ヤンデレヒッキー   作:kinkinkin

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三年分のガイル愛を込めて書きました。


ヤンデレいろはす

先輩と雪乃先輩が付き合い始めたのを知ったのは、結構最近だった。

 

なんかいろいろ3人の間でゴタゴタがあったのは奉仕部の様子から気づいていたけど、はっきりとしたことを聞いたのは結衣先輩からだった。

 

やっぱりなぁという気持ち、なんだか先輩という存在が少し離れてしまったような寂しさ、そして何よりも胸に走る痛みが先輩に対する淡い情熱を今更ながら思い出させました。

 

でもこんな独白をしながらも、実は言うほど後悔はしていません。そもそも先輩のいう「本物」に私が選択肢に入っていたのかも疑わしいし。

 

先輩もなんだかんだいいながらあの頃から心の底では雪乃先輩に惹かれていたのではと思いますし。あの最高にめんどくさい二人がお互いに自分の欲しかった本物とやらを手に入れられたと言うのなら、ここは素直に諦めて祝福する心の整理をつけることとしましょうかね。

 

まあ、そうと決まったらやることは決まってますよね。

 

 

そう、二人をいじることです。あの二人は絶対ウブな反応すると思うんですよねー、という確かな予感とともに、私は好奇心とほんの少しの空元気をカラカラと回して今日も奉仕部にお邪魔していました。

 

 

ーーー

 

ということで奉仕部にお邪魔したはいいんですが。

 

「彼もなかなか甘えんぼでね。私の胸に頭を擦り付けてくるのが好きみたい」

 

はい!みなさん、わかります?

 

「それだけじゃなくて、彼はね…」

 

これは誰かって?嫌だなぁわかるでしょ?

 

「そしたらね、彼がこう言ったの…。まあ、私もにゃんにゃんしたかったのだけども…。」

 

激しくキャラ崩壊ですね。雪乃先輩絶好調です。

 

 

ああ、私の目のハイライト残ってます?マジで病みそうなんだけど。

 

コピペ風に言うなら、もぅマヂ無理。 好きな人のせぃへきを恋敵から教えられるとか、ぃゃだよ。

 

 

ああ、先輩は平塚先生に呼び出されて一時退室中だそうです。先ほど奉仕部室にきた私がジャブがわりに軽く雪乃先輩を彼氏ネタでからかってみたら、出るわ出るわ。

 

話の止まらない雪乃先輩を横目に、チラッと結衣先輩の方を見る。

 

「あはは・・・。なんていうか、ヒッキーやっぱり愛に飢えてたんだね。なんか生々しすぎて想像するとアレだけど・・・。」

 

終始苦笑いを浮かべながらも、ちゃんと話を聞いてあげている。

 

「なんですか。それ。軽くどころか重くドン引きなんですけど・・・。」

 

「なんとでもいいなさい!私達には私達の接し方があるんだから。」

 

私も軽口を叩きながら無難に会話をこなす。

 

ふむ・・・にしても・・・

 

果たして結衣先輩はどんな気持ちでこの話を聞いているんだろう?恋敵の勝利宣言兼惚気という最悪の組み合わせに対して、苦笑いで済ませる結衣先輩は、傍から見たら聖人君子の域に達しているようにすらみえる。

 

少しは何か文句言ってもバチは当たらないだろうに。ジェラシー感じたりしないのかな?私みたいに…。

 

い…いや、別に私はもうそんなこと思ってないですよ。そんな感情持ってたら逆に雪乃先輩に殺されかねない。

 

少し危ない目してますからね、雪乃先輩、たまに。彼氏の目が感染ったのかな。

 

 

話が脇道に逸れましたが、たぶん結衣先輩は結衣先輩なりに心の整理をつけているんでしょう。なんたって「本物」にあれだけこだわっていた三人だ。三人で話し合ってお互いの心の妥協点を見つけているのでしょう。

 

 

