それぞれの、思惑―――
沙倉とデートに行くことになった。
これだけならただの自慢話だ。クラス,いや学校の男子一人にでも知られたら、俺はその日が命日になるだろうが。
しかし誘われたのは女の俺だ、初デートが女同士とは思わなかった。現実は非情である
ていうか予想できるわけねーよ
日程は次の日曜日の朝10時。しかしどうしたらいいか分からないので、紅音に相談のため家に来てもらった。
「あたし…男の人の部屋に入るのはじめてです……」
「俺も母親と幼馴染以外を部屋に入れたのは初めてだよ」
正確には両方とも勝手に入って来てたんだけどね。
「ナツルさんナツルさん。わたし、女の子ですよ?」
「たしかライターがこの辺にあったな…」
迷わず机の引出しを開けた。よかった、ちゃんと入ってた。
ガスもオイルも問題ない。24時間火をつけてても大丈夫!
「冗談ですよ、冗談。だから火はよしましょう。ビニール燃やしたような匂いがします」
「次はねえぞ」
科学繊維の焼ける匂いを嗅ぐのは俺も嫌だからな
戻すのもなんなので、そのまま手にもってジッポーライターのフタを開けたり閉めたりと指遊びをする。親父がお土産にくれた物だ。
十代の息子にこんなの贈るってなに考えてんの?とも思わないでもないが、けっこう気に入ってるからまぁいっか
「ナツルさん、ご両親は……?」
「熊本に転勤。母親も一緒に行ったから一人暮らしだ」
自由なのはいいけど食事とか面倒なんだよなぁ
「そ…そうなんですか……」
紅音は顔を赤らめてうつむいた。なんか変な想像してないか?
「それで、当日は紅音ちゃんについて来てほしいんだけど…」
「またですか……」今度は陰を背負いだした。
仕方ないジャン。自力じゃ変身できないし、心細いし
「デートしなければいいじゃないですか……」
「そうなんだけどつい押し切られちゃって…、まあこれっきりにするつもりだから」
「いっそ付き合っちゃたらどうです?全校生徒あこがれのアイドルなんでしょ」とハラキリトラ。
「そりゃいい、ケンプファーが女と付き合ったら
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ととても不愉快な笑い声で言ったのは紅音が持ってきた臓物アニマルのセップククロウサギ。
血走った目がとても精神を不安定にさせる。
なんでも一人じゃ心細いからボディガード代わりにつれて来たらしい。殉職させたろか
「たしかに沙倉はいい女だが、向こうがご所望なのは女の俺だぞ」
「とっちまえよ」
「介錯してやるからおとなしく死んでろ」
小物入れからカッターを取り出し、プラプラとちらつかす。
おもしれえやってみろ。とセップククロウサギが言うので、実行するために椅子から立ち上がった。
「まってください。佐倉さんはどうするんですか」
紅音が慌てたように押しとどめる。そうだった、つい話が脱線しちまった。
「一回だけデートして、なんとかあきらめてもらうよ」
「結局デートはするんですね………」
ガックリという感じで紅音は肩をおとした。仕方ないじゃん、約束しちゃったんだもん。
☆ ★ ☆
約束した日曜日。天気は晴れ。でも俺の心は曇り空だ。雨でも降ってくれりゃ雨天中止とかになったかもしれないのに
紅音は俺が女になるために変身してもらったが、すぐに元に戻ってしまった。その後もいくら言っても変身したくないとダダ(?)をこねられた。
途中で男に戻らないか不安だが、少し離れた所からついて来てもらって、危険だと感じたらフォローしてもらうことにしよう。消極的だけど。
…だって泣くんだもんよ…強く言えるわけないじゃん……
「ごめんなさい……」しょんぼりと落ち込む彼女。可愛い系は得だなオイ
「いいよもう…、でも危なくなったらよろしく」
「はい……」
「そんときゃばらしゃいいんだよ」「お気をつけて、先立つ不幸を祈っています」
腹裂きコンビが、あとで見とけよ。
☆ ★ ☆
駅で待ち合わせをしていたのだが、相手よりも早く来てしまったようだ。
……この人込みの中にも敵のケンプファーがいるかもしれねぇんだよな…
