機動私兵クロニクル   作:放置アフロ

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ポケットの中の戦争ごっこ(後編)

 

 夜の砂漠。岩山と砂丘が作り出す幻想的な風景。

 今、砂丘のくぼみから赤いディザート・ゲルググが跳躍した。

 

「そこっ!」

 

 パイロットのマサイ・ンガバはヘッド(H)アップ(U)ディスプレイ(D)にハイザックD型をとらえる。ガン・レティクル(照 準)に入り込む刹那、ハイザックはスラスターをふかして逃れる。

 

「この前より速い。やはり、ゲルググにはバズーカよりビームライフルが似合う」とアジス。

「ぬかせ! 手加減したとでもいうのかい」とマサイ。

 

 オープン回線のハイザック・パイロット、アジス・アジバの声をきき、マサイは笑みを浮かべる。

 アジスはアルジェリア欧州人軍事組織OASに雇われた傭兵であるし、マサイはアフリカ民族解放戦線FLNに所属している。敵同士である。

 では、これは一体どうしたことだろう?

 攻撃をかわしつつ敵機を照準にとらえようと、2機は旋回を続ける。ときに、逆方向に切り返し、岩を遮蔽物にし、またスラスターで跳躍する。

 

「こりゃ互角の勝負だな」

 

 高台に陣取るアイザック、コクピットハッチを解放したそこからエセルバート・ヒンカピーが顔をのぞかせていた。

 彼の横からまだ少年の面影を残す顔が現れる。眼下のMSの激しい機動戦を見やり、

 

「すごい・・・・・・」

 

 ひたすら驚きの声をもらすニキJrことリキだった。

 上から見ると、スラスターの青白い光が何度も弾け、地上で花火が打ち上がっているようだ。しかも、それが軌跡を描いて複雑にからみ合う。

 

「アジスの腕だって相当だよ。ティターンズの中では見劣りしたかもしれないけど、今のそこらの現役なんて全然。マサイさんもかなりのものだね」

 

 ヒンカピーの言葉もリキには届いていなかった。まるで、とりつかれたようにリキは2機を目で追った。自然に思いがこぼれていた。

 

「俺もマサイやアジスみたいに、強くなれば・・・・・・」

「え?」

 

 リキをうかがうヒンカピーに気づいていない。

 

「ガンダムを倒せる。父ちゃんを殺した、憎いガンダムを」

(リキも、・・・・・・ガンダムにとり()かれたひとりか)

 

 グリプス戦役中、あるガンダムに関わったことがあるヒンカピーは、ガンダムが持つ魔力を感じ、また胃が重くなった。

 そのヒンカピーだが、このごろはパイロットよりメカニックの仕事が板につき始めていた。実戦から遠ざかり、感覚が鈍り油断もしていた。

 背後から隠密接近する不明のMSに気が付かなかった。

 

 

 

 

 岩山にゲルググを隠ぺいさせながら、マサイは後悔する。

 

(やっぱりアジスは強い。ナギナタが使えたら・・・・・・)

 

 ()()()()()で「射撃武器のみ」なんて決めるべきではなかった。だが、ビームサーベルが使えないのはアジスも同じなのだ。

 互角とも思える勝負も時間が経つにつれ、マサイのボロが目立つようになった。動きの変化がわずかに遅く、パターン化しつつあった。疲れである。

 

(次で決める)

 

 それは決意というよりは、やや捨て身の気持ちが入っていた。

 岩山から半身を出したゲルググにロックオン警告音がなる。飛び出すと見せかけ、ターン。岩を回りこんで反対から仕掛ける。

 

(頼むよ!)

 

 誰に祈ったのか?

 ゲルググがビームライフルを突き出す。モニターには、フェイントに引っかかったハイザックの姿が、―――なかった。

 直後、先程よりも長いロックオン警告音。ゲルググの上からである。

 スラスターで跳躍したハイザックのビームランチャーが、ゲルググの胸部に照準されていた。マサイは生身の胸に、アジスの武器が突きつけられているように思えた。

 

「勝負あったな」

 

 アジスの無線にマサイが口を開きかけ、

 

 そのとき!

