銀色の契約者   作:飛翔するシカバネ

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二十将 決戦

目の前では、東条と男鹿が見合っている。

 

相沢先輩達と神崎先輩達は校舎裏の方に歩いていった。

あちらはあちらで決着をつけるのだろう。

 

 

「遅かったですね、ヒルダさん」

 

「フンっあの男がなかなか起きなかったのでな」

 

また、ヒルダさんは少し高い場所…木の上に座ってこちらを見下ろしている。

 

馬鹿は高いところが好きというがヒルダさんは自尊心の高さの現れなのかもしれない。

 

「機嫌が良さそうじゃないですか。どうしたんですか?いなくなっている間に何かいいことでもあったんですか?」

 

「たわけ、医者をつれに魔界に帰っておっただけだ」

 

木の影から金髪の少女と適当なデザインの白いおばけみたいのが出てきた。

 

そして機嫌についてはスルーですか。

 

 

「こいつがベルゼ様の家来?……キモ。さっきからヒルダ姉様の太ももガン見してますよ」

 

生意気なガキめ。

医者の助手の癖に。

 

いつもならここでルビ達が怒るだろうが今は離れてもらっている。

流石に大魔王と時を過ごした宮廷薬師フォルカスを騙し通せるかは分からなかった為だ。

 

結局ジャンプ掲載時にはテキトーなデザインのムームーの姿のみ登場でNEXTで無駄にイケメンで登場した何気にひどい扱いのキャラだ。

 

だからといって警戒は怠らないが。

 

「違うぞラミア、家来ではない。危険人物だ」

 

「って、まだ警戒してるんですか。俺は今のところ何もしてないじゃないですか」

 

「東条というあの男の攻撃を受け全く動かなかっただけでなく、あの巨体を殴り飛ばす力があるのにか」

 

見られてたのか。

俺も本当に甘いな、反省しないとな。

後悔は全く無いが。

 

 

ドーン!!!

 

 

また、花火が上がる。

 

 

東条がベル坊を下ろし、男鹿に向き合う。

 

男鹿が歩いて行き、東条に近づく。

 

すると、ベル坊の目が正気に戻り、男鹿の足にしがみつく。

男鹿が名前をよぼうとするが、体をかけ登り頭に乗る。

 

そして、高らかに雄叫びを上げた。

 

「ダーーーーーっ!!!」

 

 

 

正常に戻った事で男鹿の体に魔力が流れ出した。

これで、一応一安心だ。

 

 

ベル坊が男鹿に戻った事で東条が安心した表情を見せる。

 

やはり、この人は普通にいい人だな。

器も大きく、人の上に立つ才覚がある。

 

 

 

 

 

 

圧が来る。

烏たちは飛び上がり、空気が震える。

 

 

「ーーじゃあ、とっととケンカはじめようぜ」

 

湧き出る気迫。

恐ろしさを感じるが楽しそうに見える顔。

まさに、戦闘狂(バトルジャンキー)

 

「また、てめーと闘いたくてうずうずしてたんだ。さっさとそいつを下ろせ、男鹿」

 

「ああ」

 

男鹿はベル坊を離れたところに(15m以内だが)置いてくる。

ベル坊と何か話しているのが見える。

 

 

2人が向き合うと直ぐにケンカが始まった。

 

バカ正直に力比べをするかと思いきや男鹿は裏拳を放ち、東条がグラつく。

そこにすかさず腹に連続して殴り込む。

一撃一撃が相手を仕留める様な殴打だ。

 

流石の男鹿も勝つ為に考えて戦っている。

 

更に追い討ちをかけるように飛び蹴りをかます。

 

 

 

しかし、東条は現石矢魔最強。

少し考えただけで倒せる相手では無い。

 

男鹿の蹴りを額で受け止めきる。

 

 

男鹿の動きが止まる。

 

そこを逃す東条でもない。

 

 

東条の拳が男鹿に振るわれる。

とっさに防御をとるが衝撃を受け切れず、1m程飛ばされる。

男鹿が体勢を立て直そうとするが一瞬で距離を詰め、今度は東条が殴打を叩き込む。

 

 

「調子に……のんなボケッ!」

 

カウンターを東条に叩き入れる。

かなりの威力があったようで東条が膝をつく。

 

 

そんな男鹿の手には蠅王紋が出ていた。

 

 

それに驚いたラミアが弄っていた花火の筒を倒してしまう。

男鹿の方向に花火が発射される。

 

花火に手を添えるようにあてがうと、相殺した。

いや、吸収かな。

そして瞬時に放出。

男鹿の後ろに蠅王紋の形の炎が生まれる。

 

上から見れば魔法陣の様な感じなのだろう。

悪魔の儀式と言った方がいいかもな。

 

