ちゅんちゅん、と耳元に弾丸の音が聞こえる。なぜ、こうなったのかを振り返りたいところではあるが、それどころではない。こちらは一人しかおらず、向こうは最低でも三人はいるだろう。こちらは子供だが、あちらは大人しかいないだろう。こちらはサバイバルナイフ一本と弾の切れた小銃だけだが、敵はサブマシンガンで武装している。
本来であれば、ここまで苦戦するのはおかしい。つまり、ミスをしたのだ。それも勁ではなく、作戦を立てた彼の父と敵が、である。今回の作戦は麻薬畑を焼き消すのが目的だ。その為に警備の目を少し減らす必要があり、勁はちょっかいを掛けて二人ほど引っ張るのが役割だった。通常、であれば二人組か三人組で行動するのだろうが、よほど頭の巡りが悪いのか、全員が釣れてしまったようだ。今頃、勁の師である西条終は爆笑しながら爆薬を仕掛けているだろう。
そんな酷い師のことは置いておくにしても、下手を打てば、笑い事ではなく死ぬ。勁としてもそれは実に勘弁願いたいことであり、CADはないにしろ魔法式を構築する。CADを使った場合と比べると構築速度も規模も落ちるが、移動・振動系統のものであれば、問題なく構築できる。
対象を手持ちのナイフに設定して音から、おおよその位置を把握し、それに合わせて移動魔法を構築する。
瞬間
ナイフが独りでに飛んでいき、振動しながら、勁の位置を始点とした円を描き、再び勁の元に戻ってくる。ナイフには大量の血がついており、何やら叫び声とおそらく罵倒と思わしき声が聞こえる。罵倒の声が聞こえている間に銃を振動させたナイフで破壊し、尖った破片をいくつも作り出して、声のほうへと振動させながらばら撒くように移動させる。それで更にもう一つ悲鳴が聞こえる。
どこまで無能な集団なのかと思ったが、勁がそれを憂う必要はないし、何より好都合である。
もう一人削っておきたいと思ったところでマルチタクスで構築していた魔法式が完成した。勁は片手で地面に触れると魔法を発動させて、自らを中心とした振動を広げる。それにより、死角の情報を拾い、残りが二人であると確認する。
但し、ここで重要なのは振動を発動させたのは魔法ではあるが、物体に当たり歪んだ振動を感じ取ったのは魔法ですらなく、勁の研ぎ澄まされた五感であることだ。
勁は未だ8歳でありながら、その感覚は既に並の軍人のそれを大きく上回っていた。経験不足こそ見られるが、彼が極めて優秀な戦士になるのは既に確定しているとすら言っていい。とは言っても、それが優秀な将になれることを保障しているわけでもないのも重要なポイントだろう。
寧ろ今の勁を将として置くことを彼の父もそして、師もまた頷かないだろう。勁は父と師から教わった間違った日本こそ愛しているが、現実の日本には彼は合わないというのが、二人の一致する意見であり、幼いからこそ垣間見せる幼稚さと反骨精神と無鉄砲さでは間違いなく、一週間もしない間に法を破ることになるだろう。
最も、終はともかくとして、勁の父である凱は今現在日本への立ち入りが禁止されている。勁の母が死んだ時に起こした大亜連合に対する大虐殺の罰として、日本に帰ることがないように幾つもの任務が渡されている。厳密に言えば十師族が組んだとしても凱には敵わないため、敵対しない様に処置したというべきだろうが。
仮に政略、戦略、戦術をどこと戦うか、どのように戦うか、そして、実際に矛を交えると三段階に分けた場合、凱一人で、どこと戦うかを決められて、しかも、勝ててしまうほどに強く。前人未到にして、前代未聞の政略級魔法師という存在いうべきなのだ。
たった一人で国を形成できるほど強力な男の話は置いておくとして、二人の位置が分かった所で、その二人の首の位置を通るように移動魔法を掛けたナイフと飛ばしながら、反対側に飛び出し、移動魔法に分類される首刈と呼ばれる魔法を使う。
首刈のプロセス自体はそこまで難しいものではない。移動魔法で圧力を調整し、真空を生み出して、それを、そのまま移動させるだけである。
首刈とナイフの挟み撃ちにより、勁よりにいたほうの敵の首が刎ね飛ばされる。それと同時に飛んできたナイフを掴み、反動で撃たれないように首ではなく銃を狙って投げ、走る。
ナイフは勁が頭に想い浮かべたイメージ通りに銃口に刺さり、そのまま、真っ二つにする。
そして、10mの距離に近づいた時に魔法を発動させてそのまま突っ込み、敵を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた敵は勁が発生させた真空のチューブに吸い込まれ、中身がぐちゃぐちゃになって20mほど後ろに一瞬で移動する。
そこでようやく気を緩めるところなのだが、死亡を確認していない二人の死亡を改めて確認した所でようやく息を吐いた。
それと同時に畑のほうで爆発が起きる。任務完了である。勁は終と合流して拠点へと戻っていった。
これはそんな彼の物語である。