超克騎士の前日譚<プリクォール>   作:放浪人

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 ……絶賛別作品連載中に何やらかしてんだと思われるかも知れませんが……自分の渇望には勝てませんでしたごめんなさい色々と(土下座
 しかもまだ禄に読んでもいない作品の二次創作とか……OTL でも渇望には勝てなかったんです、つい形成しちゃったんです。許してください(ガクブル
 ただあくまで短編の小説、それも連載の方の息抜きや片手間に書く程度ですので更新はテンションでも上がらない限りはゆっくりになると思います。

 そういう訳で、多分にDiesなどの影響を受けた(再現できているとは言っていない)捏造も甚だしい落第騎士の二次創作になります。


 では一つ、ご観覧あれ。
 その能書きは二番煎じもいいところながら。
 込められた想いは真と信ずる。
 故に――どうか見届けて欲しい。この前日譚(Prequal)を。


邂逅篇 Ⅰ:未だ至りえぬ まどろみの中で 邂逅す

 ――一人の少年がいた。

 父を知らず、母の手だけで育てられた私生児の少年。境遇も貧しいと言えるものだったので、哀れみや同情には値するが、しかしそれだけの出自の少年。

 

 それでも、彼は特異だった。異様な姿をして生まれ育った訳ではなかったし内面に障害を抱えている訳でもなかったが、しかし、彼を知れば誰しもがその少年を『異常』と認識できた。

 

 

 有体に言って――――

 

 ――その知性は、子供のそれではなかった。

 子供故に知識に乏しく、あらゆる物事に興味を抱いて知りたがる姿は子供のそれではあったが、そこに内在する『渇求』の強さと貪欲さは、決して普通の子供のそれなどではなかった。

 一度知ろうと思ったことは徹底する。どれ程難解なものであっても見て聞いて調べて尋ねて、更に自分なりの考察をする。そうして漸く、彼にとって知識は知識足りえた。

 誰からか、それこそ子供にとって世界の総てにも等しい母親の教えですら、それが真に正しいものか――否、「正しいに値するのか」と己で吟味し見極めない限り、彼が何かを鵜呑みにするということはなかった。

 

 ――その精神は、子供のそれではなかった。

 どんな苦難や困難にも決して屈さず、目を逸らさない。不可能を可能にする、という訳ではなかった。しかし彼はそれが『不可能である』と思えるその瞬間まで諦めることはなく、そしてまた、『その時点で(・・・・・)不可能なこと』でも『必ず可能にする』という不退転の意志、そしてそれを成し遂げる不断の努力をその身に課していた。

 

 ――その肉体は、子供のそれではなかった。

 生まれながらに健常ではあった。出産は母子共に何の問題もなく健やかに生み生まれ、成長も順調だった。順調すぎた。

 母親が貧しい生活の中でもちゃんと最低限の衣食住を満たし、一日三食を怠ることもなく与え、何より子供自身がその日々不断の努力の下、誰に言われた訳でもなくいつからか自らを鍛え始めたのだから、それが当たり前なのかもしれないしそれでいいのかも知れないが、それでも、その成長は著し過ぎた(・・・)

 背丈が異様に高くなったわけでも、肉付きが異常な訳でもない。だがそれでも、その体は子供ではありえない強度となっていた。

 

 

 最初にその存在を知った大半の人間は、その知性から神童と称え、その精神から実直だと褒め、その健勝ぶりから成長を楽しみにした。しかし程なくして誰もが恐れ、忌み、不気味がり去っていった。

 誰しもが向き合う触れ合うことで理解したのだ。これは真っ当ではないと。自分達が口々に述べ連ねた薄っぺらい賛辞の類では言い表せない、『異常』な何か。

 だから遠ざかっていった。それに触れ合えば、嫌でも自身の凡庸さを、醜さを、脆弱さを見せつけられるから。そんな目を逸らす行為自体が、その最たる証明だと気づかないまま。

 

 ――総じて、その少年は『普通の子供』ではないどころか、『常なる人間』ですらなかった。

 劣っていたのでない。突き抜けていたのだ、何もかもが。

 

 

 一体その少年の、そんな異様な心身がいつ形成され成り立ったかは、周りはおろか彼自身ですら知りようもない。そして、少なくともその少年にとっても、そんな覚えてもいない起源などはどうでもよかった。

 

 彼が考えるべきは、常に己が如何に在るべきか。

 斯くあるべしという世の規定や道理ではなく、それを知った上で己はそれに何を思い、その思いの下でどうありたいと求めるかだった。

 

 常なる人の子は、その子供なりには毎日を全力必至で生き過ごしている。そして、その少年もまた、彼なりの『子供らしさ』として、母が注いでくれる無償の愛情を受け、未だ数多ある己の知り得ない知識を貪り、そして己を鍛え続けた。

 それこそ、少年にとっての『揺籃(まどろみの時間)』だった。

 

 

 

 そんな時間が終わりを迎えたのは、母親の死によってだった。

 貧困な生活に伴う気苦労によるものか、何の前兆もなく、人為的なものを疑われても可笑しくない程の唐突な死。それは、如何に人間離れしていようと、社会能力などない子供である彼にも幾つかの必定の影響をもたらす。

 

 先ずは母の供養。この時の彼に真っ当な葬儀などできようはずもなく、しかし子は不気味がられてもその親は人柄を周囲から慕われていたことから、付き合いのあった近隣の住人により最低限ながら母の供養は無事済まされた。この時の少年の、弔ってくれた者達への殊勝な態度だけは、両者の蟠りを少しは和らげたとか。

 

 第二に、生活。母親一人で育てられた彼には他に身寄りなど、それこそ姿も名前も居場所も知らない、存命かすら分からない父親だけであり、葬儀の件で少しは歩み寄れたとはいえ住人の誰も、彼を自身の住まいに受け入れようとはしなかった。

