阿片の香り
酒場それは嫌な事を忘れられる素敵な場所、そんな素敵な場所で酔い潰れる阿呆どもが仲良く三人集まってる。
三人の顔は酒を飲んでるのに芳しくない何かあったのだろう、煽り酒の様に何も言わずに飲んでいる姿はまるで葬式にでも参加しているかのようだ。
「おばちゃん酒追加宜しく」
「んじゃ俺も」
「私も宜しく頼む」
「…とっとと出てけ酔っ払いども、もう閉店だよ」
三人が注文を頼むとそうつっけなく返す店主、三人の回りの席を見ると誰もおらず店内には三人しか居ないだがどれだけのんだのか分からないが彼らの席の回りには空き瓶が山のように置かれておりそれを見ればどれだけ彼らが飲んだのかが分かる。
「まさかなぁ…アイツが逝くとは思わなかった。」
「まだ決まったわけじゃねぇだろうがベート」
「うっせ黙って飲んでやがれ」
「……ったくこいつは」
あの魔物から命かながら生還した彼等はこれ以上の探索は困難と考え地上へと戻った。これは彼らが薄情だからではない単純にこれ以上の探索には命の危険があると判断した結果である。
冒険者は冒険してはならない、これは冒険者になる際に担当の職員、先輩達からキツく言い渡される事であり、この迷宮での真理でもあるだろう。
それほど迄に迷宮とは危険なのであり初心を忘れた者から死んでいく魔境でもある 。複雑怪奇な地形に深くなる事に危険度の増すモンスター達それらはいつ冒険者に牙を向くとは限らない、それが例え一騎当千の冒険者であろうとも死ぬ時はサックリ死ぬものだ。
それはオラリオ一の魔術師と謳われた男オーリでも同じ事である
「なんやかんやで仲間を見送った事は多々あったがやっぱ古い仲の奴を見送るのはキツイもんがあるもんだ……」
「やっぱそうだよなぁ……キツく無いわけがねぇよ、知り合いが逝くってのは」
ベートの独白にベルが追従していく。二人の顔は既に真っ赤でありベロンベロンに酔っぱらっている。
「……認めん、認めんぞアイツは絶対に死んでなどいないそんな訳があるか、助けの手を払った位なのだからどうとでも出来る手立てはあるはずだ。」
「しかしだなぁ…あの手のバケモン相手にタイマンで勝てるのはオーリでも難しい…いや俺達総出で行ってあのザマなんだ。オーリ一人となると」
「……だからと言ってお前はそれを認めれるとでも言うのか?」
リヴェリアのその言葉にベートが激昂したように激を飛ばす。
「んな訳がねぇだろうが誰がアイツが死んだなんて認めれるかよ!だけど分かるだろうが!間違いなくオーリが助からねぇって事くらい!!」
「貴様…もう一度言ってみろ!あの男がそう簡単に死ぬ!?そんな訳が無いお前だってあの男の常識外れな実力は知っているだろうが!!」
何時如何成る時でも冷静に物事を判断するリヴェリアとは思えない言動、その顔を見ると顔を朱色に染めており完全に酔っぱらっているのが分かる。
一触即発、この場の雰囲気を現す言葉をとしてこれ以上合っている言葉は無いだろう。ベートとリヴェリアがお互いに睨み合っている中ボンヤリとベルは酒の入った頭で考え始める。
「(あいつ…オーリはあの時何て言ったけかな…?確か……心配するなとか言ってたっけそんなん無理に決まってんだろ)」
まだ1度しか背中を預けていない俺ですら心配してるんだ。お前と古い仲のこいつらが心配してない訳ねぇだろうが。
ベートだって口では無理だとは言ってるが心からそんな事思ってるはずねえだろうし、リヴェリアだってこんなベロンベロンになるほどやけ酒を煽るほどだ
会話のキャチボールは激しさを増し最早ドッチボールを越えて砲丸を互いに投げ合うレベルにまで発展していく
「(はぁ…だから嫌いなんだ。誰が逝くってのは)」
録な事になりゃしない。
ーーーーー
オーリが俺の手を振り払い下へと落ちていく。俺はそれをずっと見ているわけにはいかない、絶妙な感覚でぶら下がっている今、宙ぶらりんで二人を支えているのは非常に危ない。早く地に足をつけなくては
「……よっと!!」
