが…
「ホントもう…頼むぜオイ。これ以上無駄にダメージ受けたくないよ俺」
「んだよだらしねえ。こんな美少女からの攻撃ならむしろご褒美だろ」
「
フレンドリーファイア。所謂同士討ちで、味方から攻撃されること。
単語と意味は知っていたが、まさか自分で体験する日が来るとは思わなかった。
「4回だぞ4回!4回の戦闘で必ず1回は味方に当てるってどんだけノーコンだよ!」
ちなみに4回は敵に遭遇した回数でもある。
そしてすべての戦闘を通して紅音からしかダメージをもらっていない。
「うっせえな。慣れてないんだから仕方ねえだろ」
「き・い・た・よ!
それでも(敵からは)ノーダメージで完勝してるんだ。いい加減自分の非を認めて謝罪しろ!
「おかげでフルにあったHP(体力)も10にまで減ったんだぞ。時間経過で多少回復はしたけど…次やったら前衛に回ってもらうからな」
「へいへい」
全く悪びれた様子がない。いっそ清々しい。
朝目覚めても体力が赤点灯してるのは心象的にも悪いんだぞ。
しかし始めたばかりとは言えたった4発で瀕死にさせられるとは…俺の防御力が低いのか紅音が攻撃に特化してるのか。
まあ現実なら1発でも死んでるけどな。
とにかくそんなわけで、ここ数日はお互いに離れて特訓していた。
紅音は射撃の練習してるみたいだけど、俺は次攻撃食らったら死にそうなので、体力の回復や気配察知ができないか試してる。
コントローラーを使わないといっても、ゲームであることには変わりない。スキルとか出ないかなーと色々やってみたんだが、一向に出る気配がない。
瞑想や索敵はともかく、料理や工作系のスキルや称号が出てもいいと思うんだけどなぁ。
「…そういえば紅音、お前変身はできるか?」
「あぁ?なんだいきなり。元に戻れってのなら無理だぞ。誓約の腕輪がないし…第一おめえだってできねえだろ」
「ですよね…」
いつもの見慣れた青色の腕輪がある右腕は、肩あたりまである武骨な鉄甲で覆われている。左もだけど。
初日に外そうと思っても外れなかったから諦めたけど、これって普通なら汗とかで蒸れたり、すっげえ痒くなりそうだよな。そんな不快感はまだ一度も感じてないけど。
「ケンプファーとしての特性(
結果的には変身したままでVR体験に参加してもらってよかったってことになる。
「おめえも変身して入ればよかったな」
「素のままでも十分強いから問題ねーよ。…紅音っ」
「っ、」
警戒心のこもった声で名前を呼ぶと、それだけで事態を察したらしく腰のホルスターから拳銃を引き抜く。
いつの間にか囲まれている。
それほど多くはないみたいだが、逃げ道はないようだ。現実ならここまで準備される前に気づいたのに…紅音をとやかく言えないな。
「ヒュー、いい匂いさせてるじゃんか」
「俺らにもわけてくれよっ、おにーさんたち?」
鋭い目で暗闇を見つめると、そこから十代くらいの男が三人歩み寄ってきた。
台詞からだいたい想像つくと思うけど、その表情はニヤニヤと下卑たものだ。
湯気を立てている鍋はもとより、紅音を舐めるように見ている。
「あいにく他人を招く余裕はないんでね、他当たってくれ」
「そんなつれないこといわないでさぁ〜」
「ま、イヤだって泣いて叫んでも勝手にもらっていくけどね」
「そこのお姉さんも一緒に、さ」
「「「ぎゃはははははははっ!!」」」
何がおかしいのかよく分からんが、三人は一斉に笑い出す。
周りにいる奴らも笑っているのだろうか、時折小さな笑い声が聞こえる。二人…かな。
ふむ。
「ギルティ・オア・ノットギルティ?」三人組を指差して紅音に問いかける。
「訊く必要があるのか?」
「いや、念のため」形式美ともいう。
予想通り、彼女は相当怒っているようだ。さっきより二割り増しで目つきが悪い。下手に窘めたりしたら俺がピンチだ。
まあもっとも、止めるつもりは微塵もないけどね。
「右端のヤツを俺が最初に仕留める、その次は隠れてるのを狙うから残りは好きにしろ」
「オーケー」
「ああ!?てめえらなに言って――」
「
ドゴッ!!