 人道的にはともかく、当人達の心境を考えるならば責めることは出来ない。誰も自分のテリトリーに既知外の異物を入れたいなどとは思わないのだから。むしろ、母親の供養と幾ばくかの生活資金を提供しただけ、彼らは十二分に道徳的で人情家である。この場合、相手(・・)が悪すぎたのだ。

 

 第三は正味な話、少年にとっては慮外の事象だった。

 完全な独り身、面倒を見てくれる知り合いもいないということで、近隣の児童保護施設にいれられた彼は、しかし母の死や自身の不幸を嘆いたり呪うことはなく、ただ受け入れ、そしてそれまでと何ら変わらない(・・・・・・・)日々を送り始めた。

 嘆き悲しんでも現実は変わらないのだと切り捨てているのでも、辛い現実から目を逸らして逃避しているのでも、ましてや母の死に何も感じない訳でもない。ただ、母の死も環境の変化も、少年の在り方を変えるには至らないのだ(・・・・・・・・・・・)

 しかし、それでも、全く何の影響も齎さなかったのかと言えばそうでもないらしく――周りも、そして少年自身も想像及ばない変化が発現(・・)した。

 

 魔力の発現。伐刀者(ブレイザー)と呼ばれる、特異な『力』と『運命』を担う者達だけがその身に宿す異能の力、その者の辿るであろう運命の大きさに比例して矮小にも強大にもなるそれを、少年もまた宿していたのだ。

 それは即ち、彼もまた背負うべき『運命』を持つと言うこと。その運命とは――――――――

 

 

 最後に、少年の前に父親が現れたこと。そして彼の息子として認知され、その家に引き取られたと言うこと。

 この時、少年は七つを迎えていた。

 

 その理由というのも、親子の情の類ではなかった。全くなかったかどうかは不明だが、少なくとも最たる動機はそれではなかった。

 (ひとえ)に、少年の才能を危惧して。

 

 少年が魔力を発現した際、その情報は国際魔導騎士連盟の日本支部に軽からぬ役職を持つ父親にも伝わった。その名前と、亡くなっている母親の名前も。それが己の子であると知った父親は、その情報と共に記された内容を見ると、折り良いことに急ぐべき仕事もなかったことから最低限の確認を行うと、その足で我が子を迎えに行った。

 

 理由は簡単。少年が、破格を超えて『絶大』と呼ぶべき才能を持っていたのだから。

 

 単なる目安ではあるものの――その目安を絶対視する劣愚がごまんといる世の中だが――、ランクにしてA。否、Aランクと言うのも評価規格の最大表記と言うだけに過ぎず、推定だけでもAランクオーバー(・・・・)

 その父親が少し前に設けたと言う、幼子にして既に神童と称えられる息子ですら想定範囲内のAランクである。それを七年もの間、顔はおろか存在すら知らずにいた私生の長子が、それ以上の才能を発現させたと言うのだから、これに勝る皮肉があるだろうか。

 

 その事実を知った父親が内心で何を思ったかは知らないが、少なくとも彼に『その才能を黙殺する』という選択肢は無かった。彼はその日の内に少年が身を寄せていた施設に足を運び、有無を言わさず、それこそ権力を持ち出してまで己が子を、その日初めて出会った息子()を手に入れようとした。

 

 少年は、それには抗わなかった。

 元より、その施設においても少年は例外なく異常で異様で異形で異端な異物として拒絶され、可能な限りの距離を置かれていた。迫害対象としてではなく、畏怖の対象として。そこにいることを求められている訳でもなく、まして彼自身がそこにいることに意義を見出しているわけでもない以上、彼がその場所にいることに拘る理由などなかった。

 父親であるという男の目と言葉から何とも浅ましいもの(・・・・・・)を見出しつつも、断る理由も無かったが故に、その求めに応じた。

 

 ――応じた(・・・)のだ。父親はその気なら力尽くで、それこそ息子である相手の気持ちなど埒外として己の手の内におくつもりだったが、そんなことは少年の知ったところではなかった。

 もし行く気になれなかったなら、その後をどうするとか、そうすることで今後どんな影響が齎されるかという計算など抜きにして己を通していただろうが、父親という相手の性質に不快は覚えつつも、その存在が彼に与えた『可能性』には価値があった。

 

 

 魔力が発現し、伐刀者として覚醒したその瞬間から、少年には二つの意思が芽生えていた。

 

 一つは、常と同じ未知への欲求。知識としては開示されているだけのあらゆる情報は学び覚えたが、所詮独学でありただ見聞きした情報。だが、これよりはその分野を身を以て学べる。ならば多少の不快感など何程の事も無い。

 

 

 そしてもう一つは―『己が運命の超克』。

 明確なものかどうかは知れない。しかし伐刀者の魔力はその者が背負う運命に比例して強大になる。つまり、少年には現行最高位階であるランクAをも超える運命が待っている、ということ。

 それが、気に喰わなかった。

 運命?決められた定め?宿業?知るかよふざけるな知ったことか。何故(おれ)がそんなものに縛られねばならない。俺の運命を定めるのも進めるのも終わらせるのも俺だ。どこぞに神だか仏だか何だかがいてそれを俺に課そうというならやってみろ。そいつごと壊して殺して叩き伏せて消し去ってくれる。

 

 元来、少年は『運命』というものが嫌いだった。否、『運命に従うこと』が嫌いだった。

 

 

 『運命的』という表現がある。あまりに想定外の事象に対して、まるでそこに神か何かといった超常の存在の意思が介在しているのではと思い、それ程の感謝や感動を表すのに用いる言葉。

 

 ――何だ、それは。

 

