最初に動いたのは古市だった。
雷を槍に纏わせているがそれは目に見えるようにしていた。
古市は他に見えないように自身にも纏わせていた。
そして雷を纏ったそれは雷そのもの。
スピードは今までの非ではない。
雷の効果はスピードだけではない。
敵に当てれば痺れは動きを鈍らせる。
それは敵が触れれば発動する。
身に纏っているという事はそれは攻防一体の力だということ。
これによる対処方は少なく、そして簡単だ。
1つは長遠距離で初撃にて倒すこと。
凄まじいスピードは敵を視認していなければ近づく事が出来ない。
一撃当てて倒せれば、次は考えなくていい。
初撃で倒せなければ位置がバレ、移動するまもなく、やられるだろう。
もうひとつは……
「ぐっはぁ!!」
「少し痺れるかっ……だが、お前は倒せるだろう」
雷を気にせず、ぶん殴ることだ。
ひとまず離れる。
「お前の雷の攻撃は先に来る場所が分かる。雷は落ちる前に先に弱い雷が来る。そこに拳を置いて、来た瞬間にぶん殴れば当たるということだ」
「ああ、分かっているさ。初見で見破られるとは思わなかったけどな。次は速度を上げるぞ」
また、古市の姿が消える。
先程よりも早く、目に負えない。
しかし、やはり雷は位置を教える。
ジャヴァウォックは拳を構え、殴る。
それは空を切った。
ジャヴァウォックは思いっきり顔を殴られる。
「全力だぞ。悪魔の力全て使ってんだ」
次元転送悪魔の能力を雷速で使う。
途中まで出来ていた雷の道は消え、いきなり現れた拳はジャヴァウォックの顔に突き刺さる。
槍では殴れない。
近距離でいきなり現れたアドバンテージを槍を振るう間に攻撃される。
だから一発目は拳だ。
槍はジャヴァウォックの腹に突き刺す。
槍は楔だ。
痛みに悶える隙を与えず、蹴りを繰り出す。
蹴りは顔には当たらず、肩を掠める。
フリーになった両手で古市の頭を掴み、地面にめり込ませる。
鈍痛と衝撃で意識が飛かける。
古市はジャヴァウォックのエラを掴み、放電させる。
骨が軋み、血が熱くなる。
しかし、ジャヴァウォックは頭から手を離さない。
放電も長くは続かない。
電力が弱まると片手を首に、片手を構え、顔を殴る。
殴る殴る殴る殴る殴る。
容赦なく、殺すつもりで、ただ殴る。
男鹿は立ち上がった。
その親友を名乗ったこの男も立ち上がるのだろう。
だから立ち上がらないように、これ以上ないくらいに、入念に殴る。
そのうち、古市を纏う雷が弱まる。
そしてエラを掴んでいた手を離す。
誰がどう見ても終わった。
そう思えた。
しかし、ジャヴァウォックは信用しない。
否、信用しているからこそ、最後の一撃を加える。
全身全霊の一撃。
意識があろうが無かろうが、確実に刈り取る一撃。
それは古市の顔の横を思いっきり殴りつけた。
観客は勝負の終わりを予見した。
古市は気絶し、確認のために横を殴ったと。
しかし、ジャヴァウォックは笑う。
自身の負けを直感しながら笑う。
雷を纏うのをやめたのは、最後の一撃を狂わせるため。
エラを掴んだのは魔力を感じさせないため。
突き刺した槍はヴリトラの時と同じく避雷針のためだ。
「アンタみたいなラスボスには普通じゃ勝てない。戦いの最中に仕込ませてもらったよ」
この場所で古市は上空に何かを上げる動作を多くした。
ナーガの攻撃曰く、エリム曰く。
それは自身の魔力と敵の魔力を混ぜ、空に溜めておくことにあった。
いつの間にか暗雲立ちこめるこの闘技場上空にはジャヴァウォックを打ち倒す力が込められていた。
「俺の負けだ。意識を失う前にもう一度名乗れ」
「古市貴之。魔王の親の普通の親友だ」
槍を目印に雷が落ちる。
古市の魔力+団員の魔力+魔界の魔力だ。
一緒にいる古市にも当たるが、雷を纏うほどの繊細な魔力操作を持っている古市なら、この後戦う力は残っておらずとも、意識を保つことくらいなら可能だろう。
そしてジャヴァウォックは倒れ、古市は槍を支えにして立っていた。
「これにて契約の見極めを完了とする。この場はひとまず終わり、後日契約の儀を執り行う。すぐ様救護班とフォルカスを呼べ!!!」
「「「「ハッ!!!」」」」
焔王の迅速な対応で悪魔達は動き出す。
これで一応勝ったという事だな。
それを確認のすると俺は意識を失った。