みんな大人だ。私だけいつまでも感情を引きずって、なんか子供みたいだ。

 

なんか悔しい。

 

 

 

ーーー

 

そうこうしているうちに先輩が教員室から戻ってきた。

 

「ったく。本当にあの人はしょうがなさすぎだろ・・・。面倒ごとばかり押し付けてきて・・・。」

 

「あら八幡。戻ったのね。先生の無駄な脂肪に誘惑されていないわよね?」

 

先輩はどうやら平塚先生からまた面倒事を押し付けられたようだ。

 

「まあ、先輩は汚れ役やってなんぼですからねー。一番仕事しているのにとことん汚れてそのうち誰にも見向きされなくなるまでありますからね。」

 

私はからかうように言いました。

 

「ちょっと、いろはちゃん。いいすぎだよ。」

 

結衣先輩が少し焦ったようにツッコミを入れます。とその直後に雪乃先輩が私の発言を咎めるように口を開きました。

 

「・・・。ずいぶんわかったような口を聞くのね一色さん。」

 

私は雪乃先輩の発言からは少しの棘を感じました。

 

雪乃先輩はさらに言葉を重ねます。

 

「八幡の頑張りと報われなさを本当に理解しているのは、あなたじゃない。私だけなのよ。変に分かった気にならないで。」

 

私は妙な違和感を感じました。

 

単に彼氏の悪口に対して怒っている、そんなふうに見える発言のその裏側に潜む、妙に自分の優位性を強調する排他的、そして調和とはほど遠い雰囲気を。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、雪乃。俺が報われないのは、お前のせいでもあるんだぞ。あとアレは無駄な脂肪でない。自分にないからって見苦しいぞ。」

 

「そう言いつつもまた、我慢できずに私の胸にすり寄ってくるんでしょ?」

 

「・・・。まあ否定はしないが・・・。」

 

「ふたりとも会話がキモいよ!」

 

「あら、由比ヶ浜さん。これもコミュニケーションのうちよ。」

 

「ええ、そうかな・・・。これって私がおかしいの・・・?もうわかんないよ・・・。」

 

 

 

妙な雰囲気はなりを潜めて、二人はラブラブモードに入りました。

 

にしても先程の雪乃先輩の剣呑な発言がささくれになって心が落ち着きません。さっきは三人が納得してすべてが丸く収まったとか思いましたが、なんか納得いきません。これが私の欲しかった奉仕部ハッピーエンドだったんでしょうか?結衣先輩はどう思っているんでしょうか・・・。

 

 

ーーー

 

その帰り道、当然のごとく先輩たちは二人で雪乃先輩のマンションに帰っていきました。リア充爆発しろ。

 

そうすると私と結衣先輩は二人になります。

 

そして、私が聞きたいと思っていた結衣先輩の本音は意外にも本人の口から語られる事になりました。

 

「あのね、いろはちゃん…。」

 

「はい。なんですか?」

 

「仲いいあの二人を見ててさ・・・。モヤモヤ、すっごくモヤモヤするのっておかしいのかな。」

 

「まあ、あの二人これまでが嘘のようにすごいラブラブですからねー。先輩なんて他人の目に敏感に生きていたはずなのに今や雪乃先輩だけしか見えないー、って感じですもんね。まあ、あれだけ私のものだアピールされれば、さすがの心の広い結衣先輩も嫉妬して当然だと思いますけど。」

 

「う、うん。それだけならよかったんだけど・・・。」

 

「はい?もしかして、なにかあったんですか?」

 

「いや・・・。あのね・・・。ただの嫉妬じゃないの。結構やばいレベルで相手のことをどうにかしちゃいたい。ゆきのんを、その・・・、変なことを言うけど、ゆきのんのことを傷つけてでもヒッキーのことを奪いたいって思っちゃう自分がいるの。」

 

「・・・。はい?」

 

「今日、ゆきのんヒッキーのこと本当わかっているのは私だけだって言っていたでしょ。実はゆきのんのああいうところ、少し苦手なんだよね。」

 