 その言葉の意味を学んだ際、少年が抱いた気持ちだった。

 確かに世の中、思いもよらない偶然はあるだろう。人がこの世の因果を操れるわけではなく、むしろ多くがその因果に身を委ねているのだから、強ち間違った表現ではない。

 問題は、少年はそこに見出した、その言葉を生み出した人間の意図である。

 

 ――何故、そんな『運命』に縋るような状況になる前に行動しない。努力しない。最初から、あるいは途中から出来ないと決め込んで諦めて、そうして後から目的が達されると今度はいるかも分からない神仏を有難がって『運命』?ふざけるなよ。

 

 

 言うまでも無いが、これはあくまで少年の主観である。その在り方が如何に高尚で精神が気高かろうと、彼が『斯くあれかし(こうであってくれ)』と求める私的な渇望であり、万人に適用される普遍の『道理』ではない。よくて限られた者だけが行き着ける『理想』だ。少年自身、頭では分かっている。

 

 例えば、神に祈りを捧げる者でも、最初からただ盲目に縋る愚か者もいれば、真に成すべきことを総て成して、その上で天命を持つ者もいる。そういう人物は尊敬に値するし、そういう人物が崇める神ならば相応の価値も意義もあると思える。

 他にも、十人十色と人それぞれに抱く想いがあるだろう。自分の想いに沿わないからと言って、それで否定するなら、それこそ一方的に押し付ける『運命』と何が違う。

 

 だが、感情面においては少年も子供だった。それ故に苛烈で強烈で、激烈だった。

 

 絶対に認めない。運命を肯定するとすれば、それは己の手で切り開いた道筋であり、その果てに行き着く結果――運命を征し己がものにしたという結果であるべきだ。

 そこに賭した意志と労力、そしてその総てを貫く覚悟こそが、真に讃えられるべきだ、と。

 

 

 

 だからこそ、少年は挑んだ。伐刀者としての己の道に。

 その先にある運命が何であれ、それを乗り越え打ち壊し、超克せんが為に。

 

 

 そうして、少年は新しい名を得た。

 少年の名前は、統真。『真を統べる者』、あるいは『真に統べる者』と名づけられし男。

 

 伐刀者としての道を歩まんが為に背負った新たな名は――黒鉄 統真。

 日本最高位の伐刀者の名家、英雄の一族たる《黒鉄》の現当主・黒鉄 厳が若き頃に生ませた妾腹の長子にして、歴代――否、世界最高の資質と能力を備えた奇跡の伐刀者。

 

 

 

 そんな彼が如何なる運命を背負い、果たしてそれを超克し得るのか。

 それは、この前日譚(Prequal)の先にある。

 

 

 

                  †   †   †

 

 

 

 ――時は流れ、六年後。

 

 

「ハァッ!」

「………………」

 

 

 広々とした空間、所謂道場と呼ばれる体を成す建物に、まだ幼さを伺わせる声が竹刀同士のぶつかり合う音と共に響き渡る。

 音源は、その建物内の中心。多くの門弟が囲み厳かに見守る中、13歳の少年と7歳の少年が対峙し切り結んでいる。人を切れない竹刀なのだから切り結ぶと言うのはあるいは不適格なのかもしれないが、少なくともその場の空気は、真剣の切り合いに劣らぬものだった。

 

 その理由は、裂帛の掛け声を上げて挑みかかる幼い方の少年、彼と真っ向から対峙し、剣を交えているもう一人の方にある。

 

 

「……相変わらず凄まじいな」

「ああ……流石は神童、7歳であれ程の技量とは」

「馬鹿、そっちじゃない。長子様の方だよ」

 

 

 その剣戟を見守る門弟の内、一番遠くからそれを見ていた何人かが、勝負の邪魔にならない小さな声で話し合う。最も、声が小さい理由は勝負への配慮という真っ当なものだけではないのだが。

 

 

「長子様って……ただ受け流して防戦一方だろう」

「……ああ。お前、長子様の試合まだ見たことがないのか」

「そうだが、何かあるのか」

 

 

 そんな会話の合間にも、より一層大きな掛け声と竹刀の音が響いた。

 

 

「……見てれば分かる。もうそろそろだろうからな」

「?」

 

 

 片方が疑問を顔に浮かべて首を傾げるが、もう一人は答えず、促すように試合中の少年二人へと目を向けた。

 

 年下の少年、門弟に神童と称された方は、相対する長子と向き合い、切り込む隙を伺っていた。

 一方の相手はというと、何の感情も伺わせない厳かな表情で、自ら動く事無くその場で不動を保っている。

 

 二人の試合を幾度と見てきた古株の門弟達は、これまでの経験からしてそろそろ決着であり――またその結果も予想できていた。

 

 ――パシンッ。

 

 

「グゥッ……!」

 

 

 神童は長子が見せた一瞬の隙を突き改心の一撃を打ち込まんとするが、それは神童にとっての隙(・・・・・・・・)であって長子にとっての隙(・・・・・・・・)には成り得なかった。

 迫り来る竹刀を容易く、しかして強烈に弾き、神童の小さな手ではその衝撃を受け切れず、竹刀を手放してしまう。

 そして――――

 

 

「得物を手放すな、戯け」

「ガハッ!?」 

 

 

 文字通り丸腰になってしまった神童の懐に、長子の竹刀の刃が容赦なく叩き込まれる。その一撃に振るわれた膂力は凄まじく、何よりその打ち込みは恐ろしいまでに正確だった。

 そんな一閃を直撃した神童は、打ち込まれた竹刀に押し退けられる形でその場から突き上げられ、そのまま門弟達の方へと吹き飛ばされた。

 

 

「お、王馬様!? ご無事で――」

「喚くな戯け共。その程度でくたばる程に惰弱ではない」

 

