野盗の攻撃は奇襲ではなく、強襲だった。ガルダーヤの郊外、砂漠に埋設したセンサーが敵の接近をとらえたためだ。
対応できたのは不測に備え、地上で待機していたバロンのバージムと、10台のガルダーヤ防衛隊のミサイル・エレカだった。荷台に有線ミサイルを装備した簡易対MS戦闘車両である。
バロンは街の外に退避する。
(地下街の制圧が目的なら、準備砲撃が来る)
だが、予想したような対地ミサイルや砲弾は降ってこなかった。
(その手の武器を持たないか、地上街も無傷で手に入れたいから、か?)
バージムをホバー走行させながら、バロンは思い巡らせる。
ナイトビジョンの単色の世界、全天周囲モニター正面に広がる砂漠の地平はモヤがかかったように、不明瞭になっている。
「む!」
とっさに急旋回したバージムの脇をビームの光軸が
バロンもビームライフルを応射する。
ガルダーヤ北面から迫る3機の敵
「ほぅ、袖が付いているな」
敵機の前腕部に施された
「悪い冗談だ」
バージムは稼動範囲の広い股関節による低い姿勢と、大出力スラスターでホバー旋回を続ける。右手のビームライフルが再度閃いた。
袖付きのパイロットは、その体勢で正確な射撃がくるとは思わなかったのだろう、ターン切り返しのわずかな停滞した瞬間に、1機のゲルググが光軸に貫かれた。
腹から背に抜けるメガ粒子の槍はエンジンを大爆発させ、機体を木っ端の部品に変えながら砂漠を照らす。
「しかし、貴公らも武人ならばわきまえていよう。生きるも死ぬも時の運」
足並みを乱した隙を突き、ホバーで後退する1機を追う。さがりながら、牽制のビームを放つゲルググだったが、殺意のこもらぬ射撃は、
「狙いも甘いことよ」
頭上をすれすれで通過した光軸がバージム頭部のトサカ状のアンテナを焦がす。
反撃に見舞ったビームはゲルググの右大腿部を貫通。右脚がもげ暴走した推力によって機体はコマのように回転した後、砂を撒き散らして転倒する。
最後の1機はわずか数分の内に僚機が墜とされ、恐れをなしたかガルダーヤの方角へ急加速し逃れた。
「ずいぶんといい逃げっぷりだが、・・・・・・」
そのスピードにいささか疑念を抱いた。
(ゲルググにしては妙な?)
回頭しガルダーヤの方角へ戻す。戦火による炎が街のあちこちから上がっていた。
「すでに、中心まで入り込まれたか」
わずかに歯噛みしたバロンはフットペダルを踏み込んだ。
*
バロンとは街をはさんだ反対側。
「ペンプティの偵察が当たっていたか」
ほとんど抵抗らしいものも受けずに街を制圧でき、眉尻が下がる。
が、彼が駆る水陸両用MS、ゼー・ズールのコクピットを緊迫した無線が引き締める。
「アヴリル中尉! アランとザカリーがやられました。援護を頼みます!」
北から南下し、街を挟撃する予定のテッセラ・マッセラからだ。冷静沈着なテッセラがめったに出さない焦りを含んでいる。
「敵は何機だ?」
「1機です。ティターンズのバーザム」
「バカなっ!」
アヴリルは声を荒げる。
(ゲルググの『皮をかぶった』機体を、しかも1個小隊をたった1機で相手する!?)
ありえない。テッセラは公国軍時代からの古参兵なのだ。
「私が行く。他は地上の掃討と地下街の制圧を急げ」
アヴリルがいうと、曲がり角から出現したミサイル・エレカが誘導弾を放つ。スラスターのスピンターンでかわしたゼー・ズールは、左手のザクマシンガン改をワンショット。車体はバラけた。
「弱いのに、出てくるからそうなる!」
イラつきを、どなって発散する。
フットペダルを底まで踏み込む。いまや水中用装備を放棄して久しい。身軽になったゼー・ズールは空に躍り上がった。
上空からは戦況がよくわかる。
一旦、北上し郊外に逃げた敵機バージムは反転、メインストリートを猛然と南下していた。ゼー・ズールが自由落下に入ったときには、テッセラ機を追うバージムは早くも右折―西に曲がる。旧市街のうねった街路で流星のスラスター光を見せていた。
重力加速を感じながら、アブリルはトリガーを絞る。ゼー・ズールの右手、ビームライフルから光軸が伸びる。
狙いは甘かった。外れた。
が、直後にバージムが見せたインメルマン旋回風の縦ロールはすさまじい。まだ空中にあるゼー・ズールに肉迫しながら、バージムがビームを応射する。
「く・・・・・・っ!」
とっさに腕を振り、スラスター噴射。殺意の光軸が右上腕部を焦がしていった。バランスを崩し、ゼー・ズールのライフルは明後日の方角に向けられている。
(次弾が!)
