私のお母様は何時も忙しそうにしてして遊んでくれる事はなかった。お母様とお話しをしている最中でもお付きの人から何か言われたら直ぐに何処かに行っちゃう。だけど今はそんな事がないんだ。
今この場所には私とお母様しかいない誰にも邪魔されない二人きりの場所なんだ
「さてと…今日はどんなお話しを聞きたいのかしら?勇者の英雄譚でも良いし魔法使いのお話でも何でも良いわよ?」
「ほんと!じゃあ前に話してくれたお話が良い!」
「そう…リヴェリアは本当にあのお話が好きね」
そう言いながら私を膝の上に乗せながらお母様はゆっくりと語り始める。
そう…あれはずーっとずーっと昔の事。
かつてこの世界には何も有りませんでした。人も動物も自然も、何にもない空っぽの世界でした。
そんな世界にいたカミサマは思いました。
この世界には足らないものがいっぱいだこの世界をいっぱいにすれば空っぽではなくなると。
そう思い立つとカミサマは世界にいろんな物を作り始めました。
先ず最初にカミサマはいろんな神様を産み出しました。そしてその産み出した神様にこう言いました。
お前達は私が作り出した存在だ、故に私の言葉は絶対であると。
神様達は自分を産み出してくれた存在に絶対の忠誠を誓いました。
次に世界に彩りを加える為に自然を作りました。そこに住む生命も一緒にです。
そしてカミサマはその自然の中に自分の血を受け継ぐ存在を産み出して自然の中に放ちました。その存在を長い長い時を見守っているとカミサマは思いました。
これ以上私達がこの世界にいてはならない、神の住む世界とそれ以外の世界を2つに分けようと。
いろんな物を作り出したカミサマは世界を2つに分けてその一つを自分の血を受け継ぐ存在に託し新たな世界で神々と共にその世界の者達を見守り続けました。
そうして世界が終わるまでずーっとカミサマは私達を見守ってくれているのです。
「そのカミサマって何で私達を何処で見守ってくれてるの?」
「さぁ何処なんでしょうね?」
「分からないの?」
「良いかしらリヴェリア、カミサマは私達の分からないずーっと遠くて凄く近い何処かにいるの。だから…貴女が見つけないとカミサマには会えないわ」
「むー意味分かんないよー!」
そう言うとお母さんは私の頭を撫でながら抱き締めてくれる。何時もお母様は直ぐ何処かに行っちゃうけど今日はずーっと一緒にいられる。こんな日が毎日続けば良いのにな……
「愛い愛い何と愛いのだお前達は…自分の望む夢を見よ。それこそが理想郷…お前達の幸せだ」
煙が立ち篭る部屋の中で1人の男がそう呟く。煙で良くは見えないが男の座っている椅子は荘厳な物であり、それは男を位の高い者と思わせた。部屋はとても広いのだが位の高い者が置きそうな金細工の装飾品等は無く部屋の奥に鎮座する男の座っている荘厳な椅子以外何も無い。あるのは黒い地面だけだ
「苦しんで生きなくて良いではないか…何故このような苦界で生きようとする?お前達が苦しむ必要は無いのだ…」
「俺はお前達の幸せだけを願っている」
そう言いながら男が眼下に目を向ける。そこには黒い地面だけがありその他はなにも無い…無い筈なのだ。だが地面は男の声に反応するかのようにビクリと蠢く
いや地面だけでは無い…良く見れば辺りの壁も地面の色と同じ黒色であり男の声に反応するかのように蠢く。
「ヨシュア…私の大切な子。貴方ならば自分の願いを叶えることが出来る。その為に私は貴方に私の力の全てを与えたのだから」
「母よ…我らが母たるイシュタルよ。お前を必ずしや救ってやるからな。この苦界から必ず…俺が皆を苦しみから解き放って見せる」
神イシュタルが椅子に座る男…ヨシュアを横から抱くようにしがみつきその端麗な顔を蕩けさせたように赤く染め上げて語り掛ける。
その蕩けさせた目にはおよそ理性と言われる物を感じさせず。ただ彼を狂信している…他の全てよりも彼を信じていると言うような雰囲気を醸し出していた。
「えぇ…貴方を信じているわヨシュア。ここにいる皆も貴方に感銘を受けて集まっているの……貴方は1人なんかじゃない。そうよね?皆」
イシュタルの声に壁が地面が更に蠢き名状しがたき音を立て始める。この声を聞けば健常な精神を持つ者は異常をきたしかねないような濁った音、その音を聞いてイシュタルは嬉しそうに頷ずきヨシュア頬に接吻を一つするとヨシュアの身体から離れて煙の中に包まれて姿を消す
「必ず俺がお前達を救ってやる…救ってやるからな……」
その声に壁が地面が反応する。蠢く地面に蠢く壁…良く見てみるとそれらは触手のような物が重なり合って作られている。そしてその触手には目が口が至る所についておりその目の全てがヨシュアを見詰めている。
何と悍ましい光景なのだろうか…だがヨシュアはその視線を嬉しそうに見詰め返す。彼にとってこの触手は愛しくて愛しくて堪らない物であり、己が守るべき大切な物なのだ。
「何と愛いのだお前達は…好きに夢を見よ」
全てを慈しみ全ての人々を救いたいと願う男とその願いを叶えてやりたい1柱の神。彼等に悪意等一つも無い。
例えそれが生きとし全ての人々の死だとしても彼等にとっては止める理由にはなりはしない。煙の中でヨシュアは触手を慈しみの目を持って見詰め続ける。
「好きに夢を見ろ、それこそが理想郷」
人皆七竅有りて、以って視聴食息す。此れ独り有ること無し
ヨシュアの祈りが世界を浸食して、彼の祈りが神の力を通して世界を己の色に染め上げようとしていく。
世界を己の色に塗り替える力…それは今ある世界を己の望む世界に変えていくと同義であり、それを為した者こそが全てを支配する存在と言っても可笑しくは無い。
ヨシュアの祈り。一つ皆が幸せになって欲しい…それはまさに聖人のような祈り
そしてその祈りに人々は賛同して行く。私も幸せにして欲しいと、自分を救ってくれと。
つまりこの触手こそがヨシュアに賛同した者の成れの果てであり、己の中に閉じ救われている者達その者なのだ。
「あぁ…何と愛いのだお前達は……」
ヨシュアはただただ救われている者を見詰め慈しみ守る。彼等の醜悪な姿こそが苦界から解き放たれ己の中に閉じ外界を捨てた証明に他ならない。
「愛い…愛い……」
触手の名状しがたき音と視線を受け止めながら己の中に閉じ篭る。全てが白痴の神の揺り籠の中で眠りにつくその時まで彼は人を触手にし夢を見せ安らぎを与える。
ヨシュアにとってそれこそが幸せなのだから
ヨシュアって名前が阿片おじさんには良く似合うわァ…(白目)