 

 慌てて神童――王馬へ駆けつけた門弟の一人がその身を案じて声を掛けようとするが、それを静かに、しかしその場にいる誰もが聞き取れる厳かな声で叱咤する。

 

 

「し、しかし――」

「――だい、じょうぶ……です……」

 

 

 門弟がなおも食い下がろうとするところで、倒れていた王馬が、手助けして支えようとする門弟の手も押し退けて立ち上がる。

 しかしその顔は、体に受けた衝撃と痛みによるものだろう、青褪めて今にも意識を失いそうになっている。必死に立っている二本の足も、生まれたての小鹿より酷く震えている。

 

 

「あ、兄上……もう一本、お願い……しま……」

「おやめください王馬様!これ以上はお体に障ります!」

「……邪魔、しないで……」

 

 

 心配する門弟を払いのけ――実際は半ば門弟達に支えられていたが――、再び自身を叩きのめした相手、兄たる長子に挑もうとする――が。

 

 

「その気概は買う――が、今日はここまでだ。その意志に追いつけなかった体を鍛えるがいい……くだらん考えに囚われている暇があるならな。

 薄っぺらい考えに囚われているから振るう剣も軽くなる。そのことをよく省みることだ」

「ッ……!」

 

 

 兄と呼ばれた少年はどこまでも淡々と、しかし冷徹に告げると、弟に背を向けて去っていく。

 

 

「……チク、ショウ………」

「お、王馬様!」

 

 

 凡そ普段の品行方正な彼らしからぬ粗暴な言葉を悔しそうに呟きながら、王馬は気を失う。そうして今度こそ周りの門弟達にその身を委ねた。

 

 伐刀者の名門・黒鉄家の長男と次男、黒鉄 統真と黒鉄 王馬の試合は、いつもと同じ形で(・・・・・・・・)終わりを迎えた。

 

 

「……若。流石にやりすぎでは」

 

 

 試合の審判を務めていた人物、道場の師範代である壮年の男性が、道場の入り口へ向かう統真を捕まえてそう苦言するが、言われた方は歯牙にも掛けず、振り向きすらしない。聞くに値しないと言わんばかりである。それでも歩きながら応答するだけ律儀かも知れないが。

 

 

「あれが望んで挑んで来た試合だ。払い除けることこそ侮辱だろう」

「そうではなく……まだ幼い王馬様に、何もあそこまで」

 

 

「ほお。その幼子に『人を容易く殺す力と術』を教え与えておいて、当人に傷はつけるな、と」

 

 

「ッ……」

 

 

 正論と言えば余りの正論に、師範代も思わず口を噤む。いや、それだけではない。統真が止めずに進んでいた歩を止め、振り返って師範代を見据えたからである。

 その、どう見ても13歳の子供などとは思えない、強すぎる瞳で。

 

 

「剣――武器とは畢竟、闘争と殺傷の道具。それを振るうと言うのならば、その身もまた傷を負う覚悟くらいすべきだろう」

「……王馬様にはそれ以上に背負うべき役目が――」

 

 

 思わずそう反論してしまい、半分以上喋ってから師範代はハッと口を閉ざすが、何を言われるでもなくその顔は勝手に青褪めていく。まるで、口にしてはいけないことを口にしたかのように。

 一度統真から逸らした視線は、恐る恐るゆっくりと、再び目の前の少年に向けられる。

 

 そんな視線を迎えたのは、何の感情も示さない、今までと同じくただただ『強さ』を宿した瞳だった。

 その瞳に見据えられ、何かを特に咎め立てられた訳でもないというのに師範代は慌てふためき弁明を口にする。

 

 

「わ、若。私はそういう(・・・・)意味ではなく――」

「黒鉄の次期当主か。ああ道理だろう。あの戯けた親父殿は、あれ(王馬)を己が継嗣に仕立てようと躍起だからな。本人が受け入れているので別段俺がどうこう言う気は無いが」

「そ、それは……」

 

 

 開けっ広げも程のある統真の言葉に、逆に師範代がうろたえてしまう。

 強がりでもなんでもなく、彼に負の感情は見られず、その言葉も自嘲を装った皮肉の類ではなかった。

 しかし――――

 

 

「だが、言いたい言葉があるなら堂々と言うがいい。俺は妾腹であれは正妻の嫡子、ましてやあの阿呆の親父に一切靡かぬ俺に黒鉄は継げない、とな。

 そもそも一回りも二回りも下の若造に言い淀んでどうする。年の功をひけらかせとは言わんが、己の生と立場に自負があるなら、物の一つくらいちゃんと言ってのけろ――恥を知れ」

「ッ……申し訳ありません……」

 

 

 そのあまりに正論で、どこまでも真っ直ぐな言葉に声を詰まらせ、結局吐き出せたのは何に対してかも分からない謝罪だった。

 それを受けた統真は、今度こそくだらないものを見たと言わんばかりに目元を潜め、視線を険しくする。しかしそれ以上の言葉を紡ぐでもなく、止めていた歩を再び入り口へと向かわせた。

 

 ……心なしか、その歩にはいつもより若干勢いがあるように見えた。

 

 

 

 

「やっぱりこうなったか。今日は結構喰らいつけたみたいだが」

 

 

 そんな一部始終を見ていた件の門弟はやれやれと肩を竦める。その隣にいたもう一人は、今目にした試合に身を竦めている。

 

 

「…………なあ、さっきのって」

「見ての通り、長子――統真様の圧勝――いや、完勝だ。最初(はな)っから王馬様は遊ばれていたということだ」

「………………」

 

 