えっ。

 

「自分勝手だって思う。私のものだって自己主張が激しくて、正直気分悪い」

 

あのっ。

 

「ヒッキーのことを理解してあげるのものもダメだっていうの!?私のほうがずっと昔からヒッキーのこと想っているのに・・・。」

 

絶句です。

 

「・・・あっ。はい・・・。」

 

「・・・いっ、いや。ううん!!ごめん今のナシ!忘れて!あはははっ。変なこと言っちゃって驚いたよね!嘘、ウソ!ちょっと最近疲れてて変な方向に頭がいっちゃってるんだ。へへへっ。」

 

「・・・」

 

「わ、私今日、寄る所あるから。またねっ!さよならっ!」

 

結衣先輩は明らかに存在しないであろう寄り道を探しに行ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

正直にいいます。私は三人に失望しました。

 

結局本物ってそんなものなんですね。まるで安い小説の三角関係みたいです。忘れられないだの、嫉妬だの、奪っただの、奪われただの、寝取られただの、復讐だの、痴情のもつれだの。

 

イライラする。

 

そうじゃないでしょ。先輩たちは。

 

そんなんじゃないものを、もっと他とは違う、崇高な、次元の違う本物を求めていたんじゃないですか?

 

興ざめです。先輩も雪乃先輩にもがっかりです。ちゃんと結衣先輩と腹割って話し合ったんですか。お互いにしこりを残さないように思いの丈をぶつけ合ったんですか。

 

そんな結末を迎えるのだったら、私は…私はなんのために身を引いたんですか。あんなにも気に入っていた先輩を、猫かぶりの私に正面から向き合ってくれた先輩を諦めたのは、奉仕部こそが先輩の求める本物だと信じたからなのに。

 

バカ正直に譲った私が本当のバカみたいです。

 

 

 

 

 

そんな感情が頭の中に溢れてきた次の瞬間、頭に浮かんだのは雪乃先輩から先輩を奪うしたたかな私の姿でした。

 

 

 

 

 

でもそうじゃない。そうじゃないんです。それがほしいんじゃないんです。ああ、なんでこんなにうまく思いを言葉にできないかな・・・。

 

私が先輩たちに求めている、こうであって欲しい姿があと少しでちゃんと見えそうなのに。

 

 

その帰り道、小学生のときに3DSでポケモンをやってる時によくリセットボタンを押す友達がいたことを何故か思いだしました。彼は面倒なことが起こるとリセットボタンを躊躇なく押す子でした。私が、なんでそんなに思い切りよくデータを消すことができるのか、間違ってとっておきたいことまで消すのが怖くないのか、と質問したときに彼はこう返しました。

 

「こういうのは、思い切ってやらないとだめなんだって。変に迷うと逆に、あのときの惜しかったなーとか、こうしておけばよかったなーって思って、やり直すのがダルくなるから。さっぱり前のセーブデータまで戻って気分一新してやり直したほうが、うまくいくんだ。」

 

私はそれに対して、そんなものなのかと興味なさげに返事したっけな。

 

あいつ、別の中学行ったっけ今なにしてんだろ。

 

 

 

はて…。

 

 

なんでこんなときに、こんなことを思い出したんでしょうか?私は。

 

 

 

ーーー

 

 

「でも、ゲームっていうほど面倒なこと起きないよね。あいつ何であんな頻繁にリセットしてたんだろ?」

 

 

その夜。私は寝付けませんでした。ベッドでゴロゴロ。

 

 

ああああ、いろいろ考えるの面倒くさい。人間はゲームほど単純じゃない。パラメーターの数も多いし、なによりも人間は機械じゃないから感情によって行動が大きく左右されます。ましてや人間が複数人いればその間で起こる化学反応は複雑怪奇でコントロールできるものではありません。

 

そして今回の登場人物は素直でないあの曲者の先輩方。無理無理、もぅマヂ無理。

 

人間関係こそリセットできたらいいんです!奉仕部があんなギスギスした関係になるんだったら一回完全に壊してしまいたい!そしてもう一回やり直せればいいのに!!