 一条のビームがハイザックをかすめる。HEAT弾がゲルググの足元に着弾する。

 自由落下に入っていたハイザックはスラスターノズルを偏向させると同時に、手足を振って緊急回避。マサイのゲルググもホバー走行で岩山に隠れる。

 

「ヒンカピー、どこからだ!?」

 

 アジスの問いに返事がない。

 マサイ機同様、岩山に隠ぺいしたアジス機がシュノーケル・カメラを引き出し、高台を見る。

 

「くそっ! ブッホの奴らなんで」

 

 ディジェがビームナギナタの光刃をアイザックのコクピットに突きつけていた。

 

「アジス、ごめんよ~」

 

 情けないヒンカピーの声である。

 

「サテ、説明してもらおウ」

 

 無線が電子音声を飛ばす。

 射撃後、即回避、砂丘の窪地に潜んでいた、トサカ頭のMSが姿を現す。ゲルクの搭乗するバージムである。

 

「砂漠の真ん中で戦争ゴッコとはいいご身分ダ」

 

 

 

 

 この場にはFLN側はディザート・ザクに乗るアマジーク、ホワイト・ウォール側はハイザックのマイクもいた。アジスとマサイの戦闘を傍観していた。

 つまり、全員が()()()()()のグルである。

 

「敵勢力と通じて、サバイバルゲーム? ソレを給料泥棒といウ」

 

 バージム右手のビームライフルはマイクのハイザックをロックオンし、左手のクレイバズーカはアマジークのザクに向けられていた。当然、ふたりもバージムに武器を向ける。

 

「……金で(かた)をつけないか? お互い傭兵だろ?」

 

 苦々しくアジスがいう。

 

「『地球を守らねバ』と戦ったティターンズの言葉とも思えなイ。エルゴレアも金で転んでわざと制圧させたのカ?」

「事情も知らないでなにをいう! アジスは水を皆平等に使えるように・・・・・・」

「マサイっ! いいんだ」

「ホゥ。金ではなク、女に落とされたらしイ」

 

 岩陰からゲルググが飛び出した。一挙動でビームナギナタを抜くと、バージムに肉迫する。

 バージムは棒立ちのまま動かない。

 危ないところで、横からアジスのハイザックが体当たりし、ゲルググを阻止する。

 マイクとアマジークは判断がつかずに動けない。

 

「お姐さん、そういうことするのやめてください。でないと、ぼく、このふたりを蒸発させなきゃならないんで」

 

 ディジェに乗るモシェがやんわりと警告する。ディジェは左手をアイザックの肩に置き、接触回線を開く。

 

「口先だけなんで。そんなことするつもりないですから」とモシェ。

「おっ、やさしいねぇ。さすが、MSオタク」とヒンカピー。

「違いますよ。ぼくはガンダムオタクですよ」

 

 緊張感がなさ過ぎる。

 

「ヒンカピーさん、知ってました? こいつモノアイの奥にツインアイ用のソケットがあるんですよ。チンガードを外せばガンダムに早変わり! ディジェガンダム? いや、ガンダムDかなぁ」

「ほぅ」

 

 長々と続く。

 

「で、リック・ディアスから急造で仕上げたせいか、バランスは微妙です。ちぐはぐな感じ? サブ・フライト・システムと組み合わせた戦闘爆撃機的な運用が多かったらしいので、陸戦用でも、さてどこまで、みたいな感じですよ。

 マニアとしては、いくらディアスがガンマガンダムという開発コードがあったとしても、ディジェをガンダムと呼ぶのは抵抗感あるんですよ! ただ、あのアムロ・レイ大尉の乗機ですし」

「なぁ」

「しかも、ガンダムヘッドにできるってことなら! ……でも、なんで大尉はガンダムにしなかったんだろ? 連邦に禁じられてたからなのかなー。ヒンカピーさんはどう思います?」

「そういうことしゃべる状況じゃないよな」

 

 普段おどけた調子のヒンカピーが説教する。

 

 

「……デハ決闘で勝負をつけよウ」

 

 いつの間にか、ゲルクとアジスたちの方は裏金でも横流し物資でもなく、(おとこ)臭い決着をつけることになっていた。

 

「2対2ではおもしろみがなイ。4対1でどうダ? アイザック以外の全機でかかってこイ」

「えぇっ!?」

「サイボーグ(あま)ぁ、なめてんのかっ!」

 

 モシェの悲鳴とマイクの怒号が重なった。

 

「実力を考慮していってル」

「落ち着け、マイク。そっちがそれでいいなら、異論はない。約束通り、こちらが勝ったら会社には黙っていてくれるんだな?」

「二言はなイ」

 

 力強く答えるゲルクを、モシェは不安に思う。

 

「大丈夫ですか?」

「実力を考慮しタ、といったろウ。ソレに伝説のアムロ・レイの乗機ダ。ソノぐらいのハンデをくれてやってもいいだろウ」

「え? ディジェ使うんですか?」

「ああ、オマエがナ」

「え・・・・・・」

 

 

 

 