敵の畳み掛ける攻撃を予期し、ゼー・ズールは左手ザクマシンガンを牽制に放つ。
すでに近距離に入ったバージムは弾雨をものともせず突進し、そして、
「なに!?」
アヴリルはバージムが投げつけたビームライフルを撃っていた。Eパックに命中した刹那、あたりは照明弾に等しい輝きに満たされた。
閃光と熱を突き破って、バージムが迫る。袖口から飛び出したグリップは早くも光刃を形成していた。
ゼー・ズールが唐竹割りにされる直前、巨大な爪がビームサーベルを受け止める。ザクマシンガンを投棄するや左前腕からは電熱兵器ヒートクローが飛び出していた。
両機の接触回線がつながる。
「ビーム兵器はクラッカーじゃないんだぞ!」
「問題ない。貴様のライフルを奪って撃つ」
激昂するアヴリルと冷静なバロンは対照的だった。
2機はからみ合いきりもみ状態になる。墜落の寸前で、バージムがゼー・ズールを蹴り反動で離れる。
バージムは狭い街路の交差点に軟着地したが、ゼー・ズールは一軒の空家を倒壊させながらのハード・ランディングだった。
彼我の距離はおよそ200メートル。アヴリルは焦る。
(奴にはライフルがない。距離を保って射撃戦に持ち込めば、・・・・・・だが)
常識で考えればそうなのだが、バージムの戦い方はどこか、
(キレてる! 正攻法では勝てない)
である。
アヴリルが決断する間もなく、再度バージムが突撃にスラスターをふかす。
瞬間、ひらめいた。
「欲しければ、受け取れ!」
ゼー・ズールがバージムに向けビームライフルを投げつける。
アヴリルはバージムがライフルをとっさに斬りつける、と予測した。しないまでも、ぶつかるか、かわすかしていずれにしろ、
(隙ができるはずだ)
想定外だった。
ほぼ同時にバージムもビームサーベルを投げていた。回転する光刃がビームライフルを両断し、先ほどと同じ超小型太陽が出現する。ちょうどバージムとゼー・ズールの中間距離であった。これはアヴリルだけでなく、バロンも驚いたらしくバージムの足が止まっている。
衝撃から立ち直るや、
「一旦退く!」
「惰弱」
後方斜め上空にスラスターで跳躍するゼー・ズール、そして、猛然と機体を突っ込ませるバージム。
明と暗が分かれた。機体の性能より、思い切りの良し悪しがはっきりと出た。
ゼー・ズールの全天周囲モニターの足元から、バージムは沸きあがるように迫る。その左袖口からサーベルグリップが飛び出す。
転瞬、長大な光刃はすくい斬りにゼー・ズールを
(どこで間違えた・・・・・・?)
目前に横たわる自分の死をアヴリルはゆっくりと眺めた。
(トリントンか? 箱が開放されたときか? それとも、・・・・・・)
堂々巡りの後悔が渦巻き、答えはかけらもなかった。
「アヴリル中尉っ!」
女の無線と共に、バージムに榴散弾が撃ちこまれる。近接信管によりばらまかれる散弾雨がガンダリウム装甲を打つ。
我に返り回避入力したアヴリルと、わずかにひるみ軌道をそらされた斬撃。バージムのビームサーベルは空を切り裂くにとどめた。
アヴリルはフットペダルを強く踏み、さらに距離を取る。
「敵の増援です。包囲されつつあります。援護します、撤退を!」
街路の低木に潜みマゼラトップ砲を構えるザク・ディザート、クイント中尉からの無線だ。バージムへの一撃も彼女である。
「・・・・・・頼む」
苦々しくアヴリルは応答する。
クイント機が
「クイント中尉も早く、・・・・・・」
モニター上の
そのとき、街の郊外にいたザク・ディザート、クイント機の信号が消滅した。すでに戦闘地域を脱したアヴリルは、遠く爆発音を聞いた気がした。
*
