戦いは宇宙へと移っていった。
終息宣言ともいえるミネバ・ザビの放送を、アヴリルはアフリカへ脱出する潜水艦で聞いた。
「……私たちの中に眠る、可能性という名の神を信じ――」
銃声。
耳鳴りの中、モニターに弾痕があり、黒い板と化していることにアヴリルは気づく。
古参兵のひとりがヴァルタP8拳銃を握っていた。
「われわれが独立戦争、いや連邦の犬にいわせれば一年戦争でしょう、それから長い年月、身をやつしてまで戦ってきたのはなんだったんです。
人の善意? そんなんじゃない。主権国家としてのジオン承認でしょう! その可能性を信じて戦ってきたんです。
苦労も知らない小娘の、訳のわからん可能性のためじゃない! 違いますか、中尉?」
銃口から立ち上る青白い硝煙は、彼の積年の恨みと怒りに見えた。
古参兵とアヴリルとの付き合いは短い。地上に降りてからだ。それこそ、アヴリルが小学校のまずい給食に文句をいっていた頃から、地球に残り戦っていたのだろう。
硬くなった彼の心に、ミネバの善意はとどめを刺した。アヴリルはかけるべき言葉を持たない。
詰め寄ろうとする兵はアヴリルの肩をつかみ、・・・・・・かけてやめた。
その後の動作はいたって自然だった。
彼は拳銃を左手に持ち替え、目が覚めるような敬礼を送った。
「ジーク・ジオン」
そして、自分のこめかみを撃ち抜く。側頭部に銃口を押し付けたため銃声はボスッ、とくぐもった不気味さを含んでいた。
(あれから一年半、か)
アヴリルはアジトの隠ぺいした入り口から外をうかがう。
ここはガルダーヤの東北東70キロ、ゼルファナの街郊外。干上がった
ガルダーヤの襲撃に失敗してから十日が過ぎていた。
スポンサーであるルオ商会に連絡をとると、
「補給はない。再度、攻撃をかけるように」
有無をいわせぬ指示があった。
五日前、ガルダーヤへもう一度斥候に出たペンプティは戻ってこなかった。
(これまで、か)
横穴の奥に戻ると、最後まで残った10余名の部下、―いや今は同志といったほうがよいか―が思い思いに体を休めていた。もはや、軍隊の
(同志・・・・・・。だが、こころざしもなく、か)
野盗に成り下がった自分、そして彼らの姿を見てアヴリルは感情が高ぶった。
不意に声がかかる。
「アヴリル殿」
「ああ、テッセラ中尉。すまん、ちょっと砂が目に入った」
慌てて袖でこする。ネオ・ジオンの意匠をこらした袖も、ほつれたままにされて久しい。
「そろそろ出撃しましょう」
「わかった。皆を起こしてくれ」
アヴリルは自決した古参兵を思う。
(ゲリラとして戦った苦節の16年と、こめかみに銃口を当て引き金を絞る一瞬。はたして、どちらが、苦しかったのだろう?)
今のアヴリルに残された選択肢は少ない。
降伏しテロリスト袖付きとして厳しい罰―おそらく死―を受けるか、このまま砂漠に日干しにされるか―これも死―、もしくは、
(戦っていさぎよく討ち死にするか。それもいいだろう。心残りは連中を宇宙に帰せないことだ)
ルオ商会に協力するに当たって、アヴリルは条件を出した。
「希望者を宇宙へ帰してやって欲しい。ほかに報酬はなにもいらない」
である。
(だが、今となってはどうすることもできないな)
アヴリルは寂しげに笑う。
そのときだった。
横穴の外から湧き上がるようなスラスターの爆音。入り口にかけられた砂色の布は噴射にあおられ、ばたついていた。
(
戦闘準備を終えた同志たちに、
(穴の奥へ逃げろ)
身振りで指示しながら、自身は入り口の布をひそかに開ける。
はたして、2機のバージム、そしてディジェが扇状に囲んでいた。当然、その手のビームライフルやクレイバズーカを向けている。
アヴリルは深く吐息する。彼らのMSは外の砂漠に潜って隠されていた。横穴の入り口はこのひとつしかない。
(絶体絶命か)
振り返ると、テッセラがなにか悟ったような顔をして、腰から手榴弾を取り出した。だが、決心がつかないのか、アヴリルの命令を待っているように見える。
「ここまでだな。テッセラ中尉、それを私にくれ。ピンは私が抜・・・・・・」
「アノちっぽけな石ころをパラオと名付けたヤツは間違いなく皮肉屋だろウ」
唐突に、バージムの外部スピーカーから響く電子音声。
アヴリルは全身が硬直するのを感じた。彼だけでない。一緒に降下した袖付き組の同志は全員動きを止めていた。
