コンバーター 〜 魂換師 〜   作:かねつぐ

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4話 崩壊~後編~

 龍牙は真の【狂魔】という言葉にピクリと反応する。それを聞くとクラスの思いを代弁するかのように声を上げる。

 

「そんなことある訳がねぇ!まずあいつらは結界を超えられねーんだ。一体どうやって……」

龍牙は、真の斜め上をいく発言に驚き冷静さを失っていたのだ。

「俺も、それは解らない……だけど!狂魔でもなけりゃこんな急な通信障害にもなんねぇんだよ!」

 

 真は乱暴にスマホを龍牙に投げつける。龍牙はそれを綺麗にキャッチして画面を見ると市の中にある学校だと言うのに電波が全く立っていなかったのだ。街の真ん中にある校舎だ電波が立っていない訳が無い。龍牙は、急いで自分のスマホを確認するも真のスマホと同様にまるで非現実の証明式の様に全く電波が立っていなかった。クラスの面々もスマホの画面を確認するが残酷な事実を伝えるのみだった。

 

「そんな……真くんこれじゃあ……」

水月も状況を理解したのか青い顔で真に尋ねる。

 

「ああ、俺たちはもう詰んだ」

真は天井を仰ぎやけになって言った。

 

少し間が開き

「それならすぐに逃げた方が良いんじゃ!」

と男子生徒の一人が声を上げる。しかしそれを遮るように女子生徒が反論する。

「逃げるのに五組の前通らなきゃいけないのよ!あんた誰かに囮になれって言ってんの?」

まさかの反論に男子生徒は声を荒げる。

「違ぇよ!俺はこのままじゃジリ貧だって言ってんだよ!」

 

 真たちのクラスは校舎の一番端に位置しておりどうしても逃げるには隣のクラスの前を通るかベランダから飛び下りるしかない。しかし高さは3階高さは十メートル以上にもなる。飛び降りたとしても怪我をして逃げきれず、襲われるのがオチだ。カーテンを使って逃げれば良いと思うね人も居るかもしれない。しかし、それにどれだけの時間を使う?奴らは人間の魂魄の香りに敏感なのだ。

 

 そう真の言う通り真たちは現状、【詰んで】しまったのだ。

 

 二人の口論をきっかけに恐怖の渦がクラス中に伝染しだす。

教室の端で丸くなり現実から逃げる者、先ほどの口論に混ざる者、唯一の対抗馬である龍牙や水月に様子を見に行かせようと言うものたちまで現れる。

 真たちのクラスはいとも容易く狂気の渦に飲み込まれたのだった。

 

一人の男子生徒が真に詰めより問いただす。

「おい!九十九!!俺たちは助かるんだろうな?」

男子生徒の一人が恐怖と怒りと焦りが混ざりグチャグチャになった顔で真に詰め寄る。

「藤沢……済まない……解らない……」

真は、顔を下げ自信のなさ気に返事を返す。その返事に藤沢も肩を震わせ声を荒げる。

「ふざけんじゃねぇよ!」

藤沢は、真の胸倉を掴みあげる

 

「み、皆落ち着いて!」

水月もいつもの冷静さは無くなり声をかける事しか出来ない。今にも乱闘がおきそうなそんな時だった。一人の男子生徒が教室の扉まで駆けて行き真っ青な顔で言い放った。

 

「お、俺はもう行くぞこのままじっとしてられっか!」

 

「おいっ待て!今離れるのは……」

龍牙が放った言葉も虚しく男子生徒は扉を物凄い勢いで開け、逃げて行った。

あれだけ騒がしかったクラスが今の出来事でまたも静かになる。男子生徒の叫び声に準ずるような声は聞こえない。逃げきったのだろうか、その事実に釣られるようにクラスの大半の生徒たちが走って逃げていく。なだれ込むように前後の出入口に三十名弱の人が殺到する。

 

 彼らを止められる者は誰もいなかった。残ったものたちは往々に彼らの行動に固まって動けない者か恐怖に腰を抜かした人だった。最後の一人が遅れて教室から飛び出した時だった……