ガルダーヤの地下街に設けられた留置施設。
時刻は真夜中に近い。
一室からあからさまに不満そうな男たちが退去する。ガルダーヤ防衛隊の面々である。半脱ぎのズボンのベルトを締めなおしている男もいた。
「すまなイ。コノ埋め合わせはいづレ」
原稿を読み上げるような電子音声のゲルクは、モシェをともなって部屋に入る。
「クイントさんと呼べばいいのカ?」
「クイント
ゲルクは床に落ちヒビが入ったメガネを、ジオン残党のクイントにかけてやる。後ろ手に手錠をはめられ、パイプ・イスに拘束されたクイントにはできない。
「ワタシたちが間に合って良かっタ。もう少し遅かったら、『お召し上がり』にされてたところですヨ」
一年戦争の頃から従軍するクイントだが、女の
「もう少し早ければ、殴られずにも済んだのに」
クイントがいう。
「そうですネ」
ゲルクが答えて、裏拳気味にビンタを放った。
メガネが粉々に砕ける。一緒に白いものが宙を飛んだ。クイントの歯だ。彼女自身もイスごと床を転がった。先ほどの連中どころではない。人工筋骨格が生み出す、意識が飛ぶほどの痛撃である。
「起こセ」
「はいはい。暴力反対ですよー」
「戦車で人をひき殺すヤツがいうことカ」
「マゼラアタックは戦車じゃなくて、自走砲ですよー」
まじめなのか、ふざけているのか、モシェはクイントを起こす。
ゲルクは抜いたナイフをもてあそんでいた。
「コノ緑のブレードはガンダリウム合金の装甲から削りだしたから、とても軽イ。使いやすくてネ。オマエはいい素材になりそうダ」
近づき、クイントの前でかがむと目線を合わせた。
「まずは足の小指から切り落とさせてもらウ。何本目で吐くか賭けようカ?」
ゲルクは笑って後ろのモシェを振り返った。顔を戻したところに、クイントが血唾を吐きつける。
瞬間、ナイフの切っ先はクイントの左眼球に突き立てられ、
「ぎっ・・・・・・!」
カチリ。
クイントは悲鳴を飲み込み、ゲルクは動きを止めていた。
「なんのつもりダ?」
モシェがK-38小型リボルヴァーをゲルクの鉄仮面に向けていた。
「目はやめましょう。傷の衝撃で死ぬかもしれませんよ」
「知ったような口をきク」
「ええ。知ってますから」
自信たっぷりのモシェに、(おや?)と思いゲルクは再度振り返った。
「ぼくもやられましたから。ほら」
モシェは自身の左目に手をやり、目玉を抜いた。眼球そっくりの巨大コンタクトレンズを手の平で転がす光景はシュールだった。
「なんダ、義眼なのカ。おどかすナ」
「や! 驚いてはくれたんですね? 大成功♪」
モシェはにこにこと笑うが、左目の生々しい肉色との組み合わせは、ひどくアンバランスだった。
「これ死ぬほど痛かったですよ。美人のクイントさんにはこうなってほしくないなー」
「ちょっと、ソレ貸してくレ」
「ほいっ」
モシェが投げた義眼をキャッチし、ゲルクはクイントの顔に押し付ける。
「オマエもえぐって欲しいのカ?」
*
「じゃりじゃりー。シャワー浴びたいー。眠いー」
モシェをなだめすかし、ゲルクとバロンの3人はブリーフィングで借りたカフェに集まる。とうに閉まった店のカウンターが占拠され、勝手に冷蔵庫の中身を飲み食いする。
「今回はワタシの失敗だっタ。バロンにはずいぶん迷惑をかけたナ」
冷えたビールの缶をバロンに渡しながら、ゲルクがいう。
「ひとつ貸しにしておこうか」
「あれー? 勝手に決闘とかさせた、ぼくにはいうことなしですか?」
「まさカ! ほうびを取らせよウ」
芝居がかった口調のゲルクは冷凍庫へ向かった。プラスティックの箱とスプーンを持ってくると、
ドンッ!