ゲルクがいう『パラオ』とは、太平洋に浮かぶ美しい島々の楽園、ではない。地球と月の引力の拮抗点、―ラグランジュ点―通称L1に浮かぶ鉱物資源衛星のことである。
そして、かつて袖付きがジオンの再興を秘めた拠点でもある。
「シリンダーの端、『山』から吹き降ろす砂風。シャフトにたまった『永久の霧』。アレは幻想的だっタ」
霧の正体はパラオ中心軸周辺、無重力帯に漂う
「しかし、何年も止まったままのシールドマシンは不気味なオブジェとも思えたナ」
(こいつはパラオを知ってる)
アヴリルは思う。
捕虜から聞き出した内容ではない。特に理由があるわけではない。しいていえば、直感である。
「夜も早イ。夕食はウサギのソテーにしよウ」
「中尉っ!」
テッセラの制止も聞かずに、アヴリルは飛び出した。腰のヴァルタP8を抜き、バージムへ向ける。
雲ひとつない青空の下、乾いた銃声が響くだけ響いて消えた。
薬室には装てんされた弾丸が残っている。だが、まだ踏ん切りがつかなかった。
それを見透かしたように、
「死ぬ決心があれば、なんでもできるはずでス。アブリル中尉」
ゲルクがいう。
「大義もこころざしも失ったのなら、ワタシがあなた方に新しい、そして最後の役を与えましょウ」
*
ガルダーヤから北北西およそ60キロ。ハシルメル・ティウアン空港内、
遅い夜のラジオからはドイツ女の甘ったるい歌声が流れていた。ライブ音源なのか、曲の終わりに拍手が起こり、DJがしゃべりだす。
「マレーネ・ディートリッヒの『リリー・マルレーン』でした。次は、うって変わって最近のカバー曲です。去年のヒットナンバー、フロンティアで『未来の二人に』」
ソファで寝そべっていたひとりがバネ仕掛けのように上体を起こした。
「俺、サイドギターのエレドア・マシスの大ファンなんだよ!」
曲が段々と盛り上がり、サビに入りかけたところで、
ヴィ―――!!
アラートが鳴るや、パイロットたちはドアに向け駆け出す。外はMSハンガーになっている。3機のマラサイが
ベースジャバーは有人・無人飛行ともに可能な航空機である。メガ粒子砲を装備しているので戦闘爆撃機的使い方もできる。ホワイト・ウォールではベースジャバーは無人で運用している。
やがて、3機はスクランブル発進した。夜空に蒼白いスラスター光が映える。
離陸後、旋回し北に進路を取る。
「ガス田プラントか!?」
「いや、北ルートのパイプラインだ」
隊長機からデータリンクされ、また地上のオペレータから無線が届く。
「敵はプラントから北35キロ、河床にかかるパイプラインを破壊した模様。目撃した作業員によると、メンテナンス中に突如MSが出現、攻撃してきたとのこと。規模は一個小隊程度」
「了解した、急行する」
「緊急弁を閉鎖していますが、現場では火災が発生しています。ご注意を!」
眼下のプラントを通過し、3機はさらに北上する。亜音速のベースジャバーであれば、3分とかからない。
「各機、上空擦過しつつ散開。索敵しろ」
「了解」
「撃つ時は注意しろよ。いくら弁が閉まってるからって、パイプにはまだガスが・・・・・・」
隊長がいいかけて、口を閉じる。正面に早くも炎の明かりが見えた。
「ひどい・・・・・・」
僚機パイロットがうめく。
パイプラインは長さ数キロに渡って破壊され、連なった火炎はまるで、
「
もうひとりのパイロットがつぶやく。
ぼんやりと水平飛行をしていた隊長は自身を叱咤させるように、フットペダルを踏み、操縦桿を倒しこむ。
「ぼやっとするな! 警戒区域だぞ」
わずかに遅かった。
夜空を照らす二条のビームが味方のベースジャバーを貫通する。
「ゲリラふぜいがビーム兵器を使うのか!?」
しかも、亜音速機を落とすほどの技量である。照準もよく調整されている。
全天周囲モニターにサイドミラー風に表示される火球となって墜ちるベースジャバーに、隊長は痛恨の思いだった。無人であったのがせめてもの救いだ。
2機のマラサイは四肢を振りつつ降下し地上を目指す。狙いを定めさせないよう、ジグザグのスラスター光跡を描いていった。
「バルド、ラマン、一旦退くぞ! 一撃加えてから回収する」
隊長のベースジャバーは横ロールしながら、機体下面のメガ粒子砲を旋回させる。
光学センサーが捉えたビームの軌跡を、コンピューターが分析、敵予想位置がはじき出された。
(火災の向こう? 炎に隠れて狙撃か。こしゃく!)