右の二の腕の内側が、三人組の一番右端にいたヤツの首元に勢いよく打ち付けられる。
勢いがよすぎて廃屋の壁にまですっ飛んでいった。失敗だな。
地面に押し当てるように打たなきゃ威力が十分に発揮されない。
「え…なっなにガヒャッ!?」
ドンッドンドンッ!
なにが起こったのか理解が追いついていない残りの二人のうちの一人に、容赦なく銃弾が撃ち込まれる。
一瞬俺に当たったかと思ったのは内緒だ。
「ひ…ひいぃぃぃぃぃぃっ!?」
残り一人がムンクのように両頬を押さえて絶叫するが、無視して走り出す。
あと二人隠れてんだ。のんびりしてられない。
「なっ、くっ・クソッ!」
廃屋に潜んでいた奴が悪態をつきながら姿を現す。
流石に距離がありすぎて、先制攻撃を許してしまった。
「喰らえ、マハラギッ!!」
男が腕を突き出すと、その掌から炎が吹き出した。
急にできた光源に、辺りからほんの少し闇が晴れる。
魔法とかあるのかよ…
ちょっと感激。や、現実でも変身すれば使えるんだけどね。
前から炎が迫ってきているのに、真っ直ぐに突っ込む俺をどう思ったのかは知らんが、目の前の男は若干怯えながらもニヤっと唇を歪める。
しかしその笑いは、数秒後には凍りつく。
ボゥッ
「……………え?」
炎を当たる直前に、裏拳気味に軽く払うとそんな間の抜けた声が相手から漏れた。
視界を遮るものがなくなって、男の姿がよく見える。
目標点まで一気に行くために、踏み込みを強めて大ジャンプ!走り幅跳びのような体勢で地面と水平に飛んでいく俺。
そしてそのまま――
「ポールダンスの極み!」
両足で相手の頭を挟み込む。
狙い通りの場所に移動できて大変満足。思わず頭を支点にグルグル回っちゃう!(もともとそういう技だろ)
足からメキゴキベキボキとかいう音と感触が伝わってくるが無視。
「かーらーのー」ある程度横回転を繰り返した後、上体を起こして頭と腕を掴む。
「シベリアン振り子落としー!!」
そのまま脇固めに切り替えて地面に叩きつける。ゴバシャァッ!て音がした。
ベギリッ、最後に
腕や首や背中があらぬ方向に曲がったオブジェだけがそこに残った。VR凄いな、ここまで再現できるなんて。
仮想でも現実か。
しばらく見ていると、男の姿がキラキラと光の粒子を振りまいて、空中に溶けるように消えていった。
あとに残ったのは男が持っていたであろう物品がいくつかのみ。
この辺は現実でも仮想なんだなぁって感じがする。
「ヒッ、くっくるな!来るなぁっ!!」
紅音の方を向いただけなのに、なにを勘違いしたのか初めに姿を現した三人組の最後の一人が怯えた様子で短剣を鞘から引き抜く。
てかまだいたのかよ。てっきりもうすでに射撃の的になってたと思ってたのに。
「来るなっこっこの女がどうなってもいいのか!?」
なにを血迷ったのか、紅音の肩を掴んで盾にし、喉元に短剣を突きつけやがった。
残念だがそいつに人質の価値はない。大概のことは自力でなんとかできるだろうからな。
「気安く触んな!!」
「いぎぃっ!?」
案の定、俺がなにかする前に男のつま先を踵で思いきり踏みつける。
ドンッ!
「ギャァァァァァ!!」
さらに追い討ちで腋の下から後ろに向けて発砲までしやがった。弾丸は見事男の脇腹に当たり、武器を取り落として地面をのたうち回る。
お前本当に女子高生?なんでそんなプロっぽい動き 当然のようにできるの?