 敗退した王馬を神童と讃えていた門弟は言葉も無い。それ程までに先程の試合、最後に兄である統真が繰り出した一撃は完璧なものだった。

 如何にこの家で歴代最高の逸材とはいえ13歳のはず。そんな身空で、あれ程のキレを身につけているというのか。

 いや、それ以上に――――

 

 

「……なあ、あれ(・・)は――――何なんだ?」

「………………さあな」

 

 

 既に道場から去っている統真の存在を思い浮かべながら何とも曖昧な質問をするが、質問された側はその意図を察しつつもそれに明確な答えを出さなかった。

 

 黒鉄家長男。黒鉄家始まって以来の、奇跡の逸材。実質魔力Aランクオーバーという既知外の怪物。

 生まれて程ない頃から類稀な才能を見込まれ、早くから神童と持て囃されるようになっていた()長男であった次男・王馬を、ただの天才に貶めてしまった妾腹の第一子。

 貧しい育ちから一転して名門の嫡子に迎えられながら、当主たる父親と迎合することなく反目し続ける、しかしその才能と身に着けた実力故に排斥すらままならない、黒鉄の異端児。

 それが、黒鉄 統真という人間への周囲の認識だった。

 そして、そんな認識を歯牙にも掛けず、彼は日々只管に己を鍛えることに精進した。

 

 その結果があの剣の冴だというのなら納得ではあるのだが。

 門弟は思い浮かべる。

 王馬の、7歳のものとは思えない鋭い剣を、しかしそれ以上に屈強な剣で尽く弾き、そして捻じ伏せた統真の剣。

 それを振るう時にほんの一瞬伺えた、まるで本気で敵を殺す(・・・・・・・)かのような殺気。

 そして、統真がこの場から去ったことで初めて認識できた――彼がいたことで張り詰められていた、この場の空気。

 

 

「まあ、強いて言うのなら――」

 

 

 今になって湧き上がってきた畏怖とその震えに慄いていると、もう片方門弟は吐き捨てるように語った。

 

 

「――あんな化物の弟になってしまった王馬様(神童)に心底同情するよ、俺は」

「………………」

 

 

 

                  †   †   †

 

 

 

 

「………………」

 

 

 道場着のまま黒鉄家の本邸に足を運んだ(・・・・・)統真は、ある場所に向かっていた。

 先程の弟・王馬との試合で感じた『視線』。その視線の先となる場所へ。

 

 その視線は、これまで何度も感じたものだった。少なくとも統真が知る限り、殆ど毎日と言っていい。

 最初はこの家に仕える使用人の野次馬か、あるいは外からの客が観覧にでも来たのかと思ったが、程なくしてそうではないと分かった。

 何故ならあの視線には――――

 

 

「あ……!」

「む」

 

 

 ちょうど、廊下の角を曲がった時。統真の前には一人の子供がいた。

 それは、統真もよく知る顔だった――厳密には、よく知る顔の男に似た、その顔から険や不快なものを取り去り幼くしたらなるであろう顔だった。

 何故なら、その子供は――――

 

 

お前か(・・・)

「う、あ……!」

 

 

 何の気負いも無く、『やはりな』と言いたげに統真がそう呟くと、しかし子供はその言葉に何を感じたのかその表情に怯えを表し、踵を返して走り去っていった。

 鬼か何かにでも遭遇したような反応に統真が呆然――としている訳ではなく、まるで吟味するようにその背中を見据えていた。

 しばらくそこに立ったまま何かを思案していると、再び歩き出す。その足が目指すのは、走り去った少年の行き先――この家において彼の唯一の居場所である、邸宅の一番離れにある部屋だった。

 

 思えば初めて足を運んだその部屋の前に立つと、コンコンと定例的なノックをし、中にいるであろう人間の反応を待つ。が、中の住人から反応と言える反応は返ってこず、訪問者である統真はしばらく扉の前で立ち尽くした。

 十秒ほどの時間を経ても反応が無い――厳密には、中で怯えているというのは分かっているが――ため、統真も次の段階に移った。

 

 

「黒鉄 一輝。俺はお前の兄に当たる黒鉄 統真だ。少々話したいことがあってこうやって訪ねた次第だ。

 中に入れるなり、出てくるなりしてはもらえないか」

 

 

 まるで初対面であるように自身のことを述べてから相手に対面を求めるが、今回も反応は無い。中にいる者――彼の弟である黒鉄 一輝が困惑しているのは分かるが、五分ほど待ってもそこから行動を起こす気配は見られない。このまま居留守――中にいるのは分かっているが――の沈黙でやり過ごす気か、それともどうすべきか迷っているのか。

 

 ――いずれにせよ。

 礼は通した。要望も伝えた。猶予も与えた。ならば、文句はあるまい。

 そう自己完結し、埒が明かないと判断した統真は、

 

 思い切り部屋のドアを蹴破った。

 

 

「…………え?」

「礼は通したぞ、不服はあるまい」

 

 

 無い訳あるか。道理はともかく、常識を持つ人間――ただしそれを本人に面と向かって言える人間に限られる――がその場にいたなら、そう返したことだろう。

 しかし部屋の主である少年・一輝はというと、思いもしなかった展開に床でへたり込んでいる。腰を抜かしたのかも知れない。

 

 

「改めて。黒鉄 統真、お前の七つ上の兄だ。半分だけ(・・・・)だがな」

「え、あ……うぅっ……」

「どうした。こちらは名乗ったのだ、そちらも名乗るといい。

 俺がお前を知っているかどうかではない、お前が俺に己を知ら示る(し しめ )ことに意義があるのだからな」

「あ…………」

 

 

 その、傲慢とも言える不遜な物言いとあまりにも堂々とした振る舞いに一輝は、覇気でも中てられたかのように頭が空白になり、しかしそのおかげで混乱から抜け出せた。

 なので、空っぽの頭でとりあえずは、言われたことをすることにした。

 

 

「黒鉄……一輝です」

「うむ。

 扉の件は許せ。既に言ったが、こちらも礼は通した上でそれを無視されたのでな。それ故の強行だった」

「え、あ……あの……ごめんなさい……」

「許す。そしてもう一度詫びよう。扉は直しておくので安心しろ」

「い、いえ。どうせ他の部屋に移される程度ですから……」

「そうか」

 

 

 そこで会話は一端途切れる。それに伴い、部屋の主である一輝は、一端は収まっていた混乱を再びぶり返させた。

 

 

(なんで、なんで統真兄さんが?気づかれた?こっそり稽古を見ていたのを気づかれた?だから怒って?でも怒った風じゃないし。じゃあ何でわざわざ、ぼくのところなんかに?)