急ぎ地面に足をつけ二人を降ろす。すると穴の開いていた地面はどんどんと閉じていき、最終的にはすっかりとなくなってしまった。
それを見た後どさりと地面に転がりながら一息つく。今回の遠征は大変な事になってしまった
「いやーこれはキッツい。あんなバケモンにどうやって勝てって言うんだよ」
あの時のオーリとリヴェリアの放った一撃は間違いなくダメージを与えていた筈なんだ。なのにあの手が少し動くだけで俺達は彼処までのダメージを受けちまった。あの手はなんだ?あの巨大な手、あんなんが迷宮にはいるってのかよ。
そしてオーリはその手の持ち主の所に落ちていった…生死は語るまでも無いだろう。間違いなくオーリは助からない
「だから…チームを組んで行くのは嫌なんだ」
例え一度きりと言えど背中を預けた仲間を見送るのはキツイもんがある。
死んでいった奴らを思い出すと俺の心が声をあげ始める。お前達の死を認めないと、俺は…俺だけは死にたくないと叫ぶ。
まるで2つの心が同時に叫ぶ様に魂の中を反響し頭の中を響き渡る。
まるで池に石を投げ込み出来た波紋の様に2つの思いはゆらゆらと俺の頭を駆け巡っていき思考が覚束無くなり苛立ちが募り始まる。
「くそっ!だから嫌なんだ!人が死ぬってのは!!」
思わず悪態をついてしまうも俺の声は迷宮の中を反響し消えていく。
いつまでたっても慣れやしない。冒険者なのだから仲間が逝くってのはあって可笑しくなくて、戦場でそんな事に気にかけていたら間違いなく死んじまうって事も分かってるんだ。
だけど…俺は嫌いなんだ。それが気持ち悪い……人が死ぬっていう事がそれ自体が嫌なんだ。
「忘れるな…稲妻の様に輝いて生きた生の果てにこそ死という安寧はお前を包み込む……か、爺さん…やっぱ俺には無理だわ」
昔爺さんが言っていた言葉を思い出し思わず苦笑いをしてしまう。爺さんはそんな堅苦しい喋り方ばっかりしていて村の皆からは堅物なこの人に育てられて何でもこんな性格になったのかって良く言われたもんだっけ。爺さんからも喋り方についてで良く怒られたもんだ。
「そんな喋り方しておるとあんのボーフラ小娘の様になっちまう、ちゃんと話せ」
「これでもちゃんと喋っているつもりなんだけどな……」
「渇ッ!!」
良くそんな事で怒られたっけな。んでそれから言葉遣いの練習をさせられると、いやぁ…あれはあれはキツかった。
懐かしい…本当に懐かしい。優しかった村の皆に厳しかったけど優しかった爺さん。村にいたあの時を思い出すだけで心が一杯になりやがる。だけどもう二度と会う事は出来ない、もう二度とあの声を聞く事は出来ないんだ。
「もう…いねぇんだよな……皆」
あの時の事を思い出しそうになってしまい頭から振り払いながら立ち上がる、そろそろ動き始めねぇと不味い。そろそろ魔物が現れても可笑しくはないからな
「おーい、起きろお前ら。」
「……ちっ一体どうなったってんだ。」
「おっ、起きたか寝坊助じゃあ隣にいるお姉さまも起こしておいてくれ」
俺の声に反応したベートにリヴェリアを起こすように頼んで辺りを警戒しながらいつでも剣を抜ける様にしておく。
「あいよ…おら、とっとと起きやがれババア……ってベル、オーリはどうした?姿が見えねえが見廻りにでも行ってやがんのか?……ってそりゃアイツに限って有り得ねえか」
「……後で話す、だから今はこの場をさっさと離れてとっとと戻るぞ」
「…分かった、絶対に話して貰うからな」
「ちゃんと話す、約束だ」
そう会話を終らせてリヴェリアを覚醒するのを待つ、そしてリヴェリアが起きた後直ぐに地上へ戻る為に足を動かし始める。誰も話さず唯々歩き続ける……どれだけ歩いただろうか、安全地帯である18層がまだまだ先に有ることだけは分かる
「なぁ…ベル?アイツはどうなった」
「落ちていったよ…俺の手を振り払ってな」
「そうか……チッあの馬鹿が、一体何を考えてやがる」
一番最初に切り出して来たのはベートだった。ベートは俺の言葉を聞くとそれっきり何も言わず歩き始める。重かった空気は更に重くなり歩む足まで重くなったように感じてくる。
