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私の彼はヤンデレかもしれない。そう思ったのは最近、彼と交際を始めてからだった。
意外にも告白は私からだった。「あれだけ人のこと罵倒しておいて信じられん」とは彼の弁。
まあ、確かに最初はね…。
しかしながら、依頼の内容にかかわらず、どんな形であれ、解決してしまう。そんな自称ぼっちの彼は、私の中では自立した人間で、周りの有象無象がなんと言おうと、理想のヒーローだったのだ。
とはいえ、修学旅行のように自爆に近い解答を導き出す傾向には大層不快にさせられた。
しばらく口も聞きたくないほど嫌悪感を抱いていたのは…今にして思えば……その、まあ…
私が彼に対して並々ならぬ感情を持っていた証拠なのだろう。当然、当時はそんなことは自覚なしで、彼に辛く当たってしまったのだが。
まあとにかく、憧れや羨望、自分にないものを持っている嫉妬が入り混じった感情から彼のことを常に考えるようになった。その思いは次第に彼のことを大事にしたいという思慕へと変わり、そしてよくわからないこの感情を精査するために思考を繰り返していたら、しっかりと蒸留されて純度の高い恋になっていたのだ。
今更だった。もっと早く自分の気持ちに気づいていれば、彼の好感度を下げるような発言や行動を謹んでいたのに。
正直、彼はモテる。
まず、行動や発言が率直で悪意がない。
本人は社会不適合者を気取って捻くれて自分を卑下する発言ばっかり繰り返しているが、つまりは気が使えて優しい人なのである。特に女子に対して。
相手のために自分を省みず、行動力もある。何というか、いい男だ。
周りの女子が放っておくわけがない。
この状況を冷静に省みて私はだいぶ焦った。このままだと負けると思ったのだ。
彼を他の女の子に譲りたくない。あの男に対してこんなに執着しているなんて昔の私が見たら失望して自害するまであるのだけれどね。
素直になりきれない私なりにいろいろアプローチを繰り返し、ガードを下げて懐に入り込み、我ながら咽せかえるようなピュアなハートをぶつけて、それが受け入れられて今に至るのである。
とまあ、長くなったがここまでがこれまでのあらまし。本題はここからだ。
私の彼はヤンデレかもしれない。
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付き合ってから彼の態度は変わった。豹変と言ってもいいかもしれない。これまでの態度が嘘のようなのだ。
よく、付き合うまで熱心にアプローチしてくるくせに付き合ってからは熱が冷めたような態度をとる男のことを、
釣った魚には餌をやらない男というが、彼は真逆である。
釣った後がとことん手厚いのだ。(釣ったのは私だって?うるさいわよ。)
つまり、恥ずかしげもなくいうと、何というか…すごい大切にしてくれるのだ。過保護とも言えるくらい。
そして二人っきりになると決まってこのやりとりが始まる。
「好きだ。雪ノ下。」
「ふふっ。ありがとう。どうしたの急に。」
「なんか言いたかったんだ。自分の気持ちを確かめたくなって。」
彼は顔を真っ赤にしてぎこちなく返事をする。
「なぁ、お前は俺のことどう思っている?」
「いまさら、私の気持ちなんて言わなくても伝わるでしょう?」
「お前の口から聞きたいんだ。」
彼は駄々をこねるように急かす。
「もちろん…私も好きに決まってるじゃない…。そもそも私からだったじゃない。このヘタレヶ谷君。」
「うっ…そうだな。なんかすまんな。でも、なんていうかこう言うのいいな…。お互い同じ気持ちっていうの。
素直に嬉しいって思うわ…。」
彼の言葉に二人で真っ赤になってお互いに手を一層深くつなぐ。
こんな感じですごいストレートに好意を伝えてくるし、逆にその返答を求めてくる。
まあ、これもこれまでぼっちだった彼なりの甘え方だと思って微笑ましく思っていた。
あの日までは。
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ところで。話変わるが私は葉山君に嫌悪感を抱いていた。理由は幼少期の体験からだ。
しかし、最近は素直にしゃべれるようになってきたように思える。心から信用できる人ができてから、私の心に余裕ができて視野が広がったのだ。