相棒として心強くはあるけど人として将来が不安だよ。
「なっ…たった二人であの四人を……!」
少し離れた廃屋から声がした。
そういえばもう一人いたんだっけ。
「ヒィッ!」そちらに顔ごと視線を向けると情けない悲鳴が上がった。
「ヒィィッ、化け物!!」
廃屋から男が出てきて、脇目も振らずに俺たちとは逆方向に逃げていく。
それを見てのたうち回っていた男が苦痛に歪めた顔を起こして叫ぶ。
「まっ、待ってくれ!俺も一緒に!」
「ふざけんな!こんなチート共相手になんかできるか!!」
「そんっ」
「俺は無関係だ!計画したのも実行したのも、お前らだけだ!」
一際大きく言い残して、男は夜の暗闇の中に消えていった。
後には今だに燃え続けるたき火、俺と紅音。
そして男が去った方向に力なく腕を伸ばす、見捨てられた名も知らぬ哀れな男だけ。
「いい友達持ったなオイ」
近くまで歩み寄ってから、哀れな男に話しかける。
「で、お前はどうされたい?銃殺か撲殺かぐらいは選ばせてやるぞ」
一瞬紅音を見た後に片手で拳をごきりと鳴らす。こんなどうでもいい動作まで再現されるとかホント凄いなVR。
「…んで…」
「あん?」
「なんで…なんでそんなに平然としてられるんだよ!?人が…死んだんだぞ!いや、あんたらが殺したんだ!」
なに言ってんだコイツ?
「てめえなんでこんな状況になったのか覚えてねえのか?」
紅音がイラついた様子で口を開く。そんなつもりはなかっただろうけど、俺の気持ちを代弁してくれてありがとう。
「そっ、それは…」
「てめえからやって来といて相手が強かったら逆ギレか。随分といい性格してんな」
ごもっとも。
紅音の容赦ない口撃に、男は気まずそうに顔を背ける。
なんか俺空気になってない?
「というか、
「え…だって、デスゲームってそういうものじゃ…」
「コナン君のデスゲームは最後に全員解放されたぞ」
「ああ、そういえばそんなのあったな」
あれと違って今回のは大人も参加してるみたいだけどな。
ぐうの音も出なくなったのか、男は「あ…う……」と唸るだけで他になにも喋らなくなった。
「まあよしんばHP0 = 現実でも死亡じゃなかったとしてもだ、お前のやったことは立派な犯罪で 尚且つ自分からその道を選んだんだ。覚悟はできてんだろ?」ろくな最後を迎えることはできないって。
銃殺 or 撲殺の答えは聞いてないが、時間も勿体ないしそろそろ休みたいからこっちで勝手に決めるか。
「…!お願いです!どうか、どうか命だけは助けてください!!」
俺が一歩足を踏み出すと、今後の展開を察したのか男が懇願してきた。
それも土下座で額を地面に擦り付けて。
…今までいろんなのに襲われたけど、こうまで哀れさを誘う奴は初めてだ。
「お願いします!なんでもしますから!どうか…どうか命だけは!」
「…どうするよナツル」
その情けない姿に殺す気を削がれたのか、紅音も呆れた表情で判断を仰ってくる。
ぶっちゃけ俺も面倒になってきた。
開き直って反撃でもしてきてくれりゃあ、流れで止めを刺せるんだが。
「お願いします!お願いします!」
「うーん」そうだなぁ…
☆ ★ ☆
「おい、次はこれ頼む」
先ほどの蹂躙と言っても過言ではない戦闘で手に入れたアイテムを拾っては放り投げる。
これは…盾か。こっちはボウガン。
どうやら弓兵的なポジションだったらしいな。どうでもいいけど。
「お、これは回復薬みたいだな。紅音、俺が使っていいか?」
「あぁ?好きにしろよ」
彼女は面倒くさそうに一度だけこちらを向いて、興味無しとばかりにすぐに自分の作業に戻る。
まあ君まだ一度もダメージ受けてないからね。必要性が薄いんだろう。
相方の許可が出たので早速使おう。…どうやってだ?