 

「ベル坊っ!!」

 

今はどうでもいいことだがな。

 

「……てめぇ、邪魔すんなっつってんだろ」

 

膝をついている東条を置いてけぼりにしてベル坊の方に歩いて行く。

 

「てめぇ、ふざけんなよ。オレが負けるとでも思ってんのか?………負けねぇよ、絶対」

 

「……ちょっ何いってんのよ!誰の為に私達がここまで来たと思ってんのよ。アンタが坊っちゃまの力なしで勝てるわけないでしょ!!」

 

ラミアが男鹿に突っかかる。

 

確かに東条は化物だ。

普通に考えてズルしないで勝つなんて出来るはずが無い。

 

 

「まあ、言っても無駄だろうけどな」

 

本当にいつ以来だろうな、あんな男鹿を見るのは久しぶりだな。

 

「何度も言わせんなよベル坊」

 

 

 

 

 

「こいつはオレの戦いだ。てめえが水をさしてもいいもんじゃねぇ。ーーーそれにな、

 

 

 

こんなもんなくてもオレはどこへも行きゃしねーよ」

 

 

その言葉と共に蠅王紋が消えていく。

それはベル坊がリンクを切ったということ。

リンクを切るという行為は悪魔にとってリスクでしか無い。

しかし、それをあの赤ん坊はやったのだ。

 

今、二人の間には契約を越えた信頼関係が築かれつつあるということ。

 

 

小さい頃からの友人としては少し妬いてしまうな。

俺より短い期間なのにこんなにも絆が芽吹いているなんてな。

 

 

 

少しばかり喋ると男鹿と東条が再び構え、向き合う。

 

 

あの河原の時と似たように一撃づつ殴り合うのを

 

 

「「うおおおおおっっっ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が明るくなってきた。

 

かなり、長い時間殴りあっていた。

一瞬も目が離せなかった。

 

2人はもう血だらけで体はフラフラだ。

しかし、倒れない。

 

次がお互い最後の一撃だろう。

 

 

そして東条が勝負にでる。

男鹿に飛び蹴りをかます。

フラフラの体とは思えない最高の一撃といえよう。

 

東条は勝ったと思ったろう。

 

だが、男鹿の勝ちだ。

 

 

 

東条が安心した一瞬に東条の背中に張り付き、胴をがっしりと捕らえる。

 

「うぉおおおおおおおおぉぉおっっっ」

 

 

そのまま反り返り、脳天を叩っきつける。

そう、スープレックスだ。

 

自身の体重が後頭部にかかり、脳震盪は確実だ。

これでは流石の東条もここまで疲労した体にこの攻撃はもうお終いだ。

 

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

 

ついに石矢魔の頂点をやりやがったぁぁっっ!!!」

 

 

男鹿も膝をつくが東条は倒れたまま動かない。

 

まあ、動けないのは当たり前だろう。

逆に意識があるのがおかしいしな。

 

 

 

 

さて、男鹿んとこ行くか。

 

 

「男鹿!!」

 

「古市!なんだお前来てたのかよ。まあ、見ての通りだ。借りは返したぜ」

 

「それもあるけどな、お前あれ聞いてないだろ。東条先輩聞きたいことあるんすけど。肩の印の事なんすけど」

 

しかし、返事がない。

 

「しゃあない、後日聞くか。行こうぜ男g「昔憧れた男がいた」

 

俺らは足を止める。

 

「こいつはそいつの真似で憧れで入れた刺青だ。あの時、お前の拳に光るその印を見た時に思い出したよ。あいつもそうやって信じられない事をやってのけた。お前はオレと、違う。本物だってな。

 

 

 

男鹿、お前が石矢魔最強だ。

 

もう、この学校はお前のもんだよ」

 

 

「……うん……それはいいんだけどね……」

 

 

 

 

 

 

「さっきから腕がもげそーなんですけど」

 

そんな男鹿の右腕は信じられない程ムキムキになり、腕が捻られていく。

 

 

「ア“ーーーーー!!!」

 

ベル坊が興奮している。

たまりにたまった魔力が全て右腕に注ぎこまれる。

 

ラピス、俺の周りにかなり厚めに障壁張って。

あと、念のため隠蔽の魔術をお願い。

 

『はい』

 

そして男鹿は近くにある手ごろな物体を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

 

 

俺と男鹿はセミが煩いほど鳴いている公園のベンチで座っていた。

 

「また、やっちまったのか………?」

 

「……ああ」

 

 

「ああ……じゃねえよ。お前何したかわかってんの?」

 

「東条を倒した」

 

「その後だよ」

 

「石矢魔統一した」

 

「それは東条を倒した時点で達成している。その次だ」

 

「校舎を……」

 

「校舎を?」

 

「は………」

 

「は?」

 

「………かいした」

 

「ん?」

 

「校舎を……破壊した」

 

 

 

 

 

俺は男鹿の胸ぐらを掴む。

 

「そうだよ!お前のよく分からない一撃でコナゴナって

どうゆうことだ!?

