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私は、私の胸の中で緩みきった顔で眠る八幡の頭を撫で続けていた。こんな彼の姿を見たら、彼をよく知る皆は何て言うだろうか?
私に負けて劣らず、周囲の人間を警戒しながら生きていた彼がこの表情を見せるのは私だけだろう。小町さんに聞いたら、ご家族相手にも捻くれてなかなか素直にならないらしいし。
私が危害を加える可能性なんて少しも疑ってない様子で彼は身を預けている。素直に可愛いと思う。眠る前の彼が私を良い母親になれると評したが、この愛おしく思える気持ちが母性なのだろうか。
微笑ましく彼を見守りながら時間は過ぎる。そして、今夜彼と食べるメニューを何にしようか考えていると、彼の首筋にふと視界に入った。
とたん、私はなぜか無防備に晒されるそれに興味を持った。
理由なんてものはないが、私は彼の首全体を包み込むように両手をかけてみた。両手のひらから、彼の頸動脈の奏でるリズムを感じる。
ここで手を思いっきり締め上げれば彼は窒息する。
私は興奮した。彼が生死与奪権すらも私に預けてくれていることに高揚感を覚えている自分がいた。
全てを私に委ねる彼を、まるで盲目的に親鳥についてくる雛のようだと思った。ますます、可愛くて甘やかしてやりたくなった。
もし今ここで、私が彼を殺そうとしたら、彼はどんな顔をするだろう?
状況が理解できずビックリした顔になるだろうか。はたまた、怒りの表情を浮かべるだろうか。
本気で抵抗されたら、私も流石に男性の力には敵わないから、簡単に引き剥がされてしまうだろう。形勢逆転したら、本能的に私を敵と見なして同じことをやり返してくるかもしれない。
理性が残っていたら冷静に理由を問いただしてくるかもしれない。理由なんてないなんて言ったらお説教だろうか。身の危険を感じた彼から別れ話を切り出すかもしれない。まあ、私が認めないけど。
あるいは、信じていた人に裏切られた哀しみから、抵抗する気力すらも失い、絶望した表情で死んでいくのだろうか。それはあまりに八幡が可哀想だわね。私たちは絶望する時も、死ぬ時も一緒がいい。私たちは一蓮托生なのだから。
私はしばらく彼の首に手をかけながら、彼の死にゆく姿を想像し続けていた。
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結局どの八幡の反応もいまいちしっくりこなかった。私の愛する八幡は私に対してこんなありふれた男女の痴情のもつれみたいな反応はしないだろう。
私たちはお互いがお互いのためだけに存在しているのだ。互いの全てを全力で委ねあっている運命共同体なのだ。相手が死ぬ時は自分も死ぬ時なのだ。一般の男女の感覚のそれではない。
そこまで思索していると今更睡魔が襲ってきた。なんてことだ、これから夕食の買い出しに行くはずなのに。まだメニューすらも決めてないのに…。
でも…まあ…いいか。
彼が私にそうしたように。私も彼に全てを委ねて眠りにつこう。
そう決めた私は、少し力の入ってしまった両手を彼の首筋から離して、八幡を起こさないように自分の身体の位置をずらした。
今度は私が彼の左胸に額をグリグリと押し付ける番だ。ああ、この場所は無類だ。誰にも譲るつもりはない。たぶん、私も彼に負けないぐらい緩みきった表情になっているだろう。
眠りにつく直前に、さっきとは逆に自分が八幡に首を絞められたらどう反応するかを想像した。
彼が全力で私の首を絞める。普段あまり感情を見せない彼の、愛情、憎しみ、喜び、殺意、慈愛、嫌悪、優しさ、怒り、戸惑い、そして腕力と体重、その全てが私のためだけに向けられる。
その瞬間だけは彼が本当に私だけのものになるのだ。
ハッと閃いた。ああ、これだ。私に殺される時は、彼もきっとこんな表情をするに違いない。
脳裏にその光景を思い浮かべた私は、思わずニヤけていた。
全力で首を絞める私を見上げながら、私の想像の中の八幡は死んでいく。
その顔に浮かぶのはこれ以上ない程の喜びの表情だった。
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私はまどろみの中、首を絞める真似をする自分の両手から、挽肉をこねくり回す動作を連想した。
そうだ。今夜はハンバーグにしよう。
そう決めて私は眠りに落ちた。
ヤンデレゆきのん その2 終