見たところ飲み薬っぽくはないんだが…
「なあおい、これどうやって使うんだ。道具袋」
「…その名前呼びやめてくれません?」
道具袋――先ほど土下座で命乞いした男――が不満ありありな表情で文句を言ってくる。
「アイテムボックスってのはちょっとカッコイイから駄目だ」
「そうじゃなくて、キャラネームとか…」
コイツまだ立場が分かってないみたいだな。
「なんでもしますとか抜かしてたくせにもうそんな我儘言うのか。やっぱり逝っとくか?」
「い、いや!そういうわけじゃ…」
「おい袋、ちんたらしてねえで仕事しろ仕事。次はこれだ」
紅音に促され、道具袋は渡された防具…奴の仲間が装備してたものを、複雑そうな顔で受け取る。
次の瞬間、その手に持った鎧が忽然と消えた。
「…便利だな。アイテムボックスって」
「そうだな、俺も欲しいぜ」
自力で使えるようになったら道具袋いらない子になりそうだけど。
まあ他にも使い道はあるだろう。知恵とか知識とか…流石に不要になったから処分とかはしたくない。面倒だし。
まあとにかく、敵から取れる素材の置き場で悩む必要がなくなった。
この場所を拠点にせざるを得ない理由の一つが解消されたな。
「それよりこれはどう使うんだ」
「…普通に身体に塗れば大丈夫ですよ」
身体にねぇ…患部じゃなくてもいいのか?
試しに手の甲に少し垂らしてみる。……若干HPが回復した。
鉄甲に阻まれて直接触れてないはずなのに効果が出るのはなんでだろう。
…考えたら負けだな。
「ナツルーあらかた詰め終わったぞ」
「ん?ああ」
周りを見回すと確かに、仕舞えそうな物は一つとして存在しなかった。
アイテムボックスマジ便利。
「よし、じゃあ出発するか」
目指すは始まりの街・ワイナ。プレイヤー全員が、最初にログインした街だ。
まずはそこに行く。
俺たちの冒険は、始まったばかりだ―――
最終回みたいな締め方ですが安心してください皆さん、まだ終わりませんよ。
以下、ネタばらし。
■エアガイツ
なぜかFF7のキャラが何人か登場してるプレステの格闘ゲーム。本編とは関係ないところでダンジョン探索ができます。
・轟斧爆
るろうに剣心。カッコイイ名前ついてるけど、ぶっちゃけただのアックスボンバー。
・ポールダンスの極み
龍がごとく。秋山さんより桐生さんが使った方が威力高そうだけど、戦闘スタイル的に秋山さんの方がしっくりくるよね。
・シベリアン振り子落とし
キン肉マン。最新シリーズでウォーズマンが使う技。
ちなみにナツルはスキルを一つも所得していないため、これら三つは通常攻撃に分類される。
ヒートアクション含む必殺技を代償無しで普通に使う主人公…ダメだこいつ。早くなんとかしないと。
■コナン君のデスゲーム
劇場版・ベイカーストリートの亡霊。デスゲームでも数少ない死亡しても現実に生還できる作品。
デスゲーム編2話目です。
VRMMOもので、必ずと言ってもいいほど出てくるPKをお題にしてみました。
ナツルを狙ったのが運の尽き…とか、荷物運びの奴隷みたいでかわいそう…とか思った人。よく考えてください。因果応報ですよ。
そういう自分勝手な理由で犯罪犯す奴に嫌悪感を抱いてるせいか、今回のお話微妙に内容が薄いような気がする。その辺は課題ですかね。(ナツルが非常識すぎるせいかもしれないけど…)
次回、教えろ知恵袋先生。なんとか年内には一行を街に入れたい…無理かな。
トロフィー獲得!
(銅):ハードアタッカー
(銅):自炊系男子
(銅):ケンカ売るなら相手を選べ
(金):これはゲームであっても遊びではない