 ディジェの正面には1キロの距離を隔てて、2機のハイザック、ゲルググ、そしてディザート・ザクが対峙した。

 高台に立つバージムが真上に向け、ビームライフルを放つ。

 合図と同時にハイザックとゲルググは散開した。

 だが、単機ディザート・ザクを駆るリキは突撃する。彼はアマジークにパイロットを代わってもらっていた。

 

「ガンダムもどきめ、ぶっ壊してやる!」

 

 ガンダムは敵だ。

 リキはフットペダルを全力で踏む。

 

 

「なるほどね」

 

 ディジェのコクピットでつぶやくモシェにとって、この展開は想定内だった。

 ハイザックは中・長距離射程をいかして射撃戦をするだろうし、その隙間をぬってゲルググが接近戦を仕掛けてくることも考えていた。

 わからないのはディザート・ザクだけ。まさか、一直線に向かってくるとは思わなかったが、推力は陸戦型ザクに毛が生えた程度なので、対応する間があった。

 

「やる気は買うけど早死にするよ。ま、遊んであげるっ!」

 

 ディジェはホバーで横移動しつつ、右手のビームライフルを無造作に上げる。HUDの照準にザクをとらえかけたところで、ロックオン警告音がなる。右急旋回でハイザックからの照準を外す。

 

「さすがに、簡単にはやらせてくれないか」

 

 警告音は断続的だが、鳴り止まない。「3秒連続でロックオン」された場合、撃墜判定というルールだった。左右に二回切り返して、ようやく2機のハイザックの射線を外すが、

 

「うわっ、次はお姐さんか!」

 

 ビームナギナタの軌跡も鮮やかに、ゲルググが躍りかかった。今回は格闘戦もありだ。

 ディジェも同じくビームナギナタで光刃を受ける。低出力でも、光刃が生むIフィールドの干渉は2機の装甲をまぶしく照らす。

 

(格闘戦をやってるうちは、ハイザックもやたら狙えないだろうけど)

 

 足の遅いザクが追いつき両刃型ヒートホークを振り上げた。ディジェとゲルググの立ち位置を入れ替えながら、赤熱刃をかわす。

 

「ザコでもうっとおしい!」

 

 モシェの顔がイラつき歪んだ。

 背後を斬りつけようと追いすがるザクには、ゲルググから離れざま横蹴りを入れ距離を取る。

 

「あぶなっ!」

 

 不用意な後退だったのでゲルググの光刃が右肩シールドをかすり、縦の筋を描いた。

 さらに、短い後ろ跳び(ショート・バック・ステップ)で逃げるディジェ。そこへ再度ロックオン警告。ハイザックの十字砲火だった。

 

(だから、4対1なんて無理なんだって!)

 

 心中で不平をもらしつつ、モシェの手足は絶え間なく動く。ジグザグの機動を見せ、ディジェが逃げ続ける。

 2秒近いロックオンが続く中、唐突に途切れた。

 砂漠に出現した岩山の陰にディジェが入り込んだ。実際には、攻撃を避けながらモシェが意図的にそこへ逃げたのだった。岩山は高層ビルを3、4棟つなげた大きさがある。

 もっとも、砂漠にひとつある岩山は、

 

(あんまり役に立たないよなー。さて、どうする?)

 

 時間稼ぎにしかならない。モシェはほんの数瞬だけ逡巡し、作戦を立てた。

 

 

「マイクと俺で回りこむ。逃げてきたところをマサイたちが!」

「わかったよ、アジス。遅れるな、リキ!」

 

 モニター正面の岩山に対してアジス機が左に、マイク機が右に旋回する。

 マサイのゲルググとリキのザクは岩山に直進した。

 アジス機は山陰に隠れたが、マイク機は岩の向こうに行きかけ、引き返す。岩山を一周したディジェが戻ってきたのだ。

 ゲルググがビームライフルを照準する。

 

「終わらせる!」

 

 

「ぐっ、マサイさんか」

 

 ゲルググとディジェは中距離、ライフルの間合いだ。回避しつつディジェも右手のビームライフルで応射の構えを見せる。

 

「さっきみたいに仕掛けて来いよっ!」

 

 じりじりするモシェは強い口調になる。

 ディジェ左手のナギナタはだらりと地面に向けて下げられていた。光刃は大地の砂を焼いている。

 先に格闘の間合いに飛び込んだのは、リキのザクだった。

 ナギナタでヒートホークを受け止めつつゲルググをうかがうと、射撃をあきらめ突撃してくる。

 

(よしっ!)

