けんぷファーt!   作:nick

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ナツルの夢 続き



番外話⑦ 6/4 私以外私じゃないの【中】

現状を整理しよう。

 

現在俺こと瀬能ナツルはなぜか、鳴上悠という男の設定で行動している。

 

場所は怪しげな劇場、といった感じの造りをした建物?の中。状況からしてここに連れさらわれた少女、久慈川りせの救出が目的だったのだろう。

救出に来た面子…鳴上の仲間達は今だに劇場の床の上に倒れて気絶している。都合よく立ち上がって戦線復帰!ってパターンは期待しない方がいいだろう。

 

そして敵は…ついさっき出現したクマの影。ぱっと見ちょっとした一軒家ほどの大きさだ…

しかも胸から下が地面に埋まってるんだよね。全長にしたらいったい何メートルくらいあるんだろうか。

 

さらに言うと少し離れたところにりせの影もいるんだよね。結構ダメージ与えたけど倒す前に新手がやってきたから。

 

…うん…

これ現状詰んでねえ?

 

『魔手ニヒル…』

 

クマの影が片腕を大きく振りかぶる。

 

やっべ、あれ確か大ダメージ与える全体攻撃技じゃねえか!

俺はともかく、転がってる花村達は下手すりゃ死ぬぞ!どうしよう?

 

 

ム"ー

 

 

「あ?なんだ?メール?」誰だこんな時に!

 

無視しようかと一瞬思ったが、なぜか猛烈に取った方がいいような気がしたので、胸ポケットから携帯を取り出す。

 

 

〜ノルンチョイス〜

 

どちらか選んで

 

→ 氷

  音

 

あと5秒

 

 

なんだこれ?

 

携帯開いたらもうこの画面だったぞ。着信と同時にメール内容提示する機能でもあんのか?

それにコレ数字のところがだんだん減ってくんだけど。カウントダウン?最新式はよく分からん。

 

「氷と音って…」

 

関連性無くね?

いや、待てよ。そうか!

 

「ジャックフロスト!」

 

咄嗟にフロアの一角を占拠している雪だるま型のペルソナを呼びつける。いつまで増殖してんだよ!

 

「氷壁を張れ!堅くてデっカイの!早く!」

 

  ホー!

 

俺の言葉に反応して、フロスト達が一斉に動き出す。

その様子はまるで小魚の大群が協力して一体の巨大な生物を装っているようだ。

 

ぶっちゃけキモい。

 

「まずはあっちから!」

  ホー!!

 

気を失っている花村たちを指差すと、命じられた通りに氷を生み出す。

数秒もすれば堅牢な壁が築かれた。よし、次は俺と久慈川!

 

現状を把握するため素早く周りを見回す。

 

しかし、それはするべきではなかった。

 

 

「  」

 

 

見回した視線が一点で思わず止まる。

その先には、今まさに攻撃しようとするクマの影を尻もちついて呆然と見上げる、

 

『ヒッ、』

 

りせの影の姿が、瞳に写った。

 

――パキパキパキッ!!

 

気がつけばシャドウの目の前に氷壁を造らせていた。

 

『えっ』「先輩?」

久慈川とシャドウが同時に驚愕の声を上げる。

 

と同時に、クマの影がチャージを終えて腕を振り下ろすのが見えた。

もう回避することは不可能だろう。ならせめて久慈川(こいつ)だけでも守らなくては。

 

『愚かしい隣人よ、死ぬがいい!』

 

がォンッ!!

 

「グゥッ!?」

  ホー!

 

>ペルソナブレイク!

 

衝撃波による激痛と、ペルソナのダメージのフィードバックが俺の全身に襲いかかる。

 

さっき攻撃された時は何も感じなかったのに…フロストは全部をいっぺんに消されるとブレイク状態になるのか?

 

「先輩っ!!」

 

久慈川が慌てた様子で声をかけてくる。

 

怪我はないようだ。

咄嗟に覆い被さったけど、うまく攻撃は防げたみたいだな。

 

 

『あんた、なんで…!』

 

シャドウの方も無傷でやり過ごせたようだ。この調子だと仲間たちも無事だろう。

もっとも今の一撃で氷の壁は壊れたから、次また同じ攻撃されたらマズいな。なんとかしねえと。

 

とその前に…

 

「久慈川」

「え…って わっ?」

 

困惑する少女を無視して、持ってた携帯を押し付ける。

 

「悪いがこっからは一人で逃げてくれ。それ使えば多分、無事に出口まで行けるはずだから」

 

喋りながら立ち上がる。

確証はないけど、多分大丈夫だろう。うん、イケるイケる!

 

「え…せっ、先輩は?」

「…ケジメはつけねえとな」

 

ペルソナは…ダメか。復活にはまだ時間がかかりそうだ。

他のやつを出せればいいんだが、うまくいかない。なにか条件でもあるのか?

 

「ケジメって…」

「あいつがああなったのは、俺の発言が原因だ。なら鎮めるのは俺の役目だろ?」

 

考えなしのテキトー発言だったんだが…まさかシャドウ出現させるほどのショックを受けるとは思わなかった。考えなしすぎたな。

 

他人のことは気にしない。敵対したら老若男女構わずぶちのめすし、甚振る・嬲るは当たり前!