トリガーを絞る。ビームライフルよりも図太いメガ粒子の奔流が火炎を切り裂く。続けざまの牽制射撃で着弾地点は、ガラスのきらめきを撒き散らしながら、砂柱が上がった。
旋回から切り込むように急降下する。正面下方に味方機のマーカーが映る。
「バルドっ!?」
「やられました!」
悲鳴だった。
バルドのマラサイは砂漠に仰向けに倒れ、かたわらには不明機の姿。
「別働隊の待ち伏せ?」
敵MSはこちらに背を向け立っている。とっさに
が、
(くそっ!)
射線上にはマラサイも重なっている。隊長はバルドが脱出したか確認できなかった。
わずかに回頭しこちらを見た敵機、―ゼー・ズールの頭部モノアイが光ったような気がした。
(ええい、ままよ!)
隊長はベースジャバーから
「バルド、さっさと逃げろ!」
マラサイの左マニピュレータがシールドの裏からビームサーベルを抜く。
落下の勢いそのままにマラサイが光刃を叩きつけ、振り返りざまゼー・ズールは左腕ヒートクローで受け止める。着地の衝撃に砂漠が震える。
「
ゼー・ズールの袖の意匠が目に入り、隊長は忌々しげにつぶやく。
ビームと電熱兵器の競り合い。飛び跳ねた融解金属が両機の装甲を、
と、バルド機のコクピットハッチが開放された。
「バ、バカ! まだそんなとこに。今出たら、・・・・・・」
火の玉のシャワーがコクピットに降り注ぎ、パイロットを焼き殺す・・・・・・寸前でゼー・ズールが回りこみ、機体を盾にしてバルドを守る。
「なんだ? くっ!」
疑問に思う暇はない。
振り上げたゼー・ズールの右腕からも、格納されていたヒートクローが飛び出す。左右のコンビネーションから繰り出される斬撃。
マラサイは後退しながら、ビームサーベルでしのぐ。怒れる
「ライフルが無いなら」
マラサイは
「逃がさん!」
一度は射線を外されたが、機体を開くように右回頭したビームライフルが追っていく。HUDのレティクルにゼー・ズールのサイド・シルエットが入り込む、
刹那!
正面から再度二条の光軸が閃く。初撃でベースジャバーを撃墜した光と同じだった。ビームはマラサイの前方20メートルの砂漠に着弾。低い発射角のそれはガラスと熱砂の混合をマラサイに、どばっ、とぶちまけた。
「畜生!」
瞬間的にモニターが死んだこともあるが、なによりパイロットの心が折られた。マラサイはホバー走行で一挙に後退していた。
30分後。
ホワイト・ウォールの隊長が現場に戻ると、襲撃者の姿はどこにもなかった。
「遅いですよ、隊長。忘れられたかと思いましたよ」
「すまん。ラマンもゲルググ2機に追い回されてな」
バルドをマニピュレータに乗せ、コクピットに招きつつ隊長は思う。
(ほつれた袖でも技は衰えず、か)
砂漠に落ちた
基地に戻った彼らは袖付きの襲撃以上に驚くこととなった。
ハシルメル・ガス田のパイプラインは全部で5ルート。
アルジェに向かう新しい北ルートのほか、ジブラルタル海峡へ通じる西ルート、ギニア湾へ通じる南ルート、地中海沿岸の都市ベニ・サーフに至る北西ルート、そして、アフリカ大陸から地中海に飛び出すボン岬半島に至る北東ルートである。
3機のマラサイがスクランブル発進した直後、西・北西・北東の三つのルートも北ルート同様襲撃され、破壊された。
これはアフリカから南ヨーロッパに供給されるガスパイプラインが、断たれたことを意味する。
*
翌日、ガルダーヤ地上街にて。
その日もアフリカは焼けるようだった。ブッホの面々はカフェの一室で暑さをしのいでいた。
「マサイさん、なにか飲みますか?」
モシェがいう。
「いや、いいよ」
「そんな遠慮しないで」
「じゃ、
「取ってくるね」
にこにこしながら、モシェは出て行った。
この場にはマサイ・ンガバもいた。
