下ろしていた両腕を上げてファイティングポーズを作り、相手と対峙する。
構えはボクシングの
突出した特徴はない基本的な構えだが、それ故にとっさの出来事に対応しやすい。
「……」
善くんもまた、無言で武器を構える。
現在彼と俺との距離は5〜6mほど…相手は
というのが、普通の奴の考え方だ。
正直言って善くんの考えが全く読めない。戦闘自体はこれまでの旅の途中で何度も見たが、それはあくまでチームとしての戦い方だ。
敵が近づく前に倒していたので、接近戦がどれほどできるのか分からん。
しかしソレの備えをしてないとは思えない。
クロスボウに番られた矢がいつまでも射出されないこの状況。
待たれている気がしてならない…
「……」
「……」
このままお見合いしててもラチがあかないな。
――陽炎!
その場に残像を残しつつ、刻み突きで相手に切り込む。
狙いは胴体。…正直そのあたりしか打ち込む場所がない。
向けられたボウガンの下の空間に素早く入りこみ、同時に一撃―――!!
ヴォンッッ!!
拳が善くんの腹部に触れるか触れないかというところで、こめかみにチリっとした、電気が走るような感覚がした。
反射的に身を捩ると、風切り音と共になにか黒いものが袈裟斬りをするように上から下へ斜めに通過していった。
「なんっ、ごっ!?」
驚いてたら顎に衝撃がきた、バットで殴られたときのに似てる。
ダメージで身体が仰け反るなか、目だけを動かして衝撃を与えた存在を確認する。
「
驚いてる間もなく追撃の矢が放たれる。
とっさのことで思わず躱す。…矢はしばらく空中を進んだ後、当然のように弧を描いて戻ってきた。
うざってえ!!
「オラ!」
体勢を立て直し、飛来する矢をジャブで払う。直後、爆発。
矢に触れても爆発までタイムラグがあるみたいだな。
ほんの僅かだけど。これはうれしい情報だ。
「…随分と悪辣だなオイ、わざわざスライド式にしてまで直前まで悟られないよう隠すとか」
「初めから見えていたら攻撃を当てられないと思ったのでな」
ガシャン、とフレーム部分から完全に抜き出し、片方の銃口をこっちに、もう片方はいつでも振り回せるように余裕を持って下に向けている。
「構えがまるで違うな」
半身になんて構えやがって、装備してるボウガンがトンファーに見えるぞ。
「私も色々考えているのだ。構えだって変える」
うーん向上心の高さが伺える台詞だねっ。でもできれば俺との対戦をお披露目の場に使わないでほしかったな。
おかげでHPゲージの表示が赤色になったよ。善くん強すぎない?
『ナツル、無事か』
離れたところで様子見をしていたヘリオスが近寄ってくる。
「無事…て言っていいのかね、体力がもうヤバイ。余裕も無いし油断もできない」
『君が言っていた”そこそこ強いの”がついに出て来たのだな。ゼンがそうだったとは』
いやあれそこそこってレベルじゃねーぞ。ステージボスっつっても過言じゃないね。
『それで、どう戦うのだ』
どう戦う?遠距離攻撃はあっちもこっちも自由自在に操られるし、接近すればボウガン殴打。
どちらもジャストミートすれば一発で昇天コースだ。撲殺か射殺かの違いだな。
「遠近どっちもヤバいだろうが、活路があるとすれば接近戦だろう。もっとも善くんもそれは理解してるはずだから、かなり過酷な道だろうけどな」
お供の悪魔も無機物操作だけしかできないってわけでもないはず。めんどくせえなあ。
『過酷と言う割には楽しそうな雰囲気をしてるな』
「イヤイヤ、そんなことないデスヨ?」
『何故疑問形なのだ』
そりゃーあれだ。うん、アレ…アレなんだよアレ。しょうがないじゃん。
だって…ゾクゾクしちゃうんだもの。
「隙を見てガンガン
『相棒…悪くない響きだな。答えて見せるぞ、どんな無茶でも』
「雰囲気が完全に変わったな。これが瀬能の本気か…私たちも気を引き締めて行くぞ、ポルターガイスト」
『ケケケッ!』
☆ ★ ☆
熱い。
暑い。ではなく、熱い。
気温は変わっていない。むしろ、この闘技場内は涼しいくらいだ。
ならばどこか他に、熱量を上げていると思われる原因があるのだろうか?