でも仲間は見捨てられねえ。

俺のじゃないけどね!!

 

「しんどいけど逃げるのは無理だ。ここで簡単に見捨てられたら楽だったんだけどなー」

 

俺のコンセプトは" さわやかなゲス "

 

ここで退いたら、さわやかが消える。

別にただのゲスでもいいっちゃいいけど、今鳴上の身体使ってったからな。ほら、世間体ってやつ?大事じゃん?知らんけど。

 

『待ちなさいよ!』

 

刀を握りしめ、いざ山に挑もうとした瞬間に声をかけられる。

振り返るとアンテナがこっち向いてた。

 

『あんたボロボロじゃない!それなのにまだやる気!?』

 

多分、そのボロボロの半分はお前との一戦のせいなんだけど。

 

「…心配してくれてんの?」

『はあ!?はぁぁっ!?なによアンタ!ウヌボれてんじゃないわよ!バカじゃないの!?』

そこまで言わなくても…

 

『そんなケガまでして、なんでアタシを助けたのよ!ホっとけばよかったじゃない!!』

 

まあそうだよね。つい数十秒前まで()りあってたんだし。

でもさ、

 

「助けたっていいじゃない。人間だもの」

『っ、……』

 

ぶっちゃけ俺だって知らねえよ理由なんて。気づいたら身体が動いてたんだ。

鳴上(ほんたい)の意思にでも操られたか?

 

「とっとと家に帰んな。今日見たことは全部…悪い夢だ」

俺の。

 

「あっ、先輩!」

 

久慈川の制止の声を振り切ってクマシャドウに突っかかる。

 

「行くぞオラ、第三ラウンドだ!」

『騒がしいな。末期は静かに、潔く迎えるものだ!』

 

神は言っている。まだ死ぬ時ではないと。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

戦っている。

 

名前の知らない、これから通うことになる学校の先輩が、一人で巨大な何かに挑んでいる。

私はそれをただ黙って見ている事しか出来なかった。

 

本当なら言われた通り、急いでこの場所から離れるのが正しくて、先輩のためなんだろうけど…

 

" ケジメはつけないとな "

ついさっき言われた台詞が、ずっと頭から離れない。逃げようとする意志を奪っていく。

なにより…

 

庇ってもらったときに抱きしめられた暖かさが、忘れられない。

 

 

ム"ー

 

 

両手で握りしめていた携帯がいきなり震えてメールの着信を伝えてくる。

ちょっと驚いたけど、すぐに携帯を開いて内容を確認する。

 

 

〜ノルンチョイス〜

 

どちらか選んで

 

→ 出口までの安全なルートマップ

  勇気

 

 

「っ、…!」

書かれていた文言を見て、思わず息を飲んだ。

 

でもすぐに意味を理解して、携帯を操作する。

どっちが必要かなんて、決まってる。

 

「ねえ!」

 

すぐに立ち上がって、私と同じように先輩を見つめている…人?に駆け寄る。

 

「ねえお願い!力を貸して!」

『……え?』

 

私の何倍も背が高くて、アンテナが付いている顔がこっちに向く。

 

正直、怖い。

でも、そう言ってられない。私は勇気を選んだんだ!

 

「先輩を助けたいの!協力して!」

『あんた、正気?アタシはあんたを殺そうとしたのよ?』

 

「…わかってる…」

『わかってないわよ。横ヤリ入って中断されただけで、あたしは今でも「わかってる!!」』

 

カラフルな模様をした身体に思いっきり抱きついて顔をうずめる。硬めなシリコンみたいな感触だ。

 

「わかってるよ!あなたが私だってことも、ずっと嫌ってきたことも、今でもちょっと怖いことも!全部わかってるよ!!」

 

でも、

 

「怖がって…見ないふりして、逃げてばっかりじゃなにも変わらない。変われない!」

『………』

「今だけでいいからお願い…!先輩を助けたいの…守りたいの…!」

 

流れそうな涙をぐっと堪えて、顔をあげる。

目は無いけど、見つめ合ってると感じられた。

 

ここで変わらなかったら、もう二度と先輩に会えなくなる。

 

あんな風に気を使われたことなんてなかった。

あの温もりが消えちゃうなんて、嫌だ!

 

『…あたしは…本当のあたしを…見てほしかった…誰でもいいから、見てほしかった…』

「私だよ…あなたも、私も、全部私」

『うん…でも今は、』

 

「『あの人に一番の私を、見てほしい』」

 

パ キーーン――…

 




〜ノルンチョイス〜

ノルンとは過去を司るウルズ、現在を司るヴェルザンディ、未来を司るスクルドの三柱からなる運命の女神。複数形はノルニル。

携帯電話などの電子機器に表示される二択の質問。回答者が必要だと思う物を提示する。
ただ選んだからといって、それが正解・不正解とは限らない。ノルンチョイスはただヒントを提示し、ほんの少し手助けをするだけなのだ。

ノルンがどの様な姿形をしているか、またどこまでの力を持っているかは本体でさえも知らない。
この能力をナツルはペイズリー・パークと名付けるだろう…
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