いたとしても今回は静かにさせてほしい。一応初デートだから。
「お待たせしました」
流れる人波をぼーっと眺めていたら、何時の間にか目の前に沙倉が立っていた。
「ごめんなさい。退屈してました?」
「あ…いえ、こちらこそごめんなさい。少しボーっとしていて」
とりあえず始めと同じように猫をかぶる。変えて正体ばれたらとても困るし
視界の隅で口や腹をおさえたり抱えたりしてる臓物アニマルが見えた。どないしてくれよう……
「あの…、どうかなさいましたか…?」
「いえ……。沙倉さん素敵な格好ですね」
「ほんとですか?よかった…、実はどんな服を着て行こうか悩んじゃって遅れそうになっちゃたんですよ」彼女の服装は若干短めのスカートと半袖。
「沙倉さんなら何を着ても似合いますよ」
俺はこんなキザな台詞をサラっと言える男だったのだろうか……?紅音みたいに性格変わってきたのかな…
「そんな…、ナツルさんの方こそ素敵な格好ですっ」顔をほんのりと赤らめている。本心なのだろう。
「私はファッションには無頓着だから…、でもそう言われるととても嬉しい」はにかみながら口元に指を曲げてそえる。沙倉は一層顔を赤らめ下を向いた。
何となくやってみたが効果はあったようだ。男のときにやったらドン引きされるだろうけど
「ところでどこへ行くの?」
「あっ…はい、えっと〜…」
多少右往左往していたがやがて。
「映画館です。楽しみにしていたのが、ちょうど上映中で…よければナツルさんと一緒に行きたいなって」
「私でよければ喜んで」
というわけで映画館に行くことになった。映画なんていつ以来だろう
「どんな映画を見るの?」
沙倉がとても楽しげな雰囲気を出していたので歩きながら聞いてみた。
「あっはい。とても面白い映画ですよ」
面白い?今日初めて見るんじゃ…
「あ、見えて来ました」
何となく嫌な予感がした。
彼女が指さす看板のタイトルは…
「臓物アニマルですっ」
『進め臓物アニマル 血まみれ獄門丸かじり』
久々に見るもんにしては少々ヘビィすぎんだろ……
☆ ★ ☆
「面白かったですねっ」
「独創的ではあった……」
悪夢のような二時間だった。
いや同時上映だった『臓物たちの夜』とか訳わからんミステリーだかホラーだかを見せられたから三時間半だ。
映画館から出たとき、ちょうど昼飯どきだったから近くのパスタがうまいイタリアンな店に来たんだが…
正直、パスタが腸に見える。こりゃ当分肉料理は食えねぇな
仕方なくスープを頼むと、店員が消えるとほぼ同時に腕輪が光り始めた。
やばい。男に戻る合図だ
「ちょっとすいません、トイレに」沙倉の返事を待たず席を立つ。
マズイ……!紅音は『進め臓物アニマル』の時はスクリーンを食いつくように見ていたが、その後の作品の時はいなくなっててそのままはぐれてしまったのだ。
トイレのドアを目前にして腕輪の点滅が早くなった。もうダメだ……!
そう思ったが突然光が収まり、普通の状態に戻った。なんで?
よくはわからんが悪戯に時間をつぶす訳にもいかないので、沙倉の待つテーブルに戻る。
「ごめんなさい、急に席を立って」
「いいえ、気にしてないわ」
……!この声は!
「楓には席を外してもらったわ…あなたと話しをするためにね」
「生徒会長…!」
咄嗟に三郷を見たまま出口に走ろうとする。何となくそうした方がいい気がしたからだ
「焦らないで、瀬能さん…と言った方がいいかしら?」
「…なんのことです?」
「惚けなくていいわ、私もあなたと同じ。ケンプファーだから」
三郷は右腕の袖を捲った。腕輪の色は…赤だった。
「あなたの敵よ」
嫌な予感はしてたんだ。ひしひしと
☆ ★ ☆
ここで騒いでも不利なだけなので、三郷と向かい合わせになるように席につく。
俺コイツ苦手なんだよな…。いろんな意味で
「そう警戒しなくても大丈夫よ、ここで戦う気はないから」
「はいそうですかと安心できるほど、御人好しじゃないんでね」
それに俺は自分の武器をまだ知らない。あきらかにこっちが不利だ。つかどうやって出すの?