 

「く、来るな~!!」

 廊下からさっき逃げた生徒たちの断末魔が響いたのだ。

叫び声と共に何かがグシャリ、と潰れるような音が教室まで届く。逃げ惑う生徒たちの足音に何者かの笑い声、獣のうなり声、そんな物が響き渡るのだ。

 最後に団体からかなり遅れて飛び出した男子生徒は、教室の前で固まる。彼の視線の先にはこの悍ましい出来事の犯人がいるのだろうか、彼は恐怖に震え動けないでいた。直ぐに自分の状況を理解し、教室に戻ろうとするも先ほど龍牙の張った結界が邪魔をして入れないでいる。

 

「開けてくれ!お願いだ!早く!化け物がすぐそこに……」

男子生徒の一人は、顔を真っ青にして結界を握りこぶしで殴りつけながら言った。強い力で殴りすぎて拳はパンパンに腫れている、どうやら骨が逝ったのだろう。

 すると、ピチャリ、ピチャリという雫を滴らせながら何かが近づく音がする。彼は横をゆっくりと見ると顔を更に死人の様な色にする。

 

 「ふぁぁぁぁぁぁ!!く、来るな!早く開けてくれ!俺は死にたくない!こんな所でしにたくっ死っにたくっ……」

泣きじゃくる男子生徒の体は最後の言葉を残すことなく何かが突進しバラバラに吹き飛ぶ。血飛沫と内蔵をぶちまけて少年の意識は一瞬にして刈り取られたのだ。

 

クラスの中は女子生徒の叫び声で覆い尽くされ中には先ほど食べた昼ご飯を吐いてしまう者も少なからずいた。

 藤沢は、呆然とした表情で固まりまた、手の力が緩み真を解放する。

 

 龍牙はすぐさま、更に結界を張るために合掌をして詠唱に入ろうとする。

 しかし、それよりも早くそいつは、クラスの扉の前に表れた。血液を滴らせながら表れたそいつは、大きさこそは百センチ程の小柄な体格なのだが、足は犬を思わせるような作りになっておりダラリと脱力した腕には長さが十センチ程の鋭い爪が備わっていた。

 だが、それ以上に目を引き付けるものがあったのだ。そいつの顔は幼い子供そのものだったのだ。

その顔は怒り、憎しみ、悲しみ、喜びその全てが混ざり飽和した狂気を体言したよなものだったのだ。そして瞳からは、大粒の涙がボロボロと零れていた余りにちぐはぐな表情に残った者たちが言葉を無くす。

 

 「狂魔……いや、違うな……」

真が静かに呟いた。

 

すると狂魔は、物凄いきおいで結界を蹴りつけたのだ。

トラックがぶつかっても大丈夫だと自負していた結界がしなり、鈍い音をたててへしゃげていく。

 

『キャハハ!ナーニ、コレェおっもシろーい!!スゴーくカたいよ?』

 子供がはしゃぐように楽しそうに狂魔は結界を何度も蹴りつける。そのたびに結界が軋むような嫌な音を奏でていく。

すると、狂魔は楽しそうに聞いた

『ネエ、コレェどんなジュツなノ?おシエテ、よ……ボォクがヤぶってアゲルからぁ』

 

 

 狂魔の質問に固まり誰も反応出来ない。静まり返る真達に狂魔はまたも楽しそうに言った。

『マァ、いイヤ。うえノヒトタチのところにアソビニいかないト。ボクタチ……オなかいッパイニなれないからね』

 

おとなしく待ってるんだよ、と諭す様に狂魔は去って行った。

 

 狂魔の姿を見たクラスの面々は腰を抜かしたりしている。水月もその冒涜的な姿に更に顔を青ざめて腰を抜かしていた。

 

「なあ、龍牙……これからどうしたら良いかな……」

 

