微妙に伏線回収(?)
生は永久の闘いである。自然との闘い、社会との闘い、他との闘い、永久に解決のない闘いである。闘え。闘いは生の花である。 by大杉栄
「ここか」
とくになんの問題もなく昼食を済ませ、冒険者の男に教えてもらった店にやってきた。
ちなみに玲ちゃんはカツ丼を十杯おかわりした。大会っていくらぐらい賞金出るかな。
店は地下にあるようで、俺たちの目の前には下り階段と先が分からないほどの暗い闇が存在している。
階段横の看板には『ビューティ・ローズ』の文字が。バーみたいな大人の店なのかな?
「ここに闘技大会への紹介状を書いてくれるかもしれない…プレイヤーの店主がいるはずだ」
「超曖昧だな」
「聞いただけだからな」
もっとも、それを確認しに来たんだけど。
店が地下にあるため、例によってルナはその場で待機してもらって、残り全員で階段を下る。
なんか未知のダンジョンに潜ってくみたいな不気味さがあるな…なに考えて地下に店なんか構えたんだ?
やがて階段が終わり、簡素なドアだけがある最下層にたどり着いた。
「…………」
しばし扉の前で立ち尽くす。
なぜだろう。すごく嫌な予感がする。
「おいナツル、どうした。さっさと開けろよ」
「あ、ああ…」
すぐ後ろについていた紅音がイラついたような声で急かす。
こいつはもともと呑気な性格じゃないから、ちょっと待たされただけですぐ不機嫌になる。
仕方ない。かなり不安だがこのままだと俺の身体に風穴が開く。覚悟を決めよう。
チリンチリーン♪
ドアを開けると、内側に備えつけられていたベルが軽やかな音を鳴らす。
それを聴きながら中を覗き込むと、モダンチックな一室が広がっていた。
地下空間に相応しい内装だ。
「隠れ家的な雰囲気を感じる」
バーカウンターや置かれている小物類を見ながら、店の中程まで進む。
ゲームで使われてそうな配置だ。センスいいねー。
「なんか…俺たち場違いじゃありません?」
「ビクビクしてっからだろ。あいつらを見習えよ」
『ホホー、さっきとは別ものなとこだホー!』
『確かに、場所の雰囲気がまるで違うな。どのような料理が出てくるのだろうか』
「悪魔じゃないすか…」
「じゃああっち」
「善、善、お品書きあったよ!えっと私…ハーブチーズ牛丼食べたい!」
「…品名に無いようだが」
「数年前に廃止になったからな」
つーかまだ食うのかよ。さっき散々食っただろう。
「みんな神経太すぎだよ!」
やだな、俺の神経なんて全然だよ。そうまるでボルファのように…
「…あら、お客さん?まだ開店の時間じゃないわよ?」
各々が店内で好き勝手に動いていると、その音に気づいたのか店の奥の方のドアが開く。そこから現れたのは、
―――艶のある黒髪をストレートで肩あたりまでなびかせ。
―――フリルをふんだんに使ったピンクのドレス(ミニスカ)に身を包んだ、
―――厳つい顔をした、ボディビルダー張りに筋骨隆々な大男。
「――――――!!」
悲鳴にならない悲鳴を上げたのは誰だったか。俺かもしれないし別の面子だったかもしれない。
ただ、そこから先の行動は早かった。
まず紅音が逃げ出した。
「ぬぅん!?」
回れ右して出口に走ったのを気配で察して、咄嗟に振り返って彼女の服の端を掴む。
「待て逃げるなッ!逃げるならせめて一緒に!」
「はなせーーーーー!!」
気持ちは分かるが落ち着け!
振りほどこうと必死に暴れるが、そうはさせまいと羽交い締めにして動きを封じる。
俺のすぐ後ろに位置してたから捕獲できたが、あと一人分でも距離があったら走り去られていただろう。
「瀬能、玲が泣きそうだ!」
「あやせ。目一杯あやせよ」
俺も泣きたい。
「あと袋が気絶した」
「叩き起こせ。手荒になっても構わん」
一人だけ逃避するのは許さない。
『人間っていろんなのがいるホー』
『全くだ』
「俺たちをアレと一緒くたにするんじゃねえ!」
姿を見せただけでパーティ半壊させるような奴と同種族と思われたくない。
こいつらも混乱して達観してるのかな?それとも素でそう感じているのか…表情変わらないからよく分からん。
つーかなんで俺こんな冷静なの!?お陰で真っ先に対応しなきゃいけないじゃない!切れちまえよボルファな神経!!
「あらん?あなた達別の街から来た子?今時サムライ隊士服なんて珍しい装備ね」
ひいっ!!こっち来た!!
日焼けかどうかは知らんが、褐色でムキムキの肉の塊が近づいてくるのは、正直恐怖でしかない。(しかもモデル歩き)
お、俺の身長は180cm以上だ。その俺でも見上げなきゃ顔を合わせられないって、どんな背丈してんだコイツ!?
「寄るな魔王!!」
「魔王!?流石の私もいきなり魔王呼ばわりされたの初めてよぅ!」
喧し怖い!シナを作るな!!
「…………だ…ぅ……………」
俺の腕の中で踠いていた紅音が、急に力を失って重さを増す。
釣られて力を抜くと、そのまま足元に崩れ落ちた。
「ナツルぅ…かえろぅよぉ……あたしもうヤダよぅ………」
女の子座りの体勢で、眼に溢れんばかりの涙を溜めて弱々しくこちらを見上げてくる。
「ぐはっ!?」普段とのギャップに思わずダメージを受けた。
いかん、紅音のキャラが崩壊している。心が折れかけいるんだ。そんなにショックだったのか。
これはこれはディ・モールトいい―――じゃなかった、これはとてもマズい。作風的に。
…どうやら俺も、思いの外混乱してるようだ。
「紅音ちゃん、泣かないで?」
『ゲンキ出すホー!』
「うん…」
不安げに俺の上着の裾をつまむ彼女を玲ちゃんたちに預け、店員に対峙する。
落ち着け…落ち着け俺……!かなり難しいけど落ち着いて対処するんだ。
大丈夫だ、昼寝してる間にハブが脚に巻きついてきた時とおんなじだ。冷静に相手の動きを見ればなんくるないさ。
「毒ヘビと同レベルで扱わないでくれる?」
「人の心を読むとは流石魔王だな」
「声に出てたわよ」
…いい加減直したいこの癖……!
「つーかお前、ホントに俺らと同じプレイヤーか?あの会場にいたのか?」
いくらなんでもこんな奴いたら気づくと思うんだが…目立つし。
「あの会場?なんのこと?」
「だからゲームショウの体験コーナーの…」
「……晶彦。貴方、等々無関係な人たちを…」
魔王が俯き、痛恨の表情でギリッ…と歯軋りする。怖いからやめろ。
「あなた達が私を見たことないのは当然よ。なぜなら私は、あなた達より遥か昔にこの世界に落とされたから」
原作(ケンプファー)でも、出てきてもよかったんじゃない?と思わせながらも結局出てこなかった筋肉マッチョなオネエキャラ登場。密室で出くわしたらきっと俺もキャラ崩壊起こす。ウチの主人公凄い!
ちなみにナツルが相手を魔王と呼ぶのは番外話を参照。ウチの子大変!
キャラ崩壊起こして気弱になった紅音が見れるのはnickの作品だけ!