 

 

 沈黙の中で顔を俯かせそう一人悩むが答えは出ず、結局、ことここに至ったならと言うものに類する気持ちで、一輝は初見に等しい兄に尋ねた。

 

 

「あの……統真、兄さん」

「なんだ、一輝」

「ッ……」

 

 

 恐る恐る統真の名と、彼を兄と呼び、そして当たり前のように自分の名を呼んで貰えたことに、一輝はそれまで感じたことの無い『何か』を覚えた。

 思わず、体が震えるが、訪ねたいことがあるのだからとそれを抑える。

 

 

「に、兄さんは、なんでぼくのところに?」

「お前が稽古や試合を毎日のように遠くから見ていたのでな、今日は偶さか気になり、こうして訪ねた次第だ」

 

 

 やっぱり、バレてた――包み隠さず堂々と述べる統真の言葉に、一輝はまた顔を俯かせる。罪悪感と羞恥心からだった。

 

 名門たる黒鉄の家にありながら最底辺の才能しか以て生まれず、それを補うための努力をすることすら否定された彼は、それでも諦めきれず出来る限り兄達や他の門弟の稽古・試合を遠くから見眺め、そこから学ぼうとしていた。彼自身、そんな己の行為にはまるで人のものを盗むかのような後ろめたさを感じてはいたが、それでも諦めきれず、その行為に臨んでいた。

 しかしそれを、他ならぬ目の前の兄に気づかれており、こうやって面と向かってそのことを問い質されると、罪を犯した咎人のような罪悪感に加え、それを公然と指摘されたような羞恥心が沸いてくる。

 まるで、自分がこの世で無価値な、否、人に迷惑を与える害虫のようにすら思えてきた。

 だから――――

 

 

「ご、ごめんなさ――――」

 

 

「お前は、剣を学びたいのか」

「――え?」

 

 

 だから素直に謝ろうとしたところでそんな言葉に遮られ、呆然とした。

 

 

「剣を学びたいのか、と言っている。でなければあれ程に熱心な見稽古はすまい」

「え、あ、その……」

「お前の境遇、この家における立場も扱いも知っている。知っているが、知ったことではない(・・・・・・・ ・・・・・・・・・)

 俺はお前という存在の意志を訪ねている。ただ才能がないと言うだけ(・・・・・・・・・・)で周りからも親からも否定され、努力をすることすら容認されない生活。俺ならば受け入れられんし堪えられん。己の総てを賭けて抗う。結果は問題ではない、俺がそれを望み、それに(じゅん)じるということなのだ。独り善がりかも知れんがな。

 故に問うている。『俺』ではない『お前』に。

 お前はそんな環境に遵じるのか?そんな理法に遵じられるのか?己が望んだ訳でもない、狭く浅ましい見識と先入観で一方的にそうあれ、斯くあるべしと押し付けられて、それで己を棄てて頭を垂れて、それに随って生きていくのか?

 どうなのだ、黒鉄 一輝」

「――――」

 

 

 今までの、そして統真という人間が纏っていた厳かで静かだった雰囲気は無かった。怒涛の言葉、声量こそ先程と変わらず抑揚も淡々としたものだが――熱量が違った。

 正味、言われている一輝は、兄の言葉を全て理解できている訳ではない。当たり前だ。彼はまだ6歳の子供である。それに対して統真は、彼と同じ年齢の人間でも使わないような難解な物言いをしているのだ。

 だが、それでも――その言葉に込められたものは、否応無く一輝にも通じた。通じさせられた。

 

 ――お前は悔しくないのか?試す機会すら奪われたまま、無価値な人間と言う烙印を捺されたままで平気なのか?

 

 

「――なわけ……」

「なんだ」

 

 

 

「平気なわけ、ないじゃないか!!!」

 

 

 まるで溜め込んでいたものを爆発させたように――否、実際に今まで抑圧してきた不満や悔しさを爆発させて、一輝は統真に詰め寄る。

 

 

「悔しいよ!悔しいに決まってるじゃないか!才能がないのは分かってる、でもそれで頑張ることもダメだと言われて!でも諦められなくて!だから、だから……!」

 

 

 ――お前は何もするな。

 あの日、父に言われたその言葉がいつまでも一輝を苛んでいる。

 そんなに悪いことなのか、才能に恵まれなかったのが。望んだ訳ではない。仕方ないじゃないか、無いものは無いんだ。だから、頑張ってそれを補おうとして、でもそれも否定されて、閉じ込められて。

 

 今日この瞬間、統真に契機となる言葉を向けられるまで蓄積された一輝の鬱憤や悔しさ、その総てが解放された。

 

 

「ぼくだって兄さん達のように強くなりたいよ!色んな剣を学んで、稽古をして、他の人たちと試合をして!でもそれがダメだから……!」

 

 

 なればこそ、盗人に等しい所業にも手を染めた。どこぞの秘伝を盗んだ訳ではない。一輝が見て学んでいたのは、その大半が基本的なもの。統真と王馬の試合などはその限りではないが、それも門外不出には程遠い。