葉山君が大切にしているものがあることも理解できたし、彼がいわゆるリア充の立場を維持するために苦労していることもわかってきた。(理解できたところでなりたいとは思わないけれど。)
ちゃんと向かい合って話してみると人間関係を作るのに慣れているだけあって、会話の引き出しも多いし、教養のある話もできる。なるほど、人気があるわけだ。私や比企谷君には真似できない。
話してみれば幼馴染で付き合いも長いこともあり、共通の話題も多い。
クラスは違うが廊下ですれ違えば会話を交わすくらいの仲にはなっていた。
まあ、こういう風に葉山君との関係を良好にしてくれたのも間接的には比企谷君なのだ。
つくづく、彼には変えられてばっかりだ。なんか悔しい。
とある日、休み時間に廊下で葉山くんと多愛もない話をした日の放課後の部室での出来事だった。
「なあ、今日葉山と何を話していたんだ?」
珍しい。彼が葉山君のことについて聞いてくるなんて。
「大したことない話よ。あなたとの交際は順調か?とか。姉さんがまた好き勝手やってるとか。」
「本当か?」
「どういうこと?」
「いや…まあ、それが本当ならいい。」
「それが本当なら、、、」何かヌメッとした嫌な感情を覚えた。私の発言は信用に値しないというのか。
とはいえその時は特に深堀りすることもなく話は終了した。
その後は、いつもどおり二人して帰った。そしてまたこのやりとり。
「なあ、俺のこと好きか?」
「またその質問?好きよ。私の生活はあなたを中心に回っているのよ。」
「っ…そうか…ならいい」
彼ははにかみ、ホッとしたような安堵の表情を浮かべた。
一方、私はおもわず顔をしかめた。
私の手を痛いくらい握りしめていたのだ。彼の手が。
この時若干の違和感を覚えたとはいえ、それからは変わったこともなく、比企谷君と仲良くやっていた。
と、ふと気づいた。
そういえばもうすぐ八月。彼の誕生日だ。
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とある日、珍しく体育でJ組はF組と合同授業だった。なんでも、国際教養科と他のクラスとの交流を、とかいう取って付けたような理由だった。どうせ授業の手間を省くための方便に違いない。
F組は、比企谷君、由比ヶ浜さんという奉仕部の二人に加え、葉山君、川崎さん、三浦さん、海老名さん、と知り合いの多いクラスではあるが、面識のない人たちも多い。
特に男子から私の体操着姿をじろじろ見られている気がする。
好機の視線にさらされるのは慣れているとはいえ、嫌な気分である。
あとは、あの比企谷の彼女という興味本意の目線。まあ…これはいいでしょう。
彼はこんなに可愛い女の子と付き合っているのよ、見せつける意味でも堂々としておく。
そんなことよりも彼へのプレゼントが決まらないことの方が問題だった。
体操中に比企谷君をちらちら目で追いながら、彼が何を欲しいのかずっと考えていた。
そんな中、休憩時間に葉山君がこちらにスタスタと近づいてきた。私は特に警戒心なしに応じる。
「なにかしら?」
「雪乃ちゃん。露骨すぎだよ。今日ずっと比企谷のこと見てただろう?」
迂闊!
「もうすぐ彼の誕生日だしね。プレゼントについて悩んでたってところかな?」
なんと!さすが彼はコミュニケーションだけで食ってきているだけあるのだ。ここまで的確に人の心を見抜くとは。
「そんなことないわ。勝手に人の心を推測して話を進めないでちょうだい。」
「まあ、聞きなよ。ちょうど誕生日に彼の両親は海外出張で日本にいないらしい。妹さんと二人でパーティやるんだ、って戸塚君にボヤいていたから確かだ。彼を雪乃ちゃんの家に誘って手料理でも食べさせてあげたらどうかな?」
なるほどその可能性は考えてもいなかった。
にしても彼女を放っておいて妹とパーティとは彼の頭の中は相当腐っているらしい。
早く矯正しなくては。
「彼、ああ見えて家庭の温かさに飢えてるんだと思うよ。大事な日に両親がいない時のこの誘いはだいぶ効くんじゃないかな。ちなみにその次の日は土曜で休みだから安心だね。」
「なにが安心なのよ。」
私は思わずこめかみに手を当てた。
にしても、私の家で私の料理を頬張る彼。そしてそのまま、良い感じになって……。なんか想像して顔が火照ってきた。