「嘘だ…あの男がそのような愚かな事をする筈がない。」
「…黙って歩け、リヴェリア。とっとと歩くぞ、安全地帯までつけばこっちのもんだ」
リヴェリアの狼狽した声に返事を出来ずにいるとベートが返事をする。
「しかしベート!」
「…もう一度だけ言うぞ。黙ってろ」
「……ッ!!」
それっきり誰も話さなくなりひたすらに安全地帯を目指し歩いていく。
…あと安全地帯までもう少しになり緊張で張り詰めていた俺達は歩む速度を変えず慎重に慎重に進み安全地帯にたどり着き一晩休憩を取った後地上に戻った。
地上に戻った時にはすっかり辺りは暗くなっており俺達の足はファミリアに戻るわけでもなく何故だか三人とも酒場に寄ってしまった。きっとあの事を今だけでも良かったから忘れたかったんだろう、そしてこのザマである。
「だいたいテメエはいっつもいっつも…
「貴様こそいつもいつも……
「(あぁ駄目だこいつらそろそろキレるなこりゃ)」
そう思い二人に声を掛けようとするとピシャリと何か冷たいのが体に掛かる感触を感じる。
「うおっ冷たっ!!」
「……あぁ?」
「……へっ?」
俺も、胸ぐら掴み合いだしそうな二人もまるで冷や水をぶっかけられた感覚で冷静を取り戻す。
辺りを見渡せば鬼のような形相をした店主がこちらを見ている。
「あんた達…黙って待っていれば……こちとらもう閉店時間とっくの昔に越えてんだよ!!」
「さっきから話を聞いてれゃなんだいその体たらくは!傷の舐めあいみたいなのをウジウジと、恥ずかしくないと思わないのか!!」
店主の鬼のような剣幕に圧され三人揃って外に放り出される。
外は朝日が登り始め俺達は誰に言われるわけでもなく、何も話さず互いの帰路に向かって足を向けて動き始めた。大通りは朝日が登り始めたばかりだというのに皆が店を始める準備を始めており、全く静かと言うわけではない。
「あー…飲み過ぎたぁ……キッツい」
フラフラと歩きながら大通りを避けて静かな路地の中を歩いていく。そうして暫く歩いていくと女性の喘ぎ声や男の罵声が様々な場所から聞こえ始める。
「げっ……歓楽街かよ。変なとこ来ちまった」
回りを見ればイシュタルファミリアの看板がどこの場所にも立て掛けられておりここがイシュタルファミリアの管轄内である事が分かる。
さっさとこんな所おさらばしてファミリアに帰ろうと動こうとしたら後ろから声を駆けられる
「どうした…少年達よ、そんな目くじらを立てて何かあったのか?…いや言わなくていい……ほら吸うといい、何気にするなおまえたちの為ならいくらでも用立ててやる」
一言でいうならそいつは薬中だった。目はこちらを向いておらず、何かをブツブツと言いながら此方に渡してくる。
「こいつは…ヤクか?」
「そんな苦しまなくて良いではないか…救われてくれ…救われてくれよ……このような苦界を生きる意味などあるまい…おまえたちは救われていいのだ…恐怖から解き放たれて良いのだ……」
「いっいや…遠慮しておくよ」
「気にするな、おまえたちの為ならいくらでも用立ててやる」
「お前達って…俺しかこの場所にはいないんだが」
そんな事言っている間に男は薬を押し付けられその場を去っていく。
そいつの後ろ姿を見送りながら薬をポケットに入れ歩き始める
「変な男だったな…金のあるヤク中は皆あんなんなのか?」
ーーーーー
「薬咒よどちらに行っておられたのですか!皆心配しましたぞ!!」
「あぁ…愛い、愛いなんと愛いのだお前達は……おまえたちは必ず俺がこの苦界から救ってやるからな。」
「イシュタル様がお呼びです。早く」
「愛い、愛い、神であろうが何であろうが等しく用立ててやる」
「救ってやろう。おまえたちすべて。ああ俺は、皆が幸せになればいいと願っている」
薬咒と呼ばれている男は回りの黒服の男達を後ろに引き連れて歩き始める。
運命は動き始めた。ベルを中心にその速度を変え全てを巻き込み始める
これよりオラリオで起きる事件、それらは後世の歴史書にこう乗せられている
桃源郷 万仙陣の変 と
(°∀。)y─┛~~<愛い、愛い