ナツルくんは面倒なフラグを全力で潰すスタイル
「遥か昔ぃ?気になる台詞だな。どういう意味だ?」
「そのままの意味よ」
魔王はふっ…と遠い目をして、バーカウンターの向こう側へと歩いていく。
そこでカチャカチャとグラスに飲み物を注ぎ、それをトレイに乗せてこっちに戻ってくる。
「どうぞ。サービスよ」
「わぁ!ありがとうございます!頂きます!」
玲ちゃんがなんの躊躇もなく飛びつく。
「玲、飲むな。毒でもあったらどうするっ」
「疑ぐり深い子ねぇ…用心するのはいいけど、街中で攻撃に繋がる行為は出来ないわよ」
俺しょっちゅう
「まぁいいわ。あなた達、現実の世界からここへ何月何日にダイブしてきたの?」
「あ?…六月の最終土曜日だけど」
「そう……まだ、それぐらいしか経ってないのね…」
それぐらい?えっと…確か
この世界で何日か過ごしてるけど、現実じゃ一分にも満たないとか信じらんねえな。
「私がこの世界に来た日は三月の半ばよ」
「は?」
「何十年、いえ何百年かしら。…時間の感覚なんて最早無いわ」
コイツ……マジで魔王だったのか。
「私は元々、晶彦と一緒に働くプログラマーだったのよ。今じゃ冴えないバーの看板娘だけど」
「全く信じられない単語が二つも出たな」説明する気あるのか?
こんな、素手で岩石を粉砕できそうな風貌の奴がパソコン作業の専門家なんて信じられるか。
それ以上に、看板娘?どこにメス的要素があるんだ。服か?
話半分に聞いといた方がいいかな。…っていやいや、なんで聞くこと前提だよ。場の雰囲気に飲まれるところだった。
「おたくの身の上話とか正直どーでもいいんで。それよりここに来たら、月一の大会に出場するために必要な紹介状書いてもらえるかもって聞いたんだが?」
過去を振り返るような遠い目で飲み物を飲む魔王に尋ねる。
語りの最中に無理矢理押し入ったから気分を害するかと思ったが、魔王は「しょうがない」とでも言いたげなため息をつくだけだった。
「そうね…急に赤の他人の身の上話されても、あなたたちも困るわよね。いいわ、大会について話し合いましょ」
そう言ってカウンターの内側から何かを取り出す。
「はいこれ。これを持っていけば大会にエントリー出来るわ」
>闘技大会への紹介状
バー " ビューティ・ローズ " からの推薦を認められた証。フラウィスの闘技大会に出場する事ができる。
「三組で出場しようと思ってるんだが」
「パーティを編成してるんなら、一枚だけで大丈夫よ。大会のスタッフも理解してくれるわ」
その辺はゲームらしい便利な設定なんだ。
「紹介状を渡すのも久しぶりね…あの子がチャンピオンとして君臨して以来かしら―――」
「一組は俺とヘリオスとしてあと二チームは…玲ちゃんとルナ、ジェフと紅音のペアでいこうと思う」
店の入り口付近で固まってる仲間達に向き直り、早速今後の予定について話し合う。
『私達の出場は理解出来るが、後の二組については何故そのペアなのだ?』
「なるべく玲ちゃんをルナから離したくない」
街中とはいえどんな危険があるか分かったもんじゃないからな。
「ジェフに関しては…まぁ、紅音なら上手くやってくれるだろう」
今だに不安げな表情で慰められている少女をチラッと盗み見る。まぁ…大丈夫、だろう。多分。
「瀬能、私はどうすればいい?」
「善くんは…」
どうしよう。
つっても仲魔は三体しかいないから、必然的に彼にはお休みしてもらうしかないんだけど。
応援用の横断幕でも作成してもらおうか?
「…私はまだ、君の信頼を得てはいないのだな」
「なんだよいきなり…人聞きの悪い」
「ジェフと誰をペアにするかで微塵も迷わなかった。それはアカネを信頼している証だ」
そう…なのかな?
なんとなくパッと頭に浮かんだだけなんだけど。それって信頼って言うのだろうか。
個人的には背後から狙撃して、全く悪いと思わないお座なりな謝罪をする奴を信頼してると思いたくないんだが。ゲームだからいいけど現実でやられたら死ぬぞ。
…この世界来てから考えさせられることが多いな。良い事なのか悪い事なのか。
「…ねぇちょっと、」
「しかしこのまま私だけ何もしないと言うのは、私自身が納得出来ない」
「クッソマジメな奴だな…俺なら適当に遊ぶぞ」
やったら紅音あたりにぶっ飛ばされるだろうけど。
「幸い、大会の開始には今しばらく時間がかかる。その間私だけ別行動を取らせて貰えないか?」
「いいけどなにすんだ?」
「この街の周辺には様々な悪魔がいるのだろう。探せば一体ぐらい私の戦い方の幅を広げられる奴が見つかるかもしれない」
なるほど。そいつを見つけてスカウトし、大会に出場すると。
悪くない考えだけどそれ君一人でやるの?
「無論、私一人だ」
「ええっ!?」
心を読んだかのような善くんの発言に、玲ちゃんが大げさとも言える悲鳴を上げる。
「だっ、ダメだよ善!一人でなんて、危ないよ!」
「大丈夫だ、玲。夜は街に戻る」
「そうじゃなくて…!」
「私の個人的な我儘でみんなに迷惑をかける訳にはいかない」
騒ぎ立てる少女を手で制して、善くんはこっちに顔ごと視線を向ける。
表情こそ普段と変わりないが、その瞳には頑として意見を曲げない強い決意が見て取れる。…これは駄目だっつっても無視して強行するな。
「いーよ。行ってこい。大会は一週間後だから、その前日までには納得できる相棒見つけてこいよ」
「分かった」
「な、ナツルくん!?」
「ただし、少しでも危険な状況に陥ったら俺でも紅音でも誰でもいい、すぐに連絡しろ。お前が無事に帰ってこない以上の迷惑はないんだからな」
「…分かった。瀬能、玲を頼む」
少し戸惑うような雰囲気を見せたが、善くんは頷いて店から出ていった。
「善…」
「心配するのは悪くはないけど、もう少し信じてやれよ。簡単にやられるような奴じゃないだろ?」
「……うん…」
「なら待っててやろうぜ。一度送り出したら、帰ってきたとき笑顔で "おかえり" を言ってやるのが仲間ってもんだ」
「…うん!」
ストック尽きたんで更新遅れます。