南の都市エルゴレアが
すべて、ブッホとホワイト・ウォールのアジスらの手引きによるものだった。
「昨日はご苦労だっタ。西ルートは大分念入りに壊してくれたようだナ」
「あんたたちのためにやったわけじゃない。あのガスはどうせヨーロッパ人に使われるのがほとんどだからさ」
「なるほド。そういう意味ではワタシが北西ルートを破壊したことは感謝されてしかるべきカ」
西ルートはマサイらFLN、北西ルートはゲルクの攻撃により寸断されていた。ふたつのルートは地中海を渡ってスペインへ天然ガスを供給している。
「ジブラルタルも大騒ぎだろうナ」
ゲルクがいう『ジブラルタル』とは海峡のことではない。宇宙への玄関口、マスドライバーを擁するアーティ・ジブラルタル、さらにはそれを管轄する
残りの北東ルートはモシェのディジェとバロンのバージム、2機に破壊された。地中海に浮かぶサルデーニャ島やシチリア島を経て、イタリア半島にいたるパイプラインである。
モシェがグラスを持って戻る。
「ありがとう。ねぇ、あんた……」
「はい?」
マサイに向け、モシェが小首をかしげている。伸ばしたもみあげが肩にかかっていた。
「前に会った事があるかい? なんだか、あんたの顔を見ると、……ふしぎな気持ちがするのだけれど」
モシェは首をさらに傾け、困った顔をした。
「ぼく、アフリカに来るの初めてですよ。お姐さんはエルサレムに来たことありますか?」
マサイが首を振る。笑った。
「他人の空似ってこともあるからね」
「遅くなってすまない」
そのとき、新たな集団が部屋に入る。アジス・アジバらホワイト・ウォールの面々だ。
アジスを見たマサイの顔が明るくなる。
「ずいぶんかかったナ。連中を始末するのに、そんなに時間ガ・・・・・・」
ゲルクがいいかけて、口を閉じる。最後尾の黒いベールの人物が視界に入ったからだ。ムスリルの女性が着るニカブだった。目しか見えない。
仏像に似たゲルクの鉄面、目の奥のスリットで光が
「誰ダ?」
早くもナイフを抜いていた。
「落ち着いてくれ。武器は取り上げてある」
アジスはそういって、ニカブへうなずいた。黒いベールを脱ぐ。現れる袖付きの軍服。
アヴリル・ゼックである。
「北のパイプラインをやレ、とはいっタ。連れて来い、といった覚えはなイ」
「知ってる。最後に『ネオ・ジオンを皆殺しにして、砂漠に埋めろ』ともいわれた」
空気が緊張した。マサイとモシェも席を立つ。
ゲルクはため息をつく。
「オマエたち、早速ネオ・ジオンと内通したのカ? どこまでも手癖が悪い連中ダ。元ティターンズが聞いて呆れル」
カチリ。
ゲルクの背中にふたつの拳銃が向けられる。モシェのK-38リボルヴァーと、今まで一言も発せず腕組みしていたバロン、彼が手にする
「宇宙に帰してやる、なんて約束しちゃったらしょうがないでしょ」とモシェ。
「どういうつもりダ? そんなことは知らなイ。
カチッ。
『ああ、約束しよウ、アヴリル中尉。確かに、他の連中は宇宙に帰ス。パラオのパンを食し、同じ袖に通した仲間ダ。神に誓おウ』
バロンが手にしたレコーダーのスイッチを切る。
ブッホが袖付きの
ゲルクのセリフを信じるならば、彼女も元・袖付きということになる。
バロンがいう。
「貴様が神を口にするのか? 私は新参者だが、『傭兵は腕と信義だけが取り柄』じゃないのか?」
「誰からだったカ、『人間だけが神を持ツ』と聞いタ。ならば、肉体改造されすぎて人外に至ったワタシには、関係ないことダ。そう、『すべての神は死んダ』ヨ。
フッ、信義だト? そんなもの、野良イヌに食わしておけばいイ」
モシェが首を振る。
「そういう難しい話はいいです。ゲルクさん、吐いたツバ飲む気ですか? そもそも会社の