 

 

 

そう考えたとき、私の頭の中でゴトンという大きな音がした気がしました。そして襲い来る罪悪感。

 

 

 

いやいやいや!なにを考えているんですか私は!!!???壊す?人間関係を?あの大好きな三人の?私ってこんなにひどい人間でしたっけ?人間関係をやり直す?これまでのことをなかったことにして?そんなのできるの?ムリムリムリ。そんなの友達の間でも聞いたことがない。でも、あの三人ならもしかしたら?確かに、あんな歪んだ関係で三人が終わるのをみていたくない。だったら、壊したほうがいいんじゃ?そもそもその程度で壊れる絆が本物を欲しがる?あれ、ちょっと。ちょっと。本気で私、壊したほうがいいとか思っている?やばいやばい・・・。

 

 

 

 

 

さっき、私の中で鳴り響いたゴトンという音。それは、自分の目の前に特大のリセットスイッチが用意された感覚だったのです。私はこれを押そうと思えば押せるということに気づいたんです。ほら、よくコントであるじゃないですか?地球滅亡スイッチとか核ボタンみたいな。押しちゃいけないのはわかっているのに、中には押したくなる人が出てくるみたいな感じです。

 

 

正直いって、私はこれを押したときにどんな音を立てて環境が変わっていくのか非常に興味があります。

 

 

旧友も言っていたじゃないですか。こういうのは思い切ってやらないとだめなんです。

 

 

下手な迷いをいれると純度が下がるから。

 

 

ーーー

 

「全然寝れなかったし、授業も先生に当てられるし。最悪・・・。」

 

私は次の日の放課後、さっさと仕事を終え生徒会室で一人少し残り、昨晩の考えを反芻していました。今日は奉仕部に行きたくありません。

 

結論からいうと、やっぱり私には自分がこれからしようとしていることがどうしても悪いことだとは思えなくなってきました。むしろ義務感と正義感にあふれてやる気まんまんな自分に少し驚いています。

 

むしろ、無謹慎にもこれからの奉仕部を取り巻く嘘偽りのない本物の愛憎劇に私が加われるのがいまから楽しみでしょうがありません。

 

 

 

 

私は想像します。

 

一人の男を血みどろになって取り合う二人の女。そこに加わって一層場を混乱させる私。お互い負の感情を何も隠さず、けなしあい、本音をぶつけ合い。そのお互いボロボロになった末に残ったものこそ、私が見たかったものだ。本物なのだ。

 

馬乗りになって取っ組み合いとかもするんでしょうか?顔面たたいて、鼻血を垂らしながら愛を叫んで、お互いに罵り合いながら髪を引っ張って、顔面に激情を浮かべながら相手の発言の揚げ足をとりあう。なんか想像できないけど、お互いに遠慮しないければそれでいい。これこそが正しいコミュニケーション。

 

うん。こういうのでいいんですよ。心も体も痛くて辛いだろうけど、こういうのでいい。今よりずっといいです。

 

「むしろこれで壊れるくらいなら元々何もないのと一緒ですしね。何も残らないほうが本物っぽくないですかね。」

 

口がにやけてくる。

 

ああ、なんだ。これで納得いく。

 

簡単だったんですね。

 

これでみんな等しく傷つく世界の完成じゃないですか!

 

うん!しっくりくる。

 

私は答え合わせをするかのように、声に出して思いを整理する。

 

 

「これで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでようやくみんな本物になれますね!」

 

 

 

明日の放課後にめちゃくちゃになっているであろう先輩達の人間関係を思い、私はルンルンと音符が飛び交いそうな気持ちで教員室に生徒会室の鍵を返すと帰路についた。

 

 

 

ヤンデレいろはす 終

 

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