 

 

 

校舎全壊ってどういう事だーーーっ!!!!」

 

 

「俺もそれは反省している。しかしどうすることも出来なかった」

 

俺は男鹿から手を離す。

 

「……ふー、まあなんとかなるだろ。俺もとりあえず怪我してないしな。とりあえずは学校だろ、この先学校どーなんだろうな?」

 

 

男鹿の家につくと魔界の医者に腰を揉んでもらっている美咲さんがいた。

 

美咲さんの言うことによるとしばらくは生徒全員別の学校に通う事になる。

俺は知っていたが男鹿への説明が面倒だったのと少し俺の記憶が曖昧になってきているところにある。

今のところは話の大筋は分かっているので問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

夕方になると男鹿の家でバーベキューをやった。

家の家族も呼ばせてもらったので割と大人数になっている。

代わりに俺が仕込んでおいた肉を持ってきておいた。

 

タオルを頭に巻いて火の番をする。

 

「ほれ、男鹿焼けたぞ。あと、ほのかは野菜をもっと食べなさい」

 

「サンキュ、古市」

 

花火を持ってきておいたのをヒルダたちが遊んでいる。

東条の時のと違う普通の家庭用の花火だ。

 

男鹿はヒルダと話している。

 

 

 

俺は不意に夜空を見上げる。

 

そろそろ夏も終わりだ。

数日あるとはいえ、俺も少しは鍛えないとな。

また、修行しに行くか。

 

「古市ーっ!!ベル坊が成長して自由になったんだよ!!こーんなに離れてもだ……ギャアアアアアアア」

 

案の定電撃が男鹿を襲う。

 

成長したとはいえ、そんなに一気には無理だろう。

 

「見ろ!男鹿。15m8cm!!8cm延びたぞ!!やったな」

 

一先ずは男鹿を介抱しようか。

 

 




【お見舞いの話】

「先輩方こんにちはっス。おお、ぎゅうぎゅう詰めですね」

俺は病院の姫川先輩が借りた個室にいる5名の先輩方に話しかける。

「古市ちゃんじゃない。どうしたの?」

「夏目先輩、お久しぶりです。一人だけ無傷なんて凄いですね。今日は前回と同じ様にお見舞いですよ」

俺は障壁を貼ったから無傷なのにこの人が何故大丈夫なのか本当に分からない。

「前回と同じって事はまたかい?」

「今日も同じく和洋ですけどメニューは全部違う感じにしてみました。相沢先輩と陣野先輩もどうですか?」

「いらねえよ。東条さんが負けたとはいえ俺らはまだ認めていないからな。さっさと持って帰りN「なら俺が買う!」…!?」

相沢先輩に断られている途中に姫川先輩が名乗りを上げる。

「幾らだ。お前の料理はかなり美味いからな。十万でかってやれるぞ」

「てめぇ汚ねえぞ!だったらこっちも十万だしたら!」

「そうですね……因みに陣野先輩はどうします?」

「最初は断ろうと思ったがこいつらの反応見て気が変わった。有り難く貰うことにする」

「じゃあ、姫川先輩と神崎先輩は5万づつください。二つにいい感じに分けますので。一先ず1人分はあるんで我慢してください」

「くっ!まて!」

ここで唖然としていた相澤先輩から声がかかる。

「やっぱり、食いたくなった。今更だけどくれないかな?」

「そのお見舞いの品の所持権は俺ではなく既に姫川先輩と神崎先輩に写っているのでそちらに交渉して下さい」

しかし、売る事はないだろう。

「俺達に土下座して謝って俺と神崎に十万づつ払えば売ってやるかもしれない」

姫川先輩……それはもう、売る気が全く無いですね。

「では、先輩方俺は帰りますのでお大事に」

「じゃあ、俺も帰ろうかな。神崎くん、姫ちゃん、城ちゃんじゃーね」

俺と夏目先輩は部屋から出ていく。

「ふざけんじゃねえ!元は俺のだろうが!!」

「今は俺のもんだ。買い戻したけりゃ100万払ってみな」

「はあ!?ボリ過ぎだろうが!もう一回二人纏めてシメてやろうか!!」

「「できるもんならやってみやがれ!!!」」

「アンタ達また、ケンカしてんの!?いい加減しな!」


部屋からそんな声が聞こえてきた。

「古市ちゃん」

「はい」

「楽しいね」

「そうですね」

俺は病院を後にした。


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やりたかっただけ
ただそれだけ

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