「楓の時と放し方がずいぶん違うのね」
おめえ相手に猫なんてかぶってられるか
「図書室で襲ってきたのはあんたなのか?」
「ええ、そうよ」
証拠のつもりなのか、周りの奴らには気づかれない角度で手に持っている物を見せてくる。図書室で襲ってきた短剣。そのものだ。
「瀬能さんは凄いわね。ケンプファーになりたての人に
「……会長」
「雫でいいわ」
「じゃあ雫。あんたいったい何が目的なんだ?ただ敵を倒すってだけじゃないだろう」
もしそうならこうやって話す必要はないはずだ。
「知ってると思うけど、ケンプファーは戦うための存在。お互い敵と味方に別れてね、でもなんで戦うか知ってる?」
「知らん」つーかこの前なったばかりだ。分かるはずがない。
「私も知らないわ…。カンデンヤマネコが言うにはケンプファーになって戦うと莫大な権力が与えられるそうだけど、鵜呑みにするほど馬鹿じゃないわ」
「それで?戦う理由を知りたいから戦ってるってのか?本末転倒じゃねーか」
少々人を小馬鹿にするような口調だが雫は気にした様子もなく、
「そうでもないわ。戦い続ければなにか理由が見えてくるかもしれないし、モデレーターの目にも止まるかもしれないでしょ。その時に全てを理解できるでしょうね」
そう言って髪をかきあげた。今気づいたが髪の内側が銀色になっている。ケンプファーに変身してる証なのだろう。
「だからあなたたちとも決着がつくまで戦うわ」
あなた
「なんで俺が
「あら、嫌?」
「たりめーだ。倒されて喜ぶってどんなマゾ」
「楓は私が預かってる、って言っても?」
「……生徒会長が生徒に手だしていいのか?」
「心苦しくはあるわね」
「アンタは沙倉の昔からの親友って聞いたけど」
「胸が痛むわ」
「俺が乗るとでも?」
「違うの?」
「……………」
「他人ならともかく、あなたは知り合いを見捨てれる人では無いわ」
それが楓なら尚更ね。雫はそう言って伝票を手に取り、席を立つ。
「日時と場所はあなたたちで決めて。…期限は一週間よ」
また会いましょう、と最後に付け加えて彼女は去っていった。
フーーーーーーーーー………
完全に気配が消えたところで、椅子の背に体を預け、深くため息を吐く。
……………勝てる気がしねぇ……
☆ ★ ☆
その後、はぐれていた紅音と再会をはたした俺は、雫のことで話し合うために自宅へ戻った。
「あたしがいないところでそんなこと話してたのか」
変身した紅音は、雫が図書館で襲った犯人だと知ると怒りだす。
「そんなことは戦う時にぶつけりゃいい。問題は他にもある」沙倉のこととか。
はっきり言って雫は強い。簡単には勝たせてもらえそうにはないだろう
「なあ紅音。会長の武器、なんか弱点とかないか?」
「ないんじゃねえの?」
そんなあっさりと…
「ありゃあ
どうでもいいけどコイツは今、俺のベットの上でポッキーくわえて座りこんでる。ほんとどうでもいいけど
「悩んでるうちに視界の外からぶっすりきそうだ」
「そうか…」
飛ばすのが主なスタイルなら、懐に潜り込めばあるいは……でも二刀流ってのはもともと防御に優れているって聞いたことあるし、向こうも警戒してるだろうから、そう簡単に懐に入り込ましてくれるとは思えないし……
どうすりゃいいのかねぇ
「あのー、ナツルさんは楓さんが捕まっているから戦うんですよね」
とハラキリトラ。そういえばいたんだコイツ
「まあな」
「でしたら、会長を放っておいて楓さんを助けるというのはどうでしょう」
いい案だが…。沙倉がどこにいるかわからんしなぁ
「ってお前らはいいのか?ケンプファーが戦わなくて」
「おもしければよし、だ」とはセップククロウサギ。おいこら
「いいかもな」
今までポッキーを食っていた紅音がにんまりと唇の端をつり上げる。
「いいこと思いついたぜ」
それはいいけど、ポッキーの食いカスをベットに落とすなよ
初めてのデート。初めての強敵。初めての………?