決まっている。目の前の青色の髪をした少年、彼が発する闘志だ。
そして…私自身の、魂。それがこの闘技場の舞台上を包み、温度を上昇させているのだ。
「行くぞ!」
瀬能がいきなり疾風のように駆け出す。
先程から再三にわたり繰り返される突進行為。今回はヘリオスも後ろについている。
「ふっ!」
素早く矢を数発発射する。
これまでのやり取りで危険性は理解しているだろう。どう出る?
「しゃらくせえ!」
――ゴブリンパンチ!
一瞬、瀬能の片腕がブレた。
あれは確か、一度に複数の拳打を放つ技だったか。
「かーらーのっ、」
――エアロガ!
「!?」
握りしめていた手が急に開かれ、掌に風が集まる。
無作為に振るわれる腕に合わせて動く風の塊は、まるでモーニングスターのように飛んでいる矢を弾きとばす。
『…?爆発しない?』
「やっぱりな」
地面に転がる矢を見つめるヘリオスと違い、まっすぐに私を睨む瀬能。
「いろんな特殊効果付きの矢をブレンドしてんだろ?素直に解説したり対処しやすい場所狙ったり、危険性煽ると同時に対処法をさりげなく知らせてから別の矢混ぜるとかずいぶん悪辣じゃないか。なぁ善くん?」
喋りながら矢を踏みつけ壊し、使用不能にしていく。
隙をみて操作しようと思っていたのだが、流石にそこまで甘くはないか。本当に油断はしていないようだな。
『よく分かったなナツル』
「俺も
何故だろう。嬉しくない。
「表情変わらなくて、なに考えてるかイマイチ分からんとは思ってたけど…こうまで抜け目ない奴だったとはな。今もさりげなく距離取ってるしよ」
「…流石に気づくか」
すり足で移動していたのだがな。
『数cmも動いてないように見えるのだが、何故分かるのだ?』
「俺ならそうするからな」
何故だろう、やっぱり嬉しくない。
思わず眉間に皺が寄るのがわかる。
「遠くからなにかを飛ばす系の攻撃は距離感が大事。少しでも相手から離れたいと思うのは当然だろう」
『…先程は簡単に近付かせて殴っていたが』
「接近されたときの弱点を潰した、ってことを見せつけたかったんだろ。でもよくよく考えたら旅の間は一度も使ったことはなかった。思いついたのも練習期間も一週間くらいか?」
「っ、」図星を突かれて、思わず固まる。
自分と相性のいい仲魔を探して街の外を探索している途中。私がいかに接近されると弱いか、痛いほど思い知らされた。
少しでも楽になればと思って武器に銃床と呼ばれる部品をつけての戦闘を考えついたが…付け焼き刃ということは見るものから見れば、一目瞭然なのだな。
「短期間で覚えたにしちゃあ、筋は悪くないな。
「…っ」
自分の不甲斐なさに歯噛みしていると、忌々しそうに顎を撫でさする青髪の少年の姿が目に映る。
…褒められた、のか?私は。
「まあでも、俺には遠くおよばないがな!」
『ナツル、今君のHPはいくつだ?』
「黙れ黒猫」
……たったの一言。本人も自覚はないほどに些細な言葉だ。
しかしそれでも、口角が上がるのを止められない。
これ以上の上限はない、というところまで高まっていたはずの気持ちがさらに高揚する。
「………」
私の気持ちの変化を感じ取ったのか、ヘリオスと無駄話をしていた瀬能が会話を打ち切って拳を構える。
先ほどと同じ、『ボクシング』の『オーソドックス』というものだ。
しかし先ほどまでとは違う。
触れればそのまま斬られそうな、抜き身の妖刀を突きつけられているかのような圧迫感が彼から感じられる。
その圧力を一身に受けると緊張で喉は乾き、自然と武器を握る手に力がこもる。
そしてなぜか―――なぜか 少し、嬉しい。
玲を守るという使命。その願いを叶えるという義務。
そのどれにも当てはまらないこの状況。自らの欲求から生まれた状況。
私は今…ようやく人になれたのだろうか。
「いくぞ、ナツル」
「こいよ。善」
始めよう。人間同士の意地をかけたぶつかり合いを。
いまいちシリアス感が感じられないのは、きっと作者が未熟なせい。
もしくは主人公の設定ミス(削除されました)