そういえば、……アイスクリームをさんざん食べさせてくれたお礼がまだでしたね。弾でお返ししましょうか?」
「だったら、アイスで返セ。ワタシだって好きなんダ」
「その体じゃもう食べれないでしょうに」
「ゴ名答」
張りつめた沈黙が流れる。
唐突に、コロン、と金属音が床からして一触即発は終わりを告げる。
「降参。嫌われたものダ。さすがに、コレだけの数を相手するのは無理だナ」
緑のガンダリウム・ブレードが転がっていた。
「しかし、オマエたち全員、逃走援助罪だゾ」
「パイプラインをさんざんぶっ壊した人がどの口でいうかな?」
ボソッとモシェがいう。先日の『戦車で人をひき殺すヤツがいうことカ』のお返しである。
「実はそのことなんだが、ちょっと相談が」
アジスがいう。
「下手すれば仲間を殺していたかもしれない。それに
マラサイの乗るベースジャバーを撃墜したのは、アジスと仲間のマイク、ふたりのハイザックの仕業である。潜砂からビームランチャーの狙撃で姿を見られることもなかった。
「なにがいいたイ? ソレ以前にFLNと内通していたオマエが、文句をいえる立場カ?」
「少しはこっちの言い分も聞いてくれよ! 捕虜にしたペンプティ、あいつメカニックだろ?
空気と同化していたが、この場にはホワイト・ウォールのメカニック兼パイロットのヒンカピーもいる。
「できれば、あのゼー・ズールってMSとパイロットも一緒にな」とアジス。
「元ティターンズがネオ・ジオンの人員と装備を使ってナニがしたイ?」とゲルク。
「天下の白壁だよ。アフリカじゃ誰も文句いわないって!」調子のいいことをいうヒンカピー。
「ゲルググもどきのネモなら、後ろ暗い仕事に使えるんじゃないですか?
「それはダメだ。ルオ商会のものはルオ商会に。元のところへ返すべきだ」とバロン。
混乱を収束するには、たっぷり二時間必要だった。
結局、アヴリルとゼー・ズール、そして偵察に出てガルダーヤ防衛隊に捕まったメカニックのペンプティは、ホワイト・ウォールが身請けすることになった。
「MSはどういいわけ、するんです?」とモシェ。
「鹵獲したことにすればいい」と苦い表情のアヴリル。
アジスは複雑な顔をする。かつての自分を見たような思いだった。
「アブリル中尉
捕虜にされたクイントとパイロットのテッセラ・マッセラほか数名はゲルググもどきとともにFLNに合流する。
「もったいないなぁ。OASにMSを売るだけでも大金になりますよ。考え直しましょうよ、ゲルクさん?」
「ルオ商会と事を構えたいのカ、モシェ? 夜にぐっすり眠りたかったらFLNにくれてやったほうがいイ。商会だって、OASやガスポロムと戦ってくれる組織とコネがもててメリットがあるんダ」
残りの袖付きメンバーはブッホが航宙チケットやら、偽造IDやらを用意して宇宙に上げる手はずとなった。
「なんだか、
「バカカ? オマエらがワタシに銃を突きつけなければ、こんなコトにはならなかっタ」
「うわー、そういうこという? 元はといえば、ゲルクさんが空手形なんか切るから・・・・・・」
「ジャパンには『損して得取れ』という言葉もある。私たちもずいぶんと
言い争うモシェとゲルク。バロンはひとり達観した顔をしてしきりにうなずいていた。
*
ハシルメルのパイプラインが破壊されたことで、ガス供給はタンクローリーでの陸上輸送に頼らざるをえなくなった。なぜか事態を予測していたかのように、ルオ商会はパイプラインの権利を売却していた。その上、北アフリカのローリーを買い占めていた商会は大きな利益を得る。
また連邦政府はガス田プラントの警備が不十分だとして、PMSCへの予算を大幅に増やして計上する。ホワイト・ウォールだけでなく、正式にブッホ・セキュリティ・サービスも食い込める結果となった。