真も半ばやけになった様に龍牙に問いかけたのだ。

「おい、真、」

龍牙は真を呼んだ。それに返事を返し振り向いたとき、

「歯ぁ食いしばれ」

龍牙の鉄拳が真の頬にぶち当たる。真はそのまま吹き飛び机にぶつかりながら床に仰向けに倒れる。龍牙は真に馬乗りになり、胸倉を掴み真に言い放った。

 

 「お前は、本当に九十九 真なのか?」

龍牙はこれまでにないほどに真剣な表情で問いかける。

「ってーな!おい龍牙何しやがる!」

真は、いきなり殴られたことに怒声をあげるも。龍牙は続ける。

「お前は、本当にあの九十九 真なのかと俺様は聞いているんだ!」

龍牙の声は更に大きくなった。真は怒声を上げることなく龍牙の目から逃げるように顔を逸らす。

 

 龍牙は真に言い放った。

「俺様の知っている九十九 真は、どんな不利な状況でもどんな卑怯な事をされても持ち前の糞知識と悪知恵で乗り越えてきた俺の最高の好敵手だ!今のお前は何だ?俺よりもよえーじゃねーか!これじゃあ俺の方が無敵……最強じゃねえか」

 龍牙は一息で、真に言葉をぶつける。いつのまにか真も龍牙の顔をみて話を聞いていた。

「龍牙くん……」

 

  ゴンッ!!

 

 水月が小さく呟いたのと同時だった。固いもの同士がぶつかる鈍い音が響く。

 すると、馬乗りになっていた龍牙と真がお互いに頭を押さえてのたうちまわっている。いきなりでクラスメイトもポカーンと口を開けて固まっている。

 

 一方、真と龍牙は笑いながら痛がっていた。こんな状況だというのに二人は楽しそうに笑っていたのだ。水月には、それが本当に痛々しく共に羨ましく見えた。

 

(はぁ、やっぱり俺は女々しいなぁ……)

痛みが引き、真は大の字で床に寝転びながら思ったのだ。

 

 そして真は立ち上がり大きく深呼吸をした。思考がクリアになるのを感じる。死んだであろうクラスメイトたちの顔が浮かぶ、真は目に力を入れ我慢する。戦う決意は出来た、後は動くだけだ。

 

真は、吸った息を一気に吐きだし大声を上げる。 

 

 

 

    「お前らぁぁ!!生きたいかぁぁ!!」

 

 

 

真の叫びに残る人々は真に注目する。真は更に続ける。

 

「俺は、生きたい!さっきは無様な様を見せてしまった。だけど俺は戦う!皆と生きたい!全部引っくるめて守りたい!だから……俺に力を貸してくれ!!」

 

 語彙力の足りない、残念な言葉のように聞こえるが真の全力の気持ちは全員の魂に響く。

 

 クラスは静まり返る。静寂はクラスを支配する。そんな時だ、

「私も生きたい……死にたくない」

女子生徒の弱々しい小さな声が皆の耳に届く。それに釣られるようにクラスメイトたちが声を上げる。

「俺もここで死ねない」

「俺も」

「私も」

その声は決して大きな物では無かったが希望の光が見えた様に真は感じたのだ。

「そうだ、ここにいる俺たちは何が何でも……」

 

「「「生きる!!」」」

クラスの気持ちが光に向かって一つになる。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 「へぇ、あれを見て折れないか……面白い、実に面白いぞ!行動する君達(愚か者)に助け舟を与えよう」

 男はおもむろに携帯を取りだし電話をし出す。

 

 「さあ、奴らの到着まで後15分だろうか。彼らはどんなドラマをみせてくれるかね。半修羅(出来そこない)を無くす事になるのは痛いが、まぁこっちの方が面白いからいいよね?」

 

 男は楽しそうに笑い虚空に向かって呟くのだった。その顔には僅かに狂気の色がさしていた。




補足説明
・狂魔……出現すると近くにある携帯等の電波が効きにくくなる。今回の電波障害は異常である。

公共施設……敷地範囲に結界が張られており、悪意を持った人や狂魔の侵入を防ぐ。それらが結界に触れれば学校に緊急避難放送が鳴り響くようになっている。
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