私立駒王学園―――。
現在は共学だが、数年前までは女子高だった為、二年生では男女比率が三対七、三年生だと二対八と全体的に女子が多い学園だ。
発言力もまだ女子の方が圧倒的に強く、生徒会も女子生徒の方が多い上に生徒会長も女子だ。
そんな学園の屋上で一人の男子生徒が携帯型音楽プレイヤーで音楽を聴きながら横になっていた。白―――いや、白銀の髪に端整な顔立ち。
そして、無駄のないボクサーの様な機能美を備えた細身の身体。
少年の名は『ジル・アリギエーリ』。彼の詩人『ダンテ・アリギエーリ』の子孫かと世界史の授業で良くからかわれるが本人は『全くの赤の他人だ』と言っている。
―――閑話休題。
さて、彼はまるで休み時間の様に寛いでいるが今は授業中。
つまり、ジルは授業をサボっているのだ。
今頃真面目な幼馴染二人が顔を真赤にして彼を探していることだろう。
―――まったく……何でこんな俺の為にそこまで一生懸命になれるんだか。
自分に関わる位ならば他の奴と仲良くしていた方が何十倍も有意義だ。
だが、彼女達はそうしようとしない。
何時如何なる時もジルに関わろうとする。
彼女達にその理由を問えば間違いなくこう答えるだろう。
―――好きだから。
ジルにとってその理由はこの上なく嬉しいものであり、そして
―――この上なく辛いものだった。
ジルは彼女達に一生癒えない傷を負わせた。
だから、自分は彼女達の想いに答える資格は無い。
だが、それでも彼女達は諦めない。
いつもジルに自分の想いを伝えてくる。
―――いい加減諦めて欲しいんだけどな……
そんなことを思うジルだが本当は彼自信が一番良く分かっている。
そんな時は絶対に来ないことを。
彼女達の想いは何があっても断ち切れないということを。
「……ん?」
何かを感じ取ったのかジルは携帯型音楽プレイヤーの電源を切ってイヤホンを耳から外し、体を起こして立ち上がり屋上の扉に視線を向ける。数秒後に階段を駆け上がるような音が聞こえてきた。
「なんだ、兄弟か。気配を消すのは上手いのに相変わらずもったいねぇなぁ」
足音も消せれば中々なんだけどな、などと呟きながらジルはまた横になり音楽プレイヤーの電源を入れてイヤホンを耳に入れる。
それから数秒後屋上の扉が勢いよく開いた。
「兄弟!」
屋上の扉を勢いよく開けたのは一人の少年。
ジル同様引き締まった肉体をしている。
「どうした?兄弟。もし、俺の至福の時間を邪魔しに来たって言うんだったら例え兄弟でも嬲り殺すぞ」
「怖いこと真顔で言うなよ!」
ジルの物騒な物言いにたじろぐ少年。
彼の名前は兵藤一誠。
ジルの幼馴染で無二の親友であり、その心に宿る性欲の所為で人生の八割程損をしている少年である。
「それで?本当に何しに来たんだ?もしかして、俺が女を連れ込んでることを期待して覗きに来たって言うんだったら残念ながら見ての通り今日は女を連れ込んでないぞ。そもそも、俺だって毎日セ―――」
「美紀とアイリがここに目星を付けて今ここに向かってる!」
「何!?」
一誠の台詞を聞き、飛び上がるように立ち上がるジル。
美紀とアイリと言うのはジルと一誠の幼馴染の名前。
いつかはここに目星を付けると思っていたが速すぎる。
何故だ?簡単に目星を付けられない様に様々な工作をしておいたと言うのに……
「なんか、『屋上からジルの匂いがする』って、何とか誤魔化そうとしたんだけど……すまん!」
「あの二人は犬か、チクショウ!」
勢いよく頭を下げる一誠を尻目にそう吐き捨てるジル。
今日の授業を全てサボる為の工作が一瞬で無駄になるとは流石あの二人と言うべきか……
だが、工作が無駄になった理由が臭いだなんて……自分はこの言いようのない怒りはどこにぶつければいいのだ?
だが、今更そんなことを思ってももう遅い。
あの二人は言い訳というものを聞いてくれない。
問答無用でお仕置きをしてくるのだ。
「……兄弟、お前だけを一人で逝かせはしないからな?俺も工作に協力したって白状するからな?」
涙を流しながら言う一誠。
もう、一誠は自分の生を諦めているらしい。
先程お仕置きされなかったのは公衆の面前だったからだろう。
だが、他に人が居ない状況にだったら……考えるのも恐ろしい……
「待て、そう簡単に諦めるな、兄弟。逃げよう。逃げて生き延びるんだ」
「美紀からは逃げられてもアイリからは逃げられないような気がするんだけど……?」
一誠のセリフに言葉を詰まらせるジル。
一誠の言う通り、片方の幼馴染は撒く自信はある。
だが、もう片方からは……
「いや、諦めるな!諦めなければ何でもできる筈だ!」
一誠の両肩に手を置いてそう諭すように言うジル。
正直ジルも逃げられるとは思っていない。
だが、まだ死にたくないし、一誠もこんなところで死ぬべき男じゃない。
変態ではあるがいずれ大勢のヒトに夢を見せる男なのだから。
「ジル……そうだな!諦めずに逃げてみるか!」
目を輝かせて完全に希望を取り戻す一誠。
だが、現実と言うのは非情なのである。
「あら、誰から逃げるのかしら?」
「ぜひ教えて欲しいなぁ~」
「「(ビクッ!)」」
まるで鈴を転がすような声を二つ聞いた瞬間身体を震わせるジルと一誠。
声のした方を向くと案の定自分達の幼馴染達が笑いながら立っていた。
彼女達の微笑みは同性すらも魅了する微笑みだ。
慣れている二人でもその微笑みに魅了され、鼓動が高鳴る程だ。
だと言うのにまったく鼓動が高鳴らないのは彼女達の目がまったくと言っていいほど笑っていないからだろう。
「撤退!」
「イエッサー!」
即座に撤退命令。
「逃げられると思ったのかな?」
いつの間にか
そう、昔から決まっているのだ。
―――罪人は処刑人から逃げられないと。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」」
屋上に二人の叫び声が木霊した。
えっと……どっちがアイリでどっちが美紀かは次回で紹介します。
これからよろしくお願いします。