乱暴にモシェの前へ置く。モシェの顔がひきつった。
「オマエの大好きなアイスクリーム2リットルダ。好きなだけ食エ」
「ぼくが甘いの苦手だって知ってるくせにー! 嫌がらせだよぅ」
「決闘というのはなんだ? ホワイト・ウォールとなにかあったのか?」
「実は、・・・・・・」
ゲルクが説明する。
「なるほど・・・・・・。しかし、私はネオ・ジオン残党の方が気になる」
「同感ダ」
先ほどの戦闘。
孤軍奮闘するバロンに加え、ガルダーヤに急行したブッホのゲルク、モシェと、ホワイト・ウォールのアジスら5機のMSに挟撃され、袖付きは退却した。
バロンがいう。
「
「おかしなコトは他にもあル。ワタシはヒンカピーと一緒に、撃墜したMSの検分に立ち会っタ。アレは外装だけゲルググだっタ。内骨格にムーバブル・フレーム、おそらくネモだろウ」
「それは確か元カラバのMS・・・・・・」
ゲルクがうなずく。
「タイミングからいって残党がコノ街に斥候を入れていたのは間違いなイ。というコトは、前々から狙っていタ。だが、武器やMSの強奪が目的なら砂漠でワタシたちを待ち伏せているはずダ。連中はガルダーヤを襲っタ」
「はぁー……。前のネオ・ジオン/FLNの襲撃はガルダーヤ地下街を制圧するためだったんですよね?」
ため息をつくモシェ。一向に減らないアイスを食べつついう。
「そうダ。もっとも10年前のハマーン軍と今日の袖付きでは立場がまるで違ウ。当然、目的も違うだろウ」
「一年前の第三次のとき、うわさがあった」
ふと、バロンがいう。
「袖付き一部部隊に新たなスポンサーがついた、と」
「一部部隊?」
モシェが身を乗り出す。
「地球に降下していた連中だ。ガランシェール隊、とかいってたな」
「スポンサーというのハ?」
「ルオ商会だ」
「なるほド。パズルピースが集まってきたナ」
「と、いうと?」
バロンがきく。
「捕虜を尋問して聞き出しタ。連中にゲルググもどきを渡したのも、ルオ商会ダ」
「きな臭いな」
「ココからは全部ワタシの推論ダ。ガルダーヤの北西、ハシルメルにガス田があるのは知ってるナ?」
いきなり登場した固有名詞に戸惑い、モシェがきく。
「確か……、ヒンカピーさんたちホワイト・ウォールが守ってる、半公営のガスポロム・コンツェルンの……、ガス田ですよね?」
「そうダ。旧世紀からあるガス田だが、地中海のアルジェに抜けるパイプラインを新たに開発しタ。コレは当初、ほとんどの資金をルオ商会が投入していタ。ところが完成間近になって、連邦政府がストップをかけタ。環境破壊を理由にナ」
バロンが
「こんな砂漠の真ん中で環境破壊か。滑稽だな。それで?」
「開発は頓挫するかと思われたガ、先のガスポロムが参画するコトで一応の決着はついタ。が、パイプライン合弁会社の持ち株は51パーセントを持っていかれタ。対するルオ商会は24パーセント」
「それじゃルオ商会は金を出すだけ出して、やられっぱなしじゃないですか!」
「そうダ。そして、残りの25%を取得したのがライヤー物産、つまりホワイト・ウォールの親玉ダ。さらに、イーサン・ライヤーはガスポロムの役員にも名を連ねているし、連邦軍出身の政治家にも顔が利ク」
「それだけ調べていた、ということは
「まぁ、ナ」
バロンの言葉に、ゲルクはにやりと笑う。
「面白いな。OASを支援する名目で北アフリカに私兵を置くホワイト・ウォールに、商売ガタキに一泡吹かせたいルオ商会。商会は以前のコネを利用し袖付きに接触、裏から手を回してガルダーヤを制圧させようとした」
「そうか! ネモは昔ルオ商会が支援していたカラバで使われてたMSだし、ガルダーヤを押さえればガス田までは目と鼻の距離なんだ!」
「声が大きいゾ、モシェ! さて、コレから連邦政府とFLNがどう動くカ、見ものダ」
「アジスとマサイさん、ロミオとジュリエットになっちゃうのかな?」
「もうなってル」
いまさらのモシェに、ゲルクがあきれた。
「元ジオン軍人の私から見て、ゲルクの仮説には不可解な点がある」
バロンがいう。
「なにカ?」
「ジオニストは理想主義者かつナルシストだ。私兵と違って金で転ぶことを嫌う。形の上で従属していても、それは偽りか、あるいは秘めた目的を持ち協力しているように見せているだけだ」
「袖付きがルオ商会の手先になっているのは、裏があるってことですか?」
モシェの問いにバロンはうなづく。
「元ジオニストの分析なら確かだろうネ。ソレで、・・・・・・オマエはナニをたくらんでブッホの私兵をしていル?」
ゲルクの仏像面、目のスリットの奥で暗い光が瞬いた。
「私は滅私奉公するつもりさ。ブッホこそ、これからどうするんだ?」
どこ吹く風でカイザル髭を整えるバロンに、「上が決めることダ」と肩をすくめるゲルク。ひとりモシェは親のカタキに出会ったような顔をして、アイスをがっつく。
3人の頭上で