「うまくやりなよ。最近の君は本当に幸せそうだ…。悔しいけど応援してるよ」
そう言い残して彼は去っていった。
そして、別れの挨拶もそこそこに、私はどうやって彼を家に誘うか作戦を頭の中で立て始めた。
しかしながら、思考にふけっていた私は気づかなかったのだ。
遠くからそんな私たちを見つめていた淀んだ瞳に。
ーーー
それは、合同体育授業の放課後の部室での突然の出来事だった。たまたま、由比ヶ浜さんは休みで比企谷君と部室で二人きりだった。
「…なぁ、今日体育で合同授業だったよな。あの時、葉山と何を話していたんだ?」
なんと彼はあの会話を見ていたのか。
しかし、本人に誕生日プレゼントのことだと言っては興が削がれる。私は適当にごまかすことにした。
「また、葉山君のこと?世間話よ。」
「本当か?」
「本当よ。しつこい男は嫌いよ。」
「……結構楽しげにしてたじゃないか。雪ノ下も顔を赤くして。」
なんとまあ、よく見ていたものだ。彼は私のストーカーなのか?いや違った、親愛なる恋人だった。
これはもしかしてジェラシーというやつだろうか?あの彼からこんな発言が出てこようとは。
最近、私ばっかり彼に変えてもらっている気がしていたが、私の存在も彼に影響を与えていたのだと思うと嬉しくなった。
ここはちょっと思わせ振りな発言をして、煽ってみようか?そんな出来心が芽生えた。
今にして思えば、よしておけばよかったのに。
「ふふっ。あなたにはとても言えないわ。でも彼もモテるわけよね。とっても嬉しくなるような話よ。」
「………なんだよ………」
か細い声が響いた。
「えっ?」
「あいつとなにを話してたんだよ!!!!言え!!!!!」
怒号だった。一瞬何が起こったのかわからなかった。
彼は体全体で怒りを示しながら私のもとに近づいてきた。
「なぁ、雪ノ下。あいつのこと好きになったのか?やっぱり俺じゃだめなのか?俺に言えないことってなんだよ。俺、お前の恋人なんだよな?あいつに言えて俺に言えないことってなんだよ。」
止まらない。
彼は私を壁際に追い込み、両手で壁に付き、逃さないように顔を近づけて問い詰めてきた。
「そもそもなんだよあいつ。これまで雪ノ下のこと苦手そうにしていたくせに、俺と付き合い始めてからチョロチョロ近づいてきて。ぶざけんなよ!!!ああいう奴は大して努力もせずに要領よく、また俺から大事なもんを取っていくんだ。ふざけんな!死ねよ!雪ノ下は俺のもんだ!」
ああ、止まらない。
いつも以上にドロドロした彼の目は錯乱したように、失った焦点を求める。
「お前もなんであんな奴と楽しそうに話しているんだよ。あいつのこと嫌いだったんだろ!あいつに対して笑うなよ!常に邪険にしてろよ!俺だけが雪ノ下を笑わせていいんだよ!他の奴が幸せにできるわけないんだ!」
そして、彼の両手が壁を離れ私の首の方に回された。私は覚悟して目を閉じた。
「……………そんな姿見せられたら……不安になって死にたくなるだろ……」
私は彼の両手で、きつく上半身を抱きしめられていた。
「なぁ…雪乃…」
「何?」
「俺のこと…好きか?」
下の名前を初めて呼ばれるにしては、ムードもへったくれもない状態だった。そしてお決まりのやりとりを彼は始める。
彼の体は震えていた。しかしそれは、怒りではなく、小動物が怯えるような震えだった。
私は見誤っていたのだ。彼は一人でも強い人間なのだと、立派な人なのだと。
彼は常に闘っていたのだ。初めてできた近しい人を信用したい気持ちと、また裏切られるのではないかという恐怖の板挟みになりながら。
私はなんてバカなことをしたのだろう。こんなか弱い彼を自分のエゴのために煽り立てるような真似をして。
ふと私たちは相互依存のカップルなのだと気付いた。「人」という漢字が示す通り、お互いが支えあっている関係。そして、どちらかがいなくなれば容易く崩壊する関係。なんてお似合いなのだろう。私たち二人は一緒なのだ。嬉しい。嬉しくて私も泣きそうになった。
彼が私の存在を確かめるように、嗚咽をあげながら私の体を掻き抱く中、私は雰囲気にそぐわない穏やかで安堵に満ち溢れた表情で、彼の耳元でこう囁いた。
「もちろん、私も好きよ。八幡。誰よりも」
八月八日が今から楽しみだ。
私の彼はヤンデレかもしれない。
ヤンデレヒッキー 終