 それでも、一輝自身はそれに罪悪感を抱いた。抱いて、しかしそれでもと、それを続けた。

 努力したい、強くなりたい――その想いだけを抱いて。

 

 

「だから……だから……!」

「そうか」

 

 

 後半は既に泣き言だった。両目からは透明な雫が零れ落ち、鼻からも水を流している。

 そんな、大半の人間がみっともない、良くて子供らしいと思うだろう姿を、しかし統真はそれまでと変わらず、静かに見据えていた。

 

 だから――――

 

 

 

「ならば俺が教えよう」

 

 

 

 その言葉を、一輝は理解できなかった。

 

 

「――え?」

「学びたいのだろう、剣を。俺が口添えして教えるよう言ったところで、あの戯けた親父のこと、どうせ止めさせるのは目に見える。いや、そもそも嘆かわしいことにそんな戯けに、その正確に意図するところ(・・・・・・・・・・)すら知らず盲従する阿呆共しかおらんのだ。そも親父殿の意に反してお前に剣を教えようという気骨のある輩などいまい。

 故に俺が教えてやる。とはいえ俺も未だに学び続ける身、経験が無いからといって尻込みする気は毛頭無いが、人に教えるとすれば限られるがな。

 それでもお前が望むなら、俺に否やは無い」

 

 

 何を言っているのだろう、この()は――一輝がその言葉を聞いて先ず思ったのは、それだった。

 

 黒鉄 統真――軟禁同然の生活を送る一輝も、彼のことは耳にしていた。その評を一言で言うなら――正しく、黒鉄 一輝とは対極の人間。あるいは、黒鉄 一輝が最も憧憬(あこが)れる者。

 最底辺の才能を持つ一輝に対し、統真は最高位――否、その規格すら超える魔力を持つ。発現こそ7歳の時だったらしいが、黒鉄家に招かれてからの6年と元からの素質から、既にその莫大な魔力を制御していた。

 しかしそれ以上に、生まれ持つ才能の魔力をも差し置いて一輝が焦がれたのは、彼の『あり方』だった。

 

 如何なる人間も自ずと『才能』に頼る。努力家な天才というものがあるが、往々にしてそれらの大半も、『才能』を基準にして努力する『才能本位』の面が強い。例えば、一輝の身近な――人間関係ではなく血縁として――人間で言うなら、一輝の一つ上の次兄である黒鉄 王馬。

 しかしそれは決して悪いことではない。あるものを用いて何が悪いというのか。才能に胡坐を掻き努力を怠るのは愚者だが、才能と努力を、比率は別にして並列させる人間は評価されて然るべきだろう。

 

 では、一輝からして黒鉄 統真という人間は、才の人か、才と努力の人か。

 答えは――努力の人である。

 才あって努力を為す人間でも、ましてや才に胡坐を掻く人間でもない、才より努力を成す人間である。

 才を無碍にする訳ではない。しかし、同時に才は才、努力は努力――そう割り切ってしまっている。

 早い話、才能を磨くことにも努力するし、努力を努力することにも努力する(・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。訳が分からないかも知れないが、事実そう在るのだから仕方が無い。

 

 だから、持たざる者にして与えられざる者である一輝は、誰よりも何よりも、黒鉄 統真に憧憬れる。才の有無を度外視し、ひたすらに努力を続ける彼を。

 彼のように在りたいと思ったからこそ。

 

 だからこそ、きっとこの奇跡(運命)のような邂逅は訪れ――――

 

 

 

「否だ」

 

 

 

 ――そう、黒鉄 統真は否定した。何に対してともなく、しかし確固たる意志で以て。

 

 

「否、だ。これは断じて奇跡(運命)などではない。黒鉄 一輝、これはお前が成した結果だ。恥辱に塗れようが罪悪に苛まれようがそれでも、それでも(・・・・)研鑽への渇望を、強さへの憧憬を、そして努力し続けること(・・・・・・・・)を諦めなかったお前の勝ち取った、誇るべき結果だ。

 お前が自分には無理だと諦めここに閉じこもっていたのなら、お前が後ろめたさに堪えられず諦めていたのなら、お前が今まさにその思いの丈を語らずいたならば、俺もまたここにはいない。

 先程俺は、偶々ここに赴いたと言ったな。それに偽りはない。あるいは何らかの要素で俺は足を運ばなかったかも知れない。しかしそれでも結果はここにある。俺とお前がここにいるという結果がな。それを導き出したのは、そこに至らしめたのは総じてお前の努力であり、気概であり、渇望(ねがい)だろう。

 それを、どこぞの誰とも、いるかどうかも分からない神仏やら何やらの齎した奇跡や運命に安売りするな。

 

 もう一度言うぞ。これはお前の努力の結果だ。讃えるなら己を讃えろ。己の努力を、諦めずに努力し続けた己を讃えろ」

 

 

 それまで以上の、ともすれば熾烈さすら伺わせる熱気と覇気――それが、黒鉄 統真という姿形で屹立している。

 そしてその全てが、黒鉄 一輝を肯定し、讃えていた。

 

 

「――……れますか……」

「聞こえん。言ったはずだ誇れ。お前に、誰彼かに遠慮するような点など微塵も無いのだから」

 

 

 緊張と、そして一輝自身にもよく分からない『何か』で声が痞え上手く言葉に出来なかった。そんな痞えを打ち壊すように、再び統真は一輝を肯定する。

 

 そして――――

 

 

 

「ぼくに……剣を教えてくれますか、兄さん」

「無論だ。俺がお前に教えよう、一輝。

 お前が諦めず、努力し続ける限り、俺もまたお前に応え続けてみせる」

 

 