 

 敵を威嚇するように、ディジェの背部大型放熱フィンが展開した。

 ビームナギナタの光刃が不意に消える。つばぜり合いからザクは前のめりに姿勢を崩した。

 ディジェは機体をスピンさせザクを十分に引き込みながら、バックブロー気味にナギナタを払う。再度出現した光刃はザクの首元に命中した。

 

「ひとつ!」

 

 通常の出力なら首をはねていただろうが、今は装甲を焦がす程度ですんだ。

 背後からすさまじい殺気! ゲルググが迫る。

 回頭させずに、ディジェは背部スラスターノズルを四方に向け、噴射する。

 

「なに!?」

 

 マサイは驚愕する。

 あたりがディジェのナギナタに焼かれた熱砂と、ガラス粒子によってベールがかかる。光学センサーとサーマルセンサーが死んだ。

 

「見えなくったって!」

 

 格闘戦の間合いだ。マサイは予想位置の正面に光刃を突きこむ。手応えがない。

 直後、ゲルググの背後から衝撃を感じた。強くはない。だが、宙返り(サマーソルト)から後ろを取ったディジェのナギナタに三度斬られていた。

 

「ふたつ!」

 

 砂煙が晴れる前にモシェは敵意の方角へディジェを突っ込ませる。マイクのハイザックだった。アジス機は岩山が邪魔になって、援護できない。

 ハイザックとディジェが同時に互いのランチャーとライフルを向ける。実戦であれば、相撃ちだったかもしれない。だが、「3秒ロックオンルール」である。

 反撃に戸惑い、マイクはショート・バック・ステップで逃げる。

 その隙にディジェは一旦上昇し、低空で頭頂部をマイク機に向ける。爆発的にスラスターが青白い花弁を咲かせた。

 頭から突っ込むディジェは激突寸前で、ハイザックの左側方を擦過する。

 瞬間、マイクは全天周囲モニターの正面に、ビームの輝きが(はし)るのを見た。すれ違いざまナギナタでモノアイを一閃されていた。

 

「みっつ!」

 

 ようやく、アジス機からのロックオンがうるさい。急旋回しロックオンを外す。

 ディジェもビームライフルを向けるが、今までとうって変わってゆっくりとした動作だった。

 

 

 

 

 アイザックのタイマーが0を示す。

 

「時間だ。どっちも武器を引いてくれ」

 

 ヒンカピーが終わりを告げる。

 

 

「なぁ、モシェ。お前わざとドローにしただろ?」

「そんなことないですよー」

 

 隣に立つディジェと接触回線を開き、ヒンカピーがいう。4対1で3機被撃墜判定であるから、実際はアジスたちの完敗といえる。

 

「ま、そういうことにしとこうか。鉄面姐さんもやさしいのな」

「そうですか? この前ラオスじゃ一個小隊皆殺しにしましたよ」

「あ、はは……。それは、……知らんけど。

 でも、本当に密告するつもりなら、決闘なんかしなかったさ。ガルダーヤに帰って、上に報告しちゃえばそれですむことだろ?」

「確かに」

「ワイロも要求しないし」

 

 マサイのゲルググとアジスのハイザック、そしてゲルクのバージムが機体を寄せていた。コクピットを開放した彼らは肉声で話しているらしく、ヒンカピーとモシェは聞こえない。

 

「やさしいよなぁ。『こんなことやってると、いつか消されちまうぞ』って忠告だよ」

 

 ヒンカピーの言葉を理解したモシェは気づいた。ゲルググとハイザックは互いに寄り添うように立っている。

 

「そういうこと? はぁー、ごちそうさま。砂でじゃりじゃりするんだからさー、早くシャワー浴びたいなー」

「そういや、モシェくんよ」

「はい?」

「首は平気なのかい?」

 

 MSには過大な加速による怪我からパイロットを保護するため、Gリミッターが設けられている。明らかにディジェの機動は制限(リミッター)を取り去った、機械的(マシーンの)極限に近い性能だった。

 

「オイラが見たところ、相当の対G特性の持ち主じゃなきゃ」

 

 首を痛めるだけでなく、脳にダメージを負う可能性もある。モシェの体つきは細い。

 

()()()人間にゃあんな曲芸はできないぜ。こんなこと聞きたくないがね。お前さんさぁ、……」

 

 ふと、ガルダーヤの方角から小さな光が向かってくるのが、モニターに映る。ワッパのヘッドライトだ。ワッパは地上すれすれを飛ぶホバー・バイクである。

 まだ遠い。が、モシェたちに気づいたらしく、さかんにパッシングしている。

 と、

 

「ザ―――、野盗が襲撃してきた! バロンが応戦してるが数が多い!」

 

 ガルダーヤに残したブッホの同僚、ルイスだった。

 無線に混じる風切音から、相当飛ばしているらしい。

 

 

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