 

 黒鉄 一輝――あるべき歴史においては、幼少の時分には彼に無償の愛情と愛着を向ける妹以外から終ぞ省みられることの無かった少年は。

 この世界において誰よりも早く、対等に自分(黒鉄 一輝)を見てくれる(英雄)と邂逅した。

 

 それがやはり何某かの齎した運命なのか。それとも彼がこれより生涯追いかけ続ける兄の言葉通り、彼自身が勝ち得た結果なのか。

 まだ、その答えが出ることは無い。

 

 

 ここで描かれるべきは、一人の兄と一人の弟を軸に紡がれる

 

 英雄譚(キャバルリィ)に至る為の前日譚(プリクォール)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では諸君、ご観覧あれ。

 これは、己が意志()運命(破壊)に抗う一人の(英雄/怪物)の物語であり。

 そして、そんな(英雄)に焦がれ、(運命)を乗り越えんとする一人の少年(英雄)の物語。

 

 導き導かれ、光を与え与えられた、とある兄と弟の物語。

 どうしようもない困難と苦境を刻まれ、それでも絶望と宿業を超克して征く、英雄達の物語。

 

 

 これは、本来とは異なる道筋と結末の英雄譚(キャバルリィ)、その前日譚(プリクォール)

 暇つぶしなり片手間なり、この虚劇を楽しんで貰えるなら、幸いだ。




※作中で使用された表現『知ら示る』は『知らしめる』と『示す』を組み合わせた造語です。実存する表現ではないのでご注意ください。
※読者様の提供してくださった情報に基づき、黒鉄 厳に関する描写に変更を加えました。 1/21

 いかがだったでしょうか。light作品を全面的に意識したのはこれが初めてですね。あちらはネタのようなモンですし、今のところは(ぇ

 さて、この作品お読みになったらお判りとは存じますが、原作との相違点・捏造が色々ございますので、現時点で自分が思い当たるものをいくつか。

■黒鉄 厳の年齢
 調べては見ましたが特に記述が無かったので、伐刀者は15歳なら結婚も出来ると言うことでギリギリ大丈夫かな、と、統真という一輝の7歳年上の兄を作るために年齢もしくは初体験(!?)を弄らせていただきました。絵を見る限り若いとも壮齢とも取れたので、押し通しました。
■魔力の発現
 絶対量は基本的に不変らしいですが、発現とかは生まれた時から分かるんですかね?統真は一応母の死と言う出来事が影響して、眠っていたものが覚醒したと言う感じですが;
■ランクAオーバー
 Fate風にすればEX。覚醒や魔人もありますから何とか大丈夫かな?と;
■道場の流れ
 こんなものか?と。
■王馬
 統真は巌とは反目しているので原作通り(?)彼が時期当主に見込まれています。実力差は絶望的ですが。
■一輝
 時期設定がそもそも曖昧なのでアレなんですが、この時点で父親から例の台詞と共に切り捨てられています。龍馬とはまだ会わず、その前に統真と邂逅したのがこの話。
 なお彼に関する会話内容は当てずっぽうもいいところの捏造。

 うん、訴えられても仕方ないレベルですね(白目
 言い訳も甚だしいのでカグヅチ様に焼き払われそうですが、この世界は時系列含めた色々なものが違ったりする原作のパラレルワールドと思って頂ければ無難と思います。


 そしてこの二次創作のオリキャラとなる黒鉄 統真。
▼再現できているとは思えませんが、一応Diesの獣殿・戦神館の甘粕大尉・ヴェンデッタのヴァルゼライド閣下の因子を組み込んだような創作キャラ。
 はっきり言うとコイツがラスボスであり、もう一人の主役/影の主人公です。モチーフである獣殿ことハイドリヒ卿が自分にとってはDiesのもう一人の主人公という立ち位置なのでそれをイメージしました。なのでタグも一応オリ主を。一輝も列記としたこの話の主人公ですが。
▼現時点では獣殿:甘粕:閣下で比率が1:3:6という感じ。努力努力言っている努力厨。諦めなければ夢は叶うし叶わなくてもそこに賭けた意志と想いに意味がある、精神論で限界突き破るようなキャラ。そのくせ獣殿のような生まれつきの強者と言う「え、なにコレ舐めてんの?」と言われても仕方の無い存在。まあ本人は無意識レベルでパワー抑えてますが。そこら辺は総てに飽いている獣殿成分。でも努力値がカンストしてる。才能?駄菓子、よくて道具だろう、と。
▼神様とか運命とか嫌い。というよりはそれに自分を無闇に委ねたりするのが嫌い。ギリギリ許容範囲で「人事尽くして尽くして尽くして尽くして天命待つ」がやっと。それだって神様に感謝せず自分を褒めなさいよと言う。
▼一輝完全肯定するマン。努力し続ける奴、諦めない奴が大好き。おかげで一輝くんも被害(意味深)被ったりする予定です。当然黒鉄家とは相性最悪。自ら滅ぼさない辺りが引き取った父親への、一応の恩返し(超傲慢)。
▼今は一刀流、将来は二刀流になります。放射線は撃てませんが;斬撃飛ばし?普通にやりますよ?(遠い目

 今のところはこんな感じです。本当になんなんでしょうね、これ(白目
 しかも最大の難点は、なんかそれっぽいこと言わせてるけど創造者である作者は実行できない駄目人間ということOTL いや、それ言うならモチーフになった誰一人実行できるレベルじゃないんですけど、渇望の強さが;


 さて、長くなりましたがこれにて終わりとなります。
 短編と言うこともあり、少しずつ書いていっていい区切りになったらまた続きを上げようかと。
 感想・批評いずれもお待ちしておりますので、よろしければ何か書いてやってくださいまし。

 それでは。
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